56.色々と残念だったな!
はたして俺の体質がネタめいているのか、それともダリルさんが戦いを呼びこむのか?
旅立った初日から波乱めいた展開に、若干引き気味のアーサー君です。
そして今、どうも酒場での騒ぎは陽動だったみたいで、俺達が借りている部屋の中から人の気配が感じられます。
なるほど。下の騒ぎに気を取られているうちに、肝心の献上品を盗み出すとか、いくらか知恵が回るみたいですね。
まあ、ふっかけた相手が悪かったですね。時間稼ぎにもならなかったのは、たぶん相手の誤算でしょう。
ぶっちゃけ、あの程度のゴロツキでは相手にもなりません。
そして俺は、毎回ダリルさんやロイドさん達を相手にしていますからね。
気配を断ったり、逆に相手の気配を察知するのは、かなり得意です。
いや、気配察知とかは、わりと本気でエリカに敵わないんですけどね。
それに加えて魔力探知も行えば、ロイドさんクラスの手だれでなければ、察知するのは問題ありません。
さてそれよりも、問題は部屋の中の泥棒さんです。
このまま踏み込んで倒すのは簡単なんですが、できれば無傷で捉えたい所です。
たぶん、下の連中は金で雇われたか何かでしょうから、ダリルさんと『お話』したとしても、そんなに収穫はないでしょう。
ですが扉の向こうにいる本命さんは、間違いなく何処かから雇われているでしょうから、糸口になるかもしれません。
俺は少し思案してから、風魔法で廊下のランプを消すと、静かに鍵をあけて部屋の中にスルリと忍び込みます。
いや~、『真理の目』でロイドさんのスニーキングスキルを、見ておいて良かったですね。
中に入って目を凝らすと、案の定相手は俺に背を向けたまま、クローゼットの荷物を漁っていますね。
空気と同化するようにスルスルと相手に接近して、脇差しを抜きます。
刃を返して峰を相手に向けると、無言のまま相手に振り下ろします。
間合い的にもスピードも申し分ない一撃だったのですが、ガキンという音と共に、脇差しが阻まれます。
「なんだと、私が背後を取られるなんて!」
おお、見ればナイフというか短剣っぽい武器で、俺の一撃を受け止めたようです。
これは驚きですよ。この一撃を回避できるとか、領内に存在する『一部の人外』を除いて、そうそういるもんじゃありません。
相手は素早い身のこなしで横に飛ぶと、俺に向き直ったのが気配でわかります。
「残念だったな。多分そっちの捜し物はそこにはないぞ」
俺は相手の動きに対応できるように、下段に脇差しを下ろした状態で低く声をかけました。
「なにっ?だってさっき降りた時には、お前ら手ぶらだったじゃないか!」
ほう、そこまで調べた上で部屋に潜入したとか、随分と手が込んでますね。
「ライト!」
俺は相手から目をそらさないようにしながら、左手で灯りの魔法を唱えて背後に飛ばします。
とたんに周囲に灯りが満ちて、侵入者の姿が浮かび上がります。
前に光源を置くと、俺の目まで眩んでしまいますからね。
おや?黒装束を身にまとい、ずきんを被ったその頭上に何やら不思議な三角形が2つ、ピクピクと揺れていますよ!
なん、だと……!
侵入した相手の頭上には、まごうことなき猫耳が付いているではないですか!
いや、獣人族とか見たことがない訳じゃないんですが、身近にはあんまり存在していなかったんですよね。
どうも生息というか居住分布が、西の方から王国だと北部に集中しているらしく、領内にはあまり住んでいないんです。
これは是が非でも捕らえて、存分にモフり……ゲフンゲフン、尋問しなければなりません!
「悪いが逃すわけにはいかない」
俺は決意を込めて、そう言い放ちます。
動機が不純だって?君達も目の前にネコミミが現れたら、多分モフり倒すでしょ?
「くっ、ここで捕まるわけにはいかないニャ!」
頭巾から覗くアーモンドみたいなくりっとした目を細めながら、相手は逃走するつもりのようです。
っていうか、聞きましたか!語尾がニャ!って!語尾がニャ!って言いましたよ!
ここで逃すわけには行きませんので、俺は無属性の魔力を素早く練り上げました。
その瞬間に、さすがの身体能力というべきか、素早く跳躍して窓に身を躍らせます。
あっ、そっちは……
ガインと、派手な音を立てまして、猫さんは俺が練り上げた無属性の格子に、頭から突っ込みました。
有名な猫とネズミのアニメがありましたが、あんな感じでズルズルと重力に負けて落下してきます。
どうやら、完全に気絶したみたいですね。
…………とりあえず、ふん縛るか。
さて、場所は自警団の牢に移ります。
ふん縛ったぬこ様を魔力強化で担いで、ダリルさんと合流しまして、先ほどの連中と一緒に自警団に引き取ってもらいました。
おかげで狭い自警団の牢屋は、本日満員御礼ですよ。
ここまでスムーズに事が運んだのは、ダリルさんが陽のあるうちに、自警団を訪問して事情の説明と情報収集を行っていたからなんですね。
うん、事前の根回しとか、やっぱり大切です。
いや~、酒場で騒いだ連中は自警団に引っ立てられる途中、異常なほどダリルさんを恐れてましたが、何をしたんでしょうね?
