第24話 対魔王兵器
空中に現れた魔法陣は俺の【収納魔法】の魔法陣。
魔法陣は全てが俺の【収納魔法】が生み出した亜空間と繋がっており、魔法陣は亜空間から物を取り出す為の入口でしかない。
「発射」
まずは2本の槍がミサイルのように飛んで行く。
アクセルが1本目の槍を回避し、2本目の槍を手刀で叩き落とす。
彼にも見ただけで魔法陣から出て来たのが普通の槍ではなく、特殊な力を秘めた聖槍だという事は分かっている。
それでも武器を使わずに素手で戦っている。
パラードのように自分の肉体を駆使して戦った方がステータスや特性を反映させ易いタイプ。と言うよりも武器を使えないタイプがアクセルだ。
だから武器を使わずに素手で叩き落とすという危険な手段を採っている。
「ボン」
叩き落とした瞬間、聖槍からエネルギーが溢れてアクセルの手を吹き飛ばす。
さらに少し離れた場所に1本目の槍が地面に突き刺さった瞬間に同じような衝撃波が迸った。
右手に浴びせられた衝撃波に後ろへ飛ばされた直後に背中から浴びせられた衝撃波にアクセルが地面を転がっている。
「い、今のは……」
背中への衝撃が起こった場所へ目を向ければ地面に突き刺さった聖槍があった。
さらに叩き落としたはずの聖槍を確かめてみる。
二本とも聖槍から感じられるはずの秘めた強大な力が感じられなくなっていた。
「何をした!?」
普通の槍と変わらなくなってしまった聖槍。
アクセルには俺が何をしたのか分からないみたいだ。
「聖剣や聖槍はちょっと手を加えるだけで暴走状態にする事もできる。そんな暴走直前の物に衝撃を加えたらどうなる?」
「そういう、ことか……」
内包されていた衝撃波が解放されて近くに居たアクセルを襲う。
攻撃に指向性などない、ただの衝撃波。しかし、威力は聖槍に秘められていたエネルギーとあって魔王軍四天王を吹き飛ばせるぐらいはある。
「強い。これだけ強い相手が世の中にはいたのか」
衝撃波によってダメージを負ったはずなのにアクセルは笑っていた。
「奴隷だった俺を捕えていた連中を殺した後はつまらない奴らばかり相手にしていたが、お前のように強い奴を相手にするのがこれほど楽しいとは思わなかった」
初めて相対する好敵手の存在に興奮しているようだ。
魔族になる前は奴隷として搾取されるだけの人生だったみたいなので自分を高めてくれる誰かと競い合うような事もなかった。
だからこそ自分を高めてくれる相手と相対して嬉しくなっている。
「悪いが、俺にはお前に付き合うつもりはない」
空中に浮かんだ魔法陣から次々と槍や刃が放たれる。
放たれた槍が地面に突き刺さった瞬間、衝撃波を周囲に撒き散らす。
しかし、肝心のアクセルはその衝撃波すら見切って回避していた。加速状態の彼にとって高速で飛来してくるなど脅威にはならない。
「聖剣をこんな風に使う奴がいるなんてな」
「悪いが、誰もが言うが俺は剣術や槍術の素養なんてないんだ」
そんな俺が近接戦闘で有利になれる武器を持って近接戦闘能力を上げる。
あまり得策ではなかった。
それよりも聖剣や聖槍を爆弾のように扱った方が効果的だ。
「いつまで逃げられるかな?」
ギリギリで回避してしまうと衝撃に呑み込まれてしまう。大きく回避しなければならない。
アクセルが回避に集中し、さらに聖槍から解放された衝撃が俺との間を立ち塞がるように潰してくれるおかげでアクセルの意識から俺の存在が僅かにだが薄れる。
「対魔王兵器ヘスぺリス」
収納から新たな槍を取り出す。
それは、全長2メートルの巨大な白銀の槍だった。
あまりに大きく普通の槍のように振り回すには向かない武器。
だが、対魔王兵器であるヘスペリスは突く為の武器ではない。
「エネルギー解放」
兵器内に蓄えられていた魔力が解放され、槍の周囲には電撃のような物が激しくスパークしていた。
槍の先端をアクセルのいる方向に向ける。
特性を利用して加速状態にあるアクセルに狙いを定めるのは難しい。
「それは……!」
ようやく回避しながらアクセルも俺の手にある物に気付いた。
「お前が破壊もしくは回収したかった『対魔王兵器』だ」
「どうして、お前の手にある!?」
アクセルの主観では、宝物庫は誰が入る事もなく閉じられていたはずだし、宝物庫の前で岩の銃弾を撃ち続けていた俺に回収する暇などない。
もちろんアクセルの考えは間違っていない。
この対魔王兵器は、捨て回にした前回に回収しておいた物だ。
現在の時間軸にあるべきヘスペリスは今も宝物庫内にある。
「塞げ!」
10本の聖槍を同時にアクセルの周囲に突き刺す。
