第1話 城塞都市メテカル
第2章スタートです
国を離れる決意をして旅立ってから3日。
「つ、着いた……」
ようやく王都から東に行った場所にある大都市メテカルに辿り着いた。
異世界召喚によって強化された体力だったが、途中で騎士や兵士に見つからないようにする為に人が使わないような道を歩いていた。おかげで見つかるようなことはなかったが、体力を大幅に消費してしまった。
それでも野宿をしながらどうにか辿り着いた。
城塞都市メテカル。
俺たちを召喚したメグレーズ王国の王都には地理的な理由から東西と南に防衛の要である城塞都市があった。北には広大な湖が広がっているため都市はない。
大都市であればどれでもよかったが、東にあるメテカルを選んだのは、東にある都市が一番人の出入りが激しいからだ。
現在、復活した魔王は北東にある地域で城を築いて力を蓄えていた。
そのため東の城塞都市は常に迫りくる魔物の脅威に晒されていた。そうして、魔物と戦う為に多くの人がメテカルへとやって来て、戦場で商売をする為の商人が数多く出入りしていた。
とはいえ、実際の戦場は北東へさらに進んだ場所でメテカルは中継基地のように扱われていた。
実際目にしたことはないが、これらは全て教養の授業の際に教わったことだ。
城塞都市と言われるだけあって都市の周囲は外壁によって囲まれていた。
街を出入りする為には各所に設置された門で手続きをしてから出入りする必要がある。
「止まれ!」
門の前には当然のように警備の為に兵士が二人立っており、門に近付く不審人物を止めるようになっている。
「ちょっと、止められちゃったじゃない」
止められたことに戸惑った櫛川さんが小声で話し掛けてくる。
どうして止められないと思ったのか。
俺たちの格好は召喚される前に着ていた制服のまま。この世界では使われていない素材と技術によって作られているだけに服装だけで不審人物だと思われても仕方ない。
彼女は、今までに職務質問などされたことがないのだろう。
俺は以前に夜コンビニに買い物に行った帰りに警察官から止まるように言われたことがある。止められた理由は、暗かったせいで怪しく見えた――あの時に比べたらマシな方だ。
「メテカルにどんな用だ?」
天堂さんが怖い兵士に凄まれて俺の後ろに隠れてしまった。
櫛川さんも役に立ちそうにない。
「俺たちは冒険者になる為に遠くから来た者です」
言葉には注意をしなくてはならない。
多くの不審人物を見てきた門番を相手に嘘など通用するはずがない。
なので、嘘は吐かない。
「そうか」
俺の言葉に嘘はないと思ったのか門番が警戒心を下げる。
嘘は言っていない。
冒険者になる為にメテカルに来たこと事実だし、遠く――異世界から来たことも事実だ。
「出身地の名前は?」
「さあ?」
「知らないのか?」
「俺たちの間では『ニホン』という名前で呼んでいました。けど、こっちでも同じように呼ぶのか知らないんです」
「ニホン……たしかに聞いたことのない地名だな」
門番がもう一人と顔を合わせて聞いたことがないか確認しているが、やはり聞き覚えはないらしい。
まあ、仕方ない。
同じ名前の村や町ならあるかもしれないが、異世界に存在する国の名前だ。
「ここまではどうやって?」
「それが……山の中で道に迷っている内にたまたまこの街を見つけることができたんです」
あの時は大変だった。
慣れない山道を歩いていたせいで変な場所に出てしまった。しかし、城塞都市は広大で目立つので遠くから見つけるのに苦労はしなかった。
「随分と苦労して辿り着いたみたいだけど、食糧とかはどうしていたんだ?」
「それでしたら……」
分かりやすく何もない場所にサンドイッチを取り出す。
「収納魔法……」
「はい。俺が収納魔法を使えるので色々と詰め込んでいるんです」
本当に城にいた時に手当たり次第に物を詰め込んで行って良かった。
俺の収納の中には4人で分けても1週間は食べていけるだけの食糧が収納されている。
「分かった。特に不審な点もないようだし、身分を証明できる物を見せてくれないか?」
