【コミカライズ化】異世界コレクター～収納魔法で異世界を収集する～

第５章 帝国編

第２３話 聖剣の使い道

　アクセルを追う光。

　しかし、狙われたアクセルは光の動きを見極めるとギリギリの位置でヒョイと回避する。

　光が帝城の壁を消し飛ばす。

「危ないな。こんな攻撃を喰らっていたら死んでいたぞ」

　そう言いながらアクセルが俺の横へ移動していた。

　【加速】能力を持つアクセル。

　知覚時間も引き延ばし、身体能力の速度も向上させれば俺の攻撃を回避するなど造作もない。

　おまけに聖剣は力を使い果たしてしまった。

「それが、聖剣の弱点だ」

　アクセルが神速の拳を振るう。

　強力無比な力が宿っている聖剣。その力を使う為には、聖剣に蓄えられている魔力を消費する必要がある。

　力を使って魔力を使い果たした聖剣は、ただの剣に成り果てる。

　だから聖剣の力を使う時はタイミングに注意しなければならない。

　そうでなければ今のように普通の剣と変わらない聖剣でアクセルの攻撃を受け止めなければならなくなる。

　今の俺は聖剣を持つ左側が脆い。

「ほい」

　聖剣をあっさり捨てると収納から別の聖剣を取り出す。

　新たな聖剣がバチバチと電撃を放ち、瞬発力を向上させる。

　剣と拳がぶつかり合う。

　火花と電撃が散る。

「新しい聖剣だと！？」

「ああ、そうだ」

　右手に持っていた剣も収納し、３本目の真っ赤な聖剣を取り出す。

　真っ赤な聖剣の刀身が燃え上がる。

「この聖剣は、斬った物を自在に燃え上がらせる事ができるし、こうして刀身に炎を宿す事もできる」

　さらに二本の剣を交差させる。

　電撃と炎が同時に爆ぜて爆発を起こす。

「くっ……！」

　アクセルが呻きながら爆発から逃れる。

　さすがに加速能力を持つアクセルでも至近距離で起こった爆発から完全に逃れることはできずダメージを受けていた。

　爆心地点では煙が濛々と上がっていた。

　濃い煙が俺の姿を隠している。

　二本の聖剣を投擲する。

　アクセルが右へ回避するものの目の前まで迫っていた電撃の聖剣が急に爆ぜてアクセルの体を吹き飛ばす。

「聖剣の力を使い捨てにするだと！？」

　自分の魔力を注ぎ込み、聖剣が任意のタイミングで爆発するよう細工を施しておいた。

　聖剣の力を頼りにしている人物ならこのような使い方をしない。

　貴重な聖剣は、たった１本を手に入れるだけでも大変で優秀な冒険者でも生きている間に１本手に入れられれば良い方らしい。

　ようやく手に入れた人物から見れば、俺の使い方は邪道だろう。

　アクセルが驚きながら急いでその場を離れる。

　爆発に驚いている間に新たな聖剣を二本取り出す。

「いったい、何本の聖剣を持っているんだ」

　新たな聖剣の能力は、『知覚能力向上』と『速度上昇』。

　アクセルと同等に動く事ができ、動きを捉えられるようになる。

　庭を大きく動き回りながらアクセルに接近する。

　帝城の廊下におけるアクセルの奇襲で使わなかったのは、この聖剣による速度に俺が慣れる事ができず、速く動き回る為には大きく動く必要があったので狭い廊下では使えなかった。

　聖剣で何度も斬り付け、アクセルの拳も全て弾いて行く。

　しっかりと動きを捉えているからこそ攻撃も防御もできた。

　だが、こちらの攻撃は全て回避されてしまっている。無駄と知りながらも剣を振るうのは止められない。

　右手の剣で突く。

　剣がアクセルの頬を掠め、血が流れる。

「血……」

　自分の血を見てアクセルが心底不思議そうにしていた。

「久しぶりに見たな」

　【加速】能力を持つアクセルは敵の攻撃は全て回避してしまい、防御するような事は一度もなかった。

　だから血を見るのは魔族になってからは初めてだった。

「礼を言おう」

「礼？」

「魔族になってから手に入れた力でやり放題に暴れて楽しませてもらったが、脅威を感じて怯えるような事はなかった。だが、今この瞬間に俺は魔族になってから初めて恐怖という物を感じていた」

