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第26話 強化と電撃

「いてぇな、チクショウ!」


 蹴り飛ばした魔族の男――グウィンが立ち上がる。

 さすがに人を辞めていてタフらしく、蹴り飛ばした程度ではダメージを受けた様子がない。


「いらっしゃい」

「テメェ……!」


 短気な男らしく、ちょっと挑発しただけで走り出したあたしを追い掛けて来た。


「この辺なら大丈夫でしょう」


 裏路地を進むと少し開けた場所に出た。


「ぶっ殺してやる」


 わたしが足を止めるとグウィンも広場に姿を現した。


「まあ、予想通りね」


 この広場へ移動したのは、あくまでもショウから離れるため。

 制限を解除するつもりならショウの近くにいるのは非常に危険だ。


 既にさっきいた場所から100メートル以上離れているから最低限の安全は確保できたはず。


「死ねや」


 グウィンが頭上に掲げた剣を地面に向かって振り下ろす。

 剣の通った後に電撃の刃が形成され、あたしのいる方へと飛んでくる。


 電撃の刃を回避する。


 ――ザン!


 あたしのいた場所を通り過ぎた電撃の刃が後ろにあった建物を両断していた。


「こわっ!」


 まともに受けていたら、あたし程度の防御力なんて無視して真っ二つにされていた。

 あの攻撃は回避するしかない。


 でも、強力な分だけ特性は単純だ。


「どうだ、俺の電撃は」


 自信満々に言っているグウィンの周囲に電撃がバチバチと爆ぜていた。


 体の周囲に纏っていた電撃が飛んでくる。

 アイテムボックスから取り出したナイフを投げると電撃がナイフを灼き尽くしていた。


「あらら」


 所詮は店で売られているナイフ。

 それなりに高性能で安くはなかったけど、金を出せば手に入るナイフでは魔族の攻撃に耐えられなかった。


「奴の電撃には気を付けるんだ」


 グウィンのいる路地の入口とは反対側からクライブさんが姿を現した。


「どうしてここに?」

「君の仲間から救援に駆け付けるよう頼まれた」

「そうですか。魔族の扱う力を普通の魔法と一緒に考えない方がいいですよ」

「それは君たちが来る前に理解したよ」


 魔族3人の攻撃を何度か受けているクライブさんは相手の特性についてある程度理解していた。


「彼は電撃を操る事ができるみたいだね」


 グウィンの特性は『電撃』。

 自分の身に纏って武器として使う事もできるみたいだし、さっきのように剣から電撃による斬撃を飛ばす事も可能だ。


「あれが魔族の力かい?」

「そうです」

「正直言って舐めていたよ」


 魔族の存在自体が魔王の復活した時期でなければ確認できない。

 現代においては魔族について詳しく知っている方がおかしい。


「こんな力を秘めているのならさっさと舞台から落としたのも納得だ」


 予選では魔族二人を舞台から落としたソーゴ。

 人目のある武闘大会で優勝するのが目的だったのだから魔族である事を明かしかねない特性を派手に使う事はなかったかもしれないけど、人の範疇で納められる程度に特性を使っていた可能性がある。

 その時、舞台上に居た多くの人が犠牲になっていた。


 舞台から落とされてリタイヤされたからこそ自分が勝ち残るつもりのなかった二人は大人しく引き下がっていた。


「私も協力する。二人で戦えば倒せるかもしれない」

「いえ、あたしが一人で戦います」

「ちょ……!」


 驚くクライブさんを置いてグウィンに向かって駆け出す。

 あたしたち3人の行動を振り返ってみるとソーゴに頼り切りだったし、魔族との戦闘でも男子二人が前に立って戦うようになっていた。幼馴染のショウに守られているような錯覚も覚えたりした。


