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第3話 久し振りのメテカル

 城塞都市メテカル。

 メグレーズ王国の王都の東にある都市。魔王軍が拠点にしている地域に最も近い都市なので攻め込まれた際には激しい戦いがあったはずだ。


「ふぅ、どうにか辿り着けたな」


 遠くにメテカルが見える場所で車を降りる。

 こんな乗り物で城塞都市に乗り付ければ騒ぎになるのは目に見えているので離れた場所で降りて車は収納するしかない。


「燃料も保ってくれて助かりました」


 ガス欠が心配されていた車だったが、燃料の消費を抑えられるルートを慎重に選びどうにか目的地まで到着することができた。というよりも仲間には内緒にしているが、ガス欠を引き起こしてしまったので1回やり直している。


「これからどうします?」

「まずは燃料に必要な素材を手に入れることにしよう」


 最も大事な予定から消化しなくてはならない。


「前と同じなら全部の素材を市場で手に入れることができるはずです」


 メテカルの前にある平原を歩きながら初めて来た時と同じように門へと向かう。


 門の前では太陽の照らす炎天下であるにも関わらず、門番が真面目に槍を持って立っていた。


「問題は入れるかどうかですよ」

「あ!」


 門番を見たショウが呟いたことで俺もようやく思い出した。

 以前メテカルに居た頃、出発する前に都市の有力者であるアルバーン伯爵と大揉めしてしまった。その際に騎士たちもアルバーン伯爵の味方をしてしまったので逃げる為に騒動まで引き起こしている。


 すぐさま外国へ逃げていたので知らないが、指名手配などがされていた場合には都市の中へ入ることができないかもしれない。


「ここまで来てしまった以上は引き返すことなんてできないんですから向かうことにしましょう」

「そうだな」


 最悪の場合にはやり直せばいい。

 心を軽くして門へ向かう。


「失礼。身分証をよろしいですか?」

「どうぞ」


 門番は知らない人物に変わっていた。

 何日か滞在していたが、その時に知り合いになった門番ではなかった。


「冒険者、ですか。メテカルへはどのような用事で?」

「旅をして色々な街で依頼を引き受けているんですけど、食糧が乏しくなってきたので食糧とか必需品の補充ですね」

「ええ、特に問題なさそうですのでお入りください」


 門番のチェックも終わったのでメテカルへと入る。


「ずいぶんとすんなり入ることができましたね」


 何の問題もない人物から見れば普通の対応だ。

 しかし、何かあるかもしれない、と警戒していた人物から見れば、あまりに何もなさ過ぎて拍子抜けしてしまう。


「ま、何も問題がなかったんだからいいだろ」

「そうですね」

「それよりも久しぶりのメテカルだ」


 2カ月振りに訪れたメテカルだったが、あの時と何も変わっていないように見える。とても魔王軍の襲撃があったようには見えない。


「襲撃は、なかったんでしょうか?」

「それはないだろ」


 襲撃があったという噂は聞こえて来た。

 おそらくメテカルに被害が及ぶような戦いではなかったのだろう。


「まずは素材の確保だ」



 ☆ ☆ ☆



「……すんなりと手に入ってしまった」


 外国では手に入れることのできなかった素材だったが、メグレーズ王国内では簡単に手に入れることができた。そもそも外国への販売などを行っていない商人たちは経済封鎖が行われている、という事実すら知らされていなかった。


 今度こそガス欠を起こさないようにする為に大量に買い込んだ。

 店のことも気にして買い占めるような真似はしなかったが、個人で買い込むような量ではなかったため商人からは引かれてしまった。


「これでガス欠問題ともしばらくはお別れだな」


 また無くなれば買いに来ればいいだけだ。


「この後はどうしますか?」

「情報が必要だし、冒険者ギルドへ行ってみよう」


 メテカルの大通りを堂々と歩く。

 大通りは両端に食べ物や装飾品などの品物を売っている露店があることもあって非常に賑わっている。道行く人々は明るい顔を向け合っている。


 こういう場所では下手に俯いていたりすると逆に怪しまれてしまう。そのため顔を隠すような真似はせずに歩く。


「すんなりと着いたな」


 特に危惧したようなトラブルもなく冒険者ギルドに辿り着いた。


「ようこそ冒険者ギルドへ」


 初めて冒険者ギルドを訪れた時と同じように受付嬢が出迎えてくれた。

 窓口はいくつもあるのだが、どうせ話をするなら知り合いの方がいいということでメテカル滞在時に一番お世話になっていたシャーリィさんの下へと向かう。


「おや……?」


 初めは『見覚えのある人が来たな』という感じで首を傾げていたシャーリィさんだったが次第に誰なのか気付いたのか目を丸くしていた。


「お久しぶりですソーゴさん、それに皆さんも! いきなりギルドマスターから皆さんが外国へ行ったと聞いた時には本当にビックリしたんですよ」

「申し訳ございません」

「でも無事に戻って来てくれてよかったです。またメテカルで依頼を引き受けてくれるんですよね」


 顔を見せたことで再びメテカルを拠点に活動すると勘違いさせてしまったらしい。


「いや、メテカルにはちょっと立ち寄っただけなんです」

「そうですか……」


 すぐに出発することを伝えると落ち込まれてしまった。

 シャーリィさんと一緒にいた時間はそれほどではないが、新人冒険者であるにも関わらずドラゴンや魔族を倒した功績が彼女には伝わっているので戦力として期待されているのかもしれない。


