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第6話 再会

「マズいな」


 緒川が俺たちの存在に気付けた理由は簡単だ。

 姿が見えていなくてもシャーリィさんの気配に気付けていたように最初から一緒にいた俺たちの気配にも気付いていた。


 しかも相手の強さもそれなりに把握できるみたいで強者だと知られてしまっている。


 仲間の強さは俺とショウで造ったアイテムボックスの恩恵なので、ちょっと操作するだけでステータスを下げることができるようになっている。


 だが、俺は無理だ。正確には今の俺には無理だ。

 当初の収納ならステータスが反映されないスペースを作って分けることによってステータスを落とすことができた。けれども、今は危険極まりないパラードの魔結晶があるせいで移動させることによってどのような影響があるのか分からない。

 最悪の場合、収納から飛び出して肉体を再生させてしまった場合は手を付けられなくなってしまうかもしれない。


 もう、俺は一般人並みにステータスを落とすことができなくなっていた。


「仕方ない」


 隠れていることがバレている以上、奥へ引っ込む訳にはいかない。

 ならば出て行くしかない。


「おいおい……」


 俺の姿を見て緒川たちが驚いている。


「死んだんじゃなかったのかよ」

「悪いけど、まだ生きているんだよ」

「……」


 クラスメイトが生きていた。

 その事に対して驚いたものの喜んだりしない。

 こいつらにとってはどうでもいい奴なんだろう。


「悪い。俺の勘違いだった」


 緒川が仲間に謝る。


「あ?」

「だって、こいつが強いはずないだろ」

「それもそうだな」


 安藤たちが笑い出す。

 だが、緒川だけは俺に視線を向けたまま口を閉ざしていた。

 自分のスキルを信用するなら俺の実力は自分たち全員の力を合わせたよりも強いことになる。しかし、異世界に来たばかりの俺しか知らない緒川にはその事実が信じられなかった。


 おかげで無用な騒ぎを避けることができた。


「さっき依頼がどうとか聞こえたけど」

「いらないいらない。お前たちみたいな雑魚はいたところで足手纏いぐらいにしかならないからな」

「そうか」


 その場を離れようと彼らの横を通り過ぎる。


「いや、待て」


 山本が呼び止めた。


「なに?」

「お前、こんな場所にいるっていうことは冒険者なのか?」

「そうだけど……」


 懐から冒険者カードを見せる。


「ぷっ、Eランク」


 冒険者カードに記されたランクを確認して笑い出した。

 ランクを上げられるような難易度の高い依頼を引き受けて来なかったので、未だにデュームル聖国へ行く前のランクから変わっていなかった。

 Eランクと言えば初心者同然のランクだった。


 魔王軍とも戦い、勇者として持て囃されている彼らならもっとランクが高くてもおかしくない。


「俺たちはBランクだぜ」

「へぇ~」


 Bランクと言えば一人前と評価されてもおかしくないランク。

 冒険者として活動を始めた期間が短い事を考えれば異例と言える。


「お前、ここの冒険者ギルドで活動していたのか?」

「最近は配達依頼を引き受けてしばらくいなかったけど、登録とかはここのギルドでやったな」


 変に嘘を言ってしまうとどこからバレるのか分からない。

 メテカルを発つ時に配達依頼を引き受けてからデュームル聖国へと旅立ったのは事実なので調べられても間違いではない。


 なるべく穏便にやり過ごしてギルドを出たい。


「配達依頼、ね」


 山本が俺のスキルを思い出していた。


「ねえ、シャーリィちゃん」

「はい」

「さっきの依頼を引き受けるもう一組ってこいつらでもいいの?」

「いえ、彼らでは……」


 シャーリィさんがどう答えるべきか迷っていた。

 だが、山本にとっては関係がなかった。


「雑用でも何でもいいからこいつら連れて行こうぜ。盗賊団の討伐に必要な戦闘なら俺たちだけでやればいいんだよ。こいつなら荷物持ちは余裕だろ」


 雑用をさせて人数の問題を解決する。


「そんな事は認められません」


 そもそもギルド側としては雑用も含めて全てを依頼を引き受けた冒険者たちでやらせるつもりでいた……と言うよりもそれが常識だ。

 戦闘に2パーティ必要だという事が分かっていない。


「あのですね。皆さんが強いというのは分かっています。ですけど、人数が少なければ盗賊を何人か取り逃がす事だってあるんです。ですから人数が揃っていなければ依頼を引き受けさせる事はできません」

「まあまあ」


 シャーリィさんが注意しているが、全く聞く耳を持たない。

 どうやら相当盗賊団を討伐した事による報酬……というよりも名声が欲しいみたいだ。


 面倒臭くなって来たので過去へ戻ろうか……なんて考えた時に後ろから声が掛けられた。


「引き受けさせろ」

「ギルドマスター……」

「さっきから煩くて仕方ない。そこまで言うならこいつらに雑用を引き受けさせて盗賊団の討伐は彼らが行えばいい」

「ですが……」


 尚も言い渋るシャーリィさんにギルドマスターが近付いて行く。


 ……ん?