 けど、こんなのあたしらしくない。

 元の世界にいた頃は人前に出るのが苦手なショウに代わって前に立つのがあたしの役割だったはずだ。


 だから、あたしでも一人で戦える事を今こそ証明する時。


「ハッ」


 正面から突っ込んでくるあたしの姿を見るとグウィンが持っていた剣に電撃を纏わせて斬り掛かって来る。

 あたしも両手に持った短剣で受け止める。


 けれども受け止め切れずにあたしとグウィンの剣が弾かれる。


「……ん?」


 体を確かめてみる。

 ちょっと痺れていた。

 原因は間違いなくグウィンの持っている剣の電撃。


「まずは、あの剣を捨てさせた方がいいかも」


 体が痺れる事になるのも気にせずに両手の短剣を打ち付けて行く。

 グウィンも剣であたしの短剣を払って来る。


 何度も、何度も……打ち付け合う度に笑顔が浮かぶ。


「……もう見ていられない!」


 あたしたちの間にクライブさんが入って来て槍をグウィンに向けている。


「おいおい……あんた程度の実力じゃあ俺たちには勝てないぜ」


 クライブさんも人類の中では強い方だけど、個人で魔族を相手にするには実力が不足している。

 勇者でさえ複数人で対峙しなければならないのが魔族だ。


「それでも私は戦わなければなら……」

「ま、22回も叩けば十分かな」


 気合を新たに何かを言いたそうにしていたクライブさんを無視してスキルを発動させる。


「発動、『重量強化(ウェイトアップ)』」

「うおっ!」


 あたしがスキルを発動させたことで重くなったグウィンの剣。

 思わず持っていられなくなって地面に落としていた。


「何をした!?」


 何らかのスキルを使ったのは分かったはず。

 だけど、何をしたのかが分からない。


 あたしが行ったのは単純に『重量』を『強化』しただけ。

 強化する為には対象に触れる必要があるんだけど、無警戒に何度もあたしの持っている短剣と打ち付け合ってくれたおかげで簡単に重たくすることができた。

 触れる度に増加できる重さが増えて行く。スキルを使うまでに22回触れていたから剣の重さを22倍にすることができた。魔族の力なら持てなくはないんだろうけど、先ほどまでのように振り回すことはできなくなっている。


「さて……」


 グウィンの質問を無視して短剣を構える。


「剣が使えなくなったぐらいが何だ!」


 グウィンの体から電撃が周囲に迸る。


「くっ!」


 クライブさんがどうにか電撃を回避している。

 あたしも迫り来る電撃を見切って回避する。正直言って怒りに任せて迸らせているだけの電撃なんて恐れる必要がない。


「当たりやがれ!」


 腕を構えたグウィンの手から電撃が槍のように放たれる。

 真っ直ぐに飛んで来た電撃の槍を受け止めると体が痺れる。


「この程度のダメージで済んでいる事を喜ぶべきなんだろうけど……」


 おそらくクライブさんが受ければ一撃で戦闘不能になる威力。

 それでもソーゴの造ってくれたアイテムボックスから得られる恩恵を強化して、自分のステータスも強化してデュームル聖国で戦ったパラードと同等まで一時的に強くなっているから耐えられている。


 一気にケリをつける為に駆け出す。


「調子に乗っているんじゃねぇぞ!」


 近付き、短剣が届くと思った瞬間、グウィンを中心に電撃が放出されてあたしの体を襲う。


「ちょっと油断したかな」


 近くにいるのはマズい。


 咄嗟に後ろへ跳んで離れる。

 自分の状態を確認してみると大きなダメージはない。


 だから問題になっているのはあたしの力だとグウィンを守るように放出されている電撃を突破する事ができない。近付くだけで電撃に晒されることになる。


「私が行こう」


 あたしの不安を察したクライブさんが提案してくる。


「いいんですか?」


 あたしと違ってクライブさんの場合はまともに受けると一撃で戦闘不能になる可能性が高い。


「構わない。私にも何かをさせて欲しい」


 そういう事なら……再び電撃の槍が飛んで来た。


 電撃の槍と白槍が衝突する。

 白槍によって電撃の槍が斬り裂かれて散らされた電撃が周囲の建物を壊して行く。


「く……!」


 けれども電撃の槍に押されるクライブさん。

 このままでは耐え切れずに電撃に呑み込まれてしまう。


「槍の『突貫力』を強化」

「何を……」

「このまま突っ込んで下さい」

「――分かった」


 クライブさんが突っ込んでいく。

 電撃に押されるばかりだった槍が一気に押し返す。


「馬鹿な……!」


 グウィンにとっては見下していたはずの相手が突然の攻勢に出られたのが信じられない。

 けど、あたしの支援を受けたクライブさんは魔族の攻撃すらも斬り裂ける。


「――終わりだ」


 強化された勢いのまま突っ込むとグウィンの体が弾け飛んだ。

 ……ちょっと強化し過ぎたかもしれない。


 電撃が止み、静かになる広場。


「終わったのだろうか?」

「はい」


 至近距離で電撃を浴びたクライブさんは満身創痍だ。

 あたしも耐えられたとはいえ、何度も電撃を浴びたから疲れた。


 とはいえ、最後にはクライブさんの手伝いがあったとはいえ、一人で魔族を倒す事に成功した。


「私もまだまだだ」


 クライブさんは初めて魔族と対峙して己の力の無さを後悔していた。


「予選で彼が言っていた事は正しかった。後で彼に謝りたいと思う」

「気にしていないと思いますよ」


 律儀なクライブさんは予選でソーゴが自分よりも魔族を優先させたことに憤っていた。それだけ自分の実力に自信があったっていうことなんだろうけど、魔族の情報がほとんど出回っていないから勘違いしてしまうのも仕方ない。


「彼も魔族と戦っているんだろう?」

「そっちは任せておきましょう。あの人なら絶対に勝てますから」


 四天王を相手にしているソーゴよりも気になるのはレイの方だ。

 彼女の方が無茶をしていないか心配になる。


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