表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/236

第20話 フェクダレム帝国の宝物庫

 文官の男性に連れられて闘技場から帝城へと入る。


「来たな」


 そこでは皇帝が既に4人の護衛騎士を連れて待っていた。


「態々皇帝が案内してくれるのですか?」

「帝城にある宝物庫は厳重に封印されている。その封印は、代々の皇帝でなければ開く事ができないようになっているので私が開けなければならないんだ」


 そういう事情なら皇帝に案内してもらうしかない。


「武闘大会で優勝したソーゴです。他はパーティメンバーです」

「フェクダレム帝国第38代皇帝グィードだ。武闘大会は既に100回以上開かれているが、【収納魔法】を使う奴が優勝したのは初めての事だ」


 普通は荷物持ちとして生涯を終えるのが【収納魔法】を持った者の宿命だ。

 俺のように特殊な【収納魔法】を持っていなければ武闘大会で優勝するなど不可能だ。


「少しばかりスキルに恵まれたんです」


 自己紹介を終えると宝物庫へ向けて帝城内を歩き出す。


「あの、武器は持ったままでいいんですか?」


 ハルナが手を上げながら訊ねる。


 俺は両腰に二本の剣を差したままだったし、ショウたち仲間には武器を持ったままでいるよう指示を出していた。

 皇帝とこうして相対している状態ではマズいかもしれないがこれから起こる事を考えれば武器の携帯は必要なことだ。


「問題ない。アイテムボックスを持っている奴に対して武器を預かるなど意味がないし、まさか貴重なアイテムボックスを預けてもらうわけにもいかない。それに、その気になれば素手でも対処が可能なんじゃないか?」


 そんな問題になるような事をするつもりはない。


「それで、どんな物が欲しいんだ?」


 表彰式では聞けなかった事をグィード皇帝が訊いて来る。


「決まっていない……というよりも欲しいと思っている物は決まっています」


 事情を説明する為にこれまでにあった事を簡単に説明する。


 勇者召喚によって異世界から召喚された一人で、メグレーズ王国でどのような経緯があって捨てられる事になったのか。

 初めてではないのでスラスラと語れる。


 俺たちが捨てられた事を知ると皇帝の表情が険しくなる。


「……あの国はそんな事をしていたのか」


 世界の為、という事でメグレーズ王国に支援をしていた皇帝としては自分の都合で喚び出した人物にそのような仕打ちが許せない。


「お前たちが勇者の仲間だと言うなら教えておいた方がいいだろう」


 武闘大会が始まる頃に合わせてメグレーズ王国に大規模な魔王軍の軍勢が押し寄せて来た。


 魔王軍との戦う事になった勇者たち。

 結果を言えば魔王軍を撃退する事に成功した。ただし、その過程で百人近くいた勇者の内1割が戦死してしまったらしい。さらに生き残った者の1割が重傷を負ってしまい、しばらくは戦線への復帰が絶望的との事だ。


 軍勢を相手にしたにしては少ない被害だ。

 それと言うのも勇者たちが死に物狂いで戦いへと赴いたかららしい。

 既に犠牲者が出ていた事で、自分たちも同じように死にたくないという想いから必死だったみたいだ。


 結果的に見れば俺たちの犠牲は勇者たちを奮い立たせる役には立った。


「ま、それでも捨てられる方にとってはたまったものではないですよ」


 この世界はゲームなどではなく現実だ。

 傷付けられれば痛いし、死んでしまう事もある。

 それが分かっていながら自分の意思で決めて戦場へと出てしまったのだから死んでしまった者も含めて彼らの自己責任だ。嫌だったなら俺たちのように逃げ出せばよかった。


「その後は旅をしながら元の世界へ帰る為の方法を探しています」

「なるほど。武闘大会へ参加したのも我が城の宝物庫になら何かあるかもしれないと考えたからなんだな」


 グィード皇帝の質問に頷く。


「申し訳ないが、世界を移動するような魔法道具には心当たりがない」

「やっぱりですか……」


 最初からそこまで期待していなかった。

 色々と揃っているみたいなので、もしかしたらというレベルだ。


「ただ、武闘大会の優勝者には望んだ品物を渡す事になっている。好きな物を選んで欲しい」

「ありがとうございます」

「できれば対魔王兵器を選んで欲しいところだ」


 俺は魔王と戦うつもりはありませんよ。


「お前だろ、デュームル聖国で復活した最強の魔族と戦ったというのは」

「気付いていましたか」

「デュームル聖国の連中が自分たちを救ってくれた存在について意気揚々と他国にも話している。最初は信じていなかったが、今お前から聞いた話と規格外と言っていい力を考えれば同一人物だと考えていい」


