表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/39

第八章 六日目・プロトタイプ完成(二)

 正宗は高まる緊張を押さえて本題に入った。

「では、さっそく、実物を見せてもらいましょうか」

「こちらです」


 グッドマンは正宗を部屋の隅に案内した。部屋の隅には正宗の半分くらいの大きさの黒い箱があった。

 黒い箱には上方に幾つかの小さなランプが付いており、幾つかは忙しなく緑色のランプが点滅していた。


 グッドマンは、黒い箱に繋がれて電源が入った真っ黒いディスプレイの前に座り、宣言した。

「これからデモを開始します」


 ディスプレイにデフォルメされたグッドマンと、フリフリの衣装を着たメイド姿の電子情報生命体のアバター(仮想世界で動く分身)が、画面の中に展開される教室に現れた。


 グッドマンが高校生レベルの算数の問題を提示すると、メイドアバターは的確に答えた。試しに値を正宗の指定した値に変えても、的確に答える。


 どうやら応用は利くらしい。また、メイドアバター側からも質問してくるので、自発的にも学習するらしかった。


 次にロールプレイを通して日常的な会話が繰り広げられた。これは実に上手く行っていて、問題ない。電子情報生命体は、グッドマンが褒めると照れ、悪意的になると怒った。


 デモは終わり、グッドマンが自信たっぷりに正宗からOKの返事を貰いに来た。

「どうでしょうか?」


 確かに悪くない。正宗が仕様書で要求している、学習機能、曖昧さ、自発的な欲求、他者との関わり方も表現されている。


 もしかすると、このまま開発を続ければ、これは行けるかもしれない。それに、見ていて何となく楽しい。

「グッドマンさん、私もロールプレイ、やってみてよろしいですか?」

「ええ、もちろんですとも。それでどのようなシチュエーションにしますか?」


 正宗はグッドマンから提示された五十近くあるシチュエーションの中から、一つを選んだ。

「私がお客で、電子情報生命体が食堂の店員という設定で、ロールプレイにしましょう。それと、せっかくですから、私のアバターも作ってもらえますか」


「了解しました」

 グッドマンは新規で正宗そっくりのアバターを作ると、席を正宗に譲り、操作法を教えた。


 正宗はアバターを動かし、画面に表示された食堂の席に着くなり、料理の注文をした。

「僕は鰻」


 メイドアバターはニコリと笑って応対した。

「鰻のプラズマ・グリルで、よろしいでしょうか」


 なるほど、状況判断は的確だ。少なくとも、相手が〝自分は鰻であると信じている人物〟とは解釈していない。


 正宗アバターが鰻のプラズマ・グリルを注文し、食べ終わると、正宗は再び試した。

「これ、下げてくだい」

「かしこまりました」


 メイドアバターは食器を厨房に持っていく。食器を地面に置いたりしない。これもOKだ。なら、ちょっと意地悪して、と……。


「あ、支払い用のカードを忘れたんですが」

 すかさずメイドアバターが店の奥のほうを向き、声を上げる。

「店長ぉー」


 見事だ。状況判断もできている。なら、もうちょっと意地悪して。

 そのまま店から逃亡しようと、正宗のアバターは店から走って逃げた。


 すると、メイドアバターは、フリフリのスカートの中からショットガンを取り出し、正宗アバターを目掛けて発砲した。


 正宗アバターは血を撒き散らしながら派手に倒れ、店の食品サンプルのケースに突っ込んだ。ケースがド派手に壊れた。


 画面に大きく『YOU DEAD』と赤文字で表示され、血のように垂れていく。その後ろではメイドアバターが何事もなかったかのように、ガラスの破片を掃除していた。


 正宗はメイドアバターの行動に衝撃を受けた。画面に釘付けになりながらも、後ろにいるグッドマンに意見を求めた。

「グッドマンさん。撃たれたんですけど」


 グッドマンは電子情報生命体の反応が意外だったのか、半分くらい固まったような声を出した。

「……のようですね」


 正宗は「もしや」と思い、ロールプレイでシチュエーションを変えてみた。

 正宗は強盗からタバコのポイ捨てまで、いろんな犯罪を実行して見た。すると、全ての行動で正宗のアバターは、メイドアバターに無情に撃ち殺された。


 ところが、同じことをグッドマンのアバターがやっても、そういう展開にはならない。

 なぜこんな設定が用意されているのかと疑問を感じる「男女の別れ話」というシチュエーションでも、やってみた。


 グッドマンは浮気を告白しても泣かれたり、怒られたりするのだが、正宗は即座にショットガンで脳天を撃ち抜かれた。


 電子情報生命体は正宗アバターに対しては、おおよそ加減や迷いがない。これは拙い。

 相手によって戦略を変えることは大事だが、これでは要求仕様書の『曖昧さを判断できる』『円滑に他者とコミュニケーションを取れること』に引っ掛かる。


 正宗はグッドマンに尋ねた。

「これ、拙いんじゃないですか?」


「これくらいなら、すぐに修正が可能ですよ」

 とグッドマンは言ったが、明らかに動揺していた。どうやら、予想外の事態らしい。正宗は大いに不安になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