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第31話 皇帝との謁見

 近衛兵士に連れられて帝城の中で待っていると仲間たちも帝城へ入って来た。


「そっちも無事だったみたいだな」

「全員怪我なく魔族を討伐できました」

「よかった」


 最悪、誰かが重傷を負っていた場合には時間を巻き戻すつもりでいた。

 もう1度同じことをするのは大変だが、アクセルの討伐は決して不可能ではないということが分かったのだ。少なくともベターな結果が得られるまではトライするつもりだ。


 仲間に負傷者はいない。

 この辺がベターだと妥協しておいた方がいいだろう。


「お二人も招待されたんですね」


 後ろの方には顔を伏せたクライブさんとミラベルさんがいた。


「……ああ、魔族討伐に協力した報酬が出るということで帝城へ来るよう騎士から言われた」


 報酬が出るというにも関わらずクライブさんの表情は悔しそうだった。


「正直言って私たちには報酬を受け取る資格はないと考えている。君の仲間が駆け付けてくれなければ私たちはこの場にはいない。私がしたのは、本当にちょっとした手伝いぐらいなんだ」

「私なんて、最後に介抱してあげただけで何もできていないわ」


 つまり、二人とも魔族との戦闘に全く貢献できていないから褒賞を貰う資格はないと考えている。

 だけど、ショウたちが駆け付けるまで戦っていたのは事実だし、ある程度の貢献はしているはずだ。


「あたしはクライブさんがいてくれて助かりましたよ」

「ミランダさんだって戦闘後に力尽きたわたしを助けてくれたじゃないですか」

「二人とも気にし過ぎなんですよ」


 少なくともハルナ、レイ、ショウの3人は二人に感謝していた。

 おそらく皇帝陛下も戦ってくれたことそのものに感謝しているのだろう。


「みなさん、よろしいでしょうか」

「はい、お願いします」


 俺が答えると騎士が重たい扉の前まで案内する。

 あらかじめ待機していた二人の兵士が扉を開く。


 扉の向こうに広がっていたのは『謁見の間』だった。


「よく、来てくれた」


 一番奥にある玉座にはグィード皇帝が座っている。

 左右には大臣や貴族と思われるオッサンたちが並んでいた。


 クライブさんとミランダさんが前に進んだところで膝をつく。

 俺たちも今さらながらに帝国の中でも一番偉い人と相対しているのだと自覚して膝をつこうとするのだが、見ているだけではやり方がよく分からない。


 あたふたしながら膝をつこうとすると……


「気にせずともよい。むしろ、そなたたちの我が国への貢献を考えれば私の方こそ頭を下げなければならぬ」


 そう言ってグィード皇帝が玉座から立ち上がって頭を下げて来た。


「へ、陛下!?」

「よい。国の窮地を救ってくれた相手に頭も下げられないようでは頂きに立つ者として失格だ」


 側近と思われる人物に言っている姿には威厳があった。

 自然と片膝をついていた。


「何があったのか聞かせてくれないか?」

「分かりました」


 帝国で起こった事を俺から詳細に説明する。

 宝物庫にある魔法道具の中に自分たちの願いを叶えられる物がないか確認する為に武闘大会に参加した事、武闘大会に魔族が参加している事には気付いたものの話しても信用されない可能性が高いこととパニックを避ける為に黙っていた事。


 武闘大会が終わった後には宝物庫内にある対魔王兵器を狙ってアクセルが襲撃を仕掛けて来た事、そして陽動の為に魔族の部下が街中で暴れていた事。

 全ての魔族が俺たちの手で倒された事を知るとホッと胸を撫で下ろしていた。


「つまり、私たちの知らない間に国を揺るがすような一大事は起こっていた訳だ。そんな危機に対して私たちは適切に対処することが一切できていなかった」

「ですが陛下、我々は魔族が潜入しているなどという事実を一切知らなかった訳ですから対策のしようもなかったのではないですか?」

「いや、魔王が復活している時期なのだから魔族が秘密裏に攻めて来る可能性も考えて然るべきだ。200年ぶりの事態に私たちは対策を怠ってしまった」

「それは……」


 自分たちに非はない、と言おうとした側近が言葉に詰まる。

 そういう予想外な事態に備えることこそ為政者たちの仕事なのだから責められても仕方ない。


「ですが、我々の力では魔族に対抗できなかったのも事実です」

「悔しいが、その通りだ。魔族すらも退けた力を持つ異世界の者でなければ対処はできなかっただろう。そこで、改めて問いたい。武闘大会優勝の褒美と合わせて何か褒美を与えたいと思う」


 ようやく報酬の話ができる。

 これだけは絶対に避ける訳にはいかない話題だ。


「先ほども言いましたが、俺には魔王軍四天王を退けられるだけの力があります。その際に使用させてもらったのがこれです」


 収納から対魔王兵器ヘスペリスを取り出す。


「そ、それは……!」


 グィード皇帝や側近の人は気付いたみたいだけど、宝物庫に入ったことのない下級貴族の人たちは槍を見ても気付かない。


「まさか、盗んだのか!?」


 たしかに宝物庫になければならない物がこの場にあれば盗んだと思ってしまうのは仕方ない。


「いいえ、そういう訳ではありません」


 俺のスキルについて詳しく説明する。

 とはいえ、デュームル聖国の国宝である『聖典』についてフェクダレム帝国の皇帝に詳しく説明する訳にもいかないので『聖典』の存在についてははぐらかしたうえで『過去に戻れる事』と『収納に別時間で手に入れた物』を入れたままにできることを説明する。