 ギルドマスターが俺の横を通り過ぎる瞬間に掌に収まるサイズの小さなメモを手渡して来た。


 俺たちの事が心配なシャーリィさんは危険な依頼を引き受けさせたくない。

 それをギルドマスターは引き受けさせたいみたいだ。


 シャーリィさんと話をしやすい場所に立ったことでギルドマスターの大きな体によって緒川たちの視界から俺の体が隠れる。

 見えなくなっている間にメモを確認する。


「――その依頼引き受けますよ」

「ソーゴさん?」

「雑用をするだけで規定通りの報酬は貰えるんですよね」


 依頼票に書かれているのは討伐報酬である金貨50枚。

 基本的には依頼に参加した全員へ均等に割り振られる。


「あ? 危険な役割を引き受けるのは俺たちなんだから俺たちが報酬の大半を受け取ることができるはずだろ」


 しかし、安藤にそんな規則は通用しない。

 こいつは自分の思い通りに事を動かしたいと思っている。


 それに冒険者ギルドの規則に書かれている訳ではなく、依頼を引き受ける冒険者たちの間で報酬の割り振りで揉めないようにする為に暗黙の了解として定められているだけだ。


 実際にどのように割り振るのかは依頼を引き受けた本人たちの間で決めてしまっても問題ない。特に荷物持ちのような雑用しかできない者の報酬は低くなる。


「……最低限の報酬さえ確約してくれるならそれでも構わない」

「ソーゴさん」


 ぶっちゃけ俺の目的は討伐報酬にはない。

 盗賊を討伐する事そのものにある。


「いいぜ。俺たちも盗賊退治ができればいいからな。お前は荷物持ちだけしていろよ」


 ニヤニヤ笑いながら5人で相談を始める緒川たち。


 その間に後ろ手でギルドマスターから受け取ったメモをショウたちにも渡す。

 緒川たちは最初から俺の事ぐらいしか気にしていないみたいで後ろにいるショウたちについては全く気にしていなかった。


 だから3人でメモを見ても気にしていない。


『盗賊団は珍しい魔法道具を抱えている』

「……!」


 現にメモを見た3人が驚いているのに全く気付いていない。


「じゃあ、明日の朝になったら街の南門に集合な」


 それだけ言って宿へ帰って行く。

 勇者がいたことで緊張に包まれていたギルドが再び騒がしくなる。


 少し落ち着きを取り戻したところでギルドマスターにメモの件を確認する。


「それで、さっきのはどういう事ですか?」

「そうですよ」


 メモを見ていないシャーリィさんにはギルドマスターが依頼を引き受けさせた理由に全く思い当たりがない。

 それでメモを見せると俺が引き受けると言った理由に納得が行った。


「事情は理解しました。ですが、本当なんですか?」

「本当だ。話を聞いている内に思い出したが、数カ月前に他国の美術館を襲撃して資金に換えていた。盗品の多くは闇市場で見つける事ができたらしいけど、いくつか見つかっていない魔法道具があるらしい」

「それを使えば元の世界に帰れると?」

「魔法道具の中には使い方が分からなくて美術品として飾っているだけの物も含まれる。もしかしたら、その中にあるかもしれない」


 可能性としては低い。

 しかし、他に何も手掛かりがない状態なのは変わりない。


「これで以前の件は許してくれるか?」

「はい」


 そもそもアルバーン伯爵に騙された件でギルドマスターを恨んではいない。

 しかし、本人が気にしているようなので今回の情報提供で許すことにする。


「で、どうする?」

「情報提供には感謝します。もちろん盗賊退治は引き受けます」


 仲間を見てみるが、特に反対するような様子は見られない。


 それから『やり直し』もしない。

 過去へ戻ってやり直せば、緒川たちに遭遇することなく秘密裡に盗賊団を討伐することができる。


 しかし、それをやってしまうとギルドマスターから情報を貰ったという事実が俺以外から消えてしまう。仲間には説明すればいいかもしれないが、ギルドマスターには自分が渡した、という自覚を持っていて欲しい。


 手遅れになる状況まで『やり直し』はしないつもりだ。


という訳で第6章は盗賊団が持っている魔法道具の回収です。

戦闘はほとんどしません。

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