知覚してクエスチョン
狩りとは何だろう?
生けるものを糧とし、
己の生の贄とする行為?
血肉をいただき、明日を紡ぐ力に変える行為
骨角器を作り、明日を切り開く力を得る為の行為
実はそれ自体が明日を生きる原動力になるのでは無かろうか?
世界は弱肉強食であり、強食は弱者を弄ぶ。
猫は子供を前にして、鼠を引きずり回した。
海猫は子供を前にして、魚を啄み飲ませた。
大熊猫は子供を前にして、育児を放棄した。
それが褒賞なのか、教導しているのか?
それは息の根を止め動けなくし、食べやすくしたのか?
それを教えないことでさらなる遺伝子の選りすぐりを行っているつもりなのか?
それぞれの思惑はあれど結局、強者が弱者に強いた法則である。
弱者に選択の余地はないが、不自由な選択の瞬間は突然やってくるのだ。
「はあ、暇だ・・・」
嗚呼、狩りとはなんと退屈なのだろう。
獲物を待ち構え、仕留める。
そこには弱者が横たわるだけだ。
そんな単純な結末を迎える為に、強者は指を咥えて待つばかり・・・
そんな一方的な理屈を通すのだから、当然弱者は逃げるに決まっている。
例えば、絶対に契約させられるセールスマンがいたとして、
絶対に契約されられたくないなら、そんなの逃げるしかないからな。
強者は暇を持て余し、されどその時間が喜びの瞬間を彩るエピソードを作り出す。
狂おしいほど待ち遠しく、獲物を求めては場所を替え。
そして待ちに待った瞬間、耐え凌いだ結果得られる結末に安堵し、満足する。
満足し、また求め、積み重ね、満足し、薄れ、結果だけを求めてゆく。
やがて其処へ溺れてゆく。
何かを求めて底へ深く沈んでく。
しっかし、釣れるまで待つなんて気が長い話だな。
釣りは気が短いヤツの方が向いてるなんて言われるが、俺には理解できないね。
「どっかにねえかな、養殖場・・・」
俺なら確実にあるであろう場所をあたる。
待ち切れずに釣り場を変えるぐらいなら市場へ行って買って帰ればいい。
飯屋に行けば既に調理済みで直ぐにありつける。
別に苦労して獲物を得たときの喜びを否定するわけじゃないけどな。
だからこそ俺は冒険者に向いてなかったともいえるんだろうな。
あれから一か月経過
依頼のコカトリスは現れず。
痕跡を追い求め、追いかけて
突き当たるのは食料問題。
その結果が釣り竿片手にお腹を空かせて魚釣りとはな。
「・・・釣れねえな」
しかし何でまた冒険者の真似事を俺はまたやってるんだろうねぇ。
姿だけなら何度か目撃したさ。
遠くの方へ消えていったさ。
何度も、何度もそっちの方を探したさ。
そしたら、あっちの方へ向って行ったんだとさ。
彼方の方まで探しに行ったとさ。
そしたらどっちに行ったのさ?
それが分かんなくなっちゃったとさ。
無事に逃げられてよかったね〜、
めでたしめでたし。
チャンチャン!
― おしまい
「・・・何で俺こんな暑い中をお魚求めて釣りしてるんだろな?」
いや、違ぇよ。
もともとはコカっこっこ〜のチキン野郎を探し求めてダンション潜ってたんだよな?
本当、何で明日の食事事情を気にして釣りなんかしてるんだという話。
いやいや待ってくださいよ?
もっと言うならばこの俺を捕獲依頼に誘うような馬鹿どもの末路を面白おかしく観察する為に、
冒険者みたくダンションに潜った筈だよな?
それが何故あいつらに良いように使われているのだろうか?
いやはや、世の中不思議なこともあったものだ。
・・・このままワタシはボウケンシャとして、イッショケンメイお宝求めて迷宮探索を生業として、
マジメに生きていくのだろうか・・・?
そんなバナナ!
思い出せ、あの頃の自分を・・・
それなりに稼げる、使えそうな連中のピンチに颯爽と現れ、
あの世に逝くのに持っていても仕方がないものと引き換えるだけで、
この世とおさらばしなくて済む方法を提供してきた
デ キ ル 自 分 を !
ダンションに飛び込んだ命知らず共から金を巻き上げるだけの簡単なお仕事をしていた
輝 か し い 頃 の ワ タ シ を !
