発覚してエクエストリア
砂粒が
宙を漂い
空を濁して
それから後で
パラリパラリ
降り注ぐ
「く、いい加減くたばりやがれ!」
「もうやめてくれよ、何で僕たちを襲う?」
金属音が
つばぜり合いが
怒号が飛び交う
「どうだっていいだろ、今更そんなこと。
俺はお前たちみてぇなガキが気に入らねぇし、
新参者が俺たち差し置いてしゃしゃり出てんのが納得いかねぇの」
「お頭の言う通りさ!はっきり言って目障りなんデスよ、チミたち」
「女は俺が可愛がるぜ」
「坊ちゃんはアタイが苛めんだから殺さないでよね」
「どうせ俺たち終わりなんだ、なら精々みんなで楽しもや」
ワイワイ
ガヤガヤ
いいね
良いわね
賛成
絶対
…どうしてこうなったのだろう
風を纏う
突き進む
切り払う
…世の中そう上手くは出来てないことは分かってたんだ。
ちゃんとわかってた。
ドルさんは突然姿を消した。
セシルは体に原因不明の苦痛を感じ、倒れた。
イオンは奴等からの攻撃によって気を失った。
退路は断たれた
奴らの妨害だけじゃない。
この領域の境界線も見失ってしまった。
僕たちは脱出できずにいる。
境界が開いていれば
奴等の妨害がなければ
ドルさんがいてくれたら…
なぜ出口が消えたのか?
どうして執拗に僕たちに危害を加えたがるのか?
なぜあれほどの腕を持つドルさんが突然いなくなったのか?
…わかってる。
ドルさんとは所詮今回限りの、この限られた一時の関係でしかない。
セシルはおそらく、封じているコカトリスの抵抗を受けているのだろう、
でもようやく巡り合えたチャンスを、捕まえた獲物を放棄するわけにもいかない。
そして僕たちが気に入らないからイオンも攻撃された。
おそらく、ドルさんも・・・。
どれもこれもが不確かであいまいで
だけど僕らに立ちふさがる
でも幾ら不条理を突きつけられても、僕は決して屈するわけにはいかない。
約束を果たすまでは。
一太刀
一薙ぎ
一刀両断
「ここまで明確に敵対の意思を持つってことはさ、殺されても文句は言えないよね?」
「あ、れ…体が」「アタイの腕が…」
「てめぇ・・・よくも仲間を」
物言わぬ肉塊がこれで12体
血みどろの戦いは彼是1週間続いている。
そろそろ限界も近い
・・・もういい加減ケリをつけよう
地を蹴って
砂が舞う
大気を揺らして
降り積もり
積もり積もって
また舞い上がる
そうして、ある時、一拍間を置いて
両者はそこで最後の応答を交わす。
「・・・出来れば、この力だけは使いたくなかった」
「なにいってやがるんですか、坊ちゃんよぉ。
仲間のいない、死に体の人間になにができるんだってんだ?
それともあれか?私はまだ本気出せますってな」
「どうせ君たちは一人も生かして返すつもりはない、
せいぜい無様にもがき苦しみながら死ぬといいよ」
「ッケ、気に入らねぇぞお子様風情が。
死ぬのはてめえだよ馬鹿やろう
俺様は優しいから、次の一撃でお前を微塵も残さず消してやることにするよ。
ああ、安心しろ
お前の仲間の女二人は俺たちがちゃんと有効活用させてもらうからよ」
もはや両者に語り合うだけの余地はなく
ただそれぞれが殺し合う準備を整え始めていた。
今や所属人数を半数以下まで減らし、壊滅状態と言ってもよい『ラスターク』の面々は、
比較すれば小さき冒険者集団の、たった一人の男を確実に屠るために、
何度目となるか分からない包囲を行った。
残された全員の意識は、この散々な状況を生み出した敵への憎悪で統一され、
生き延びることができた術立つした冒険者だけで構築された包囲網は、今までの包囲網より劣らず。
むしろこれまでで一番統率が取れ、個を容易くねじ伏せてしまえる状態へと昇華した。
それに対するシオン=アルマークは、その時誰も予想だにしない暴挙へと出た。
「ぐ・・・」
「は?」
なんと、懐から小太刀を取り出し、あろうことか自分の腹を刺し貫いたのだ!
