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第12話 盗賊の奇襲

頭領、ソーゴ、緒川で視点で変わります。

 騎士が眠るテントと勇者たちが眠るテントの2つ。

 二つのテントに近付く影が10以上。


 テントの場所は見張りの位置から離れた場所にあった。

 本来なら焚火のすぐ近くに置くべきなのにこいつらは離れた場所に設営していた。パーティ内で仲が悪いとか理由は色々と考えられる。テントの中で休んでいる連中が甘ちゃんの勇者である事を考えれば下らない理由だろう。


「行くぞ」


 小声で指示を出す。

 指示を受けた部下の二人が騎士のテントに忍び込んで寝ていた騎士の口を塞ぎ、そのまま首をナイフで掻っ切る。叫び声を上げることすらできず全ての騎士が絶命していた。


 あっという間の出来事だった。


 命のやり取りとなったら勇者よりも騎士の方が厄介になりそうだったから先に始末させてもらった。


「こういう仕事は俺たちの本分なんだよ」


 そもそも盗賊は相手の不意を突いて襲い掛かるのが仕事だ。

 洞窟で戦った時は逆に奇襲されたような形になってしまったから勇者たちにとって有利なまま戦いが運んでしまった。


「次が本命だ」


 6人がテントを囲む。

 未だに自分たちの存在に気付いていないのかテントから出て来る気配がない。


「行け」


 次の瞬間、テントを囲んだ部下が手にしたナイフを中にいる人物に向かって突き刺す。

 テントを貫通したナイフは中で寝ている勇者に致命傷を負わせる。


「ぐわぁ!」

「いてぇ!」


 ナイフが突き刺さった激痛から悲鳴が上がる。

 だが、それは二人分でしかない。


「チッ、残りの奴らはどこへ行った?」


 テントの中には最初から二人しかいなかった。

 何度も滅多刺しにするが、やっぱり二人しかいないみたいだ。


「なんだ!?」


 見張りをしていた連中の方から一人の少年が駆け寄って来た。



 ☆ ☆ ☆



 深夜に盗賊から奇襲を受けた。


 犠牲になったのは騎士と勇者が二人。

 田上は「腹が減った」とか言って焚火の前で夜食の定番であるラーメンもどきを食べているし、鈴木は少し前に気分が昂っているとかいうことで走りに行ったのを見ていた。そして、緒川も「嫌な予感がする」ということで俺たちの傍にいた。

 犠牲になったのは安藤と山本だ。


「逃げるぞ!」


 頭領は自分たちの奇襲を真っ先に察知されて逃げる判断をした。

 なかなか決断力のある奴だ。


「……逃がすなよ」


 傍にいた田上と緒川、それに悲鳴を聞き付けて急いで戻って来た鈴木に言う。


「安藤……鈴木!」


 逃げる盗賊を無視して内側が真っ赤に染まったテントに近付く。


「あ、ああ……!」


 かろうじて息がある。

 しかし、このまま放置すれば確実に死ぬことになるだろう。


「使います?」


 レイが特製ポーションを3本差し出す。

 それを奪い取るようにして手にすると田上が倒れた安藤と山本の体に振り掛け、緒川と鈴木が二人に飲ませていた。

 ポーションの効果を受けたことによって傷が塞がり、荒れていた呼吸も元通りに戻る。しかし、失った血液まで戻る訳ではないのですぐには立てそうになく、そのまま意識を失ってしまった。