偽善を振りまき心の弱みに漬け込んで少し豪華な墓場をこさえて、
お祈りというジェスチャーをするだけの、
アコギな商売を生業としているセイショクシャに穢されてしまう予定だった、お金の女神を救ってきた
カ ッ コ イ イ 俺を !
10,000インセント硬貨に刻まれた女神『ヴィーナス』ほど愛おしいモノはない
しかし5,000インセント硬貨で有名な女神『アストレア』ほど美しいモノはいない
1,000インセントのヘカテーたんも可愛いくて素敵!
500インセントのフローラちゃんは財布に入っているとほっこりするよね〜
ただし2,500インセントのアルマディカ、てめえはダメだ!
なんだてめえ、その中途半端な値と認知度の低さは。
この前飯屋で支払いの時に使ったら拒否されたぞ!
― 何ですか、え?れっきとした2500インセント硬貨?
知りませんよそんなモノ、うちでは使えません。
ちゃんとしたお金で払ってくださいよね
― おう、兄ちゃん
できれば支払いは他の硬貨で頼むぜ?
じゃなきゃお釣りはナシだ。
ああ、おかしいとは思ってたよ。
「流通度が低くてレア度が高い・・・貨幣価値は額面以上あるかも素敵っ!」
なんて考えていた俺の純真さを裏切りやがって。
それがさ、なんだ?
蓋を開けてみりゃ両替屋の換金レートが50%って・・・
細かく崩したら1250インセントにしかならないとか舐めてんのか?
飯屋も渋るわけだよ。
俺だってそんなのがお釣りにお前が出てきたら騙された気分になるわ。
俺は信じてた・・・信じていたかったさ。
だいたい出自からして既に形骸化しちゃってるもんな、あんた。
先代ん時の併合のときに各地の偏った需給を段階的に調整するために、併合先での公的資金を2500インセントという硬貨で発行したらさ、
均衡保つ前にイロイロありまして分裂しちゃったらしいよ?
おまけに発行を委託した領も独立しちゃったので、
この歴史をなかったことにしたい帝国は2500インセント硬貨を外貨扱いにしちゃったようだね~。
本当は通貨として扱うことも憚られるけど、国内にも無視できない量が流通してるので
価値を認めない訳にもいかない。かと言ってほかのお金に建て替える余裕は国にない。
でも独立したオドレーヤ公国では帝国の通貨だと思ってるようだけど?
独立して安定するまでは暫く使ってたけど今は自国の通貨があるしね。
おかげで必要なくなっちゃった♪テヘッ☆彡
そんな訳で公国でも使い道のなくなった2,500インセント硬貨が残った。
他所のお金に似たデザインのお金は使いにくいだろう?
でも無くすのには惜しいので率先して交易資金として帝国との貿易に使ったようだ。
「今更返されても困る~、でも外交は続けたい」と帝国。
「もとはお前んとこの金だろ?使えないとは言わせないぜ?」と公国
宙に浮いた資金はどちらの国でも煙たがられ、互いに押し付け合っている。
以来帝国では 『采配の女神 アルマディカ』は『失敗の女神 アルマディカ』として影で揶揄されることになりましたとさ。
でめたしでめたし。
それに気が付いたのは馬鹿丸出しで貯金を2.500インセント硬貨に建て替えた後だった・・・。
で、この溜まりに溜まったワシの2,500インセント硬貨998枚はどうすりゃええんじゃろのうのぉ?
あともう少しで1000枚溜まるね、ウキウキ!
という綺麗だったあの頃のおもひでは何じゃったのかのぉ・・・
まっ、折角なのであと2枚ぐらいなら集めてやろうかなぁ。
べ、別にアルマディカの事が案外可愛いなとか、意外と気に入ってるとかそんなんじゃないんだからねっ!
そんな、しょうがないにゃあ・・という気持ちでお送りしております、今日この頃。
空は相変わらず濁っている。
砂煙り混じった淀んだ空気は心と身体を蝕んでいく。
ゴーグルは曇り、マスクは目詰まりを起こし活動を阻害する。
陰る事はあれど晴れる事はない、
虚ろな陽の光がこのセカイの僅かな希望なのか?
或いはこのセカイの停滞の証か?
水は濁り、土は乾き、混濁した空と大地の境目は掠れている。
釣り糸は決して反応する事はなく、景色はきっと変わる事がないだろう。
状況は決して好転する事はないが、されど確かに変化していた。
―――
――――
―――
「おかしらぁ~、もう帰りましょうよぉ〜」
自称「今最もイケてる!」冒険者パーティー『ラスターク』の下っ端
コリブ・リックは
弱音を吐きながらもここまでシッカリついてこられた。
しかし、もう限界であった。
既に踏破られたであろう階層を進むという行為は、情報が開示されていないだけで、初めて進むものにとっては前人未到の地を歩くが如く、
自然の脅威を彼らに突きつけていた。
「がぁ、この野郎!