「おいおい、何このタイミングでお前は自殺しちゃってんの?」
「勘違いしてもらって…結構、だ。今にわか、る」
「下らねぇ真似しやがって、本当に気に入らねぇぞ糞野郎め
もういい、かけらも残らず消えろや。
テメェら、用意はいいか?」
号令
報答
詠唱
構えすら取らず、腹に小刀を突き刺したまま、己の死を受け入れるかのように
理解不能の自爆でもって完結する彼の死を後押しするかのように
ドミニクが告げる
「大地に回帰する焔を掲げろ!」
部下たちが紡ぐ
「燃え上がれ復活の焔、舞い戻れ」
―【火天の羽衣】
頭を垂れるシオンを中心として、突如、爆炎が発生した。
爆炎にのまれる前、彼が何かを口ずさんでいた。
しかしその意味は、その場の他の誰にも理解できなかった。
「กงเกวียนกำเกวียน」
が、結局何事も起きず彼は爆炎に呑まれ
「あ?」
「え?―」
爆炎は、そのまま宙に舞い上がった砂煙までも燃やし始め、
その惨状を生み出した当人すらも巻き込んで大爆発を引き起こした。
―――
―――
―――
ギルドではどこか恭しく扱われるドルフ・サイヴァリアさんですが、街の中では唯の善良な一市民として認識されている。
ほら、基本的に俺ヒキコモリだし、冒険者登録してても活動はほとんどやってないし。
おかげさまで立場的には街中の市場とかでよく見かける普通のお兄さんって感じかな?
ごく普通のお上品で優雅な紳士のお兄様が、荒くれ者の冒険者やってるなんて思わないしょ?
ほら、冒険者連中みたいにボクチン怒りっぽくないよ、ボクチン、怖くない。
ていうか適当に威張り散らして注目を浴び、胸を張って大手を振る様なみみっちい真似、俺にはできないね、うぇひひひひ。
本当だせぇなあいつら。
だって名乗りを上げた厚顔無恥なほとんどの奴が名前も聞いたことがない新参連中だぜ?
大した実績もない上に図々しくも煽て易いあいつら、
街の連中は適当に煽っておけば調子を良くしてくれるんだから、商売するには絶好のカモだぜ?
ほら、あそこの、ガタイだけは立派なおっちゃんなんか・・・
朗らかに、意気揚々と、堂々と胸を張って歩いてるけどさぁ・・・
気が付いてないのかなぁ、そいつから滲み出る形容しがたい違和感に。
鋲は打ち間違えられて、加締まりが悪いのもあきらめて誤魔化しにパッチ張られててさ、
挙句、そのパッチワークすらお粗末と来たもんだ。
いろいろと誤魔化して見た目だけはそれっぽいが、素材単位で見ると胡散臭いのなんの。
よく分からない素材の革張りとか、適当に寄せ集めなような統一感のない端材とか、粗悪な鋳造部分とか
まあ防具としてみるなら酷いもんだが、そこは店としての最後の言い訳か、
最終的にお祭り用とか、式典とか行事用に、防具としてではなく、装飾目的の防具という名目で仕立て上げられて。
結果、その仰々しい見た目にとりあえず一度は目を向けるものの、にじみ出る安っぽさから
本物を知る一流には見向きもされず、よって集まるのは2・3流の冒険者のみ。
ま、2流なら結局相手しないんだけどね、少し奮発してまともなの手に入れるよ。
3流なら騙されるかもね、少しして本質に気が付くと投げ捨てるが。
それ以下の馬鹿は即決購入しちゃったりさ、まあまあ一括払いだなんて立派になったわねえ・・・。
で、投げ捨てられる哀れな見栄っ張り装備たちは、これまた3流4流の商人に買い取られ、
物の価値も見分けられないどうしようもない商人は
「まぁなんて立派な防具なんでしょう」
と思い込み、店頭でお勧めし、勘違いする冒険者が出る始末。
作った店の矜持を守るなら、意地汚く商売に走らずに打ち直すなり処分すべきだったな。
おかげで店の主人は醜態をさらされ、忌々しくその冒険者を睨みつけ
同じような経験を持つ冒険者は顔を背けて苦い顔をし
目ざとい商人はうまい事新しい装備の新調を勧めるし
俺みたいな外野の人間は面白可笑しく観察するわけだ。
可愛そうに、本人は失敗作で身を固めているだなんて思っても見てないんだろうな、ぷぷぷぷぷ。
あれだな、やっぱ装飾性能はいいんだろうな。見た目だけは、ほんとそれっぽいんだよな。
翼とか
爪っぽい部分とか
頭骨とかもつけちゃってさ。
挙句ついたあだ名は『ドラゴンキラー』
なお、素材は主に余った魚系とかイノシシ系とかの魔物だそうです・・・
翼が生えているのに鳥すら使ってないとはこれいかに。
「おいみんな、ドラゴンキラーの登場だぞ!」
「え?あのドラゴンキラー??」
「きゃあ本物よ、こっち向いて!」
― ぶふぉっ
なんだお前ら、ノリノリだな。
俺を笑い死にさせる気か?
みろよ、気を良くしたのか手をふって
挨拶までしてやがるぜ!
さながら気分は凱旋パレードを受けたつもりなんだろうな。
こりゃあ黒歴史の御誕生だ!