「身分証が必要になるんですか?」
これから冒険者ギルドに行って作ってもらうつもりだったので、この世界での身分証など持っていない。
生徒手帳を見せても意味がないどころか書かれている文字が日本語なので何が書いてあるのか読んでもらうことすらできない。
「ああ、小さな村とかだとしていないが、メテカルのような大都市になると住人や出入りを許可されている職業なんかに就いている人なんかだと入場税が免除されるようになっているんだ」
困った。そんなことになっているとは知らなかった。
「どうやら身分証も作っていないような小さな村から来たみたいだな」
何も答えずにいると俺たちの事情を勘違いした門番が溜息を吐いていた。
「どうにかしてやりたいところだが、規則は規則だ。入場税さえ払えば街の中に入ることができるぞ」
「ちなみに入場税っていくらですか?」
「銀貨1枚だ」
そもそも出入りの度に銀貨で何十枚も取られていたのでは誰もメテカルにやって来ない。
そのため本当に最低限の税だけ徴収していた。
「はい。銀貨4枚です」
収納から取り出した全員分の銀貨を門番に渡す。
あっさりと入場税を受け取った門番はポカンとしていた。
「いいのかい? こんなにあっさりとお金を渡して」
「はい。お金ならある程度持ってきているので大丈夫です」
「そうか」
実際、銀貨1枚程度なら問題ない。
門番が呆然としていたのは、田舎から出てきた冒険者志望の子供が銀貨を簡単に出せると思っていなかったからに違いない。
(怪しまれない程度にお金を使わないといけないな)
同じ年齢の少年少女4人が一緒に行動するにあたって田舎から出てきた幼馴染という設定で過ごすつもりでいることは事前に打ち合わせをしている。
怪しまれて国に通報されては困る。
ボロが出ないよう慎重に行動しなくてはならない。
「たしかに入場税は受け取った。君たちのメテカルの生活が良きものになることを祈っているよ」
「ありがとうございます」
門番に挨拶をしながら街の西側にある門を離れる。
「それで、どこへ向かっているの?」
先頭に立ったままの俺が街を奥へ奥へと進むから他の3人も付いて行くしかない。
「とりあえず冒険者ギルドへと向かおう」
「え~、あたしはもう疲れた」
「それには俺も賛成だけど、さっきの件で身分証を持っている必要性は分かっただろ」
門で身分証の提示を求められたのと同じように宿屋でも身分証の提示を求められる可能性があった。
そのため、まずは身分証の入手が必須だ。
「で、肝心の冒険者ギルドがどこにあるのか分かっているのか?」
「あれを見てみろ」
俺の視線の先には荷物を抱え服の汚れた男たちがいた。
「彼らが持っている倒した魔物の素材だ。おそらく冒険者ギルドに持ち込んで換金してもらうつもりなんだろう」
彼らに付いて行けば冒険者ギルドまで案内してくれる。
「え……冒険者ってあんなことまでするの?」
筋肉の付いた大きな男たちが疲れた表情で荷物を運んでいる。
か弱い印象のある天堂さんからすれば自分が同じことをするとなると信じられないのだろう。
「ああ、あれについては大丈夫。俺が全部収納するから」
「そっか……」
俺の言葉に安心して胸を撫で下ろしていた。
「ホント、便利な能力よね」
「そうでもないみたいなんだけどね」
戦闘では攻撃力に期待することができない。
おまけに普通は、重量や大きさに制限もあるので何でも収納できるというわけではない。しかし、俺の収納魔法は今のところは限界を感じていない。既に重量的にはコンテナ1つ分に相当する量を持ってきているんだけど。
「ここが冒険者ギルドだな」
男たちの後を付いて行くと剣と杖が交差された絵の描かれた看板の掲げられた建物へと辿り着いた。
剣と杖。
それは、冒険者ギルドの証である。
建物のシンボルなどは、魔族と戦うなら必要になるだろうと教えられた一般的な常識の中に含まれていた。
収納魔法などが本当にチート化するまではメテカルで生活基盤を整える話になります。