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第27話 薬と風

 毒の影響範囲から逃れるウィンディアさんを追う。

 アイテムボックスから取り出した試験管を手に握ると前を走るウィンディアさんに向かって投げる。


「やっぱり、ダメですか……」


 試験管はウィンディアさんの体に当たる直前で受け止められていた。

 手で掴み取るのではなく、何か柔らかい物に包み込まれて壊れやすい試験官が簡単に壊れないようになっていた。


「さすがの毒使いも毒の入った物が壊されないと力を発揮できないみたいね」


 ウィンディアが追い掛けていた私の方を向きながら後ろへ試験管を投げ捨てる。

 風に乗って飛んで行った試験管は、ここから遠く離れた場所でその効果を発揮することになりました。


「今ので何人が死んだと思っているんですか?」

「さあ?」


 薬の効果は作ったわたしが一番良く知っています。

 試験管が割れると中に入っていた液体が空気と触れ合って少し吸い込んだだけで人を苦しませて動かせなくする毒ガスを発生させます。ちなみにそのまま吸い続けていると数分と経たずになくなってしまいます。


 試験管の落ちた場所に運悪くいた人たちには申し訳ないことをしました。


「私を相手に毒薬は通用しないわよ」

「そうみたいですね」


 カプセルサイズの容器を取り出してウィンディアさんに足元に落とす。

 カプセルが割れると中から人の体を溶かしてしまう酸性の毒ガスが溢れてウィンディアさんの体を蝕みます。


 ところが、ウィンディアさんは毒ガスなど全く気にせずわたしの方へ歩いて来ます。


「それがウィンディアさんの特性ですね」

「そう、分かるかしら?」


 ウィンディアさんの体の周囲には風が渦巻いています。

 この風が毒ガスを追いやって影響を受けないようにしているみたいです。


「厄介な特性ですね」


 風による防御。

 大量の毒薬が入った容器は割らないように風で包み込んで不発に終わってしまいますし、遠隔から大量の毒ガスを生み出しても壁のように立ち塞がって毒を届かせることができません。


「分かったかしら? あなたのスキルと私の特性は相性が最悪なの」


 彼女の絶対的な自信が分かりました。

 だけど、訂正しておかなければなりません。


「わたしのスキルは【毒薬】ではありませんよ」

「あら、そうなの?」

「わたしのスキルは【調合】です」


 回復薬(ポーション)のような薬を作ることに特化したスキル。


 メグレーズ王国の人たちは、回復薬(ポーション)を作り出すだけのスキルなら国に何人もいるので、その人たちに作らせた方が効率的だと判断してわたしを捨てることにしました。


 けど、よくよく考えれば異世界から来たわたしのスキルが普通なはずがない。

 それは、ソーゴさんを見ていて理解しました。


 スキルを使ううえで最も重要なのは、自分の持っているスキルで何ができるのか強くイメージすること。イメージすれば【調合】という範囲から逸脱していない限り何でもできる。


「かはっ」


 わたしのメイスを正面からお腹に受けたウィンディアさんが吹き飛ばされながら唾を吐いていました。


「浅い」


 攻撃が当たる瞬間に風が防壁のようにわたしのメイスから身を守っていたせいで完全に届いていませんでした。


「この……!」


 何が起こったのか分からないながらにウィンディアさんが剣を振るうと突風が周囲に発生して地面をズタズタにしていました。


「残念です」


 ですが、今は風よりも速く動けるわたしの動きを捉えられていません。

 ウィンディアさんが正面の5メートルほど先にいたわたしを攻撃している間に後ろへ回り込むとメイスを叩き付けます。


「無駄よ」


 風の防壁がメイスを受け止めてしまいます。

 何度も見ていれば対策も用意できます。


 ――ドゴォン!


 メイスの先端が爆発して風の防壁ごとウィンディアさんを吹き飛ばします。


「突風乱舞」


 飛ばされた状態から両手を振るうと風の刃が何本もわたしに向かって飛んできます。

 全部で8本。


「見えていれば体を挟み込むぐらいのスペースはありますね」

「どういう……!」


 驚くウィンディアさんを無視してメイスを叩き付けると再び防壁が守ってウィンディアさんが飛ばされて壁に叩き付けられると瓦礫が上から振って来て彼女の体を隠してしまいます。