盛大に祝ってやらなきゃな・・・
ひー可笑し。
たぶん脳内じゃあいつら・・・
(うわ出たよ宴会用装備www)
(え?まだ残ってたんだあの使えない防具・・・)
(馬子にも衣装ねwww顔の野暮ったさも相まって最高にダサいわこっち見てwwww)
とか考えてそうだよな。
過去に似たような経験して辱めでも受けたのかな。
仕返しのつもりかいまだに残されてコッソリ売られてるなんて作った店のオヤジもいい迷惑だろうな。
まぁこっちは知ったことじゃないがな、げひひ。
しっかし今回もうまい事売りつけることができたゲスね。
あ、直接売ったのは他の協力者Aさんですよ?
いまだにあの鎧にまつわる伝説(笑)を知らないなんて、とてつもなく耳の遅い冒険者もいるもんですねぇ。
それなら次は伝説()の剣『ドラゴンクラッカー』も使ってもらおうよ?
「この剣は君にこそ相応しい・・・」
なーんてな、ひーひひ。
ようやくみんなの玩具だってばれた後は警戒されるから、次は少しはまともな装備を協力者Bさんが売る手はずなのでスが、
それも設計ミスで不具合が出るみたいなんでゲス・・・。
まあそこまで致命的な欠陥ではないのでスがね、
彼が立派な冒険者に育つまで何回鎧がキャストオフされて修理に出されるか分かったものじゃないんでゲスよ、ぐひひ。
それまでに彼が街で突然鎧が壊れて、下半身の露出をした罪で捕まらなければ良いナァ。
主に修理に来る金づるがいなくなるという意味で。
まあそのときゃお互い運がなかったということで諦めて別の大間抜け探して遊ぼうかのぉ。
しっかし、協力者の皆様方、過去に自分も被害受けているのに、みんな偉く笑顔で協力してくれるなぁ。
わざわざ自分を陥れた状況を再現して観察して楽しむなんて、
そんな自分の傷口をえぐる真似、俺には理解できないね。
死なば諸共って感じ?
いっそ被害者が過半数を上回り時代の最先端を切り開く時代も・・・嫌だな。
そうなる前に笑い死ぬか、街を出てるかだな。
「おっちゃん、そこの鶏皮のタレとモモの塩をくれ」
「あいよ、80インセントな」
まぁそんなふざけた時代が来るなんて考えられないけどさ。
ってしょっぱいな!
一体どういう味付けしてんだ、このタレは。
とりあえず塩の方は普通に食べれるな。
塩より塩辛いタレなんてトンデモネェやつだ。
砂糖と塩を間違えて作ってんじゃねぇか?
ドジっ子かよ、全く。おっさんのドジっ子属性なんざ需要あんのかよ。
タレの方は適当に「ぽい」しとけ、ッペッペ。
あらやだまぁ、乞食がハイエナみたく、ポイ捨てしたお肉に群がっちゃって・・・。
何時もゴミ掃除ご苦労なことで。
相変わらずゴミ箱いらずで助かるナァ。
そんな感じで屋台を練り歩き、買った食事を時折、面白半分でぽいぽいしてると
「よぉコシヌケ冒険者殿、景気はいかがかな?」と
なんかワルっぽい冒険者サマに絡まれるのでしたとさ。
おしまい。
「えーと、あんた誰?」
「おいおいおい、俺の名前も知らないとあっちゃ、いよいよこいつは重症だなぁ。
お前みたいなオツムが弱い冒険者が『二つ名持ち』とあっちゃあ、周りの連中も節穴と来たもんだ。
さっさとオメェみたいなやつは掃除して・・・」
ふーん。
あらやだ、このパンケーキはすごくおいしいわ!
ついさっき角曲がる前に立ち寄った綺麗なお姉さんのお店だったわね。
帰りもよらなくちゃ!
ふふふ~ん♪
「・・・で俺がオメェに代わってこの町で最も名高い冒険者に…って聞いてんのかよ?!」
「やあねぇ坊ちゃん、そんなに煽てても何も出ないわよ、でも特別にオマケしてあげるわね」
「いやいやそんなつもりじゃ、でももらっておきますね。オネエサン」
「あらもう!この子ったら」
「「あはははは」」
「・・・」
いやぁ、野菜があまりにも瑞々しかったからさ、思わず沢山買っちまったよ。
とりあえずスープにしたり、炒めたりで手を変えて今晩はサラダパーティだな。
この前作ったマヨネーズ、まだあったかな?ポテサラ食べたいんだわ。
たまにはヘルシーな食事がいいもんねぇ。
帰って準備しておかなくちゃ!
