72.ミレーユは見た!
ふぅ……もふもふ、スッキリ!
いや~モフリストとしては、久々に戻ってきた愛猫を可愛がるのは、当然ですよね!
はい、兵士さんに渡した銀貨分の元を取るべく、モフり倒してスッキリしたアーサー君です。
俺はピクピクいっていたミレーユの縄をほどいて、テーブルに置かれている呼び鈴を鳴らします。
チリンと澄んだ音色が鳴りまして、ものすごい勢いでこちらに近づいてくる気配が、魔力探知に引っかかりました。
そして、数瞬の間を置いて例の敏腕メイドさんが、涼しい顔で部屋に入ってきます。
って、えっ?
あれだけの速度で移動しているのに、服装どころか髪の毛一筋、息のひとつも乱れていません。
……恐ろしいメイド!
「えっと、お茶と簡単な軽食をお願いします。できれば、魚系でお願いできますか?」
「……かしこまりました」
そう言ってパタンと扉を閉めて、そこからまた、ものすごい勢いで移動を開始したのが、魔力の移動で分かります。
うーむ、白鳥は水面下で必死に足を動かしているといいますが、メイドさんも見えない所で苦労しているんだと、思わぬ所で判明しましたね。
帰ったら、少しリーラを労ってあげましょうか。
「さて、ミレーユ。とりあえずはどこまでつかめたか、かいつまんで聞かせてくれ」
俺がそう言うと、ミレーユはヨロヨロと体を起こして、敏腕メイドさんと対照的に乱れまくった髪の毛を直します。
うん、ゴメン…… 俺がおもっくそ、撫でまわしましたからね。
「うにゃ~、ご主人様はひどいニャ! 兵士達に寄ってたかって拘束させて、それから自由の効かない私を、撫でくり回すニャンて……」
「失礼な。労をねぎらっただけだろう。簀巻きにされたのは、お前の自業自得だ」
「うにゃ~、まさかご主人様にこんな趣味があるとは、将来がとっても不安ニャ」
こいつ、本気で魔力紋に魔力を流してやろうかしら……
「それであの後、見逃した野郎はどこに向かった?」
いい加減、話が進まないので、俺はそう切り出すと、諦めた様子でミレーユが語り出します。
「フニャ~。 ノリの悪いご主人様ニャ…… あの後、逃げた男はどこかの納屋に移動して、夜になってから街に走ったニャ」
ふむふむ、なるほど。たしか、逃がした時にあの男は漏らしてましたからね。
ズボンを乾かしてからでなければ、街に入れなかったのかもしれません。
「それから、街の酒場に入って酒を飲んでから、仲介屋の所に向かったニャ」
っと、そこまで話したところで、再びノックが響きまして、メイドさんが入ってきます。
その手には銀のお盆が乗せられているんですが、それを持ったままあのスピードで移動とか、この人も相当人外かも……
そして、俺の前にはお茶、ミレーユの前には、魚の切り身を挟んだサンドイッチとお茶が出されました。
俺は礼を言ってから、しばらく人払いをお願いすると、メイドさんはポットごと置いて行ってくれました。
おかわり自由って事ですね。
俺はお茶を一口飲むと、ミレーユに話の続きを促します。
「それで仲介屋の先は、当然わかったんだよな?」
「ご主人様……ソニョ前に……ニャ」
ああ、ミレーユの顔を見れば、今にもよだれを垂らさんばかりに、サンドイッチを凝視しています。
おかしいな?たしか、必要経費として銀貨と銅貨を、渡したはずなんだけどなぁ?
もともとの食い意地なのか、本当に空腹なのか判別がつきませんね。
「ああ、食べながらでいい。その先を教えてくれ」
俺がそう言うと、シュバッ!っと、素早い動きでサンドイッチに手を伸ばし、ミレーユは大口を開けてかぶりつきます。
うん、嬉しそうに食べてますね。ほんとにミレーユの食いっぷりは、見ていて気持ちいいですわ。
「それで、仲介屋はやっぱり盗賊ギルドにつながっていたのか?」
俺がそう言うと、ミレーユは慌てて食べたせいか、苦しそうにお茶に手を伸ばして、それから悶え始めました。
うん?どうしたんだ?
あっ!そうか、猫舌か!
