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第10話 勇者の精神的問題

「おい、このままでいいのかよ」


 気絶しているだけだ。

 とはいえ、これから拘束ぐらいはするはずだ。


「……どういう意味だ?」

「だから、依頼は『盗賊団の討伐』なんだから殺さないとダメだろ」


 討伐、というのは文字通りに殺すことを意味している。

 そんな事が分からないほど冒険者として素人でもないはずだ。


「分かってねぇな。この世界の場合、犯罪者は奴隷として売り払うことができる。金になるんだったらそっちの方がいいだろ」


 依頼の最中に犯罪者を捕らえて奴隷落ちした相手を奴隷商人に売り払った際に得た金も冒険者の物になる。


「そうか。だったら自分で運べよ」


 ただし、それも売ることができたらの話だ。

 盗賊のような犯罪者が人目を忍んで生活をするとなると人里から離れた場所で生活をする必要がある。そして、奴隷商人は基本的に大きな街でしか商売をしないため人里離れた場所から都会まで売りに行く必要がある。


 その手間を考えて売り払わない者が多い、と聞いた。

 俺たちだって盗賊を運ぶのは面倒だ。


「あ? 戦闘は俺たちに任せたんだから、荷物を持つのはお前たちの役割だろ」


 盗賊を運搬するのも俺たちの仕事だと言って来た。


「残念だけど、そいつらを運ぶつもりはない」

「おいおい仕事をしろよ……」

「そういう事を言うなら自分たちも仕事をしろ。戦闘は自分たちの仕事だって言っていたんだから盗賊たちの面倒は最後まで見るんだな。売り払うつもりなら自分たちで運べ」


 殺して死体にするなら収納して持ち帰ってあげてもいいが、生きている状態では収納することができない。

 せめてもの情けとして縄ぐらいは渡す。


「俺たちは先に盗品を回収しておく」

「おい! ネコババするつもりじゃないだろうな」


 収納の中に何が入っているのか他人には分からない。

 その特性を利用して盗品をくすねる可能性がある。


「私たちが付いて行きます」


 騎士の内二人が俺たちに同行する。

 残りの3人は盗賊団の拘束を手伝うことにしたらしい。


「では、行きましょう」


 騎士と一緒に洞窟を奥へ進む。


 先ほどの光景を思い出して思わず溜息を吐いてしまった。


「どうしました?」


 隣に立ったレイが不安そうに尋ねて来た。

 リーダーである俺が仲間を不安そうにさせる態度を取ってはいけない。


「あいつらの行動が気に入らなくてな」

「行動? たしかに30人を街まで連れて行くとか面倒な事を考えるわよね」


 俺たちも犯罪奴隷が売れることは知っていた。

 しかし、最初から生け捕りにするつもりはなかった。

 ギルドで説明を受けた時から盗賊『団』だと言っていた。その呼称から相手が少人数ではない事は明白だ。だから連れ帰るのは不可能だと判断し、死体だけ持ち帰るつもりでいた。死体にしてしまえば生物ではなくなるので収納できる。


