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第一章 一日目・上司様がやってきた(四)

 正宗は溜息をついた。自分の腹巻に手を突っ込んだ。正宗は黒兎のマークがついた白い携帯電話を取り出して『来い来い屋』に電話した。


『来い来い屋』とは、この辺りの星系であらゆるものを取り扱う会社で、品揃えも一番。『来い来い屋』に電話すれば、惑星開発に関するものなら、たいてい揃う。


 正宗は七穂に聞こえるよう、大声で電話口で話した。

「あー、来い来い屋さん? エビゾリ座のG67に、エリオン型の発電機一式を頼みます」


 電話の向こうから、若い軽薄な感じの男の声が返ってきた。男は、よく知っている。『来い来い屋』店員の蘭狐丸(らんこまる)だ。


「あれ、正宗さんッスか。惑星開発は、今日が初日ッスよね。いきなり発電機っすか。その発注、マジッすか? ホント、マジッすか?」


 正宗は心の中で、バカにしたように確認する蘭孤丸に叫び返したかった。

「俺が言いたいわー」と――。


 だが、隣には七穂がいて話を聞いているので、言いたくても言えない。


 正宗は他に必要事項を告げ、電話を切った。

「七穂さん。発電機は、原子力より安全なのを頼みました。それと、発電機の納入は明日になるそうです」


 七穂は楽しそうに発言する。

「そうですか。これで一歩、前進ですね」

(俺的には出鼻をくじかれたよ)


 正宗は肩を落とした。

「あーあ。他に何か」

「海を作りましょう。この世界の五割くらいに」


 やっと、まともな答が返ってきた。

「はいはい、発注しておきます。それも明日には、できるでしょう」


 だが、その次には、また予想だにしない答が返ってきた。

「それとね。工場が欲しいわ」


 こいつは生命の前に機械を作る気か。まさか、ロボット帝国でも作って他の星に戦争を仕掛けさせる気じゃないんだろうな。


「あーあ、七穂さん。工場って、いったい何の工場ですか?」

「もちろん、ロボット。この星は機械の国にするの」


 正宗はゾッとした。全身が総毛立った。まさか七穂は、本当にこの辺りの銀河を支配する機械帝国を作る気じゃないだろうな。


 あんたはいいよ、あんたは。しょせん六日間だけの、お遊び仕事だからさ。俺は、その後があるんだよ。社会的評価や生活があるんだよ。遊びじゃないんだよ。


 そんな正宗の気も知らず、七穂は軍手を填めた手を拝むように合わせた。

「お願い、クロさん。せっかく電気を作ったんだから、工場もお願い」


「お前が誘致して作った発電所だろ。お前が作った既成事実だろう。それをもって話を進めるか。お前の前世はどこぞの建設業界の国会議員か役人か」


 と叫びたかった。が、もちろん正宗には、そんな無謀なことは言えない。

 とりあえず、こいつの気を逸らさせるか。


 正宗は何とか作った営業用スマイルで答える。

「え、ええと、とりあえず、七穂さん、発電所も工場も、作るのには更地が必要なので、地ならしをお願いします」

「じゃあ、地ならしするってことは、機械の国はOKなんですね」


 正宗は心の川柳を一句。

(前向きに、揚げ足とるな、この女)


