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第22話 襲撃対応

「吹っ飛べ」


 襲い掛かって来たアクセルを蹴り飛ばす。

 全力で蹴り飛ばされたアクセルが帝城の頑丈な壁を突き破って外へと吹き飛ばされ、宝物庫へ続く廊下に多くの陽光が入って来る。


「俺の速度に付いて来るだと!」

「それなりに努力したからな」


 廊下から銃弾を放つ。

 ただし、放たれた弾丸は直径1メートルの岩だ。


「クッ……!」


 目の前から迫り来る岩の弾丸に対して躍るように回避する。


「な、何が起こったんだ……?」


 突然の事態にグィード皇帝は困惑していた。

 皇帝の護衛も似たような状態だ。


 仲間には最低限の事情は説明していたが、皇帝一行は何が起こるのか全く説明されていなかったのだから仕方ない。


 俺の話を信用してもらったとしても下手にこれから起こる出来事を伝えたせいで警戒されて未来が変わってしまうと対応が面倒になるので教えていなかった。現に教えてしまった時は、襲われる順番が変わってしまったせいで対応ができなくなってしまった。


「襲撃です。まずは宝物庫の扉を閉めて下さい」


 さすがは鍛えられた精鋭の騎士。

 指示を与えられれば即座に動いて少しだけ開いていた宝物庫の扉に駆け寄ると扉を押して閉じる。


 そこへグィード皇帝が宝物庫を開いた時と同じような操作をして施錠する。


 これでアクセルの目論見は大きく止める事ができた。

 だが、任務に失敗した事を知れば失敗の原因を作り出し、脅威となる俺たちと皇帝を全力で排除する。


 身を守る為にもアクセルはこの場で倒さなくてはならない。


「端的に状況を説明します。宝物庫内にある対魔王兵器を狙った魔族――魔王軍四天王の一人が攻め込んできました。帝都内には他にも魔族が潜入していてこれから陽動を兼ねた破壊工作が行われます」