「もう、止めにしませんか?」


 どうやら反則的なまでに強くなれることが分かりました。

 それでもウィンディアさんは優秀な冒険者にとっては脅威なのかもしれないですけど、限界まで強化したわたしにとっては敵ではありません。


「一体、どうやってそれだけの力を手に入れたの」


 風で瓦礫を吹き飛ばしながらウィンディアさんが姿を現します。

 その姿はボロボロで予選の時に見せたような余裕はありません。


「私はこれでも本気でやっているわ」


 ウィンディアさんの手から放たれた矢のような風。

 メイスで弾こうとしましたが、軌道を逸らしただけでメイスを握っていた腕が僅かに抉られていました。血もかなり流れていて、腕の内にある肉も見えている。


「うん」


 普段なら、あまりに異常な光景に驚いて気絶してしまうところ。


 アイテムボックスから香水瓶の回復薬(ポーション)を取り出してシュッと吹き掛けます。それだけで抉られていた場所から肉が盛り上がって来て傷口を塞いでしまいます。手を何度も閉じたり開いたりしてみても問題なし。


「デタラメよ……!」


 瞬時に傷を癒してしまったわたしの回復薬(ポーション)が信じられないウィンディアさん。


「戦闘前にわたしが使った薬は覚えていますか?」

「え、ええ」

「あれは狂人薬(ルナティックドラッグ)。身体能力を僅かに上昇させると同時に服用者の精神を戦闘向きにさせることができます」


 血を見ても動じないし、肉が抉られるほどの怪我を負っても「痛い」ぐらいにしか感じなくなる薬。

 その薬のおかげで冷静に強力な回復薬(ポーション)を使う余裕ができました。


「他にも動体視力を向上させる薬も使っていますし、わたしに一番不足していた筋力を向上させてくれる薬も使っています」


 わたしの【調合】が作ることのできる薬は、傷を癒す力を持った回復薬(ポーション)だけではありません。

 材料さえ手元にあれば、イメージ次第でどんな効果を持った薬でも作れます。


「だから――」


 一瞬でウィンディアさんの懐へ飛び込むと持っていた試験管を全て投げます。


 投げられた試験官を見ながら安全に確保する為に風で包み込んで同時にわたしにも対応しようと風で身を守っていますが、この距離なら風なんて関係ありません。


「全部――爆破!」


 何かにぶつけて試験管を爆発させるのではなく、自分からメイスで叩いて試験管を爆発させる。


 爆破の衝撃に吹き飛ばされたウィンディアさんがダメージを受けている。

 風の防壁が爆発から直接的には身を守っているものの四方八方から浴びせられる爆発のせいで防壁内で揺さぶられています。


 揺さぶられたわたしの方へ倒れ込んできます。


「ここ!」


 メイスで風の防壁を押し込みながらナイフを滑らせます。

 直前で意識を取り戻されたせいで腕を掠る程度で終わってしまいましたが、それで十分なんです。


「え……?」


 予選で戦った時と同じように血を流して倒れるウィンディアさん。

 ただし、流している血の量はあの時の比ではなく口からは溶けたチョコのように血を流し続けているし、眼や鼻から涙のように流れ出て来るのを止めることができずにいます。


 掠っただけでこの威力……今後は使う相手には気を付けた方がいいみたいです。


「な、なんなの……?」


 体に力を入れることのできないウィンディアさんが地面に倒れてしまいます。

 おそらく、このまま二度と立ち上がることはないでしょう。


「予選で使った毒と同じような物です」

「同じ……?」

「はい。ほとんど同じ素材から作った毒です。ただし、薄めることなく使用しているので効果は数十倍ほどあるかと思います」


 もしかしたら100倍以上あるかもしれないですけど、毒を受けたウィンディアさんにとっては些細な事です。


 このまま待っていても死ぬのは間違いないですけど、勿体ないのでメイスで頭を潰して止めを差します。風の防壁は毒に倒れた時点で使えなくなっていたので難なくメイスを当てることができました。


 目的の物――ウィンディアさんの体内にあるはずの魔結晶を回収する為にウィンディアさんの遺体ごとアイテムボックスに収納します。


「さて――」


 近付いて来る気配に振り向けば助けたミラベルさんが救援の為に近付いて来ていました。

 けど、走って来た方向から響いて来た地響きと揺れに驚いて転んでしまっています。


「暴れ過ぎですよ」


 地響きを起こしている主はショウさん。

 この場以上に自分の実力を試せる場所と相手もないので全力でスキルを使っているのでしょう。


身体能力向上薬

狂人薬

その他諸々を同時に使用することで魔族との戦闘も可能になった。

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