「おいテメェ、俺を無視して逃走とはいい度胸じゃねぇか」
「ん?いやさっきから煩いけどアンタ誰、どこのどちら様??」
「だから―」
「あっといけない、忘れるところだった!」
― チャリンチャリーン
とドアの鈴がなり、目についたお店の中へ突撃かます。
「あっ、そこの美人のお姉さん!ここのパンケーキ美味しかったですよ。
味見のつもりが思わずペロリと二つとも平らげちゃって晩のおやつが無くなっちゃいましたよ」
「あらそう?あれは少し手も込んでて自信作だったの。そう言ってくれるとうれしいわ」
「また買いに来ますね。結構売り切れたりもするんですか?」
「そうね、自慢じゃないけれどうちのお店は人気店だから
天気の良い週末とかは方々からお客さんがきて品切れになることも多いの。
出来るだけ多くのお客さんに食べてもらいたいけれど、作れる数にも限界があるから
欲しい人は朝早くから並んで買っていくのよ。
だから売り切れていたらごめんなさいね」
「そうなんですか、それは良いことが聞けましたよ。
僕もお姉さんには早く会いたいですから、一番早くに並んでおきたいですねぇ」
「まあまあ、お世辞がうまいんだから」
「いやいやお世辞ではないのですが…まぁまた近いうちに来ますよ」
「はーい、またいらっしゃい」
「・・・」
さーて、明日は朝一でお店の前でスタンバっておいて…って案内見た感じ開店時刻はお昼前かよ!
仕込みとかもあるし大変なんだろなぁ。
それでも朝から並んでまで買っていくなんて余程の人気ぶりと伺える。
さっきは運よく売り切れ前に買えたんだなぁ、危なかった。
他にもおいしそうなパン類もあったからラインナップも確認しておきてーな。
さーて、帰って飯の支度を「きゃぁああああ ―」
― ドンガラがっしゃーん!
おいおい騒々しいなぁ、いったい如何した…て、おいおいおい。
えー、お店でなにやら強盗が暴れております。
どうしてワタクシが呑気に会話を楽しんでいる最中に強盗が押しかけて来るのでしょうか?
すこしタイミングが悪いですよ、まったく。
どうせやるなら俺がいないときにやっておくれ、面倒だなぁ。
「くそ、コンチクショウ!
さっきから、この俺を、無視しやがって、クソ、クソッ!」
しかもわけのわからん事ぼやきながら暴れまわってるし。
お姉さんのストーカーさんかな?
玩具を買って貰えなかったガキじゃあるまいし、
自分がモテないからって、店ん中で暴れまわるなよ、みっともない。
みろよ、お姉さん、さっきから青い顔して唖然とした表情のまま固まっちゃってんぜ。
可愛そうに、陳列棚を片っ端から雑に潰して部材の破片が散らばってさ。
ガラスが散らばり、木の破片が散乱し、燭台は折れ。
あんだけ丁寧に皿に盛り付けされたパンも、雰囲気よく置かれたテーブルも、みんなおじゃんになってゆく。
あーあ、せっかくの人気店だって言ってたのに。これじゃ誰も買いに来れないよ。
お姉さん泣いちゃうだろなぁ。
仕方ない、一肌脱ぐか。
「ちょっとちょっとそこのオッサンさあ、何で人のお店で暴れちゃってるわけ?
ストーカーは止めといた方が身の為だと思うぜ?」
「ようやく人の話を聞くようになったじゃねえか、カスが。
だがイチイチ俺に指図してんじゃねえよ、いいか!俺はなぁ―」
「ああ良い言うな、どうせ八つ当たりとか逆恨みとか、そう言った類の話をしたいんだろう?
もう俺はその手の話は全部聞き飽きている。他所でやってくれ」
「うっせぇ黙れ殺すぞ!
いいか、俺はお前みたいな半端者が上の連中のすることに首突っ込んで自爆してくるお陰で
他の三級まで軽んじられる現状「そうですか、大変でしたわね~」―ッ!」
「・・・」
「・・・」
「で、用件は?」
「じゃあ死ね!」
はい、街中での抜剣はギルドの規定違反な~。
よって正当防衛成立。
「ヴァルナさんが以下略な【水塊】」
とりあえず水の中の牢獄でおとなしくしましょうねぇ~。
「覚ごぉわぁ!!?」
こうして目の前の不審者さんは無事水の中で存分に暴れまわることができるようになったのでしたとさ。
俺ってば親切ぅ!