「最初からロボットの製造工場だー? ちょっとは考えろよ」

 と正宗は思ったので、直接的な表現を社会人的に変換し、七穂に伝えた。

「でも、ロボットの国というのは、実際どうなんでしょうねー」


 七穂は「なに、わかりきったことを聞くの」という表情で御託をのたまわった。

「理想郷よー」


 あ、この女、とうとう言いきったぞ。機械の国だぁ? そんなもの、本当に可能なのか? というより、売れるのか。


「すいません、七穂さん。ちょっと規格外の話なので、OKが出るかどうか、関係部署に照会したいのですが」


 これは正宗の偽らざる心境だった。

「その結論は、いつぐらいになりますか?」


 正宗はワザと畏まったように、敬礼の姿勢をとった。

「迅速に対応しますので、七穂さんが来られる、明日の惑星開発日までには回答します」


 これは正宗一流のレトリックだった。

 明日までといえば聞こえはいい。ところが、七穂のいる宇宙と正宗のいる宇宙では、時間の進み方が違うのだ。


 更に言えば、今こうして二人が立っている惑星での時間の進み方も違う。

 七穂から見れば、次にこの星に来るのは、目覚めてから翌々日の夜にあたる。そのため、それほど違いがない。


 だが、正宗の宇宙では約四十日が経過する。そして、開発中の星の上では、正宗が設定した二年の月日が経過する。


 このように、創造者と宇宙開発公社の人間では時間の経過が違うので、合わせるのに惑星開発日○日という言い方をするのだ。


 正宗は七穂との時間差を利用して迅速な対応を印象づける。また、時間差を利用して、ロボットの国より見栄えの良く低コストなプランを考え出し、誘導していく。正宗は、そういう腹づもりだった。


 正宗は心の内を隠し、媚びたような営業スマイルのまま提案した。

「それでは、七穂さん。明日のために、今日できる作業をやっておきましょう」


 正宗は再び黒い手を腹巻に入れ、茶色のゴツゴツした球体を取り出した。

 それはビーチボールくらいの大きさがある丸い岩。


 正宗が岩から手を離すと、岩は宙に浮かび上がり、七穂の目線の高さまで浮かんだ。

「これが、今この星の模型を兼ねた星球儀です」


 正宗は灰色の翼を広げ、模型の高さまで飛び上がった。正宗は星球儀をくるくると回し、ある面を七穂に見せた。

「この何の変哲のない面に、一箇所だけ赤く光るところがあるでしょう。そこが今、私たちがいる場所です。現在位置の表示です。七穂さん、そこから少し上の面に触れて、山をイメージしてくれますか」


 七穂は白い軍手の片方を外すと、そーっと赤い点に触れて目を閉じた。

 ズォーンという音と共に、少し離れた場所に地面が隆起して、大きな山が現れた。


 七穂は目を開けると、できあがった山を見て、きらきらと丸い目を輝かせた。

「すっごーい、山ができたー!」


 七穂はすぐに、また目を閉じて隣の場所を指す。

 ドーン。今度はそこに窪地ができた。


(よし、乗ってきた、乗ってきた)

 正宗は想定どおりの展開に、ニンマリと微笑んだ。

「七穂さん。あそこに見える山を肉眼で見て。こういう形にしたい、って思ってください」


 七穂はじっと、出てきたばかりの山を見つめた。すると山は、裾が広く、鋭角な頂上を持つ山に姿を変えた。


 山の変化を見て、七穂は俄然やる気が出てきた様子だった。

 正宗は楽しそうに作業を続ける七穂を見て、シメシメと思いながら説明を続けた。


「もし、惑星に広範囲に広がる大まかな地形を把握したいのなら、自分で体を大きくなるイメージをしてください。身長は数十キロまで大きくなることが可能ですので、惑星の風景が一望できますよ」


 七穂は足元を気にしながら、

「でも、そんなに大きくなったら、足場が壊れない?」

「大丈夫、ここは貴女にとって夢の世界。この世界では、貴女の質量は、どんなに大きくなっても、重量に関しては無視できるほど小さいのです」


 七穂は再び目を瞑ると、ドンドン大きくなっていった。

 正宗は自分のしている捻り鉢巻に触れた。すると、正宗も星球儀と共に、七穂の大きさに比例して、大きさを変えていった。

 巨大化した七穂は、ご機嫌とばかりに、まるで砂遊びのように山作りを始めた。ご満悦な七穂の表情を見ながら、正宗は安心した。

(この調子で行けば、予定どおり整地作業は順調に進みそうだ)


 ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。ズーン。

 世界のあちこちで山ができ、丸い星球儀の表面の一箇所に山脈が集まる。


 正宗は顔は笑顔だが、心の中ではニヤリと七穂を見下した。

(おいおい、土いじりがそんなに楽しいか。もう少し考えないと、温暖な環境はできないぞ。これだから素人は困る)

 星球儀上に現れる惑星の地形が、ドンドン形を変えていった。


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