何となくそのことをダリルさんに切り出したら、夜お漏らししそうな気がしますので自重します。
「間違いないんだな?」
「はい、間違いありません! 俺達に金を握らせて、喧嘩をふっかけろと言ったのは、あの女です」
ダリルさんの問いかけに、今にも口調にサーをつけそうなぐらい、ブンブンと首を縦に振っているのは、酒場で暴れたうちの一人です。
どうやらあのぬこ様が、俺達に男達をけしかけたのは、間違いなさそうですね。
「つけられていた様子はないとすれば、ここで網を張っていたと見るべきだろうな」
俺はダリルさんの尋問の様子を壁に寄りかかりながら見ていましたが、その言葉に同意します。
「ええ、俺の魔力探知にも、尾行する相手は引っかかりませんでしたから、ここで待ち構えていたんでしょう」
俺の言葉に少し頷いたダリルさんは、自警団のおっさんに男を牢に戻すように依頼し、その足音が遠ざかってから口を開きます。
「俺はこの後、あの盗賊を尋問するが、アーサーは宿に戻れ」
あー、うん。とてもお子様には見せられない。ディープな『お話』をするんですね。わかります。
しかし、それでは俺の野望やモフり欲求は未達成になってしまう訳でして、意を決して、俺はダリルさんに反論しました。
「その尋問、俺にやらせてもらえませんか?」
「……ほう?」
ダリルさんはまるで俺を値踏みするように目を細めて、こちらに鋭い視線を飛ばしてきますが、こちらも怯みません。
なんせ、エリカがウチに泊まる時に、ロイドさんから浴びせられるあの殺気のこもった視線に比べたら、まだ我慢できるレベルです。
「……わかった。好きにしろ」
気のせいでしょうか?少しダリルさんが笑ったようにも見えましたが、きっと気のせいでしょう。
こうして俺は、例のぬこ様が入れられているゲージ……じゃなかった。檻にやって来ました。
適当な長さのロープがなかったのと、逃げられたら厄介だったので文字通り簀巻き状態で、しかも猿轡までかませてあります。
すでに意識を取り戻していたのか、俺が近づくとウネウネと体を動かして、声にならない反抗の声を上げていますね。
「むーっ、ぬーっ! んー!」
俺はゆっくりと牢に入って、鍵を閉めてもらうと俺が呼ぶまでは、こちらに来ないように牢番に小遣いを渡します。
それを見ていたぬこ様は、一層ひどく暴れ出しまして、俺は少し当惑してしまいます。
ああ、傍から見れば捕まえた盗賊に尋問がてら悪戯しに来た、マセたガキとでも見えるんでしょうね。
そう言えば牢番のおっちゃんも、どっかニヤニヤしてましてね。
失礼な!そりゃ、8歳後半になってだいぶ異性は意識し始めましたけど、俺は意外に奥手なんですからね!
でなきゃ、前世で魔法使い寸前まで行ってませんから!
いま、この場に赴いたのは、純粋にもふ……じゃなくて、尋問しに来たんですからね!
「ぷはっ、ヤメろ!酷いことしたって、私は口を割ったりしないニャ!」
俺が猿轡をはずしてやると、開口一番ぬこ様はそんなことを言い出します。
「失礼な奴だな。俺がそんなことをすると思うのか?」
「にゃっ、それなら、そのワキワキさせている両手は何なんだ、絶対やましいことを考えてるニャ!」
おっと、どうやらモフり愛が、体から溢れてしまっていたようですね。いけない、いけない。
「ああ、この手は…… 癖だ。気にするな」
「嘘ニャ!なんであからさまに目をそらすニャ!」
「まあ、それは置いといて…… 名前を教えてくれるか?俺はアーサーだ」
「いや、近寄るニャ!それ、置いといていい話題じゃないニャ!」
なるほど、焦ったりキョドったりすると、ますます語尾に、ニャが増えるのか。素晴らしい!
「何も難しいことはないだろう?名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないかにゃ?」
「気色悪い!語尾にニャとかつけるな!」
いけません。どうやら語尾がうつってしまったようです。
「ああ、スマンスマン。それで?名前は?」
俺はいったん、ぬこ様から距離を置き鉄格子に寄りかかると、努めて冷静に名前を聞きます。
「……ミレーユ」
しばしの沈黙の後、ボソッとぬこ様が名前らしきものをこぼしました。
「なるほど、ミレーユか。いい名前じゃないか」
「盗難の未遂はこの領内では罰金とムチ打ちニャ!それ以上の刑はないはずニャ!」
ほほぅ、これはいい事を聞きました。
つまり、ミレーユと名乗ったこのぬこ様は、俺の素性や身分を知らない可能性がありますね。
「そうだな。それが平民相手の盗みだった場合は、そうかもしれないな。だが、貴族相手の窃盗は…… 重罪だぞ?」
「なっ、ニャッ!」
どうやら図星のようですね。
簀巻きの状態のまま、カッと目を見開いてナワナワと震え始めました。まあ、縄で縛られてますからね。
「さて、貴族への窃盗はその成否にかかわらず、犯罪奴隷とするか腕を切り落とすべしと、王国法では定められている。
それに、抵抗の気配がある場合は、罪人の処断については当該貴族の罪を問わずともある」
俺は、ゆっくりと王国法の一節をそらんじながら、再びミレーユに近づいていきます。
さっきまでの威勢はどこへやら。ミレーユは青い顔をしてカチカチと白い歯を鳴らして震えていますよ。
俺はゆっくりとミレーユのそばにしゃがむと、金色のさらさらヘアをゆっくりと撫でました。
「俺の言う事を聞いて、素直に喋れば悪いようにはしない」
「嘘ニャ!そうして、あんな事やこんな事して、私を慰み者にする気ニャ!」
「いや、そんなことはしないさ。そこは家名にかけて誓おう」
俺が恐る恐る耳に触れると、ミレーユは一瞬ピクッと震えますが、されるがままになっています。
うん…… この後、散々モフり倒しました。
後半は、なんだかミレーユがピクピクしてましたが、情報も聞き出せましたし、問題ないでしょう!




