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第5話 メテカル滞在の勇者

「あいつらは何をしているんですか?」


 俺たちと同じように階段の上から1階の様子を伺っているシャーリィさんに尋ねる。


「先ほど説明したように勇者はパーティを組んで個別に行動しています」


 パーティは基本的には4~6人で組むのが普通だ。

 騒いでいる5人組も装備から役割が伺えており、一般的なパーティに見える。


「彼らは当ギルドで受け持っている勇者パーティの一つです」

「一つ? ということは……」

「はい。こちらでは二つのパーティを受け持っています」


 王城だけではなく、分散させて冒険者として活動させる。

 その方針は間違っていないのかもしれないが、数十人もいる勇者の全員を一箇所のギルドだけで管理し切れる訳がなかった。

 そのため大都市のギルドなら2組、町は1組のパーティを受け持ってもらう方針で動いていた。


「もう一組のパーティについては礼儀正しいですし、きちんと冒険者として規則を守って行動してくれているので問題ないのですが、今騒いでいる彼らは品行方正とは言い難いパーティなので時折あのように騒ぎを起こしているんです」


 シャーリィさんも困っているみたいだ。

 同じクラスだった者として申し訳ない。


「迷惑を掛けているみたいですみません」

「お知り合いですか?」

「はい」


 騒いでいるのは安藤、緒川、鈴木、田上、山本の5人。

 元の世界にいた頃はパシリにされていた連中だ。


「え、パシリにされていたの?」


 どういった人物だったのか説明するとハルナが驚いている。

 以前はほとんど接点がなかったので知らなくても無理はない。


「あいつらは不良……とは言わないまでもすぐに暴力で訴え出て来るような連中で喧嘩も色々とやっていたらしい」


 らしい、と言うのは喧嘩に関しては他校の生徒とやり合ったという噂話を耳にした程度で学校の中で喧嘩をしている姿を見たことがなかったからだ。

 ただ、見た目や態度から多くのクラスメイトが逆らいたくなかった。


「あんな人たちの要求に従っていたんですか?」

「俺は母子家庭だったからな。学校で問題なんて起こして母さんを学校に呼ばれたりしたら仕事を休ませることになる」


 俺を育てる為に身を粉にして働いているというのに俺が足を引っ張ってしまっては意味がない。

 だから学校生活ではなるべく目立たないように過ごしていた。


「だけど、その姿があいつらには俺が卑屈になっているように見えたんだろうな」


 言う事を聞かせやすい鴨だと思った。


「俺も自分が我慢するだけで親に迷惑が掛かることはないと思っていたから短い間だったけど耐えていたさ」

「そうですか」


 俺の答えを聞いてレイも納得しているみたいだ。


「それで、彼らは何を言っているんですか?」


 上で話をしている間も5人は何かの要求を突き付けていた。


「簡単に言えば難易度の高い依頼を受けさせて欲しいって言っているんです」

「問題があるんですか?」

「彼らが受けたいと言っているのはメテカルの近くに出没した盗賊の討伐です。彼らは勇者なので魔物を相手にした時の実力は十分なんですけど、未だに人殺しの経験はないんです」


 もしかしたら人を殺さなくてはいけなくなった時に躊躇するかもしれない。

 そういう経験がない人は商人などを相手にした護衛依頼の最中に小規模な盗賊に襲われた時に仕方なく人を手に掛けたり、冒険者ギルドの方から事前に調査して規模が小さいと分かっている盗賊の討伐をお願いして経験を積んでもらっていたりしている。


「彼らが受けようとしている依頼は盗賊団の規模が大きい事が分かっているので最低限の経験がある人にお願いしたいんです」


 冒険者ギルドとしては、人殺しの経験がある人にお願いしたい。

 5人も魔物を相手にした経験はあるが、人を殺した経験はないので依頼を引き受けさせる訳にはいかない。


「すみません。1階の方が騒がしくなって来たので上で待っていてください」

「分かりました」


 この階段を使わなければ冒険者ギルドから出ることはできない。

 仕方なく2階にある部屋で問題が過ぎ去るのを待つことにする。


 だが、少しばかり遅かった。


「お、シャーリィちゃんじゃない?」


 姿を見せていないにも関わらず緒川がシャーリィさんに気付いた。


「見つかってしまいましたか」


 諦めた様子で1階へ向かう。


「彼は【暗殺術】のスキルを持った冒険者です。その中には近くで隠れている相手を見つける【気配探知】も含まれます。彼の中では私がここにいる事は確定事項です。出て行かなければ面倒な事になります」