ここまで来て引き返せるかってんだっ」
既に屈強な男達の集団はクタクタのヨレヨレのボロボロだったが、それでも引き返せぬ理由が、その眼光の先に思い浮かんでいた。
自らをコケにしたガキ共を、世間の恐ろしさを知らない調子こいた低レベルなお子様共の、
高く高く伸びた鼻の先をこの手で捻り潰してスクラップにして、
二度とツラが拝めないような玩具になる様を、
心待ちにして心待ちににして此処まで歩いて来たんだ。
気力は衰えない、けれど既に身体は満身創痍。
それでも前に進みテェ・・・
ドミニク・スターは逸る
コリブ・リックは焦る
それでも進む、まだ進むつもりでいる男達の内心を支持するかの如く、運命の女神は
絡み合う二つの因果の道の扉を開き、招き入れた
奴ら・・・何処に隠れていやがる?
道、道、ミチ、ミチ、ミチ・・・
ああ"ン?あんじゃねえか・・・進む道がヨォ
― その時『ツキノセカイ』の月光と月光は互いと互いが食らいあって1つの輝きとなっていた
――――――
――――
―――
霞みの空を割いた極彩色の羽
真っ赤な鶏冠に真っ白な尻尾
目の前で肉を喰らう巨大な鳥
間違いなく、ヤツだろう・・・
会いたかったぜぇ、コカトリスぅ
手筈は整えた。
拾った羽から魔力の残滓を集め、判定薬にて波動の種類を解析し
ヤツとの相性を確かめ、殺さないまでも動きは奪えるだけの『毒』を作り出した。
捕獲依頼においてはこういった面倒な下準備が何よりも求められる。
相手を殺さないだけの配慮、相手に殺されないだけの配慮を持った作戦が求められる。
やることはいたって単純。
罠を仕掛け、相手をおびき寄せ、罠にはめる。
なんてことはない。
デザートワームの肉に『毒』を仕込んで動けなくしたところを捕獲して持ち帰るだけだ。
それは古来より行われてきたごく当たり前の狩りの手法にして、しかし俺たちの求めるものは狩りではない。
ただ殺すか殺されるかの生易しい世界じゃない。
死んで終わりか殺して終わりか、 どちらも生き残って終わりか。
どちらも生き残る。
それは運命の糸が巡り合わなければ容易に実現される未来であり、
一度巡り合えば、どちらか、あるいはどちらも絡みつき、残されるのは1本の糸か、どちらも消えてなくなるか。
巡り合ってしまえば最後、どちらもが何事もなかった運命をたどることは難しい。
だが意図的に絡めてやることはできる。
互いの運命の糸を紡ぐが如く、作為的な結び目で容易に解けることを意図して。
先手は打った
ヤツは食べた
このまま見事にチョウチョ結びが完成して楽して解ける意図が結べるか。
あるいは糸は切れて使えなくなるか。
もしかしたら結ぶ間もなく、手繰り寄せることもできず再び出会いの縁は遠ざかるかもしれない。
結果はもうじきわかるだろう。
他の三人もヤツの動きを静かに見守っている。
鳥の動向を追いかけ、仕掛けるポイントを導いたシオン=アルマーク
鳥の生態を観察し、毒を作ったセシル=クラッド
その活動を支える為、拠点を維持し来るべき時に備えた残り二人
イオン=アルマークは昼間の見張り、資材調達、『餌』の確保を
俺は夜の部担当。
大よそひと月(?)ぐらいは『スナノセカイ』にいただろうか?
体は疲労し、活動限界は近い。
それは残された物資面でも同じ。
この一回でケリをつける!
と、意気込んでみてもニワトリの観察日記つけてるだけなんだけどね~
― まるがつばつにち。
やっと鳥さんがご飯を食べてくれたゾ?
やったね!
・・・もうどうでもいいから早く終われ。
冒険なんてするんじゃなかった。
お家帰りたい~
「・・・変ね」
「ああ、そろそろ効果が表れても良い頃のはずだけど・・・」
「変化ないです…」
― まるがつばつにち。
鳥さんごはんおいしいって!
クタバレ!
