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第8話 盗賊団のアジト

「ここが盗賊団の被害が多発している場所だな」


 騎士が街道に立ちながら呟く。


 メテカルを出発してから3日目の朝には盗賊団による被害の多い場所へやって来た。

 冒険者ギルドでも残念ながら盗賊団のアジトを確認できている訳ではないので、まず盗賊団の足取りを追う必要がある。


「ここは交通の要衝となっておりまして南と北、それから東に大きな都市があるため利用者が多いのです」


 騎士の説明は主に安藤たちに対する物だ。

 俺たちは戦力としては全く期待されていない。


「そこを盗賊団に狙われた形になりました」


 商人としても他の街道が利用できるなら盗賊団に狙われていないそっちを利用したいところだが、他の街道はここほど舗装されていないので利用できるならこちらの方がいい。

 舗装された道と舗装されていない道では絶対に前者の方がいい。


「生き残った商人の目撃情報によれば、盗めるだけ盗んだ後はここから西の方へと移動したみたいです」

「西……」


 西側に道はなく、かなり離れた場所に森が広がっていた。

 アジトがあるとしたら森の中が怪しい。


「面倒臭いな……」


 口に出したのは鈴木だけだったが、他の4人も同じように面倒くさそうな表情をしていた。

 盗賊団と戦い、派手に勝利する姿を妄想していた彼らにとってアジトの探索という地味な仕事は面倒なだけなのだろう。


「お前ら、行けよ」

「は?」


 挙句に雑用係という事で探索まで俺たちに押し付ける始末。

 これまでの行程においても『自分でやればいいのに……』と思うような仕事をいくつも押し付けて来た。特にやることがないにも関わらず設営したテントの片付けはしない、食事の用意は全て任せる、食事の時に使用した食器もそのまま放置するといった行動が何度も続いた。


 反抗すると面倒な事になるのは目に見えていたので渋々従っていた。

 が、そろそろ好き勝手にやらせてもらう。


「とりあえず盗賊団のアジトはそれぞれ探す、という事でどうですか?」


 一応の引率役である騎士に尋ねる。

 付き合っていられないので別行動を提案する。


「ああ、いいぜ」


 騎士に尋ねたはずなのだが、安藤が答えた。

 安藤も飽きて来たのか別行動に賛成して来た。


 そして、そのまま5人が西側へと歩いて行く。

 勇者の護衛である騎士は彼らに付いて行かざるを得ない。


「さて、これで自由に行動することができるな」


 彼らの目がある状況ではチートレベルのスキルを使用することができない。

 こんな面倒な仕事はチートを使ってさっさと終わらせるに限る。


「何か盗賊団のアジトを見つけられる便利な方法を持っている人」


 場を和ませるつもりで言った冗談。


 しかし、レイには伝わらなかった。


「上手く行くかどうか分からないけど、やってみます」

「は?」


 アイテムボックスからスプレー缶を取り出して地面に吹き掛けて行く。


 特にそれらしい反応はない。

 そのまま足元に向かってスプレーを吹き掛けながら10歩ほど進む。


「あった」


 スプレーが吹き掛けられた場所の色が変わった染みのような物が浮かび上がった。


「これは?」

「血液に反応する薬品です」

「ルミノール反応かよ」


 警察の捜査には欠かせない薬品。

 血液に反応して発光させることができる。


 まさか異世界で現代捜査に欠かせない代物を見ることになるとは思いもしなかった。


「いつの間にこんな物を?」

「昨日、この場所についたらアジトの探索をするかもしれないと思って便利な物を作っておいたんです」


 しかも、ほとんど思い付きで作ったような代物。


「盗賊に襲われたっていう事は襲われた人たちは血を流しているはずですので、こんな物があれば血の跡を追うことはできるんじゃないかって思ったんです」

「よく作れたな」

「とはいえ、現実にあるルミノール溶液とは違うはずです。私のスキルを試してみたところ作ることができたので作ってみただけですから」


 そのまま溶液を掛けながら真っ直ぐに進む。

 発光した跡は線のような形が一定間隔で続いていた。


「なるほど馬車ですか」

「馬車?」

「そうです。馬車の車輪の一部に血液が付着。そのまま盗んだ馬車を走らせたところ血の跡が残ってしまった。襲撃から時間が経ったせいで他の痕跡は残っていませんが、地面に着いた血液に私の薬品は反応しているんです」