「お嬢さん、怪我はございませんか」
「え、ええ。
どうもありがとうございます・・・お強いんですね」
「ははは。
実は私、魔道の心得がありましてね。
大したものでは御座いませんがこれくらいでしたら」
「まあ、そんなんですか
ところでさっきの方はお知合いですか」
「いえいえ、とんでもございません。
あのような乱暴者たちとは縁の無いものでしたが、
どうやら今回は彼方が一方的に私へ因縁をつけて来たようなのです。
申し訳ございません、私が不甲斐ないばかりに貴方様にご迷惑をおかけして仕舞いました。
こちらは私からの謝罪の気持ちです、どうぞ受け取ってください」
そして俺は懐から小切手を取り出し、百万インセントほど寄贈を行うのだ。
「あの、ちが…私そんなつもりじゃ」
「いえいえ、良いのです
暫くは大変でしょうが、どうかそのお金を足しにまた素敵なパン屋を再開してください。
またあのおいしいパンケーキが食べられなくなったら、私も辛いですから」
「そんな…こんなに頂けません」
「良いのです、しがない独り身の商人ですから
頑張れば直ぐに溜まるのです。
でもどうしてもと仰るのでしたら、今度私の為にお菓子などを焼いて頂けると嬉しいです」
街ではとりあえず商人って言っておくことにしてるんだ。
ついでに言うと、新米冒険者を華やかに彩り(笑)プロデュースさせる企画者でもある。
そいつらから適当に巻き上げておいたお金だから心配いらないのです、ふふふ。
「でも、やっぱり、でも」
「お姉さん、すべては私がそうしたいから行っている我儘なのです。
お気にされなくて結構ですよ」
「あ・・・はい」
「もう少しこのまま待っておけば、もうじき騒ぎを聞きつけた騎士団の方々が来られるでしょうから、それまでお待ちになっていてください」
さーて、水責めの最中のゴキブリの状態は?っと。
必死になって手を伸ばしちゃってさ、よっぽどお気に召したらしい
うぇひひ、ハシャイジャッテ♪
「がぼがぼがぼ」
え、なに?
キコエナーイ
「モガモガ」
おやぁ?必死に首を抑えてジタバタしているぞ??
そーかそーか、楽しいかー楽しいのか!
んじゃ、おちょくるのはこのくらいにしておいてーっと。
【渇塊】
すると不審な男性を包んでた水の塊は形をなくし、男が地面に叩きつけられるのだが
ここで重要なポイント!
不審者から滲み出たエキスが荒らされた店内に染み渡り、この店をこの上なく穢してしまうことがないようにしておきましょう。
魔法で生み出した水は敢えて魔法で消しておくといいのだ。
配慮が利いてて憎いねコイツゥ!
これにて『ドキッ?漢一人だけの水泳大会!!』は閉幕ッ!
陸に打ち上げられた魚のような選手は速やかに場外へ退場をしてください。
「ほらーもしもしぃ~、聞こえてますかぁ??
おーい」
「ハァハァハァ…し、死ぬかと思った」
「鼻息荒くしてるんじゃねぇよ変態が
迷惑だから外へ出ろ、じゃなければもう一回泳げ!」
「ひ、ひぃぃぃぃい!!」
おいおいおい、誰が逃げていいと言ったんだ?
【液状の古城】
あっ!
いけね、無詠唱は規定で禁止されてるんだった。
まあバレなきゃええかのぉ。
ほーい、足元ジャブーン
足絡めてバターン
ついでにズボンがズルーンだなんて、
そんな芸人魂は今発揮しなくてもよいのにねぇ・・・。
「う・・・うぅ。
畜生、こんな・・・こんな捕獲依頼もまともにこなせないような奴なんかに・・・ううぅ」
なんだよ、しかも泣いちゃってるよぉ。
情けないったらありゃしねぇ。
「『ラプラス』も『ラスターク』も帰ってこない中なんでお前だけが帰ってんだよ・・・グス
どうせまた汚い手でも使ったんだ・・・うう、卑怯なヤツ・・・姑息なヤツ・・・。
誰だよ、『コシヌケ』って言った奴、無茶苦茶つえーじゃねぇか。
ちゃんと、真正面から剣で尋常な勝負をしてくれよ、じゃないと勝てねぇよ・・・」
はぁ?なにいってんだ、こいつ??
何で俺がお前の日々の研鑽の成果を十分に確認して相手する必要があるんだ?
てか剣なら勝てるなんて愉快な妄想はどこから現れた?
さてはコイツ騎士崩れかな、かなぁ?
真正面から尋常になんて馬鹿みたいな戦い方、あの馬鹿共しか出来ねぇよな?
余計に面倒くさいなオマエ。
つか、元騎士なら市民に迷惑かけんじゃねぇ。
本当ろくでもねぇ奴しかいねぇな、騎士団。
― あ、あそこです!
― ナンダ、ナンダ?