周囲から浴びせられる衝撃に耐える為にアクセルが足を止める。
「止めたな」
動き続けていたアクセルの足が止まった。
ヘスペリスの先端から溜め込まれていた魔力を極太のレーザーのように放つ。
魔族に対して絶対的な効果を持つ対魔王兵器から放たれた光が貫いたかのように思えた。
「……っ! 限界突破!」
叫んだアクセルの動きが更に加速する。
気付いた時には貫くかと思われたレーザーに対して平行に立っており、ヘスペリスから放たれた光はアクセルの隣を通り過ぎるだけで終わった。
対魔王兵器から力が失われる。
「今のは限界突破――魔族の中でも四天王クラスでなければ使用する事のできない短時間だけ特性を自らの限界を越えて使用するスキルだ。これを使えば俺は時間を停止させる事ができる」
もちろん本当に時間を停止させている訳ではない。
時間が停止したと思えるほど加速した状態になる。
限界を越えなければ当たっていた。
ただし、限界を越えるほどの力にはリスクも伴っていた。
「随分と瘴気を消耗したみたいだな」
アクセルから感じられる瘴気は最初の頃に比べれば半分近くにまで下がっていた。
何度も同じ時間を繰り返して確認していたのだから間違いない。
「たしかに俺の限界突破は使用していた時間に比例して瘴気を消耗する」
ヘスペリスを回避する為に限界突破していた時間は2秒。
アクセルの瘴気は限界突破だけで2割近く減少していた。
余裕のない状況では回避までは可能かもしれないが、反撃にまで転じられるほどではなかった。
「初めて使ったが、ここまで消耗するものだったんだな」
加速し全ての攻撃を回避できたアクセルにとって限界突破を使用しなければならないほど追い詰められる相手はいなかった。
「だが、消耗しているのはお前も同じだ」
「バレたか」
武闘大会で優勝する為の準決勝と決勝。
おまけにアクセルとの戦闘では元々聖剣や聖槍に蓄えられていた魔力を利用しているから保ってくれているが、収納から取り出すにも僅かだが魔力を消耗してしまうし、ヘスペリスは使用時に俺の魔力も要求して来た。
おかげで俺の魔力も半分以下に減っていた。
「お前の魔力はいつまで保つかな?」
アクセルの狙いは魔力切れなのだろう。
だが、アクセルを倒す為の準備をして来た俺がそんな事の対策を用意していないはずがない。
ヘスペリスを収納すると今度は聖鎧を取り出す。
それも5つ。
聖なる力を秘めているせいか聖鎧は光り輝いているように見えた。
「防具?」
「たしかに防具だが、俺がそのまま使う訳ないだろ」
聖槍すらミサイル代わりに使用した俺。
聖鎧も本来の用途とは全く違う方法で使用する。
「装填」
聖鎧に溜め込まれていた魔力が俺の中へと入って行く。
力を失って輝きのなくなった鎧。
「聖剣や聖鎧みたいな武器や防具には秘めた力が備わっている。そして、秘めた力を使う為の魔力を溜め込んでおく為の機能がある」
俺が注目したのは後者の機能。
回復薬のように失った魔力を回復させる手段はあるにはあるが、俺たちみたいなレベルになると回復できる量は全体の中では微量なので回復薬には期待できない。
そこで消耗した時に備えて聖なる武具を魔力の充電器代わりにした。
聖鎧から魔力を取り出して自分の中に取り入れる。
この方法での回復は、魔力効率が悪いせいで聖鎧の中にあった魔力を取り込んだ時には3割程度しか回復する事ができない。
それでも聖鎧には、聖剣や聖槍に比べて大きいだけあって多くの量を蓄えておく事できた。
聖鎧5つが魔力を使い果たして失った魔力の内3割ぐらいが回復していた。
今はこれだけでいい。
「デタラメな……」
聖鎧を収納する。
「さて、向こうも終わったみたいだし、そろそろ終わりにしようか」
「向こう?」
どうやらアクセルは未だに気付いていなかったみたいだ。
「お前が陽動を頼んでいた連中が起こせる騒ぎはこの程度なのか?」
「……!」
帝都の方では人々の叫び声が絶えず聞こえてきている。
建物が壊れるような破壊音も聞こえて来る。
だが、そこまでだ。
アクセルの中ではもっと大きな騒ぎになっていてもおかしくない。
「俺の仲間がお前の部下を止めに行っている。向こうもそろそろケリが着く頃だろうし、こっちも終わりにしよう」
収納から二本の聖剣を取り出す。
メグレーズ王国の宝物庫から盗んで来た王剣。
デュームル聖国の宝物庫に保管されていた聖剣。
俺の収納にある剣の中では最も性能のいい剣だ。
聖剣みたいな貴重な武具を『ミサイル』や『充電器』代わりに利用する主人公。