死なない範囲でな。
どうやら俺たちが仕掛けた『餌』はお気に召したのか、仕込んでいた『毒』は何の成果も発揮することなく食事を終えてしまっていた。
そしてヤツの目はこちらをジーっと見つめている。
・・・気取られたな。
「仕方がない、イオン」
「・・・分かった」
食事に『毒』を混ぜて内部から動きを封じる方法は使えなくなった。
確率は低いが外部から直接『毒』を打ち込むしかない。
イオンは弓を引き絞り、矢を放つ。
風の魔力を帯びた一撃は同時に姿を隠し、不可視の一撃となってヤツの喉元を捉えた。
しかし矢は何かに阻まれ停止し、地に落ちた。
鮮やかな色の翼は開かれ、鳥は吠えた。
「Cui Cuiiiiiiiiiiin CouCouCoucouCockCoU!」
「大丈夫…成功した」
「了解、続けよう」
矢は『風の障壁』によって阻まれてしまったが、毒は風の力を借りてコカトリスに打ち込まれた。
しかしコカトリスの様子に変化はない。
・・・埒が明かんな。
続けざまに矢を放つシオン。
先ほどと同じ、矢が放たれ、風の力を帯びる瞬間、俺はある魔法を矢に施した。
「大事な水を奪ったヴァルナさんは狭心症の薬を飲みたいカミサマの心臓を止めたってさ 【停滞】」
すると放たれた矢は風の魔力と水の魔力を帯び、その瞬間停止した。
一瞬動揺が走ったものの、すぐに俺の意図を理解してか、続く矢を引き絞る。
「ヒュー、やるねぇ」とシオン
「・・・相変わらず適当な詠唱ね」うっせ余計なお世話だセシル
「さっきのは10秒に合わせた。残り5秒」俺
「任せて」任せたイオン
こまけぇとこはいいんだよ詠唱なんてさ。何するか分かればいいんだからお前らに
警戒をシオンとセシルに任せ、再び放たれた矢に無詠唱で魔法をかける。
最初に施した停止が切れるタイミングで追加で1射、時間は3秒。
そして素早く3射目を引き絞り・・・
時は動き出し、3つの矢は同時にコカトリスを狙い撃つ。
1射目は斜め上に湾曲した軌道を描き、矢は横から首を穿った。
2射目は斜め右に屈曲し、再び曲折し首を穿った。
3射目は斜め左を。
追加で4射目
5から6射目
「ごめん・・・なさい。魔力切れ」
「いや、よくやったよイオン。
あれだけの【風の障壁】を貫くのは容易なことじゃない
頑張ったな」
兄はその場で妹の武勇を称えた。
「それにもう『毒』も使い切っちゃったわ。
なのにまだピンピンしてる。
殺してしまってもおかしくないぐらいの付帯効果がかかってる筈なのに」
しかしセシルが苦い顔をして毒に犯したコカトリスを見ているように、状況は芳しくない。
毒の効果がなかったとは言わない。
だがそれは期待した効果を遥かに下回る、相手からしてみたら虫に刺された程度の損害だろう。
状況は完全に予定外であった。
こうなってしまったが最後、力ずくで屈服するか、次の機を待ち策を練るほか道はない。
だが状況の主導権はたちまち、こちらから彼方へと切り替わってしまった。
コカトリスは宙を舞い、然し逃げる為ではなく明らかに邪魔な敵を討ち殺すために翼をはためかせた。
地上に生ける生き物は、天空を舞う生き物に抗うすべを余り持たない。
空は見下ろし、狙えば当たる雷を適当に落とすだけことに対し
地上はまるで、一枚の紙を一筆で塗りつぶすような綿密さで地の利の不条理に争い、
雷を落とした空に挑まなくてはならない。
バケツをひっくり返したような雨を、そのままひっくり返して空に還すことができないように
人は晴れ間が見える瞬間を待ち、耐え忍ぶだけだ。
状況は言うまでもなく劣勢に立たされた。
乾いた大地に『矢の雨』が降り注ぐ。
「うそっ、投影魔法?!」
「『日属性』とはたちの悪いッ」
枯れた茂みに隠れていた俺たちに幾千もの矢が落ちてきた。
「おいおいおいなんだなんだよ~俺ってばピンチじゃんクハハハッ」
まあこの程度剣振り回して叩き落とせばいいんですけどね~
立ち上がってすぐ目の前にまで落下している矢を一つ、切り払う。
右に横薙ぎ右から左に左から上に、薙ぎ払って薙ぎ払ってギタギタのメタメタに。
そうこうしているうちにシオンの野郎は体の周りに風の魔力を纏って【矢除け】を発現。
除けきれない矢だけを見極め回避し、【矢除け】の魔法で除けられるものを無視して突撃していく。
セシルの奴は魔力切れのイオンを庇いつつ、地の魔力を使い盾を構築。
投射範囲外へとジワリと後退。
俺だけ無様にその場で素振りとはねぇ、ダサいのでちょっと突撃かましてみるか。
とはいえ【矢除け】なんて器用な真似は出来ないので、ここは装備に頼るとする。
俺が着用している『魔透鎧』は流した魔力の分だけ強靭になり、衝撃を分散する。
針で刺す程度の痒そうな攻撃は利かねぇなぁ。
先行したシオンの後ろを追い、横から挟撃を狙う。
まさか実力行使が必要になるとは。
予定はしてなかったが、まあ想定の範囲内だ。
ただ生かして捕縛するのは厳しくなるから嫌だったんだが。
先行したシオンは風の力で疾駆し、大地を蹴り上げた。
宙を舞い、あい対する一人と一羽。
「大地の祖は神の使いを地に落とすためにインドラを風に託した―」
ああそうかい、もう仕掛けるって?