なんだか野次馬も増えて来たし、騒がしくなってきたな。
あーあー普段は一般人Aで通して来てるのに、これじゃあ目立って仕方がない。
面倒だなぁ・・・新しい変装手段も考えておかないとな。
「それではお姉さん、お達者で」
「ああ!お、お名前を!」
「これはこれは、申し遅れました。
私は商業区の名もなき露店の、しがない細工屋を営業する、ドルフ・サイヴァリアと申します。
以後、お見知りおきを」
そして右手を胸に、左の手と足を後ろに、優雅なる一礼を。
騎士団顔負けな紳士っぷりだな、俺。
「それでは御機嫌よう」
「あ・・・はい
また待ってますから、待ってますから!!」
騎士団とは関わり合いたくないからな、逃げるように後にしちまったぜ。
また一人レディーを恋に落としちまったかな?
だが残念だ、俺が俺の姿で今後街に現れるかは非常に怪しくなってきたな。
なにせ最近無駄に悪目立ちしてしまっている。
懐からキャップを取り出し、目深く被り人込みを歩く。
騎士団とすれ違ったが、冒険者のときの恰好とは違い、そこらへんの住民と大差ない服装だからなぁ。
どうやらヤツら、俺に気が付かず現場に向かったようだ、危ない危ない・・・
って、なに騎士団に目を付けられんのが当たり前になっちまってんだ?おれは。
やれやれだぜ、こればっかりは冒険者の自己顕示欲高そうな鎧自慢の街歩きが上手く隠れ蓑になって助かるぜ、全く。
あー、せっかくお近づきになれると思ったのに。
街のしがない細工職人、ドルフ・サイヴァリアねぇ・・・。
だが結局、それも仮の名前、仮の姿だ。
幾ら面倒起こしてもこちらは痛くも痒くもないよ、下手に捕まらない限りはな。
面倒に巻き込まれる要なら、また新しい姿で新しく生活を始めるだけだ。
それまでにこの名前、この恰好があと一度必要になるだけだしさ。
大した問題じゃないよ。
帝との約束の日もそろそろだな。
ブツも手に入ったし、本格的に新しい人生を始めてもいいかもしれないね。
それまで適当に冒険者ごっこも続けるかなぁー。
まぁ別に好みのタイプでは無かったからいいけどさ。
とりあえず騎士団がちゃんと仕事してるかだけ見ておくか。
先ほどの、街路の曲がり角付近に場所を構えている荒れたパン屋を適当な建物の屋上から見下ろす。
誰かさんは中々泥沼から脱出できていないようで、頑張って騎士団が引っ張りあげようとしてるね!
ぷぷぷ、やったぜ!精々頑張って抜け出しな!!
まっ、お前らの実力じゃ、もうしばらくは無理だろうけどな、くけけ。
姉さんもだいぶ落ち着きを取り戻したのか、毅然とした表情で騎士の質疑応答てきなのに応じている。
あ、しまった。なんで俺は不用意に名乗りを上げてしまったんだ!
状況に呑まれて注目を浴びる可能性を作るとは、うっかりだぜ。
いいか別に、どうせもう必要ない名前だしな。
精々存在しない男の名前を追い求めて無駄な苦労をしておいてくれ。
んじゃ、無事も確認できたし、さっさと晩飯の支度を・・・何ッ!?
突如飛来する刀剣
身をひるがえして交わす彼の前に姿を現した謎の人物とは?
次回「ドルフ・サイヴァリア死す」。
この次も、サービス、サービスゥ!
がしかーし、あえてここでフラグを構築すると、逆に何故か死ににくくなる説を信仰する俺にとって
これくらいの奇襲に対応するのは朝飯前もとい晩飯前なのであった。
「ヴァルナ!は…以下省略【水塊】」
「虚ろな月影、陽光を前にかき消され!【閃光の旋律】」
いッ!?省略詠唱ッだと・・・
突如俺を襲おうとしていた謎の人影は、自らを包み込むようにして発現された水の塊を前にして
まさかの光属性の魔法を発現した!
俺が生み出した水は彼女を覆い尽くすことなく、それどころか辺り一面にまき散らされて効力を発揮することがありませんでしたとさ・・・。
いやしっかし、まさか俺以外に省略詠唱使える奴がいたなんてなあ。
別にできるなら詠唱が無い方が便利だから、詠唱省略ぐらい使える奴がいてもおかしくないがな。
がーしかし・・・一般人はイマジネーションに乏しいから如何しても長くなりがちだが、
果てさてお前、いったい何者だ?