 血の跡が残った周囲を見てみるが、馬車が通ったような痕跡は見つからなかった。

 馬車が襲われてから数日が経っているので天気や風の影響を受けて目に見える痕跡はなくなってしまう。


 スプレーを吹き掛けながらの移動だったため普通に歩くよりも時間が掛かってしまった。

 それでも1時間ほど血の跡を追っていると洞窟に辿り着いた。


「どう思う?」


 洞窟は石造りで人が通れるほどの高さの道が地下へと続いており、入口部分だけが地面から顔を出している状態だった。


「中は真っ暗だな」


 20メートルぐらい先までは日の光が差し込んでいるおかげで覗くことができたが、さらに奥がどうなっているのかは分からない。


「僕が偵察します」


 ショウの腕輪が変形してスライムになる。


 メタルスライムのシルバー。

 シルバーは体をプルプルと震わせると体の一部を切り離して洞窟の中へと潜入させる。


「少し離れていましょう」


 洞窟の中が盗賊団のアジトだった場合には怪しまれることになる。

 入口前から移動して木の陰に隠れる。


「見つけました。盗賊団の数は約30人。全員そこまでステータスも高くないようなので僕たちのステータスなら制圧は簡単です」


 まるで見て来たように報告するショウ。

 それもそのはずで洞窟内に潜入させたシルバーの一部とは【錬金魔法】の応用によって感覚を共有させることができるので分身が見ている光景を通して盗賊の人数を数えただけ。


「勝てそうか?」

「ステータスを覗くようなスキルは持っていませんが、洞窟内に向かってこうして殺気を飛ばしていても気付かれません。おそらく強者がいるという事はないと思われます」


 この様子なら安藤たちは苦戦せずに殲滅できる可能性がある。


「入り口はここだけか?」

「いいえ、反対側にもう一つ入口があるみたいです」


 その入口は後で探せばいいだろう。

 とにかく盗賊団のアジトが分かった。



 ☆ ☆ ☆



「遅い……」


 元の場所に戻って来たが、一向に安藤たちが戻って来る気配がない。


 とっくに昼は過ぎている。

 この場に留まるつもりなら野営準備をしなければ夕方になってしまう。この後の予定を決めていなかったので今日はどうするのか分からない。


 そういう訳で仕方なくテントの設営を始めて夕食の準備を始める。


「見たか、俺の剣技スキル」

「お前は最後に急所に突き刺しただけだろうが!」

「仕留めるよりも前に消耗させていたのが大きかったんじゃないか?」


 人数分のシチューと肉が焼き上がったところで勇者と騎士が集まって来た。

 騎士は人間で言えば十数人分に及ぶ大きさを誇る猪を運んでいた。獣の猪ではない……猪型の魔物だ。


「何をしていたんだよ……」


 思わず呆れてしまう。

 盗賊団のアジトを探さなければならない状況の中で狩りを楽しんでいた。


「アジトは見つかったのか?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべる5人。


 彼らは最初からアジトの探索みたいな面倒な仕事をするつもりがなく、完全に俺たちに任せていた。

 もっとも既に盗賊団のアジトは見つけてしまっているので一緒に行動していた場合にはスキルを出すことができなくて探索に時間が掛かってしまっていた。


 そういう意味ではいなかったおかげで役に立ってくれた。


「見つかった」

「よし、じゃあさっさと討伐しに行くぞ」

「そうですね。民の為にも盗賊は早々に討伐してしまった方がいいでしょう」


 討伐へ向かうことに騎士も賛同していた。


「おい」


 彼らが忘れている事があるので言わなければならない事がある。


「おまえら、これまで何をしていた?」


 狩りを楽しんでアジトの探索など全くしていなかった。

 はっきり言って怒っている。


「これは冒険者ギルドに報告させてもらうからな」


 依頼に真面目に取り組んでいなかった。


 ギルドの報酬は原則として依頼に参加した人数で均等に割られることになるが、同じ依頼を受けた者が真面目に取り組んでいなかったり、実力が不足していたり為に貢献できなかったという理由で意義を申し立てることはできる。

 そういった申し立てが受理されればギルドの方で報酬が査定されることになる。


「あ? 戦闘では役に立たない雑魚は引っ込んでいればいいんだよ。俺たちは戦いで苦労しているんだから、それ以外の部分ではお前が苦労する。そういう約束だろ」


 こいつらは俺の強さを把握できていない。

 だから強気に出ることができている。


 俺としても戦闘が面倒な事には変わりない。何よりも初めての人殺しを数日前に経験して弱っているレイが近くにいるので自分から手を出すような真似は控えたい。


「分かった。盗賊団の討伐は全部お前たちに任せるからな」


 こうしてアジトへの強襲が決まった。


次回、勇者VS盗賊団です。


作者は理系には詳しくないので登場している薬品は全てファンタジー薬品だと思って納得してください。

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