ハイハイ、雨ね。
俺はあくまでも補助に徹するだけさ。
狙うは獲物の頭上。
「そしてカミサマはヴァルナさんに土下座して水貰う」
【鈍りの雨】
突如コカトリスの頭上に出現した雨雲はすぐさま雨を降らせた。
水の魔力は力の流れに干渉し、羽ばたく力は阻害される。
コカトリスに『矢の雨』を出現されるだけの余力はなくなり、より一層翼をはためかせ、宙に浮いている間抜けな"獲物"に向かって鳥は突き進んだ。
一方シオンは重力に抗った跳躍の終点に到達し、緩やかに落下を開始するタイミングで魔法を唱え、振り上げた腕を振り下ろした。
【雷撃の槍】
水の力を補助に、雷の槍が一筋の落雷となってコカトリスに襲い掛かった!
巨鳥はまともに雷撃を喰らい、鮮やかな翼を焦がし地に落ちていった・・・
―――
――――
―――
・・・しら、ここはどこなんですかねぇ?
わっかんねえがどうやら神は俺たちを見捨てなかったようだぜ?
へぇ、こりゃあ奴ら来てるな」
「うっひょ~、やりましたよお頭。
ここまで頑張ってきたかいがありましたね!」
「・・・」
「ダンナ?どうかしたんで?」
― ザクッ
「ひえっ?!」
残された野営の痕。
横たわる寝袋目がけて何度も何度も剣を振り下ろすドミニク。
目の下のくまが疲労の色を表しているが眼光はより一層鋭さを増し、力の限り頭の中の憎い連中を寝袋に投影し、切り刻んだ。
寝袋はグズグズになった。
「くっくっくっくっく・・・」
「かしら?」
「野郎ども、ついにこの瞬間が訪れた!
もうすぐで奴らをズタボロの玩具に変えてやれるんだ、これほど喜ばしいことはない。
決行はやつらがここへ帰ってきて、その瞬間に襲ってやる!
だが先ずは腹ごしらえだ、やつらの食料でなぁ!」
― オオオオォォォォオオオ!
当初引き連れていた仲間たちは25人
それが4人減って21人
多少の犠牲は出たとはいえ、寧ろこの犠牲の少なさは誇るべきところだろうか。
三級の冒険者には開示されていない階層の、彼らにとっては未知の領域に足を踏み入れここまで全滅せず生き延びれた事だけでも本来は並みではない筈だ。
二級に最も近いと自称するだけのことはあるだろう。
だが
それは果たして・・・
「お頭、どうせなら奴らが捕獲した獲物も横取りして、俺らの武勇に花を咲かせてやりません?」
「そうだそれは良い、いくら昇級にはかんけぇねぇとはいえ、これだけの獲物だ
ほかの冒険者連中が放っておくわけがねぇ!」
「そんで、俺たちは上級のパーティーに一目置かれて、評価を上げる足掛かりにしようってわけですね」
「待ち遠しいナァ・・・ヤツらが帰ってくるのがよォ」
彼らは、自らが陥っている致命的な状況について、まだ気が付いていない・・・
―――
――――
―――
「良かった、死んでいないようだね」
「やっと母の治療に有効な手がかりが手に入るわ」
「拾った羽、効果がなかったですもんね」
鳥は無様に地に落ち、白目をむいて気絶していた。
う~ん、思ってたより呆気なかったな。
まあ下手しなくても殺してた可能性があるから商品が壊れなくて済んだのはありがてぇ事だな。
さーて、問題はどうやってこいつをもって帰るかだが・・・
「神に抗い傷ついた英雄達を匿いたまえ・・・」
ん?この詠唱は?
