第2話 冒険者登録
冒険者ギルド。
国や種族の思惑に左右されることのない中立的な組織。
一般人から様々な依頼を仲介し、報酬を得る為に引き受ける冒険者に依頼を斡旋する組織。
「もっと騒がしい場所をイメージしていたんだけどな」
冒険者ギルドの中には数人の冒険者らしい男たちがいるだけで静かな方だった。
とりあえず、目の前に5つあるカウンターへと向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ」
カウンターで受付をしている女性の前へ行く。
金髪の長い髪をした女性で、おっとりとした目元が印象的だ。
(日本には間違いなくいない人だな)
そんな感想を抱いていると女性は困ったようにしていた。
「あの、本日はどのようなご用件でしょうか」
「失礼しました。冒険者の登録をお願いしたいんですけど、大丈夫でしょうか」
「はい。登録の方ですね」
カウンターにある引き出しから用紙を取り出して俺たちの前に置く。
「登録は4人ともでよろしいでしょうか」
「お願いします」
「では、この用紙に必要事項を記入して下さい」
用紙には名前、年齢、スキルについて書く欄があった。
「代筆が必要な場合はこちらで記入することも可能ですが」
「いえ、大丈夫です」
天堂さんたちの様子を見ると自分で書くつもりで頷いていた。
異世界に召喚されたことで会話と文字を読むことは問題なくできるようになっていた。会話は、自分たちは日本語で話しているにも関わらず口から出た言葉がこの世界の言葉に自動で変換され、俺たちの耳に届く言葉も日本語に変換されていた。文字も目にしているのは異世界の文字にも関わらず、日本語として認識することができるようになっていた。
だが、文字を書くことまでは保障されていなかった。
しかし、それでは困る事態が起こるかもしれないということで最低限自分の名前を含めたステータス画面の文字だけは書けるようにと城で教わっていた。
おかげで必要事項の記入には困らない。
「たしかにお預かりしました。ソーゴさん、ショウさん、ハルナさん、レイさんの4名ですね」
冒険者として活動するに当たって事前に苗字呼びは止めようと話し合っていた。
この世界において平民は苗字を持たない。設定とはいえ、田舎から出てきた平民を装っているにも関わらず苗字で呼び合っていると要らぬ疑いを掛けられてしまうことがあるかもしれない。
そのため今後は名前だけで呼ぶようにしていた。
「ええ、記入に不備などはありませんので手続きをしてきます。少々、こちらでお待ちください」
受付嬢が俺たちの書類を持って奥の方へと消えて行く。
「大丈夫でしょうか、渡来さん……」
「シッ!」
不安そうな天堂さん……レイが話し掛けてきたが未だに男子を名前呼びすることに慣れていないのか俺のことを苗字で呼んでしまった。
思わず黙っているように言ったが、誰かに聞かれた様子はない。
「ごめんなさい。その、ソーゴ……」
「大丈夫じゃないかな。それが冒険者ギルドっていうものらしいし」
ギルドは冒険者になる人間の過去を詮索しないことになっている。
さすがに指名手配されるような犯罪者を招き入れるわけにはいかないので手配書との照合ぐらいはするだろうが、俺たちは指名手配されているわけではない。
「お待たせしました」
すぐに戻って来た受付嬢は金属製のトレイの上にキャッシュカードぐらいのサイズがある真っ白なカードを乗せて戻って来た。
「こちらが冒険者カードになります」
冒険者カード。
冒険者であることを証明してくれる身分証だ。
「では、このカードの上に血を一滴垂らして下さい。それで本人の登録が完了します」
カウンターの横にあった針で人差し指を突き刺して血を一滴だけ垂らす。
すると真っ白だった表面が黒くなる。
「こちらがみなさんの身分証となります。くれぐれも失くさないように気を付けてください。登録は無料で行いますが、再発行の際には銀貨10枚となります」
「分かりました」
冒険者カードを制服の内ポケットにしまう。
「冒険者についての説明は必要でしょうか」
「お願いします」
冒険者がどういった存在なのかは聞いているが、詳しいことは聞いていないので彼女からも聞いておいた方がいいだろう。
