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第14章 放置の代償

「どうして、俺たちがこんな事をしないとならないんだ!?」


 逃げ出した盗賊を追って走る。


 本来なら依頼なんて終わっていたはずだ。

 それが仲間を二人もやられたうえに逃げ出した盗賊をもう1度捕まえないといけなくなった。


「追い付いた!」


 逃げ出した盗賊たちの1番後ろを走っていた盗賊まで10メートル。


 鞘から剣を抜いて魔力を流す。

 この剣は王城の宝物庫に収められていた物で、魔力を流すことによって重量を変化させられる魔法道具で、俺は軽くすることで簡単に振り回せるようにしていた。


「行くぞ――!」

「ああ!」


 隣では鈴木も拳に力を入れている。


「チッ、もう追い付いて来やがったのか!」


 盗賊が振り向いた。

 ステータスは俺たちの方が圧倒的に上だ。だから全力で追い掛ければ追い付くのは難しくない。


「寝ていろ」


 ナイフを持って襲い掛かって来た男を剣で殴って気絶させる。

 気絶させた男の後ろから夜の闇に隠れるようにして一人の盗賊が襲い掛かって来たけど、柄で脇腹を叩いて悶絶させる。胃の中にあった少ない夕飯を吐き出して地面に倒れている。


 鈴木も同時に襲い掛かって来た二人を昏倒させていた。


「随分と舐められたもんだな」


 奥から盗賊の頭領が姿を現した。

 逃げ出していた盗賊も逃げるのを止めて俺たちの前に立ちはだかった頭領の後ろに立っていた。


「どういうことだ……」


 こっちは全力で追って来た。


「この期に及んで盗賊を殺さないのは舐めているとしか思えないな」


 たしかに逃げ出した盗賊は気絶させたり悶絶させて動けなくさせたりしているだけだ。

 盗賊をどうやって捕らえるかなんて考えていなかった。

 と言うよりも無意識の内に殺さないように動いていた。


「……別にどうでもいいだろ」


 本当に自覚がなかった。


「ああ、どっちでもいいな」


 頭領が剣を上に掲げて構える。


「その剣は……!」

「死んだ騎士から奪った物だ」


 剣の柄には見覚えのある紋章が彫られていた。

 その紋章は、王国騎士に支給される装備一式には付けられている物で、剣が騎士の物であると示していた。


「使い慣れていない武器だけど、携帯していた武器よりは使い易い」


 頭領が剣を振り落としてくる。

 剣を回避すると地面が叩かれて爆発でも起こったように抉れていた。


「避けんなよ。叩き潰せないだろ」


 頭領にとって武器なんてどれでも良かった。

 ただ、相手に向かって叩き付けられれば何であれ武器になる。


「うおりゃあああぁぁぁぁ!」


 デタラメに振り回す剣を回避する。

 横薙ぎに振られた剣はしゃがんで回避し、上から叩き落とすように振られた剣は後ろへ跳んで回避する。


 逃げるのが精一杯。


 けど、そんな状況も長くは続かない。

 こんな大振りを続けていれば隙なんて簡単に見つけることができる。


「ここだ!」


 鈴木が踏み込む。

 頭領が剣を地面に叩き付けた直後で隙ができていた。


 握りしめた拳を頭領の腹に向かって振り抜く。


 対して攻撃されようとしていた頭領の口には夜でもはっきりと分かるほど笑みが浮かんでいた。


「なんだよ、おまえら!」


 拳が頭領に届く直前に頭領の陰に隠れていた3人の盗賊が鈴木に飛び掛かって来た。


 縋り付いたような格好になったせいで拳を振り抜けなくなった鈴木。

 頭領は最初から隙を作って攻撃されたところを自分の部下を纏わり付かせることで防ぐつもりでいた。


「あばよ」


 頭領の剣が鈴木に向かって振り下ろされた。


「くそっ!」


 体に纏わり付いていた一人を剣の前に放り投げる。

 放り投げられた盗賊が頭領の手によって斬られる。


 邪魔な障害物を斬ってしまったことにより剣の動きは止まり、僅かにできた時間の間に後ろへ跳ぶ。


 跳んだ先は本当にギリギリ射程圏外だったらしく剣が鼻先を掠めて地面を抉った。


「うわっ……!」


 衝撃を浴びせられて体に纏わり付いていた二人と一緒に吹き飛ばされていた。


「あ……」


 鈴木が自分の状態を確認して言葉を失くしていた。