 説明している間も岩弾を放つのを止めない。

 一発も当たらないが最低限の牽制にはなっていてアクセルが近寄って来るのを阻んでいた。


「なぜ、そんな事を知っている?」


 グィード皇帝の疑問ももっともだ。

 だが、教えていられるような暇がないのも事実だ。


「帝都内で暴れる魔族については俺の仲間が対処します」


 俺は魔王軍四天王であるアクセルへの対処で精一杯で他の魔族まで相手にしていられる余裕はない……余裕はなかった。


「そういう訳でお願い」

「いいですよ」


 ショウがあっさりと承諾する。

 これまでに遭遇した魔族。それに武闘大会でレイが戦ったウィンディアを思えば簡単な仕事ではない。


「ソーゴさんは僕たちを守る為に全力を尽くしてくれて、この街で魔族によって誰かが傷付くのを良しとしていないんですよね」


 別にフェクダレム帝国の人々に危害を加えられたわけでもない。

 助けられる余裕があって、助けられる場所にいるなら手を伸ばしたい。


「ああ」


 あいつらは、宝物庫に侵入したアクセルがのんびりと宝物庫内の物を回収できるようにする為だけに無関係な帝都の人々を傷付けて行った。

 そんな事を認める訳にはいかない。


「これだけは確認させて下さい」


 真剣な目付きでショウが尋ねて来る。


「今は何周目ですか?」


 俺が戻って来たのは襲撃がある1分前。

 同じ行動を何度も繰り返すのが面倒だったので直前に戻って来た。


 彼らの認識では、俺が3周目に失敗して戻って来た直後なはずだ。


「14周目だ」


 もう何度も繰り返しているので現在の状況に自信がない。


「……分かりました。外は任せて下さい」


 頷いたショウたちが駆け出して行く。


「あなたたち騎士は皇帝を護衛しながらこの場を離れて下さい」

「しかし……」

「この場に居ても邪魔なだけです」


 結局、少しずつ条件を変えて何度も襲撃を経験してもショウたちですらアクセルの動きに対応する事ができなかった。

 ショウたちよりも弱い騎士が対応できるはずがない。

 というよりも繰り返した時間の中で彼らは何もできずに死んで、皇帝を死なせてしまっている。


「さっさと行く!」

「は、はい!」


 護衛に連れられてグィード皇帝が離れて行く。


「……頼む!」


 擦れ違う瞬間、皇帝から声を掛けられた。

 これまでの周回では声を掛けられた事はなかった。


「任されました」


 権力者から頼まれたおかげでやる気が出て来た。


 それに既に報酬は貰っているようなものだ。それは国の危機を救った対価に値してもおかしくない。報酬分の働きぐらいしなくては申し訳ない。


 グィード皇帝が十分に離れた事を確認すると銃の引き金から手を放す。奴相手に岩の銃弾は意味を成さない。

 廊下に開いた穴から外に出る。


「なんだ、もう岩の嵐は終わりか?」


 そこかしこにいくつもの岩が転がった庭。

 芝生の生えた長閑な庭だったのだが、既にその面影はなく、これから更に破壊される事になる。


「ああ、あんた相手に銃弾が意味ない事は分かっている」


 銃の代わりに二本の剣を両手に持つ。


「決勝戦で使っていた剣とは違うな」


 あの時は、俺の手をあまり見せたくなかったので名匠が打った頑丈なだけの名剣を使っていた。

 それに今装備した二本の剣は、あの時は持っていなかった。


「武闘大会で俺と戦った時とは違って俺相手に近接戦闘を挑むみたいだけど、俺の速度に付いて来るつもりか?」

「付いて行けるさ」

「ほう……」


 アクセルの姿が立っていた場所から消える。

 だが、最初の頃みたいに目で追う事すらできないなんて事はない。


「ここ!」


 右手に持った剣を叩き付ける。

 横へ跳んで回避するが、回避した先へ追うように地面に叩き付けられた剣から電撃が迸る。

 さらに大きく跳んだ先へ左に持った剣を投擲する。

 ブーメランのように回転しながら飛んで行った刃がアクセルの体を掠める。


 行動を読まれているような俺の攻撃にどうにか体を仰け反らせて攻撃を回避した瞬間、正面から飛んで来た大岩を受けて圧し潰される。

 収納から取り出した大岩だ。


 俺が攻撃に使える手は両手だけではない。


「さっさと立て」


 声を掛けると大岩を押し退けてアクセルが姿を現す。

 敏捷だけでなく筋力も一般的な魔族とは比べようもなく強化されているため、当てる事はできてもこの程度の攻撃では倒す事ができない。


「どうやら俺の速度に付いて来られるっていうのは本当みたいだな。それよりも気になるのは今朝戦った時よりも強くなっている事だ。あの時に感じられた力なら俺の速度には付いて来られないはずだ。この数時間の間に何があった?」


 何度も同じ襲撃を繰り返し、倒す為の準備を怠らなかった。


「お前の奇襲を凌げるようになるまでの9回」


 俺はパラードから奪った再生能力のおかげで無事だったが、仲間は必ず誰かが血の上に倒れていた。

 その光景を見る度に自分の無力さを噛み締めていた。


 仲間を襲撃から守れた時は本当に嬉しかった。


 しかし、そこで終わりではなかった。


「失敗回が2回に捨て回が2回」


 外に出てアクセルと戦っている間に問題があったせいで仕方なく過去へ戻らざるを得なかった。


 その対策の為に時間を1回分捨てる事にした。

 具体的に言うとデュームル聖国を出発した直後からの時間をやり直す為の準備に費やし、必要な物を収納内に入れる。廊下から撃ち続けていた岩も何千発も撃てるように準備しておいた物だ。


 そして、再び襲撃があった時間まで戻る。


 帝城の廊下で俺から襲撃がある事を聞いたショウたちにとっては10分程度の間に起きた出来事だったかもしれないけど、俺にとっては1カ月以上の時間が経過していた。


「何を言っている……?」


 俺が『聖典』を持っている事すら知らない目の前にいるアクセルにとっては俺の言っている言葉の意味なんて分からない。

 せいぜい戸惑って動きを鈍らせて欲しい。


「俺はお前を倒す為の準備を怠らなかった」


 空になった左手に新たな剣を手にする。


 白銀の聖剣。

 聖剣を空高く掲げると空を貫くかのように剣から光が伸びる。


「喰らえ!」


 剣を振り下ろすとアクセルに剣の帯が襲い掛かる。


「ふん、この程度……!」


 加速したアクセルが剣の射程から逃れる。

 だが、急速移動したアクセルを剣の光が追う。


「お前を倒す為に準備していた俺がお前に対して使い物にならない物を使うはずがないだろ」


 剣の光が庭に落ちていた岩や元から生えていた植物などを薙ぎ払いながらアクセルを襲う。



やり直しによる準備によって反撃開始。

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