 実際、その情報が都市の上層部や国に伝われば、どんな手段を使ってでも留まるよう言われるのは間違いない。


 ただし、そんな風に使い潰される……いや、今なら実力的に使い潰されるようなことはないだろうが、それでもそんな風に扱われるのは心地よくないので、どれだけの歓待を受けようとも絶対に遠慮願いたい。


 それに、ここにいたところで俺たちの願いは叶わない。


「ギルドマスターにも挨拶をしたいんですけど、今は大丈夫ですかね?」

「はい。今日は来客の予定もなかったので執務室の方で書類と悪戦苦闘しているはずです」


 メテカルの冒険者ギルドのギルドマスターであるクロードさん。

 元冒険者で人の好い人なのだが、筋骨隆々な姿から予想できるように以前は前衛として武器を振るっていたらしいので書類仕事には苦戦させられているみたいだ。


「では、ご案内しますね」


 シャーリィさんの案内の下ギルドマスターの執務室へと向かう。


「いきなり会ってもいいんですか?」

「はい。あなたたちを担当していた私だけはギルドマスターからあなたたちの複雑な事情や素性についても聞いています。ちょっと今は事情があって異世界の勇者である皆さんは1階にいない方がいいんです」


 俺たちの素性について話した事を咎めたくなったが、そのおかげでシャーリィさんが迅速に対応してくれている。


 1階にいない方がいい事情、というのが気になったが尋ねる前に執務室へ辿り着いてしまった。

 案内してくれたシャーリィさんが目の前にある扉をノックする。


「なんだ?」

「失礼します。お客様がいらっしゃいました」

「ああ!? 客の予定はなかったはずだが……」


 部屋の中から不機嫌そうな声が聞こえる。


 その声にシャーリィさんが思わず眉を顰めてしまう。

 俺たちが相手だったからよかったもののギルドマスターなのだから貴族や国の重鎮と予定もなしに面会することだってあるかもしれない。そういった人たちに今の声を聞かれていた場合には失礼に当たる。


「まあ、いい。ちょうど休憩しようと思っていたところだから入ってもらえ」

「……失礼します」


 シャーリィさんに扉を開けてもらって執務室の中に入る。


「で、約束もなしに会いに来たっていうのはどこのどいつだ?」


 不機嫌そうな表情を隠そうともせずに尋ねて来る。

 だが、会いに来たのが俺たちだと分かると途端に表情が明るくなった。


「おまえたち、戻って来たのか!」

「ちょっと立ち寄っただけですけどね」


 執務室の中にあったソファに座る。

 お互いに軽く挨拶をしていると全員の前にお茶が置かれる。


「もう一人分頼む」

「誰かいらっしゃるんですか?」

「お前の分だ。この子たちの担当をしていて事情を知っているお前にも同席して欲しい」

「かしこまりました」


 お茶を運ぶ為に使用していたトレイを置いて来るとギルドマスターの隣に座る。


「態々挨拶をする為だけにこの街へ立ち寄った訳ではないだろ」

「分かります?」

「ああ。アルバーン伯爵がした仕打ちを考えれば二度と立ち寄りたくないと思っても当然だ。何か事情があるはずだ」

「そうですね。必要な物と情報を手に入れたいです」

「それは?」

「物については手に入れたのでギルドマスターにお願いしたいのは情報です」


 大まかな情報なら街で少し聞き込みをするだけで手に入るかもしれない。

 しかし、俺たちが必要としているような込み入った情報はそれなりの地位にいる者でなければ手に入らないかもしれない。以前に引き起こした騒動で権力者には頼り難いのでギルドマスターぐらいしか頼れる人物がいない。


「知りたいのは勇者たちについてか?」


 ギルドマスターの質問に頷く。


「分かった。俺が知っている限りの事を話してやろう」

「ギルドマスター。たしか部外者には秘匿しておくよう国から言われていたはずですが……」

「こいつらは部外者か?」


 シャーリィさんが少しの間考えてから首を横に振る。


「彼らも異世界の勇者です。何があったのか知る権利はありますね」


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