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59.ダリルさん スイッチオン!



はい、王都へ納品(けんじょう)に行くはずが、なぜか命のやりとりに直面中のアーサー君です。

これって、ダリルさんの引きの強さなのか、俺の日頃の行いなんでしょうか?


神様助けて! 


って、あの神様じゃねぇ……


やっぱり、自力で切り抜けるしかなさそうです。



しっかし、乗馬って気持ちいいですよね。視線は高くなるし早いし楽ちんだし。

今回の旅で、乗馬の楽しさに目覚めた気がしますよ。



……現在魔力強化を施して、絶賛自分の足で移動中なんですけどね。



ダリルさんから作戦を授けられたわけですが、その内容は割と簡単な内容でした。

それは、ダリルさんと俺に扮したミレーユが馬に跨がり、森に接近します。


それを見て相手が動き出せば、間違いなくこちらの敵として、俺が側面から片方の敵を攻撃して、ダリルさんがもう半分を受け持つというものです。


8才児に10人近い敵を丸投げするダリルさんもどうかと思いますが、今さら感満載なので、あえて触れませんでした。


だって……



「襲撃には関係なくて、俺達を見過ごして、他の獲物を狙ったら?」


という問いには、ダリルさんは当然のように……


「どうせ盗賊だろうから、ついでに潰す」


と、言ってのけました。ですよねー!