「くそっ……」


 田上が地面を殴る。

 自分たちのお目付け役だった騎士は死亡し、仲間も二人が殺される寸前だった。

 盗賊にも逃げられて完全な敗北となってしまった。


「おい、逃げられるぞ」

「はあ!?」


 誰が、というのは言わなくても分かる。

 このまま放置すれば盗賊に逃げられてしまう。


「追え」

「安藤と山本がこんな状態なんだぞ、こいつらを放置して行けるか! お前には血も涙もないのかよ」

「盗賊団を逃がせば依頼失敗になる」


 こいつらのせいで依頼が失敗に終わるなんてゴメンだ。


「これは、お前らが選択した結果だろ」


 盗賊団の討伐を頼まれていたにも関わらず生かしたまま連れ帰って売ることを選択した。

 連れ帰る手間、というデメリット。それ以上に今のように逃げられてしまうという危険を孕んでいる行動だという事を理解していなかった。


「役割分担をするって言ったのはお前たちだ。尻拭いしてもらって盗賊との戦闘まで俺たちに任せるのか?」

「クソッ……お前は、そこで見ていろ」


 田上と鈴木が駆け出す。

 緒川はいつの間にか近くからいなくなっていた。


「……いいんですか?」

「あいつらが本気で勇者としてやって行くなら、そろそろいい加減に覚悟を決めて貰わないと困る。仲間が殺されかけた状態でも覚悟が決まらないようなら捨てるだけだ」


 手伝わなくていいのか、というレイの質問に首を横に振る。


 初日の内に盗賊たちが逃げ出してしまうのは予想外だった。

 覚悟のできていない勇者たちはともかく騎士に被害を出してしまったのは俺たちの落ち度だ。


「ダメね」


 騎士の様子を見に行っていたハルナの表情は暗い。


「そうか」


 失われてしまった命はさすがにどうにもならない。

 俺にできるのは、せめて遺体を丁重に持ち帰るぐらいだ。



 ☆ ☆ ☆



「この……!」


 田上と鈴木が盗賊に追い付くにはもう少し時間が必要だ。

 今は一人でも多くの盗賊を逃がさないように一番足の速い俺が攻撃する必要がある。ナイフを足に突き刺して逃げる足を止めようとする。


 しかし、逃げていた盗賊に届く前に盗賊の中にいた暗殺者が投げたナイフと衝突して弾かれてしまった。


「……先に行け」

「ああ!」


 一番後ろを走っていた盗賊が逃げる。


「また、お前か」


 こいつとはアジトでも戦った。同じ【暗殺術】というスキルを持っているせいか戦いはいい経験になった。


 暗殺者の視線が俺に釘付けになっている。


「なるほど。リベンジか」


 洞窟で行われていた頭領とのやり取りを思い出す。

 こいつは他の仲間以上に頭領から慕われていた。おそらく実力を買われて出世した信頼されていた暗殺者なんだろう。


 お互いにナイフを構える。


「スキルの使い方は向こうの方が上みたいだな」


 アジトで戦った時は洞窟の狭さを活かして正面からステータスの差を頼りに倒させてもらった。

 だけど、今いる場所は周りに何もない草原だ。


 暗殺者の気配がどんどん薄まって行く。

 体が夜の闇に紛れるようになって、どこにいるのか曖昧になって行く。


「行くぞ」


 声が正面から聞こえる。

 けど、俺の【気配探知】は左から危険が迫っていると教えてくれている。


 ナイフを振り上げると甲高い音が響き渡る。

 押し込まれてくる暗殺者のナイフを受け止める。


「緒川!」


 追い付いた田上と鈴木が暗殺者の攻撃を受け止めている俺の姿を見て叫ぶ。


「先に行け!」


 まだまだ仕留めなければならない盗賊はたくさんいる。


 俺の脳裏にさっきのあいつの顔が浮かぶ。学校に居た頃には見たことのない俺たちを馬鹿にしたような表情――俺たちにパシリにされているだけだった奴に馬鹿にされたままでいる訳にはいかない。

 その為には逃げられた盗賊を全員捕らえる必要がある。


「お前らは先へ行け」

「大丈夫かよ」

「俺たちは勇者だぜ。盗賊程度に負けると思っているのか?」


 安藤と山本がやられたのは寝込みを襲われたせいだ。

 真正面から戦えば俺たちが負けるはずがない。


 それに盗賊は勇者に倒されるものだ。

 俺たちが負ける要素なんてどこにもない。


「……分かった」


 大丈夫そうだ、と判断すると逃げ出した盗賊を追うべく走り出す田上と鈴木。


 力任せに暗殺者のナイフを押して吹き飛ばすと懐に忍ばせていた針を取り出して投げる。真っ直ぐに飛んで行った針はユラユラと揺れる暗殺者に全て回避されてしまったが、暗殺者と距離を取ることに成功した。




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