「探したわぁアキラ
苦労したのよ、ご自慢の水と土の融合魔法を使った擬態のせいで。
外見情報は当てにならないから頑張って魔力の波動を辿って行って探して探して・・・。
本当、大変だったんだから。
ま、そのメッキも直ぐに剥がしてあげるけど」
「チッ、その声エミリか!」
「それ以外の誰かに見えたんなら勘違いしたまま捕まっておしまい ―くッ」
「おとなしく斬られとけよ」
「何よ、ずいぶんとご挨拶じゃない」
レンガ造りの建物の
高さ4階ぐらいの建物の屋上で二人
剣と盾がぶつかり合う。
「ち、街中で騒ぎを起こす気かクソ女!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。
私はただ暴れる貴方から身を守っているだけですもの」
「ほざけ!さっさと地獄に落ちろ【地淵に続く楽園】」
するとどうだろう。
彼らが立っていた建物は前触れもなく崩れ始めた。
「あらあら、先ほどまで街の被害を気にしていた人間とは思えないほどの残虐っぷりね」
「お前にだけは言われたくないよ、外道め」
落下の最中でも戦いは続く。
剣を振り、盾で流し、
崩れゆく瓦礫を踏みつけもう一度…
しかし剣は空振り、顔面に盾が直撃する。
「っちぃ」
「ははは、無様ね
地面に叩きつぶられるのは貴方の方だったかしら」
建物が崩壊してもなお、沈降は収まらない
周囲十数メートルほどを巻き込んで、なおも大地の沈降は続いてゆく。
「そう思うのならそうなんだろうな、お前の中では…な!
【邂逅に沈む海淵】」
しかし、でも、二人が地表に到達するよりも前に掘り下げられた大地は溢れ出した水によって満たされた。
二人は水中へと沈みゆく。
それでなお戦うことを止めない。
先攻は少年が放った
【激流槽】
その攻撃は、何の抵抗も受けなければエミリと呼ばれた女をミキサーにかけたヒヨコの様にグズグズの挽き肉にしてしまえただろう。
何の抵抗も受けなければ、だが。
【光輝散乱】
彼女からまばゆい光が放たれ、そして―
「って、えええええ!?
おいおい無茶苦茶すぎるだろ!」
およそ深さ15メートル
幅直径12メートルほど沈降し、その全てをなみなみに満たしていた水が、
全 て
穴の底から壁面に沿って垂直に打ち上げられて、
空の彼方に消え失せてしまった。
いや、今なお地底より噴き出し続ける水をまき上げていることから、それも彼方に消し飛ばし続けて
いるといった方がいいだろう。
ザァザァと
水が空に昇ってゆく音が聞こえる。
兎に角
穴の底で沸いた、その全ての水が容赦なく空高く打ち上げられ、そして雨となって降り注ぐ。
「うっへぇ・・・なんだよ、無駄骨じゃん、魔力の無駄遣いじゃん。
ズリーよ、ダリーよ、面倒くさいよ本当・・・頼むから俺に関わらないでくれよ」
「だめよ。だって逃げちゃうでしょう貴方?」
「いや、全くもってその通りなんだけど本当」
「それじゃあ、ちゃんと捕まえなきゃね」
「いやだね、誰が大人しく捕まってやるもんですかってんだ!
【霧散霧消】」
「今更目隠しなんて・・・ねッ!」
少年は自らが生み出した水を瞬く間に霧へとかえ、その間に彼女は盾で殴り、
少年を穴の底にできた絶壁へと叩きつけた。
「ッ!―」
「あらあら、私の輝かしい光の力で貴方の汚らわしい嘘で塗り固められたメッキが剥がれて来たわね
あなたの本当の素顔、私はとても好きよ?
弱くて、儚くて、苦痛に歪む表情はとっても綺麗だもん・・・とても苛め甲斐があるわよ、ふふふ!」
「・・・うるせえよサディストめ」
「まあ可愛い、興奮しちゃうわ」
盾は振りかざされ
叩きつけられ
また振りかざされ
叩きつけられた。
そのたびに少年の皮膚は剥がれ落ち・・・いや、
よく見ればそれが人の角質でないことがよくわかる。
崩れ落ちたその肌はやがて形を失い、ただの土塊へと姿を変える。
「アハハハハハ!
良い表情よ!
そうよ、そう・・・もっとその顔を見せなさい!」
叩きつけられ
叩きつけられ
叩きつけられ。
ただ無抵抗に、
ただ無慈悲に
無気力なその体を痛みに捧げるかのように。
「いいわね、そろそろ全部剥がれる頃合いかし・・・らッ!」
十字の盾は少年の顔を叩きつけ、少年の顔はついに崩れおち、そして…
「…………かし彼の者が光の使者に拝謁を賜ることはなかった」
「へぇ、差し詰め『変わり身を立てた』ってところかしら
やるじゃない
危うくまんまと騙されるところだったわ」
「なぜなら彼の持つ指針の先に示す光は別のところを指しており、彼は自分が回りとは異なることを深く理解していたからだ」
「まあどのみちその体たらくじゃ長くは持ち応えられないでしょうね、ええ。
でも安心なさい、あとの面倒はちゃんと私が見てアゲル・・・」
「その指針の向く先は雲を走る幕電、雲海を駆ける天馬
神々の大地から落ちる一筋の雷光は空を割き、
天と地の双方の地面を割り、
いずれ光の使者すら射殺す雷光を穿つ―」
彼女は漫然とした動作でゆったりと歩いた。
「だからこそ彼はその身に生やした翼を塗り固め―」
「そうね、じゃあもうお休みなさい」
そうして女は、詠唱を続ける少年を待たずして、容赦なく顔面をその盾で殴り飛ばし…
― !?
