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第18話 冒険者と騎士

 冒険者ギルドの入口へ向かうと緊張状態に包まれていた。


「だから、お前らは帰れって言っているんだよ」

「そういう訳にはいかない」


 一方は、依頼を引き受ける為にギルドを訪れていた冒険者。

 もう一方は、騎士甲冑を纏った騎士。


 冒険者と騎士、それぞれ10人以上が睨み合っている。

 今は昼間なのでギルドに残っていた冒険者の数が少なく、騎士に至っては外にもまだ残っている気配がある。


 騎士の目的は、おそらく俺たちの捕獲。


「ええい、お前たちに用はない。奥にソーゴ、ショウ、ハルナ、レイの4名の冒険者がいる事は分かっている。大人しく彼らを引き渡してもらおうか。これは命令である」

「あ? どうして、そんな命令に従わないといけないんだよ」


 騎士の命令に対して冒険者が不満を露わにする。


 片や国に仕える偉い騎士。

 片や自由を尊ぶ冒険者。


 両者の極端に異なった立ち位置が険悪にさせている。


「これは出て行った方がいいな」


 冒険者たちの中には以前いた時に顔見知りになった者もいる。

 その時に名前を憶えてもらえたのか俺たちを庇ってくれている……単純に騎士が気に入らなくて対立しているだけだとは考えたくない。


 冒険者と騎士、両方が自分の武器に手を掛けた。

 このままだと戦闘が始まる可能性だってある。


「はいはいストップ」


 睨み合っている両陣営の間に立つ。

 お互いを見ていた事もあって横から来た俺の姿に気付かなかった。


「お前……」

「庇ってくれるのは嬉しいですけど、この問題は俺たちの責任です。俺たちの手でどうにかしますよ」


 そう言うと冒険者たちは後ろへ下がってくれる。

 今度は騎士たちの方へ向き直る。


「それで、俺たちに何の用ですか?」


 近くにはショウたちもいる。

 けど、騎士と相対するのは俺の役目だ。


「お前たちを王城へ連行する」

「なぜ?」

「お前たちを捕まえるよう指示が出されているからだ」


 手錠なような物を左手に持った騎士が右手で俺の手を掴もうとして来るので、後ろへ下がる。


「きさま、抵抗するのか!?」

「捕まえられる理由も言われていないのに大人しく捕まる馬鹿はいませんよ」

「理由だと? そんなものは自分の胸に手を当てて考えてみろ」


 騎士に言われたように自分の胸に手を当てて考えてみる。

 ……。


「やっぱり特に理由はないですね」

「冒険者風情が!」


 手錠を持った騎士の隣にいた二人の騎士が自分の武器に手を掛けていた。

 それを見て臨戦態勢になる冒険者たち。


 一瞬にして殺気立つギルド。


 あまり騒ぎを起こしたくないので騎士に忠告する。


「この場で武器を抜くような馬鹿な真似はしない方がいいですよ」

「どういうことだ?」

「俺たちは捕まるような事は何もしていない。あなたたちだって捕まえる理由も言わない。一般人と変わらない俺たちを相手に武器を抜いた場合、騎士が相手でも自己防衛の為に攻撃させていただきます」

「いいから従え!」


 二人の騎士が剣を抜いてしまった。

 どうやら忠告は聞き入れてもらえなかったみたいだ。


「残念です」


 カランカラン――!

 騎士の抜いた剣が床に落ちる音が響き渡る。


 どうして、剣を落としてしまったのか。

 理由は、床に落ちたのが剣だけではなかったからだ。


「あ、ああ……!」


 唖然とした様子で見ている事しかできなかった。


 床に落ちた剣。

 そして、剣を握っている手首までしかない手。


 剣を鞘から抜いた直後、騎士の腕ごと斬り落とさせてもらった。


「何をした?」

「さあ?」


 手錠を持った騎士が呟くように尋ねて来る。


 彼には俺の動きが全く見えなかったのだろう。

 実際には剣を全力で振り抜いて腕を斬り落としただけだ。


 とはいえ、今の俺は武器を腰に差している普通のロングソードぐらいしか持っていない。こんな、ありふれた剣で人の腕を斬り落とせるとは思えない。まあ、斬り落としたのは収納の中にある聖剣なんだけど、取り出した瞬間から収納するまでの時間が一瞬過ぎるせいでロングソード以外の凶器に気付くことができなかった。


