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第10話 選択

 3人ともがこれからどうするべきなのか考えていた。

 だが、意外にも一番早く動き出したのは天堂さんだ。


「……あの、もしも私たちが城に戻ったらどういう扱いを受けることになると思いますか?」


 戻った場合にどういう扱いを受けることになるのか。

 選択するうえで重要な問題だろう。


「まず、異世界から召喚された勇者連中には同情されることになるだろうな。俺たちに与えられたスキルはハズレスキル。そんな中、騎士すら倒したことになっている魔物を相手にどうにか逃げ切ることができたんだ。温かく迎え入れられるんじゃないかな」


 若干希望的観測が込められている。

 ハズレスキルを所有していた相手に周囲がどういう反応を示していたのか、俺が知っているのは自分が所属していたグループだけに他がどういう反応を示していたのか分からない。

 けど、他の反応だって似たようなものだろう。


 俺に対して安藤たちは見下すように接してきた。

 逆に増田たち以外は、俺のことをいないものとして扱っていた。


「少なくとも敵として見做されるようなことにはならないと思う」


 俺の言葉に安心したのか天堂さんが胸を撫でている。


「けど、それは勇者連中の話だ」

「え?」


 勇者と王国側の思惑は全く異なる。


「宰相を中心に俺たちを切り捨てる決断をした連中は、事の真相を知っているだろうから騎士を殺したのが魔物じゃなくて俺たちの内の誰かだろうってことまでは予想するだろうな」


 さすがに天堂さんだけが戻った状況で戻らなかった3人のうち、誰がライデンを殺したのか正確に当てることは不可能だろう。

 けれども誰かが殺したことまでは予想するし、自分たちが切り捨てようとしたことが知られていると考える。


「城の連中は絶対に戻った奴のことを信用しない。だからこそ、また同じことが起こる」


 すぐに切り捨てられるような事にはならないだろうが、いずれは切り捨てられることになるのは間違いない。


 それに前回召喚された勇者たちのこともある。


「信頼されていなくても魔王と戦い続けて生き残る自信があるのなら、城に帰ることをお勧めする」

「そんなの、できるわけがない……」


 前回の勇者召喚では、自分たちと同じように100人いても生き残ることができたのは、たったの5人。死亡した者の中には、戦闘に優れたスキルを与えられた人物だっていたはずだ。

 なのに5人しか生き残ることができなかった。

 ハズレスキルを与えられた自分たちが、その5人の中に入ることができるのか。


「私は、どうすればいいのかよく分かりません。けど、城の人たちに裏切られたらと思うと怖くて、仕方ないんです……」


 天堂さんとライデンの付き合いは朝からのものだ。

 馬車の中で軽く会話していたのとスライムを退治している時に体をどう動かせばいいのか親身になって教えてくれていた。

 とても自分たちを裏切るような人物には思えなかった。


 ところが、いざ決断すれば簡単に裏切られてしまった。

 離れた場所から見ているだけだったが、ライデンに俺たちを切り捨てることに対しての罪悪感など微塵もなかったことは分かったはずだ。


「もしも、付いて行ったら私たちのことを裏切ったりしませんか?」


 裏切るのか、裏切らないのか。

 天堂さんにとっては重要な問題なんだろう。


「あいつらと違って自分から切り捨てるような真似はしないつもりだ。けど、俺に与えられたスキルは『収納魔法』だ。命を守り切れる保証はない」

「分かりました。なら、付いて行こうと思います」

「いいの!?」


 真っ先に決断した天堂さんに櫛川さんが驚いている。


「城の人たちより安心できそうです。私は魔物と戦って生き残れると思いませんから帰る方法を探すことを優先したいと思います。それに、この人には帰る理由があるんだと思います」

