第17話 均等な分配
国が俺たちを捜している。
中心となって動いているのは宰相だろう。
捜している理由はいくつか考えられるけど、相手がどこまで俺たちについて知っているのかによって変わって来る。
これまでに色々とやって来たせいで相手の思惑が読めない。
「どうしますか?」
「そうだな……」
レイの質問を聞きながら聖典を開く。
小声で詠唱して現在までに起こった出来事を記す。これで過去へいつでも跳べるようになった。
だが、相手の目的も分からないのに過去へ跳んでしまうのは危険が伴う。
せめて情報をどこまで掴んでいるのかぐらいは知っておかなければならない。
「準備はできた。とりあえず向こうの出方を伺いつつギリギリまで見ることにしよう」
「分かりました」
ショウとハルナも何も言って来ない。
俺の方針に反対はないみたいだ。
「ええと……」
「既に冒険者ギルドに急いで駆け付けて来ている気配が複数あります」
「そんな……!」
しかも包囲するように展開されている。
急いで出たとしても普通なら都市の外まで脱出する場合には都市にいる兵士全員を敵にする必要がある。それでも逃げ切れる自信があるけど、そんな事をするつもりはない。
そもそも聖典が手元にあれば逃げ切れられるのは間違いない。
「とりあえず、盗賊団討伐の確認をお願いします」
「そんな事を言っている場合では……!」
俺たちの事を心配してくれているシャーリィさんを無視して収納からシートを取り出して、その上に盗賊団の死体を置いて行く。負担になる訳ではないが、盗賊の死体なんて物をいつまでも入れておきたくない。
「……」
次々と出て来た30人の死体を見てシャーリィさんが言葉を失くしている。
「きちんと30人分ありますよ」
上半身が吹き飛んでしまっている死体や胴体部分がなくなってしまったせいで体が上下に別れた死体などがあるせいで見ただけでは何人分の死体が置かれたのか分からなくなっている。
それでも戦闘があった場所に転がっていた死体は全て回収して来た。
「死体まで回収する必要はなかったんですけど」
本来なら討伐した報告させすればいい。
その後、報告に間違いがないか調査が出される事はあるけど、冒険者の報告を信じて報酬が出される。もちろん調査の結果、報告が虚偽だと知られた場合には罰金を科せられる事になる。
だけど、こうして死体を持ち帰れば信用して貰える。
持ち帰っても負担にならないので持ち帰らせてもらった。
「それと、何があったのか報告をさせてもらいます」
盗賊団のアジトで盗賊と戦ったのが勇者である事を伝える。
その後、犯罪奴隷として売り払う為に連れ帰ることになり、その日の深夜に拘束していた盗賊団に逃げられてしまった事。そして、逃げられた時に騎士が全員殺され、勇者たちも重傷を負ったり、戦える状態ではなくなってしまったりした事。
結局、俺たちの手で残った盗賊の討伐が行われた事を伝えた。
報告を聞いたシャーリィさんが溜息を吐いている。
「それで、皆さん落ち込んでいるんですね」
ずっと一緒にいた勇者たち。
シャーリィさんがこれまで見た事もない様子だったので気にはなっていたものの俺たちに危機を伝えなければならないので後回しにされていた。
彼らの担当である彼女は注意をしなければならない。
「皆さん、これで分かりましたね」
「ああ」
「皆さんは勇者として召喚されて強大な力を与えられています。元々は普通の学生だったのに私たちの都合のせいで、このような目に遭わせてしまっている事は申し訳なく思っています」
頭を下げるシャーリィさん。
「ですが、だからこそ皆さんには危険な目には遭って欲しくない。皆さんには着実に実力を身に着けて行って欲しいんです。それは、この世界を救って欲しいからではありません。皆さんに死んで欲しくないからです」
精一杯の想いを告げられて考えさせられたのか頷く5人。
これ以上は、俺の方から何も言わない方がいいだろう。
安藤たちの今後に関してはシャーリィさんに任せた方が良さそうだ。