そんな訳で戦闘は確定事項のようですので、ちゃっちゃと移動しなければなりません。

俺の到着が遅れれば、ダリルさんとミレーユは挟撃を喰らってしまいます。


いや、そんな乱戦になった方が、ダリルさん喜ぶんじゃ……いや、やめておきましょう。

まだ幼い命を、無駄に散らしたくはありませんからね。



やっぱり、自分では落ち着いているつもりでも、テンションが高いというか、浮き足立っていますね。

麦畑の中で一度足を止めて、深呼吸をします。



深い呼吸を繰り返しながら、自問自答を繰り返します。


『興奮しているか?』 『……いや、頭は冴えている』


『怖いか?』 『怖くはない、と言えば嘘になるか』


『覚悟はいいか?』 『ああ、肚は決まった!』




「……アーサー・セルウィン、参る!」




俺は再び魔力強化を施して、麦畑の中を最速で突っ切ります。

水路の横に伸びた土手の横を、目立たないように通りぬけ、丘を左手に見ながら牧草地を駆け抜けました。


「……見えた!」



左手に見えていた丘の輪郭が移動するに連れて変化してき、その陰に隠れていた森が見えてきました。

身を低くしたまま、滑るように森の中に入ると立ち木の影に隠れて、片膝をつきます。

大きく一度呼吸をすれば、先程までの里山や畑とは違う、濃密な森の空気が肺に満ちていきます。


魔力探知の距離を前方に集中させて、方向を確かめれば11時の方向に多数の魔力を感じますね。

前世でさんざん山ごもりをやらされて、今世ではしょっちゅう大森林に分け入っていますから、森は俺の庭です。


地面に落ちた枝を折らないように、木々を揺らさぬように細心の注意を払いながら、反応があった方向へ進んでいきます。


あれ?反応がある方向とは少し離れていますが、探知の範囲ギリギリの所で、何かが引っかかった気がします。


正面の一団とはおよそ500メートル。

そしてミレーユの奴隷紋からの反応も、だんだん森へ近づいて来ました。


一度立ち止まってから少し集中して魔力探知を行うと、集団から少し離れた場所に、やはり少数の反応がありますね。


移動しながらや集中が乱れると、少し精度が甘くなるのが魔力探知の弱点ですね。


ミレーユの反応はまだ少し遠いですね。先に数が少ない方を確認してから、向かうとしましょう。


俺は少し方向を変えると、2~30メートルほど離れた場所に陣取る、少数の方へと移動していきました。



100メートルほど進んだ辺りで、視界に動くものが飛び込んできます。

木の影から片目だけ出して確認すれば、らかに3人の男達が確認できました。


そしてその手には、明らかに弓が握られていますね……



いや、おかしい……



これは、献上する刀を狙った物取りの犯行ではなく、本気で獲物を仕留めにかかっています。



疑問は尽きませんが、これでひとまず判った事が一つあります。


遠慮は必要なさそうです。



俺はロイドさん仕込みのスニーキング技術(隠密行動)で、弓を持つ男達へ接近していきます。



ノドがヒリついて、つばを飲むのも苦労します。

そして、呼吸や自分の心臓の音さえ邪魔に感じますが、何も考えずにまるで肉食獣のように、ジリジリと近づいていきます。



あと数メートルという所まで来て、俺は胸のケースからナイフを取り出しました。

そう、これが出発前に作っていた、例のブツです。


魔力強化で人間離れした腕力を生み出し、その威力をナイフに乗せて投擲します。


シュッ! っという一瞬の風切り音とともに、右端の男にナイフが深々と突き刺さります。

投擲と同時に、俺は残りの男達の懐に潜り込むと、小太刀を居合で一閃させました。


エルモさんに感謝しなきゃいけませんね。リーチの差を考えれば、これが脇差しだったら、もう少し接近しないといけなかったんですよ。


そして、このオリハルコンの小太刀は、まるで空振りをしたのかと錯覚するほどに軽い振り抜きで、その恐ろしい切れ味に、背中が一瞬だけゾクッとします。

ですが柄を通して伝わる手応えは、間違いなく2人の首を刎ねた感触を、生々しいほどに感じさせられました。


一呼吸、いやふた呼吸も置いてから、斬られた男達の首がゆっくりとズレていきます。


そこへ最初に投げナイフを後頭部に投擲した男の体が倒れかかり、3人がまとめて静かに倒れました。



コロリと首が転がり、少しだけ草が揺れましたが、それ以外にはいっさい無音のまま、最大の驚異だった弓持ちを、なんとか排除出来ました。


軽く息を吐いてから、改めて探知魔法を飛ばせば、後はそれらしい伏兵は見当たりません。


安心したのもつかの間、ふと見ればダリルさんとミレーユを乗せた馬が、すでに森の入口まで差し掛かっています。



どうやら、一休みしている時間はなさそうですね。



幸い弓持ちが隠れていた場所は、見通しがよく街道を見渡せる位置だったので、この場所で相手の出方を見定めます。

予定だと、ここで相手の出方を伺い、それから攻撃の手はずになっていたのですが……



ん?気のせいですかね?

馬上には、ミレーユの姿しか見えないような気がします……


あれ?ダリルさんどこ行った?さっき見た時は、間違いなく2人だったのに?



『ギャーッ』 『なんだ、コイツどこから現れた!』 『いったいどうなってるんだ!』



耳を澄ませば、街道の向こう側から、阿鼻叫喚の声が響いていますね。




えーっと…… 流れでやっちゃいましょう!



戦闘開始を待っていたら、フライングしたダリルさんがゴングを強奪して、ブックなしのガチンコを開始したようですね。




俺は無属性の魔法を練り、指先に光弾を複数作ると、魔力探知とリンクさせ素早く発射します。

パチンコ球ほどの大きさの魔力弾は、木々の間を抜けて、4人の男達に命中したようですね。


俺は再び魔力強化で脚力を強化して、全力でこちら側の集団に突っ込んでいきます。


もう、俺の存在はバレていますので、隠れる必要はありません。いま必要なのは速度です。


右手に持った小太刀を駆け抜けざまに横薙ぎに振るい、細い立ち木ごと男の胴を斬り裂き、混乱している集団の中に駆け込みました。

状況は混乱していますが、戦いが始まったことはわかるのでしょう。

男達は剣を抜いており、走り寄ってきたのが(ガキ)だとわかると、あからさまに嘲笑を浮かべ、切りかかってきます。



「なんだ、脅かすんじゃねぇよ!ガキじゃねえか!」



……甘いんだよ。



俺は一番近くにいた男に、強化したままの足で前蹴りを喰らわせて、森の奥にすっ飛ばしました。

魔力強化した足で蹴られた男は、胸骨が無残に陥没しており、途中の木に激突しピクリとも動かなくなります。


それを見ていた男達は、怒り狂ったように俺を睨みつけると、一斉に切りかかってきました。


剣筋も甘く、統率も取れていない太刀筋を躱すのは、ひどく簡単な作業でしたね。


こちらに剣を振りかぶっていた男の脇を撫で切るように通り過ぎ、背後からひざ裏の筋を切り裂きます。


パチンと、枯れ枝を踏み折るような腱が断裂する音が響き、男が崩れ落ちます。

そんなあまり聞きたくない音が男達の耳に届いたのとほぼ同時に、その男の隣にいた野郎の胸から突如、オリハルコンの刀身が生えてきます。


俺は突き刺した小太刀を引き抜きざま、背負うように振りかぶった小太刀を、俺の背中側から切りかかってきた男に右袈裟で斬り払いました。



その隙を狙っていたのでしょう。もう一人の男が横薙ぎに剣を振るい、確信に満ちた様子で冷酷な笑みを浮かべます。


身長差を忘れているんでしょうか?俺は、身を低くしてその一撃を躱すと、そのまま俺の頭上を通りすぎてゆく剣を切り上げます。

いや、正確には、振りぬいた剣を持っている両腕ですね。


ブンと振りぬいた剣は、元の持ち主から離れて森の奥へと消えていきます。

おまけで、持っていた両手も、剣と一緒に飛んでいったみたいですが。


両腕が無くなった事に気づいて、絶叫の悲鳴を上げている男の首筋に、一瞬だけ青みがかった剣閃が走ります。


それから、一瞬遅れて頸動脈からシャワーのように血が吹き出し、両手がない男は傷口を抑えることも出来ず、ドサリと倒れました。


男の首から吹き上がった鮮血が、頭上の枝葉に降りかかり、緑の葉を赤黒く染めています。


そんな葉っぱから垂れてきた血が数滴、俺の頬を濡らしてしまいます。


ツゥ……っと、頬を流れる血を拭った途端、急に吐き気がこみ上げてきますが、まだ気は抜けません。


ヒュンと、血振りをして小太刀の汚れを払うと、こちら側に残った最後の1人に切っ先を向けました。



この時の俺は、どんな顔をしていたんでしょう……



もう一人の男は、ガタガタと震え剣も構えられないほどに怯えていました。

それを見た俺は切っ先を下げると、無言で森の奥を視線で示します。


「ヒィッ…… バ、バケモノ!」




最後の最後に、聞き捨てならないセリフを残して、男は森の奥へと走り去って行きました。

あの野郎、次に会ったら覚えとけよ!



街中に俺と対面して小便漏らしたって大声で叫んでやるからな!



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