 怪我はない。けれど、自分が放り投げてしまった盗賊が両断されたことにより血を全身に浴びることになってしまった。


「な、仲間だろ……! どうして斬っているんだよ」


 自分の部下を斬っても平然としていた頭領に尋ねずにはいられなかった。


「俺たちが逃げ切る為にはお前たちを殺す必要がある。こいつらは俺のところ以外に行くところがなかった奴らだ。俺の為……仲間たちの為なら全員が喜んで自分の命を投げ出すだろうよ。こいつらは、お前たちと違って相手の命を奪うことも、いつかは自分の命が奪われることを覚悟した連中だ」


 覚悟。

 それだけで自分の命を投げ出してまで自分たちの勝利を優先させられる。


 俺たちにはそういった覚悟がなかった。ただ、異世界に来て面白い力が与えられたおかげで魔物なんて凶悪な生物を倒せたことで浮かれていた。


「鈴木、もう犯罪奴隷として連れて行くとかナシだ! 全員、ここで討伐するぞ」

「ああ!」


 覚悟をしたみたいで鈴木も拳を構えて頭領を睨み付けていた。


 狙うなら、まずは頭領からだ。

 盗賊団は頭領を中心にまとまっているように見える。


 だから、先に指揮官を潰す。


 鈴木とタイミングを合わせて一緒に駆け出す。


 けど、駆け出した直後に足を止めることになった。


「おい、何をやって……」


 鈴木が地面に倒れていた。


「この野郎!」


 原因は、地面に倒れていた盗賊の一人に左足の足首を掴まれていたせいだ。


「しまった!」


 あの盗賊は俺が悶絶させただけで放置していた奴だ。

 暗いせいもあって接近していることに気付けなかった。なによりも動揺していたせいで倒れた奴らの事なんて気にしていなかった。

 そうして、動けないフリをしながら隙を窺っていたみたいだ。


「へへっ、逃がさねぇぜ」


 ゲシゲシ、と足首を掴んでいる盗賊を右足で蹴っている。

 顔にいくつもの痣ができるほど蹴られているにも関わらず盗賊に手を放す様子はない。


 このままだと……


「死ね!」


 頭領の方を向いた時には遅かった。

 捕まっている様子にばかり気を取られていたせいで剣が振り下ろされる瞬間まで気付けなかった。


「え……」


 それは鈴木も同じで斬られた瞬間まで頭領の存在に気付けなかった。

 頭領なんかよりも斬り落とされた自分の左腕の方が気になって仕方ない。


「あ、ああ……!」


 すぐに襲い掛かって来るのは左腕の激痛。

 大量の血を流している鈴木は左肩を押さえて蹲っている。


「この野郎!」


 激痛にのた打ち回っている鈴木の姿を見て楽しんでいる頭領に斬り掛かる。


「馬鹿が」


 吐き捨てるような頭領の言葉が聞こえて来る。

 けど、すぐに聞き流して剣を掲げる。


「敵は俺一人じゃねぇだろうが」

「がふっ……!」


 無防備になった体に横から衝撃が叩き付けられた。

 一人の盗賊が突撃して来て地面に押し倒されていた。


「この……!」


 引き離す為に剣を背中に突き刺す。


「ぐふっ!」


 盗賊が口から血を吐きながら死ぬ。

 初めて人を殺したけど、そんな事に構っている暇はない。さっさとどうにかしないと鈴木が死ぬ。


 けど、俺が起き上がるよりも早く一人が後ろから俺を羽交い絞めにしてもう一人がナイフを首に突き付けていた。先端が押し当てられて血が流れる。


 ――ゴクッ!


 いきなり突き付けられた死に思わず唾を呑み込んでしまう。


「どういうつもりだ?」


 散々俺たちに自分たちを殺さない事に対して色々と言っていた連中だ。

 いつでも殺せる状態でトドメを差さない理由が分からない。


「安心しろ。お前には人質になってもらう」

「人質?」


 誰に、対して?

 なんて考えはすぐに追いやられる事になった。


「おいおい……あまりいい状況とは言えないな」


 渡来が追い付いて来た。

 後ろにはあいつの仲間とフラフラな状態の緒川がいた。


「俺が、あいつに対する人質かよ」


 人質になんてなり得ない。

 俺とあいつの関係を考えれば当たり前だ。


次回で、盗賊の戦闘は終わります。

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