「別に大層なものじゃないよ」


 天堂さんが言っていたように『帰りたい』。ただ、それだけだ。


「俺の家族は、両親に弟がいる4人家族だった。けど、今は母子家庭なんだ」

「それって……」

「最初に死んだのは父親だ。交通事故に巻き込まれそうになった俺のことを庇って死んだよ」


 あの時の父親の表情はよく覚えている。

 車に轢かれそうになっていた俺を助けられた瞬間は、安心したような顔をしていた。けれども跳ね飛ばされて地面に倒れた父親の顔は苦痛で歪んでいた。


「次に死んだのは弟だ」


 弟は生まれた時から体が弱くて父親が交通事故で死んだ翌年には体調が悪化して死を迎えていた。少しでも延命させようと施された薬による影響で苦しんでいた姿は見ていられなかった。


「だからこそ、俺は母親の元に帰って親孝行しないといけないんだ」


 俺までいなくなったら残された母親はどうなる。

 それに比べたら俺の邪魔をするライデンを殺すことに対する罪悪感など微塵も覚えなかったし、死体を目にしても家族2人の死体を目にした時の悲しみに似た感情は湧いてこなかった。

 俺の目的を阻む物があるなら薙ぎ払えばいい。


「ま、俺が帰りたい理由はそんなところだ。俺に付いて来るっていうなら先にこれを渡しておくよ」


 手の中に握りしめていた物を渡す。


「これって金貨?」


 天堂さんに渡した物は5枚の金貨だ。


「幸い、城の宝物庫から盗……貰って来た金貨があるからしばらくは生活に困るようなことにはならない」


 日本円なら数十億円の価値がある金貨。

 普通に暮らして行くだけなら全く問題はない。


「明日からは、どうするのか具体的な行動方針を聞かせてくれる?」

「まず、王都から近い場所にある大きな街へと向かう」


 今日は野宿するしかないが、生活の基盤となる場所は必要になる。


「そこで、冒険者ギルドで冒険者として登録するつもりだ」


 冒険者ギルドという組織があることは教養の授業の時に習った。

 平時の際にも多くの魔物が出現し、それを倒すことによってエネルギー資源となる魔石や毛皮などの売れる素材の回収。そういったことを仕事にしていた冒険者が存在する。

 だが、冒険者として活動するつもりはあまりない。


「俺が冒険者になって欲しいのは身分だ」


 この世界において後ろ盾になってくれるはずだった王国とは決別することになった。

 そうなると身分を保証してくれる別の組織が必要になる。


 そこで、俺が目を付けたのが冒険者ギルドだ。

 冒険者ギルドは、過去にどんな経歴があろうとも問われることなく登録することができる。指名手配書が配布されてしまうような犯罪をした人物なら突き出されることになるだろうが、身元を特定されるような代物を持っていない俺たちでも登録することは可能だ。

 冒険者は、街を出入りする必要があり、この世界では大きな街を出入りする際には身分証明が必要になる。そのため冒険者ギルドに登録した者には、身分証が与えられることになる。


「はっきり言って身分もない奴が特殊な魔法道具を探すなんて不可能だ。それなりに依頼をこなして信頼されるだけの実績を積み上げたら帰還する為の魔法道具を探すことになる。それに生活に困らないだけの資金はあってもこれにだけ頼って生きて行くわけにはいかない」


 一生、生活するに困らない金額があったとしても仕事もしていない人間が大金を持っていれば変に疑われることになる。

 それに魔法道具を探すようなことをしていれば、どうしても大金が必要になる時が来る。

 このお金は、その時まで取っておく。


「とにかく無謀な旅をしようとしているわけじゃないってことは分かった。だったらあたしもそっちの話に乗るわ」

「仕方ない。ここで僕だけ話に乗らないわけにはいかないから、僕も話に乗せてもらおう」

「じゃあ、決まりだな」


 2人にも金貨を5枚ずつわたす。


「残りのお金は俺が保管する。今渡したお金は、お小遣いだと思って好きなように使っていいよ」


 どうすればいいのか具体的な方法は何も分かっていない。

 けれども楽園へと行ける魔法道具を探す旅は、4人で行くことが決まった。


次回から魔法道具を探す為の旅が始まります。

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「残りのお金は俺が保管する。今渡したお金は、お小遣いだと思って好きなように使っていいよ」 金貨一枚がどれほどの価値があるか分からないのに、簡単に使用する気ですね。そういうことはないにしても、もし金貨…
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