 都合よく魔族との戦闘経験者が現れた。

 しかも武闘大会で優勝もしている。


 対魔王兵器を預かる皇帝としては、これ以上の逸材はいないように思えたみたいだ。


「悪いですけど、俺は自分から魔王と戦うつもりはありません。元の世界に帰る為に本当に魔王を倒す必要があると言うのなら話は別ですけど」

「いや、忘れてくれ」


 召喚したメグレーズ王国から捨てられた事を考えればグィード皇帝も強く言えなかった。


 メグレーズ王国は召喚直後に魔王を倒せば元の世界へ帰れると言った。

 しかし、過去の勇者が魔王を倒しても帰れなかった事を考えると嘘の可能性が高い。


 元の世界へ帰れるわけでもないのに魔王と戦う理由はない。


「着いたぞ」


 話をしている内に宝物庫の前まで辿り着いた。


 宝物庫の扉は分厚い金属製の扉で、開けるだけでも一苦労しそうだった。

 さらに鍵穴らしい物がなく、取っ手の上に小さな窪みがあるだけでどうやって開けるのか分からなかった。


「少し待っていろ」


 グィード皇帝が取っ手の上にある窪みに手を添える。

 すると窪みから金色の光が溢れて扉が僅かに開く。


「今のは何ですか?」

「この扉は代々の皇帝だけが持つ魔力に反応して開ける事ができる仕組みになっている」


 ショウの質問にグィード皇帝が答えてくれる。

 そのような特殊な仕組みになっているため皇帝でなければ開けることができないようになっていた。


 護衛騎士の一人が宝物庫の扉の取っ手を引く。

 重たい扉がゆっくりと開かれて行く。


「この部屋を開くのも2年ぶりだ」


 前回の武闘大会から開かれていないらしい。


「……!」


 人が通れるまで開かれると遥か後方から気配を感じる。


 あらかじめ警戒しておいたおかげで対応も……


「ぐはっ」


 気が付いた時には口から血を吐いて壁に叩き付けられていた。


 フラフラする体を押して立ち上がると周囲を確認する。

 すぐ傍を歩いていたグィード皇帝は同じように血溜まりを作って倒れていたし、彼の護衛だった騎士は全員が死体となっていた。


「クソッ、全滅か……」


 なによりもショウやハルナ、レイが同じように血を流して倒れているのが許せなかった。

 生きているのか死んでいるのか確認している余裕はない。


「今のを受けて立ち上がるのか」


 聞き覚えのある声に顔を上げる。

 そこには準決勝を戦ったアクセルが立っていた。


「お前の【加速】能力を甘く見ていたよ」


 事前に襲撃が分かっていても対応する事ができなかった。

 俺の目に映ったのは何者かの影が目の前まで迫っており、攻撃しなければ殺されるというところまでだ。

 気付いた時には腕で腹を貫かれていた。


「確実に腹を貫いたはずだ。どうして、お前は生きている?」

「こういうことだ」


 貫かれたせいで破けた服。

 その先は血で真っ赤に染まっているものの傷の塞がった腹があった。血で濡れた体が貫かれた事が事実であると物語っている。


「おまえ……再生能力を持っているのか?」


 パラードを知っているアクセルには最強の魔族だったパラードと同様に再生能力を持っているように感じられた。


 ただし、正しくもあり間違っている。


「俺は再生能力を持っている。ただし、俺の物じゃない」


 デュームル聖国で倒した魔族パラード。

 収納内に取り込んだ事によって奴の魔結晶も手に入れていた。


 その結果、奴の特性だった【再生】が俺にも与えられていた。

 旅の途中で指先を僅かに切ったり、足を挫いたりといった怪我には有効である事は確認していた。

 さすがに万が一の事を考えると死んだ状態からでも生き返られる実験をするわけにもいかないので、どこまでの再生が可能なのか試した事がなかった。それでも、アクセルの襲撃によって致命傷を負った状態からでも再生が可能な事が分かった。


 これで奇襲には対応できる。


 ただし、詳しく教える義理もないので教えない。


「とりあえず分かった事がある」


 やり直しても(・・・・・・)変わらない事がある。


「今回は失敗だったみたいだ」

「それは……」


 アクセルが俺が収納から取り出した本を見て驚いていた。

 本――デュームル聖国にあるはずの『聖典』こそ俺にとって切り札のうちの一つだ。


ついに異世界“コレクター”らしく戦います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