 けれども、俺が問題にしているのは連れ帰る事ではない。


「あいつら手加減していただろ」

「やっぱりあたしの見間違いとかじゃなかったんだ」

「……?」


 ハルナには見えていたらしいが、レイには見えていなかったらしく首を傾げていた。薬を使用していない状態では仕方ない。

 同じように見えていたショウが説明する。


「あの剣を使っていた田上さんでしたっけ? 彼は盗賊に剣を当てる瞬間に刃を僅かにずらしていたんです」

「え、そんなことをしたら……」


 盗賊に打撃を与えることはできるが、斬撃を与えることはできない。

 使ってみて初めて実感したが、剣で何かを斬るというのは非常に難しい。僅かに軌道がズレるだけでも斬ることができなくなる。


 だが、【剣技】スキルを持っている田上にはそんな事は関係がない。

 攻撃の瞬間にスキルが自動補正して正しい軌道で斬ってくれる。


 それを田上は無理矢理逸らした。


 理由は――斬りたくなかったから。


「あいつはスキルに補正された状態で人間を斬れば相手を殺すことができるっていうことを無意識に理解していた」


 だから殺さないようにする為に無意識下で軌道修正した。


「他の奴らにしたって同じようなものだ」


 緒川も武器を使って攻撃すればいいものを最初に遭遇した見張りは手刀で気絶させていた。

 鈴木に至っては見張りだけでなく、奥で戦った時も急所を攻撃せずに腹を殴って気絶させていた。

 安藤も気絶させることが目的だったらしく剣から電撃を放って麻痺させることにしていた。


 全員に殺すつもりがない。


「あんたらなら見ていて理解したんじゃないですか?」

「はははっ、そうですね」


 離れた場所から会話を聞いていた騎士が苦笑していた。


「私たちも一度は経験した辛さです。初めて戦場に出る兵士は覚悟ができているつもりでも、いざ実戦を迎えると『相手を殺す』という事実に恐怖して自然と逃げ出してしまう者がいます。そんなままの状態の兵士は使い物にならないので事が終わった後には上司がそれとなく慰めて忘れさせることで経験を糧とし、戦場へと再び送り込みますが、勇者様たちはどうでしょうか……」


 なまじ力があり、酔いしれている状態だからこそ自分たちがそのような心理状態だと認めない可能性が高い。

 とはいえ、認めずそのまま先へ進んだ結果困ることになるのは本人たちだ。

 俺たちから忠告する事は何もない。


「ここが盗賊団の宝物庫みたいな場所か」


 洞窟の奥の方にある盗品をまとめて置いていた部屋に辿り着く。

 大量の金貨はもちろんのこと商人の護衛をしていた冒険者から奪い取ったと思われる剣などの武器や防具、商人が運んでいた商品である衣類や酒。さすがに食料品は腐ってしまうので奪っていたとしても宴会でもしてすぐに消費してしまったのか残り物程度しか残っていなかった。


 けっこうな量があるな。


「君たちにはこれを運んで貰う事になる」

「分かっていますよ」


 とても4人で運べるような量ではない。


「最初に荷物を渡した時にバッグが入っていたはずだ」

「ああ、ありましたね」


 メテカルを出発する時に騎士から必要な色々と渡されていた。リストを作るなどして具体的に確認した訳ではないのでうろ覚えだが、大きなバッグのような物を渡されていたのを記憶している。

 アイテムボックスに入り切るような量ではないからバッグに入れて持って行け。


 4人で運ぶなんて絶対に不可能だ。


 仕方ないので、端から時計回りに触れて行って全て収納する。


「なっ!?」


 大量にあった物が次々と消えて行く光景に騎士が言葉を失っている。

 魔法陣を出してさっさと回収してしまえば、あっという間に終わってしまう作業だが、さすがに【収納魔法】の魔法陣まで見せるつもりはない。俺の収納容量が無限と思えるほどであることはメテカルで調査をすれば簡単に分かることだ。


「こんなものかな」


 全ての盗品を回収すると手を払う。


「かなりの量を溜め込んでいたな」


 回収した盗品を全て売り払えば、盗賊たちを犯罪奴隷として売り払うよりも大金が手に入るのは間違いない。


「じゃ、終わったんで外に出ることにしましょう」

「ちょ……ちょっと待て!」


 慌てて追って来る騎士を置いて外へ出る。

 途中、未だに盗賊の捕縛作業をしている安藤たちの姿が見えたが、俺たちには関係がないので置いて行く。その時、俺たちに着いて来た騎士二人も捕縛作業に合流していたので直に終わるだろう。


「置いて来てよかったの?」

「殺せば簡単なところを面倒な事まで引き受けているのはあいつらだ。俺たちが関わる必要はないだろ」


 手が空いたからと言って手伝う必要はない。

 それよりも陰気な洞窟をさっさと出たかった。


「で、何か面白い魔法道具でも手に入った?」

「そうだな……」


 護衛に就いていた冒険者から奪ったと思しき魔法剣。

 自分の姿を認識させ辛くするマスク。

 魔力量次第でどれだけ遠くまでも見通せるようになる単眼鏡。


 他にも効果だけを見れば優秀な物もあった。


「色々と手に入ったけど、元の世界に帰れるような魔法道具はなかったな」

「そっか」


 ハルナも盗賊団の魔法道具には期待していなかったらしく目的の品物が手に入らなかったと言ってもがっかりしていなかった。


 洞窟をそのまま後にすると集合場所まで戻る。

 見上げた空は既に茜色に染まっており、近くの町や村まで移動しているような余裕はない。そもそも犯罪奴隷を引き連れた状態で入れる訳もないので犯罪奴隷を買い取ってもらえるメテカルまで野営をしながら移動するしかない。


 今日はこのまま外で過ごすしかなかった。


荷物持ちとして雇われた4人ですが、実質働いているのはソーゴだけです。

しかも本人は荷物持ちに関しては全く苦労していない。

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