8.ひみちゅの練習場です
はい、メイドに弱みを握られた三歳児こと、アーサー君です。
そんな訳でリーラに連れられて庭を、てくてく歩いています。
領主館は町を見下ろす高台に立てられてます。
利便性考えろよって感じもしますが、わりとこの静かな環境は嫌いじゃないです。住めば都ですね。
もう少し領主館の敷地について説明しましょう。
港町を中心とした一番栄えている都市が小さな湾に、広がるように作られています。
北側にむけて少しづつ標高が高くなっておりまして、丘というか山間部が広がってるんです。
その中腹にある少しなだらかな場所を拓いて、領主館が立てられたらしいです。
おかげで領主館の周辺は草地があり、少し歩けば森あり崖あり山ありと、変化に富んだ地形になっておりますです。
それに中途半端に開拓したせいか、草地の周辺に変な岩場やら、奇妙に残された林とかなんか面白い地形があるんですよ。
まあ、そういった地形はどちらかと言えば、領主館の裏手に広がってるんですけどね。
やっぱり体面とかあるんじゃないでしょうか?正面はわりと小奇麗に作ってありますね。
イメージ的にはゴルフ場みたいな感じ?
そんなこんなで、裏庭を仲良く歩いて本館から少し離れた林の陰に回りこみました。
するとそこはきれいな池と小さな森がある、どこか静かな雰囲気のする場所でした。
サラサラ流れる小川が池に流れこんで、何か魚も泳いでますね。
周囲に目を向けてみれば、なるほど先ほど回りこんだ林が、うまい具合に目隠しになって本館からは見えないようになってます。
「おお、こんな場所が裏庭にあったのかー」
マイナスイオンがバシバシ出てそうな空気を堪能しながらそう言うと、リーラが少し得意気に胸を張ります。
「アーサー様、どうですか?ここは、私のとっておきの場所なのです!」
なぜにメイドであるリーラに、とっておきの場所があるかは謎だが、まあここならば魔法の練習にはうってつけだ。
「うん、ここなら練習に集中できそう。リーラ、ありがとうね」
そう言うと、リーラはニッコリと微笑んで表情だけで『どういたしまして』と伝えてくれる。
このへんは生まれた時からの付き合いだから、わりと言葉にしなくても伝わるね。
さて、いい練習場所が見つかったからには、早速魔法の練習をしてみましょう。
おっと、その前にステータスを出しておきますね。
アーサー・セルウィン (3歳)
体力 :24/24
魔力 :71/71
攻撃力 :8
防御力 :6
素早さ :11
状態 :通常
スキル :風魔法(初級) 火魔法(初級) 水魔法(初級) 聖属性魔法(初級) 無属性魔法(中級)
真理の目 限界突破 記憶の泉
功罪、称号: 聖杯を受けし者 女神の祝福
っと、こんな感じなのですが地味にステータスが増えています。
でもこれは、成長によるものなのかチートなのか、はたまた魔法の練習が効いているのかいまいちハッキリしません。
まあ、これから徐々に体を動かして、魔法を練習していけば変化がわかると思います。
無属性に関しては毎日寝る前に限界まで練っていたので、今ではすっかり中級までランクアップしています。
「リーラはどうする?ここで練習するの見てる?それとも屋敷に戻る?」
「う~ん、いま戻ると確実にお母様からお小言を食らうので、見ていてもいいですか?」
「うん、いいよ……でも……」
「はいはい、みんなには内緒ですね」
少し苦笑しながら、かぶせ気味に答えたリーラに、俺は大きく頷いて『よろしい』と表情で返す。
以心伝心ってやつですな。
さてさて、魔法の練習と言っても特に何をするかは決めていなかった。
ここで魔力を枯渇させて寝落ちしたら、リーラに迷惑がかかるのでここはひとつ魔法のバリエーションや発動を練習するとしましょう。
ふむ、まずは今覚えている属性の使用法について、ひと通り練習してみよう。
まずはいつもの要領で魔力を集めると、火魔法をイメージする。
三才児の手のひらに炎が宿りましたよ。魔法発言させた自分が言うのもアレだけど、すんげーシュールな絵面だな。
ここで火事になっても怖いので、ちょっと先にある斜面に狙いを定めると、火の玉を撃ち出した。
ブン!って感じで軽い反動を残しながら、火の玉は目で追えるぐらいの速度で土手に着弾しました。
その瞬間、ブワッと火の玉が崩れて、一メートル四方ぐらいに炎が広がった。
うん、すげーかっこいい!