それほど熱いお茶だとは思いませんでしたが、猫人族には十分に熱かったらしく、水分をとれずにもがいております。
俺は空のグラスに水魔法で水を出してやり、ミレーユに差し出すと引っ掴むようにそれを受け取って、ごくごくと飲み下しました。
「はぁ……死ぬかと思ったニャ。
ウニャ、盗賊ギルドは盗みはしても強盗はやらないニャ!もし、盗みの先で人を傷つけたら、ギルド除名になるニャ」
なるほど、意外に盗賊ギルドって縛りがきついんですね。
俺が感心したようにしていると、ミレーユは残りのサンドイッチを口に運びながら、再び喋り出します。
「それで、仲介屋と会った男はそれっきり出てくる事はなかったニャ。たぶん始末されたニャ。
だから私は、そのまま仲介屋を見張ってたニャ」
ふむ、盗賊ギルドが関わっていないとすれば、仲介屋が依頼者に直接コンタクトを取る可能性が高いって事か。
スゴイ情報を期待していたわけではありませんが、ちゃんと考えて動いてくれたみたいですね。
そう考えると、普段の言動はアレですが、ミレーユって意外に良い拾い物だったかも。
「それで、仲介屋が接触した依頼者まで辿り着いたのか?」
「モグモグ……ニャ!」
咀嚼中のミレーユは、とりあえず頷いて返事をしてくれました。
「ふいぃ、ご主人様……おかわ……「情報を聞いてからだ」 ニャ!」
俺は絶対言われると思ってましたので、かぶせ気味にお預けを宣言します。
だって、話が進まないんだもの!
「ふニャ……、いぢわるニャ!
うぅ、仲介屋は次の日の昼になってから動き出して、ある商会に入って行ったニャ。
そのあとで、店の奥からガシャンて音が聞こえて、頭に傷をつけた仲介屋が出ていったニャ。
たぶん、その商会が依頼元だと思うニャ」
ふーむ、おそらく確定だとは思うのですが、証拠がありませんね。
これは色々と動いて、証拠を探さないといけません。
とりあえずは、仲介屋を消されたり、地下に潜られる前に、確保する必要があります。
「それで、その商会ってなんて名前だった?」
「え~っと、みゅ……ニャァ?ミジャー? たしか、そんな感じの名前だったかニャ?」
「……もしかしてミュアー商会?」
「ああ、たぶんそれニャ!」
おおぅ、ロイドさんの話題に出た商会の名前が出てきましたよ……
これは、あたり確定でしょうね。
「それで、今朝まで商会を見張ってたニャ。でも、出入りが多すぎて、そこから先はよくわからなかったニャ……」
そう言ってシュンとしてしまったミレーユは、耳がヘニャっと垂れています。
うん、ピンと立ってる耳もいいですが、垂れてる耳もそそられ……ゲフンゲフン!
「そこまで調べられたなら上出来だ。よくやったな!」
俺はそう言って、身を乗り出すとミレーユの頭を再び撫でてやり、それから呼び鈴を鳴らします。
「サンドイッチのおかわりと、それにダリルさんが練兵場にいると思うので、呼んできてもらえますか?」
「かしこまりました。サンドイッチは、先程と同じ量でよろしいですか?」
「……いや、少し多めにお願いします」
うん、横から刺さるような期待を込めた眼差しで見られたら、増量してあげたくなりますよね。
その視線を汲んで、さり気なく量を聞いてくれるメイドさんも、流石ですね。
「そういえば、今朝証拠を見張ってたら、面白いものを見たニャ!アレは爆笑モノだったニャ!」
ミレーユが、何かを思い出したようにポフポフと手を鳴らして、笑い話を思い出したのか喋り始めました。
「貴族の馬車が買い物に来たみたいだったニャ、だけど馬車から降りてきたのは、なんとトロールだったニャ!
トロールが豪華な服着て、偉そうに歩いてたニャ!
あれは傑作だったニャ!」
へ~っ、トロールの貴族ねぇ……
ん?この国って人外でも貴族になれるんだっけ?
それに、何か既視感があるような……
「なあ、ミレーユ、その貴族の紋章とか、覚えてないか?」
「ニャ?紋章って……何ニャ? 美味しいのかニャ?」
オーゥ、まさかそんな返しが帰ってくるとは、思いませんでした。
「いや、馬車の横に絵が書かれていただろう?それを覚えてないかな?」
「ウニャ?」
うん、時間ができたらミレーユにもう少し、社会の常識と勉強を教えることにしましょう……
とりあえず、俺は紙とペンを持ってミレーユに押し付けながら、そう心に誓いました。