「冒険者はあちらの依頼ボードに張り出されている依頼票を見て依頼を受けます。ただ、どんな依頼でも受けられるというわけではなく、冒険者自身のランクよりも一つ上のランクの依頼までしか受けられません。
次に冒険者のランクについてですが、ランクはS~Gまで存在しています。S・Aランクが上級冒険者、B~Dランクが中級冒険者、E~Gが下級冒険者となっております。ランクアップはギルドで受けられた依頼の功績や冒険者の能力を鑑みてギルドの方で判断させていただきます。ただ、AランクとDランクへのランクアップの際にはギルドで用意させていただいた試験を受けて初めてランクアップとなります」
ランクについては、知っていたが試験が必要なことについては知らなかった。やはり、説明を受けておいて正解だった。
「冒険者に登録したばかりの方は全員がGランクからのスタートとなります。Gランクの任務は全て街中で行えるような雑務になります。その後、街の外でも身を守れるだけの能力があると判断されればFランクへと昇格になります。が、ちょっとした裏技があります」
「裏技?」
「はい。スキップという制度なのですが、冒険者になる前に戦闘訓練などを積んでいた者に雑務をさせるのも非効率的なので、戦闘能力があると判断することができた方については、その能力に応じて最初のランクを上げさせていただいております」
「どうやって証明するんですか?」
これまでにスライムを狩ったおかげでレベルが2に上がっていた。
問題は、それで評価されるのかどうかというところだ。
「みなさんのステータスを確認させていただきます」
ステータスは自分の視界に表示されるもので誰かに見せられるようにはなっていない。そのため自分のステータスを教えるなら口頭での自己申告になる。
ドン――受付嬢が両手で抱える必要があるほど大きな水晶玉をカウンターの上に置いていた。
「なに、これ?」
「この水晶の上に手を置いて下さい。すると手を置いた人物のステータスが表示されるようになっている魔法道具です。自分のステータスを教えたくない場合などは触れていただかなくてけっこうです。その場合はGランクからのスタートとなります」
そういう魔法道具もあるのか。
ただ、少しだけ考えさせられてしまう。
手を置いてステータスを確認されてしまったことで俺たちが異世界人であるということがバレたりしないか……絶対にしなくてはならない、というわけではないのなら回避するのも一つの手だ。
「じゃあ、あたしから」
俺の不安など微塵も感じずにハルナが水晶に手を置く。
水晶の表面に表示された数値はレベルが2に上がったことによって10を超えていた。俺と比べるとあまり高くない。
その後、ショウとレイも水晶の上に手を置いてステータスを表示させるが、似たようなものだった。
だが、受付嬢の様子は明るかった。
「みなさん優秀みたいですね」
「そうですか?」
「はい。レベル2で10以上あるということは、元々の数値が高かったとしても1度のレベルアップで10近く向上していることになりますから将来に期待できる数値ですよ」
「……え?」
受付嬢の言葉に思わず聞き返してしまった。
なぜなら、その理屈で行くと俺のステータスは上がり過ぎている。
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レベル:2
体力:17
筋力:13
耐久:15
敏捷:18
魔力:22
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最低の1だった耐久は、レベルが2に上がっただけで15にまで上昇していた。他の数値も10以上上昇している。
異世界から召喚された特典なのかもしれないが、やり過ぎだ。
だが、受付嬢には気にした様子が見られない。
「みなさん将来に期待できる上昇率ですけど、現在のステータスを見る限りスキップの対象にするのは難しいみたいです」
結局、ステータスは教えたが最低ランクのGランクからスタートすることが決まった。
みんなよりもステータスが高い……これがチートスキルによる恩恵の1つです。