「おおお、ファイヤーボールですね~」
なにか見せ物でも見物するかのごとく、後ろで見学していたリーラがそんな声を上げる。
まあ、ここまでは普通だよな。書庫にあった『サルでも分かる魔法入門』にもバッチリ書いてあるからね。
この世界の魔法は少し変わってて、たとえば火魔法ならいかに大きな火の玉を出せるかという、火力偏重主義なんだよね。
だから多種多様な魔法の種類や攻撃手法なんかは、あんまり発達してないみたい。
本によれば、このままファイヤーボールの大きさをどのようにして大きくしていくかに、魔法使いの才能と技量が試されるなんて書いてあった。
このままファイヤーボールを発達させていけば、上位魔法のファイヤーウォールとか、火炎放射器ばりのファイヤースネークが使えるようになるらしい。
ふむん、とりあえず込めた魔力はほんの少しなんで、今の魔力量でもこの程度の魔法なら2~30発撃っても問題がないな。
今日は初日だから、まず全種類の魔法について試してみよう。
同じように魔力を集めると、今度は風のイメージを魔力に込める。
おっ、なんか魔力じゃなくて何か陽炎みたいのが手のひらに集まってるな。
同じようにうち出してみれば、速度も変わらず土手に着弾して少し土手の土がえぐれたみたいだ。
これなんて空○砲?
風魔法の上位は、トルネードウォールとか、ストームアタックとかそんなのがあるらしい。
さて、次は水魔法だな。
魔力を集めると、次第に手のひらに水が集まってくる。この水どっから来てるの?
なんか、イメージ的には無重力空間で、水を集めた感じに近いかな?
同じように射出すると、空気砲よりすこし小さいくらいのへこみが出来て、周囲に水が飛び散った。
まあ、こんなもんか。
ひと通り、初級魔法の試し撃ちが終わってから、ふと後ろが静かだなと思い振り返ってみる。
すると、リーラが口半開きでポカーンと放心してました。
あっ、まずった…… 集中してたら、ついつい色々と試してしまった。
生活魔法は別として属性魔法は大体ひとつか、多くて三種類くらいの魔法しか使えないんだった。
えーい、面倒だがここは、常識を知らないって設定でひとつ乗り切ろう。
「リーラ、どうしたの?」
「はっ! 放心してました。アーサー様! トリプルって、王国でも数えるぐらいしかいない、凄いことなんですよ!」
「そうなの?」
「ええ、トリプルならば平民でも王国に召し抱えられるか、冒険者として大成できます。
貴族ならば間違いなく王家の覚えめがでたくなり、重用されるレベルですよ!」
なんだか、リーラが我が事のように喜んでいるが、ちょっと実感ないな。
チートで貰ったせいもあるだろうが、この程度のことで喜ばれるとかなんか納得いかない。
「アーサー様、これ本当に内緒にしておくんですか? 領主様にお伝えすれば、とても喜ばれると思いますよ?」
「うーん、もう少し練習してからにするよ」
「そうですかぁ? 独学で魔法を発現できて、しかもトリプルって凄いことですよ?」
なんだか残念そうにそう言ったリーラにもう少し聞いてみれば、なんでも魔法を発言できるようになるのは早くて五歳ごろ。
それも才能がありそうな子を幼年魔法学校に通わせるか、魔法使いの家庭教師をつけて覚えさせるんだそうだ。
「三歳でしかも独学で魔法を発現できるなんて、私は聞いたこともないですよー」 だ、そうです。
やっちまいましたね。ええ、それも盛大に!
まあ、このチートもいつかはバレるでしょうから、それが早まったって事にしておくか。
「それじゃ、もう少し練習したいからよろしくね」
まだ魔力量にも余裕がありますので、もう少し練習しようと思います。
実は初級魔法の発現は、確認しただけでとくに驚きはしなかったけど、もうちょっと威力というか派手さと言うか……
物理法則ガン無視したような超絶魔法とか、せっかく転生したんだから憧れるじゃないですか。
さて、まずは水魔法です。
先程は水風船をぶつけた程度の威力だったわけですが、これを凝縮していきます。
もっともっと、ぎゅ~っと……
おっ?なんか、水の動きが硬くなってきましたよ。
密度なのかな?それとも分子の動きなのか?
せっかくなので、もう少し魔力を込めてみると水風船がピンポン球ぐらいの大きさになって、ピシピシ凍り始めました。
おお、圧縮すると凍るのかー!
何となく感覚でピンポン球の中まで凍ったのがわかったので、先ほどと同じ要領で土手に撃ち出します。
ドスン!
なんだか、すごい音がしました。
よく見れば30センチぐらい土手の中に氷の塊がめり込んでいます。
うん、これなら使えそうだな。
さて、お次は……
あれ?
リアクションを見ようと後ろを振り返ったら、リーラさんがさっきよりも、あんぐりと口を開けて真っ白になってますよ。
なんだか、そのままサラサラと崩れそうな状況なんですが……?
ナイスバディの美少女メイド枠だと思ってたリーラが、なんだかリアクション担当になっちゃってる。
「リーラ、大丈夫? どうしたの?」
俺の言葉でリーラは我に返って、口をワナワナさせてから爆発しました。
「なんなんですかー! あんな魔法見たことないですよーーーーー!」
リーラの絶叫で、チャプンと池の魚が一斉に岩陰に隠れちゃいました。
うん、またやっちゃったみたいです……