 うんざりした様子で降りて行く。

 これまでに何度も迷惑を掛けているらしい。


「どうされましたか?」


 シャーリィさんの事が気になったので階段の上から覗かせてもらう。


「もう、シャーリィちゃん俺たちの担当なんだから俺たちが来たらすぐに顔を出さないとダメだよ」

「すみません。少し別の仕事が入ってしまっていたので2階にいました」

「気を付けてよね」


 凄い上から目線で注意していた。

 冒険者ギルドの担当というのは正式に職員の誰が冒険者の誰を担当すると決まっている訳ではなく、冒険者は癖が強いので何度も自分の持っているスキルなど色々な説明を毎回していると面倒になる。

 だから特定の職員に依頼の手続きなどを頼むようにする。


 なので、シャーリィさんが緒川たちの担当だったとしてもシャーリィさんが緒川たちの要望に付き合わなければならない理由はない。


 だが、彼らは勇者だ。

 国から便宜を図るよう言われているので断る訳にはいかない。


 シャーリィさんがそんな面倒な連中の担当になったのは単純にメテカルの冒険者ギルドで最も若い受付嬢だからだろう。


「一応、話し声は上まで聞こえていたので事情は理解しているつもりですが、本当に昨日も言っていた『盗賊討伐』の依頼を引き受けるつもりですか?」

「そうだよ。盗賊退治って結構金になるみたいじゃない」


 討伐した盗賊が所有していた資産は基本的に全て討伐した冒険者の物になる。さらに、そこから盗品をどうしても取り戻したい人がいた場合には言い値で売ることができる。

 成功し、やり方次第では大きな儲けを出すことができるのが盗賊討伐だった。


「こちらとしては、都市の近くに出現した規模の大きな盗賊団なので確実な実力を持った相手にお願いしたいんです」

「大丈夫だよ。俺たちは盗賊団よりも数の多い魔物の大群を相手に生き残っているんだよ」


 この間の魔王軍との戦いだ。

 たしかに盗賊団が相手では比べるのが可哀想になるぐらい数に差がある。


 数では勝っている相手を生き残ることができたから問題ない。


 だが、魔物と人間が相手では勝手が違う。

 現に初めての人殺しを経験したレイは薬に頼らなければ夜には心が圧し潰されそうになっていたし、ショウやハルナにだって何らかの影響があったはずだ。


 ……俺?

 気付いたらそういう経験をしていたから分からないな。


「……分かりました。ただし、最低限の条件は守ってもらう必要があります」


 その後も色々と言って説得しようとしていたシャーリィさんだったが、盗賊討伐に対してやる気になっている緒川たちを説得できないと知って諦めた。


「それは?」

「依頼票にも描いてありますが、依頼は確実性を求める為に実力が十分だと判断されるパーティを二つ送り込みます。もう一組のパーティが戻って来るまで待って彼らも引き受けてくれるなら許可します」


 シャーリィさんが言っているもう一組のパーティというのは、この場にはいない勇者パーティの事だ。

 勇者パーティが二組も揃っていれば盗賊討伐ぐらいなら楽勝だ。


「あいつら、別の依頼で5日ぐらい戻って来ないんだろ。盗賊団のせいで困っている人がいるのにそんな日数待っていられるはずがないだろ」


 なんとも正義感に満ちたように田上が言うが、あれは単純に盗賊討伐がやりたいだけだ。


「盗賊の討伐ぐらい俺たちで十分だよ」

「ダメです」

「要は実力のある冒険者ならいいんでしょ?」

「それは……」


 誘って緒川たちのパーティと一緒に依頼を引き受けてくれれば問題ない。

 ただし、この場合は緒川たちが勇者だと知られる事が問題になる。依頼に絶対はない。もしも、依頼の最中に勇者である緒川たちが傷付くような事態になれば一緒に依頼を引き受けた人たちの責任にさせられる可能性だってある。


 そういった事情を知っていたシャーリィさんも一緒に依頼を引き受けるパーティをもう一組の勇者パーティと指定していた。

 勇者である彼らがお願いしたところで引き受ける者はいない。

 現に5人がギルドの中を見渡しても視線を逸らされるばかりだ。


「雑魚に話を持って行っても意味がない。このギルドで一番実力のある人たちにお願いした方がいいみたいだね」

「ええと、実力のある冒険者はほとんど出払っていますよ」


 長期の依頼を同時に引き受けるなどしていれば実力のある冒険者が一斉にいなくなってしまう可能性もある。


「そこにいるじゃない?」


 小川が階段の上を指差す。


「2階にいるという事はギルドの職員と個人的に話ができるぐらい実力がある人たち。知らない気配だけど、俺の【気配探知】が今までに感知した事がないぐらいに強い冒険者だって告げている」


 ……ばれてる。


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