「少々お待ちください」
倉庫から出て行くシャーリィさん。
しばらく待っていると皮袋を持って戻って来た。持ち上げた時にジャラと硬貨の音が聞こえたので今回の報酬が入っているのだろう。
「では、こちらをお渡しします」
シャーリィさんから皮袋がそのまま渡される。
皮袋の中身を確認して半分を安藤たちに渡そうと中身を確認しようとしたところシャーリィさんから止められた。
「それは全額ソーゴさんたちのパーティの報酬です」
「でも……」
中身を確認した訳ではないが、皮袋を持った時の重さから結構な金額が入っているのは間違いない。
おそらく依頼達成の報酬が全額入っている。
「分配については……」
報酬は基本的には依頼に参加したパーティで均等に分配することになっている。
だから、俺たち4人と勇者たち5人で半分ずつ分けるべきだ。
「残念ながら報告を聞いて全額ソーゴさんたちに渡すべきだと私は判断しました」
依頼の貢献度を判断して分配額を判断する権利が冒険者ギルドにはある。
このような権利があるのは、昔に大した貢献をしていないにも関わらず均等に分配された冒険者がいた為である。逆に大きく貢献したにも関わらず均等に分配された報酬しか貰えなかった冒険者から文句が上がった。
そのため問題があるようなら報告を聞いたギルドが分配額について決められるようになっている。
「いいんですか?」
「ええ、構いません。全員で依頼を受けるようにしていたにも関わらず、盗賊団の討伐は自分たちだけで行う。挙句に拘束した盗賊には逃げられ、お目付け役として付いていたはずの騎士に被害まで出してしまう始末」
「うっ……」
指摘されて唸っている。
しかも、こいつらは依頼を引き受ける時に戦闘は自分たちだけで引き受けるから報酬の大半は自分たちに受け取る権利があると言っている。結局、俺たちが引き受けることになってしまったので、その理屈で言えば全額を俺たちが受け取ることになってしまう。
自分たちの発言がブーメランのように返って来てしまった。
「特に騎士の件が問題です。依頼を引き受けたのは彼らですが、今回の依頼を紹介したのはギルドです。間違いなく何らかの責任を取らされることになります。今後の面倒事を思えば、彼らの報酬は渡せません。ソーゴさんたちに渡した分はこちらからの謝礼だと思って下さい」
「分かりました」
皮袋を収納する。
あまりお金は必要としていないが、シャーリィさんからの謝礼として受け取っておく。
報酬を独占した事に対して安藤たちから文句が出るかと思ったが、何も言われなかった。ただ落ち込んでいるせいで何も言う気になれないのか、こいつらも自分たちの失態を気にして文句を言えないのか理由は分からない。
ただ、今回の件を教訓にして欲しいという気持ちはある。
これで、メテカルで依頼関係においてしなければならない事は終わった。
「色々とお世話になりました」
「行かれるんですね」
「はい」
報告を終えたらメテカルをさっさと出発する件については戻って来るまでの車内で打ち合わせ済みだ。
しかし、予想外な事が起こってしまった為に新たな用事が発生した。
「皆さんの旅の目的が成就される事を祈っています」
「はい。シャーリィさんもお元気で」
シャーリィさんに別れの挨拶を済ませる。
すると、ちょうどタイミングよく別の受付嬢がやって来た。
「シャーリィ!」
「もう来たのね」
冒険者ギルドの入口がある方向からガチャガチャと鎧を着た者が歩く音が聞こえる。
周囲を探ってみれば、かなりの人数に囲まれている事が分かる。
レイはちょっと怯えている様子だけど、ハルナはむしろ返り討ちにしたいのか口元が少し笑っていた。できれば話し合いで済ませたいので勘弁して欲しい。
「さて、行くか」
「そうね。こっちは言いたい事が山ほどあるんだから、せっかくの機会に不満をぶつけてやるわ」
「頼むから自重して」
ハルナの態度にショウが呆れていた。
俺も似たような感覚だけど、向こうから誠心誠意謝って来るなら許してあげる気持ちがない訳でもない。