詠唱しだしたセシルの横のシオンを見ると、ニヒルな笑みを浮かべ一歩下がったので俺もそれに習うことにする。
一歩距離を置いた瞬間、空属性の空間魔法が発現した。
【空の境界】
地面でグッタリ横たわったコカトリスを囲う様にして魔法陣が出現する。
おやおや、なかなか驚かせてくれるじゃないかお嬢ちゃん。
最強の荷物持ち能力の持ち主だったとはなぁ、こりゃ優良物件だな。
既に持ち主がいることが非常に残念無念であるが。
魔導書を媒体として発現する空間魔法は、非常に難易度が高く、扱いが難しい。
上手に発現しないと魔力の源が壊れて死ぬ。
そして媒体となる魔導書自体、滅多にいない職人が希少な素材を用いて個人のセンスに合わせて作成されるので、才能に恵まれた金持ちが運よく魔導書を作成できる魔女や仙人に出会えることができれば、魔導書の、空間魔法の使い手になることができるわけだ。
魔法陣は徐々に中心へと閉じていき、内側に居たコカトリスは魔導書に閉じ込められ、図鑑のように姿を封じ込められた。
それにしたってあんなバカでかいニワトリを収納してしまえるとは、いいな欲しいな羨ましいなぁ。
「ふぅ、無事完了・・・と言いたいところだけど
余り長い事閉じ込めておくことが出来ないわ。
早く帰りましょう」
「隷属の呪いも何処まで利いていることか」
「でもひとまず、やることは終わりました」
「それじゃ帰ろうか」
「あーあー、こんな時に『アリアドネの糸』が有ればなー」
「でも、幻だって、聞きました」
「分かってるわよ、でも来た道をこれからまた戻るなんて考えたらね・・・気が重くなってきちゃって」
「まあ、一瞬にしてギルドのホールに変えれればなー、なんて一度は考えるよね」
ん?さてはシオンさん、このワタクシに同意を求めてませんか?
やーね、皆さん白々しい。
ダンジョン脱出サービスLIFTでは皆さまのようなご要望にお応えしてダンジョン深部からの安全で速やかな脱出サービスを提供しておりますのよ?
何を隠そうこのワタクシがッ!
さあなんでも仰ってくださいまし?
おひとりさま?お2人様??
まぁまぁ、冗談よ!
3名様プラス1匹で5,000,000インセントでよろしくってよ?
「まあそんな夢みたいな話考えるより、早く地上に上がるために頑張ろうよ?」
「それもそうね」
「賛成」
あ、あれれれ?
皆さまもしかしてご存じない?
ダンジョン脱出サービスLIFTですよ?
迷宮深部までの最短コースのご案内もやってるんですよ?
遅刻しそうになっても安心!
危ないときは速やかに街の広場まで避難することが出来ますよ?
早くて安全安心なこんなサービス、他じゃどこもやってませんよ~?
今なら初回サービスで4,500,000インセントにまけてあげてもいいんですよ~?
ねぇねぇー
しかし一度送ってやった経験者(気絶してた)がいるとはいえ、なかなか知名度が上がんねぇなあ。俺の仕事さ。
まあ依頼したうちの7割ぐらいは代金を払えないでそのまま帰らぬ人になってるからな。
残りの助かった連中は大体が助けた瞬間アタマパー記憶パーだもんな。
・・・っま知らないなら知らないでソレは別にいいけどな。
俺の仕事は需要が一番高い瞬間にこそ必要とされる仕事。
安っぽく請け負って下らねえ連中がこの俺を使おうだなんて愉快な勘違い起こしたら、そっちの方が面倒だ。
まぁテメェらは俺のチカラが必要になる瞬間が来ないことをカミサマにでも願っておけや。
俺は俺で、オメェらを追っかけてきた連中と舞台を整えておくからよ。
さーて、フィナーレは一体どんな演出で飾ってやろうかねぇ・・・楽しみだ。
――――――
――――
―――
「あれ、ドルさんは?」
誰ともなく浮かんだ疑問は、先ほどまでダレかがいた背後へ向けられて・・・
背後にいた赤髪の少年は、音もなく姿を消していた。