耐えきられた?
「ッ…空へ高く羽ばたかなければ成らなかった―【先駆者を待つ燐光】!」
再度盾を振りあげようとするその瞬間。
落下する雷光は穴の底の中心点で、いつの間にか突き立てられていた剣の柄へ、両者の間へと落下した。
紫電は視界を埋め尽くした。
轟音は聴覚を奪った。
衝撃と振動は両者を吹き飛ばし、感覚を麻痺させた。
そして静寂が訪れた。
「・・・いてぇ」
耳が聞こえねぇ。
視界が半分焼けて、もう半分もチカチカしやがる…両目を塞いでこれか。
全くもって厄介極まりない状況だな。
おまけに体も少し痺れる。
慣れない真似をするもんじゃねぇな。
「ふーん、やってくれるじゃない。
まさか貴方が雷属性を使えるだなんて、適正はなかった筈だけど、びっくりだわ
少しだけ褒めてあげるわ」
「嘘つけ、大して効いてないくせして」
「そうね、でも少し効いたわ
それに一度本気で殴ったつもりが耐えきられたし…やっぱり驚いてるのね、私。
成長したわ、貴方」
へぇそうかい。
それに比べりゃこちらはどうだい?
ボロボロじゃないかい?
ああ、情けねぇなあ。
大体『水』と『地』だと『雷』と相性最悪だしな。
「ま、貴方がなんで雷を使えて、それを使ったのかは知らないけど
兎に角これで最後」
「そりゃあイマジネーションがなせる力だろう、案外やってみればできるもんだな?
それより何か気が付かないか?気を付けた方がいいぜ??」
「ま、何を言い出すかと思えば―ッ?!」
ヒャフー、やったぜ大当たりだ!
良い働きだ、『麒麟』ちゃん。
さーて、このまま乗っかって大空まで逃げ出すとするか…よっと
ありゃ?はは…ふらふらじゃないか。
がーしかーし、ここで立ち上がらずしていつ立ち上がるというのか!
さあ、振り絞れ俺、頑張れ俺!
なんとか紫電を放つ雷獣へとまたがるが、少しピリピリするよね。
少しの辛抱だ、こらえるんだ俺よ・・・。
「―ッ、逃がさないわよ!!」
おーっと、またしても俺の前に立ちふさがるのかオマエ
しかし頑丈なモンだなぁ。
吃驚するほど助走つけてから頭を蹄で蹴り飛ばされたんだぜ、おい
少しぐらいゆっくり眠っておくれよ、全く。
光の玉が背後から襲い掛かってくるが、甘い甘い。
右に左に避けて避けてっと。
よっしゃーッ脱走だァ…っておいおい。
なんでついてこれんだよぉ
光の翼とか卑怯臭くね?
「甘いわねアキラ、それぐらいで私から逃げようだなんて思わないで…って!?」
「フハハハハ…ばぁーかめぇ!
空に稲妻が走っている限り、コイツの走りは誰にも妨げられん!
行くぞ相棒!」
宙を疾駆する稲妻は主を乗せ、追っ手を置き去りにして駆け抜ける。
幕電は強さを増してゆき、そして―
「ふははははー、さらばだクソ女
ついでに行きがけの駄賃だ、受け取れ擬似・【間隙を別つ雷撃】"ってなぁ!」
それは地上を消し飛ばすのではないかと思えるぐらいの、容赦のない一撃だったね!
今度こそ追っては来られないだろう、さーて、あいつがいる前じゃ使えなかったがこれで俺のトッテオキが発動できるわけだ。
大変だったね、まさか何処でも行ける俺が何処かに逃げる為に大空まで避難するハメに成ろうとは…。
ち、そろそろ限界か?
こりゃ本格的にお寝んねの時間を迎えちまいそうだ。
早く道を繋いで…
今逃げても大丈夫な領域は…
ああ、なんてこった!
帝との約束のブツをもらった時に全部潰してやり変えたんだった!
て、ことは。
おいおいおい、よりによって60層の『スナノセカイ』だけかよ!
準備整えてそのうち行こうかなって、面倒くさがって放置してたのが仇になったぜ。
こんな状態になる位だったら、さっさと行っておけば良かったぜ。
しかもあそこ、たぶん凄い面倒な状況だろうだ。
ああ~、頭いてぇ。
宙を駆ける紫電の馬は、ぽっかりと、不自然に丸く開いた雲の無い狭間へと足を踏み入れて
そこに跨った少年ごと姿を消し去った―