 他の騎士7人が無言で剣に手を掛ける。


「学習しない人たちですね。剣を抜いた瞬間に敵と見做しますよ」

「我々は騎士だ。騎士に反抗するのがどういう事を意味しているのか理解しているのか?」

「こっちは武器を向けられたから怖くなって武器を向けられないようにしただけだ。自分の行いの正当性を唱えるなら少なくとも俺たちを連行する理由ぐらいは言えるようにしてから来るんだな」

「クッ……」


 歯噛みしているけど、そんな事は知らない。

 すっかり怯えてしまっているみたいなのでギルドの外へ出ようとする。


「斬り落とした腕ですけど、きちんと治療してあげた方がいいですよ。この世界の医療技術なら接合するのも可能でしょうから」


 元の世界のように科学技術によって発展した訳ではないので、特定の病気や怪我に対しての治療方法が確立されている訳ではない。

 それでも回復魔法という治療方法があるので、元の世界では治療不可能だった怪我でも回復させる事ができるかもしれない。


「なるほど。やはり異世界人みたいだ」


 入口から一人の老人が姿を現した。

 初めて見た時はまだ若さが見えていたが、今は随分と老け込んだように見える。


「宰相閣下!」


 騎士の一人が叫ぶ。

 この場に新たに現れた人物は、俺たちを異世界なんかに召喚した張本人であるメグレーズ王国の政を取り仕切っているガーグ宰相だった。


「この場は危険です」

「だが、私自ら赴かなければ彼は私との対談に応じてくれる事すらないだろう」

「そうだな」


 騎士は王城へ連れて行くと言っていた。

 王城なんかに連れて行かれた場合、誰が俺たちの相手をする事になるのか。

 相手の目的が分からない、とか惚けた答えを抜きにすれば俺たちに最も用事があるのは宰相だろう。


「お前たちは腕を失くした二人を連れて外に出ていろ」

「はい」


 二人の騎士が腕を失った騎士を連れてギルドを出て行く。


 宰相が改めて俺たちを見る。

 王城にいた頃は目立っていなくて覚えられていなかったかもしれないけど、俺たちの事を憎く思っている宰相なら改めて調べて来ることぐらいはしていてもおかしくない。いや、宰相ほど優秀な人なら最初から覚えていたかもしれない。


「さて、君たちにはある嫌疑が掛けられている。その事情聴取の為に王城まで赴いて欲しい。決して悪い立場に立たされるような事はないから大人しく付いて来て欲しい。それが君の先ほどの質問に対する答えだ」


 スラスラと出て来る言葉。

 その言葉には、王城で最初の数日だけ相対したような人の好さそうな感じは受けられない。

 向こうは相当なストレスを俺たちに対して感じているみたいだ。


 だけど、こっちだってストレスを感じているのは同じだ。


「お断りします」

「なに?」

「こっちは先を急ぐ旅の途中で立ち寄っただけです。そんな事に付き合っているような暇はないんです」

「だが、君もこの国の住民なら騎士の要請には従わなければならない。これは国民の義務だよ」

「いつ、俺たちがメグレーズ王国の人間だと言いました?」


 自覚しているのか最初は言葉に詰まった。


「俺たちは自由な立場にいる冒険者です。専属として街に定住しているならともかく俺たちのように国から国へと移動して依頼を引き受けている冒険者はどこの国に属している訳でもありません。だから、国や騎士の要請に従う必要もありません。もっとも、騎士に守られない立場にいるので自分の身は自分の力で守る必要がありますね」


 その代わりに一切の制約を受けない。

 ただし、国から与えられる恩恵も最低限。


 それが冒険者という職業だ。


「それは困った。こちらとしても君から話を聞かなければならない」

「そうでしょうね。こっちも有耶無耶にして話を引き延ばすのも得策ではない」


 下手に逃げて適当な罪でもでっち上げられて指名手配されると面倒だ。

 既に聖国と帝国に対して強力なパイプがあるとはいえ、他の国へいかなければならないので指名手配犯などという立場は足枷にしかならない。


「では、そこで何か奢ってくれるなら話をしてあげてもいいですよ」

「そこで、ですか」


 そこ――冒険者ギルドに併設された酒場。

 飲み物や軽食が売られているので打ち合わせなどに利用される事もある。

 話し合いの場として機能させられる事もできる。


「どうしますか?」


 宰相に尋ねる。

 彼としては、せっかく捕まえた俺たちを逃がしたくない。


「いいでしょう」


 だから、俺の提案に応じるしかなかった。


話の内容が筒抜けになる場所で宰相との対談です。

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[一言] 聖王国のときとはうってかわってお行儀が良い
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