 なので、この世界には対魔王兵器ヘスペリスが俺の手にある物と宝物庫内にある物の二つであることを納得してもらう。


「なるほど」

「他にも……」


 別時間とはいえ、勝手に拝借してしまった宝物を全て取り出す。


「たしかに見覚えのある物ばかりだ。少々待っていてくれ」


 グィード皇帝が席を外す。

 20分ほどすると謁見の間に戻って来た。


「今、宝物庫内を確認して来た。たしかに対魔王兵器を始めとして私が覚えている限りの宝物が残されていた」


 宝物庫は皇帝でなければ開けることができないので自分で確認しに行く必要あったので態々皇帝が向かうことになったのか。


「それで、何を所望する」

「全てです」

「……なに? さすがに宝物庫にある物全てを渡す訳にはいかないぞ」


 ちょっと勘違いさせてしまった。

 側近たちの視線も俺の言葉を受けて鋭くなっている。


「いえ、俺が別時間から持って来た物――これらは元の時間に戻すことはできません。そこで、帝城の宝物庫からお借りした収納内にある物の所有権を認めて欲しいのです」

「そういうことか。許可しよう」


 決して今も宝物庫内にある物の所有権を主張している訳ではないと分かって安心している。


 この権利は必要なものだ。

 アクセルとの戦闘後に俺を迎えに来た近衛騎士だったが、その視線がチラチラとヘスペリスへ向けられているのを感じていた。皇帝の護衛も仕事に含まれるので宝物庫に入った時にヘスペリスを確認した者も紛れていたのだろう。


 国の至宝である対魔王兵器が、なぜこのような場所に?


 今後も使わなければならない可能性があるので、せめて本来の所有者である皇帝の許可が欲しかった。他の魔法道具についても同じだ。


「それから俺たちが倒した魔族が体内に所有していた魔結晶。これの所有権もお譲りください」

「魔結晶? 伝承には聞いたことがあるが、そんな物を何に使うつもりだ?」

「……」


 皇帝の質問に対して無言で首を振る。


「分かった、詳しい事は聞かない。私たちがそんな物の所有権を主張したところで使い道がない。この世界の面倒事に巻き込んでしまった謝罪だと思って受け取って欲しい」


 その後、クライブさんとミラベルさんの報酬の話となった。


 クライブさんはハルナたちの戦いを見て少しばかり自信を無くしてしまったので今後は国に仕えて魔族に対抗することを決めたらしい。なので、それなりの地位を要求していた。元々、クライブさんの実力は評価されていたのでスカウトする際にはそれなりの地位を用意するつもりでいたので問題ない。


 ミラベルさんは自分の国へ帰るということで金貨による報酬を要求し、帝国側も無理に引き留めることはできないということで快く出してくれることになった。


「あと、これはこちらからの謝罪なんですけど……」


 謝らなければならないのは俺たちの戦闘が激しかったことだ。

 アクセルとの戦いで帝城の庭はグチャグチャになってしまったし、城壁も一部が吹き飛ばされてしまっている。ショウも激しく地形を変えてしまっているので復興が大変になってしまっている。


「そこで、新品の物を提供できないかと思いまして」


 収納に城壁や綺麗な状態のままの建物がいくつか入っていることを説明すると側近が目に見えて喜んでいた。これからの復興を思えば少しでも予算削減はしたいと思うはずだ。

 何か使い道があるかもしれないと思って前回の周回時に入れておいて正解だ。


「そこまでしてもらって申し訳ない。何か力になれればいいのだが……」

「陛下、私の記憶が確かならば宝物庫内には長距離の移動が可能になる魔法道具があったはずですが」

「残念だが、あれは使えない」

「これですね」


 収納から実物――両手で抱えるほど大きな水晶を取り出す。


 転移の宝珠。

 対になった魔法道具で、同じ形をした水晶の下へ距離に関係なく一瞬で移動することができる。対になった魔法道具も収納内にある。


「これを使って元の世界に帰る為には対になった魔法道具が元の世界になければならないんですよ」


 転移の宝珠を使って帰る為には、元の世界へ持って行かなければならないという破綻した条件がある。

 これでは帰ることができない。


「そうでしたか……」

「いえ、ありがとうございます」


 俺たちのことを思って意見を言ってくれたのは間違いない。


「これからどうするつもりだ?」

「もちろん元の世界へ帰る為に旅を続けるつもりです」


 残念ながら宝物庫にあった魔法道具は全て回収させてもらったが、元の世界へ帰れるような魔法道具はなかった。

 次の目的地は決まっていないが旅を続けるのは確定だ。


「何か困ったことがあったら帝国を頼るといい。可能な限り力を貸すことを約束しよう」


 グィード皇帝の言葉を受けて城壁などを渡す為に謁見の間を後にする。


これで帝国編は終了です。

次は盗賊団編となります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 同一人物の口調は、である調かですます調か統一して欲しい。誰が話したのかわかりません。もしかしたら解釈が間違っているかもしれませんが、少なくとも間違えやすいです。
[一言] >収納したものの複製 死なないまま収納されてる最強さんって複製したらどうなるのかしら ステータス的には美味しいんでしょうけども……
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