　アクセルが俺を警戒して背を向けずに後ろへ跳ぶ。

　――さて、ここからどうなる？

　ここまでは捨て回の間に経験していた。

　だから、どんな攻撃をすればどのような反応が返って来るのか分かっていたし、有効な方法というのも事前に分かっていた。

　だが、ここから先は情報がない。

　前回は、『知覚能力』を向上してくれる聖剣がなかったばかりに本気を出したアクセルの動きに付いて行けず、どうにか力を振り絞って過去へ跳んだが、気付けば死にそうになってしまった。

「おまえ、本当に強いんだな？」

「これでも魔王軍四天王の一人だ」

　想像以上の上席に驚いてしまう。

　その間にもアクセルの体に濃い魔力……瘴気が充満し、肌の色が濃くなって行くと眼の色が真っ赤に染め上げられる。

　なかった事にした前回にも見た本気の姿だ。

「ガァッ！」

　獣のような雄叫び駆け出すと突進をもろに受けてしまう。

　帝城の壁に背中から叩き付けられて全身が痛い。

　すぐに収納からレイの作ってくれた回復薬を取り出して飲むと体を癒す。

「パラードに勝ったとはいえ、所詮はこの程度だな」

「なんだ。俺の事を知っていたのか？」

　知っていて俺に挑んできているとは思っていなかった。

「お前は強い。パラードを倒したっていう実績もあるから疑っていない。だが、どんな攻撃も当たらなければ意味がない」

　たしかに至近距離で爆発させてダメージを与える事はできたが、全ての攻撃が回避されている。

　今回だけじゃない。

　これまでに繰り返した時間の中でもそうだ。

「どうして、それだけの力を持っていて魔王軍なんてしている？」

　パラードも魔王に次ぐ力がありながら魔王軍のナンバー２として魔王に仕えていたらしい。

　魔族の立ち位置が少し疑問だった。

「知らないのか？　魔族になった事で強大な力が与えられるが、その瞬間から魔族は魔王に対して絶対服従の存在となる」

　だから魔族の中では誰も魔王には逆らえないし、どんな条件でも受け入れ、忠誠を誓う事になる。

　元人であっても人に協力するような事はない。

「人間が魔族になる条件は知っているか？」

　スタークは、自分の家族を殺した貴族を恨み、少しでも苦しませようと『毒』の特性を持った魔族となった。

　パラードは、人では到達できない力を渇望するあまり瘴気を糧に当時では最強の力を手にした。

　何らかの強い負の想いが瘴気を呼び寄せ、人を変質させる。

　それが魔族の起こり。

「俺は、生まれついての奴隷だった。自分の生涯では返せないほどの借金を抱えた両親が借金を返す為の労働力として生み出したのが俺だ。狭くて暗い鉱山でずっとそうして生きていたから自分の境遇に疑問を持つことなんてなかった。ただ、俺が願ったのが……」

　――外へ出てみたい。

　奴隷を働かせている見張りの目を盗んで鉱山の外にはどんな光景が広がっているのか一目だけでもいいから見てみたい。

　そんな願いに呼応して魔族へと至った。

　目にも留まらない速さで動き、見張りに見つからずに近くにある街へ辿り着いたアクセルは街で生活する人を見て驚いた。

　自分と同じように苦労している人もいたが、誰もが自分で考えて行動していた。

　そこには自由があった。

　生まれた時から奴隷だった自分が持っていない物。

　自由に生きる人を見た瞬間、アクセルの中で決意が生まれた。

「俺を束縛していた鉱山の見張りは全員殺した。俺の主人を騙っていた奴も無茶苦茶にしてやった。俺の邪魔をする奴、前を走っている奴は俺が吹き飛ばす。対魔王兵器の回収を邪魔するお前は俺が倒す」

「何を言っているんだか……」

　アクセルの言葉を聞いて思わず呆れてしまう。

　自由を求めると言いながら、やっている事は魔王の命令に従う事。

　とてもではないが、奴隷だった頃の生活から脱却できたとは思えない。

「悪いが相手の存在が邪魔なのは俺も同じだ。魔王と戦うつもりなんて全くないが、報酬は頂いているんで倒させてもらう」

「ハッ、俺の速度に付いて来る事すらできない奴が偉そうに」

「問題ない。忘れているようだから言ってやるが、俺は『荷物持ち』だ」

　俺の背後にいくつも浮かんだ魔法陣。

　５０個の魔法陣からそれぞれ聖槍や特殊な力を持った刃が出て来る。

「速過ぎて当てられない？　そんな事は最初から分かっているんだ。ここからは物量作戦で行く」