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54.領主様ですか?いえ、元冒険者です



いや、あんな贅沢な料理、毎日食べてるわけじゃないですよ?

元生活習慣病が気になるお年ごろだった、アーサー君です。



はてさて、なんとか無事にウシガエルこと、勅使のフロックを送り出してから、すぐさま次の行動にかかります。

ここに揃っているのは、父様に母様そしてダリルさんとロイドさんですね。


若干ロイドさんの視線が怖い気もしますが、うん。きっと気のせいです。



返答の内容では、今日から10日後に王都に着くように出立すればいいのですが、それでは間違いなく相手の術中にはまってしまいます。

そんな訳で今後の対策を練るべく、ウチの領内の荒事担当と情報担当に来てもらった訳ですね。



「恐らくハワーズ辺境伯家の懇意にしている商家といえば、王都でも有数の規模を誇るミュアー商会でしょうね。

あそことは、領内での商売で少々揉めましたから、その意趣返しも含んでいるのでしょう」


冒頭、切り出したのはロイドさんでした。


なんでもミュアー商会がウチの領内の発展を嗅ぎつけて、手を広げようとしていたらしいです。

ですがその頃には、すでにロイドさんがウチの御用商人になっていまして、付け入る隙はなかったそうで。

それに怒ったミュアー商会は、少々強引な手法で御用商人の座を譲るように迫ってきたそうですが、ロイドさんは相手にしなかったそうです。


ロイドさん相手に強引な手段とか、死にたいんでしょうかね?



「なにか今回の一件は、私にも関連しているようですね。それでしたら協力は惜しみませんよ」


うん、ニッコリ笑っているはずなんですが、ヤバイくらいに迫力があるってのは、どうなんでしょうね?

っていうか、この部屋に集まっているメンツだけで、かなりの戦力なんで、正直怖いです!


「なるほど、子供の悪戯だけなら目をつむっても良かったが、金が絡んでくるとなれば話は別だな」


そう言ったのは父様で、こちらも難しい顔で腕を組んで言葉を発しています。


「それならいっそ、その商会の本部でも燃やしちゃえばいいんじゃない?」


母様、笑顔で怖いことをサラッと言わないで下さい。


「まあ、やるとすればそれが早いだろうが、話の本筋はそっちじゃないだろう」


いや、ダリルさん! そこ、肯定するところじゃないです!


「ええ、そうですね。あのミュアーのジジイ、何度寝所に潜り込んで寝首をかこうかと思ったことか」


いやいや、ロイドさん貴方がそれを言うと、まとまる話も、まとまらなくなります!

っていうかそういう発言されると、夜寝るのがすごく怖くなるんですが!



「まあ、待て待て。今は王都に向かうアーサーを無事に王都へ向かわせることが重要だ」



おお、父様がすごくまともな事を言って、場をまとめてくれました。さすが領主!


「まあ、アーサーに何かあったら、ひと暴れするのは俺も賛成だがな」



えっ? いや、あなた一応ここの領主様ですよ!

なんですか、そのマフィアのボスみたいな黒い笑みは!


そして、そのジョークに笑い合う一同に、正直ドン引きっすよ。


「さて、冗談はこのくらいにして、王都に向かうとすれば、ダリル殿頼めるか?」



「ああ、アーサーもだいぶ成長した。あの腕なら連れて行っても、足手まといにはならんだろう」



あっれ~?なんか、主従が逆転している気がしますが、気のせいでしょうか?



「行くなら馬で行った方がいい。馬車だとどうしても遅くなるし、小回りが利かん」


「なるほど、アーサーにも良い経験になるだろう。他に何人か騎士団から連れて行くか?」


「いや、鉄鉱山の警備もあるし、余計な人手は必要ない」


っていうか、その……

ダリルさん、俺の得物を横取りするな的オーラは、勘弁して下さい。



あれよあれよと言う間に、ダリルさんと父様の間で、出立について決まってしまいました。



「それでロイド、もし向こうが小細工を仕掛けるとすれば、どんな手が考えられるかしら?」



母様の声にロイドさんが顎に手を当てて、少し考えてから口を開きました。


「まず、考えられるのは、剣が届けられるのを妨害すること。

もし剣を紛失したり、盗難にでもあって勅旨を果たせないとすれば、それだけでセルウィン領の評判は地に落ちます。


恐らくはその責から領地経営の手腕を疑うように仕向け、改易や領地の没収に繋げるのが狙いでしょうかね?」



「う~ん、あの辺境伯にそれだけの度量があるとは思えないのよね?

それにあの偏屈爺さんも健在だし……」


うはっ、母様サラッとぶっちゃけてくれますが、この発言が他所で出たらそれだけで紛争の原因にもなりかねませんよ。


「問題はそこなんですよね。これが貴族同士の争いというのであれば、大方手も読めるのですが、今回ばかりは読めませんね」


「それなら逆に、子供の発想で考えてみるのは?」


母様がそう言って、若干空気になっていた俺に視線を向けます。

いや、俺も中身は十分におっさ……ゲフンゲフン、大人ですから、柔軟な発想ができるかどうか……



「う~ん、どうでしょうね?直接会った限りでは、あまり大きな事を弄せるような感じではないんですよね。

どっちかといえば、陰でコソコソ動いたり、陰険な手を使いそうです」


「あ~、ありそう、それ!」


なんか、母様も思い当たるフシがあるのか、ポンと手を打って同意してきます。


「陰険な手段ですか、例えばどんなのが思いつきますか?」


ロイドさんも、考えたようですが考えつかない様子で、再び俺に話を振ってきます。

おい待て、するってーと、俺が陰険だとでも言いたいのか?


少しだけジト目をロイドさんに向けつつ、俺も思案してみます。


「う~ん、例えば道中の宿屋で、泊まらせないように手を回すとか?途中で迂回させて、期日に間に合わせないとかでしょうかね?」



姑息なって所を重点にして考えれば、思いつくのはこのくらいでしょうか?

俺の言葉を聞いて、納得したように2人が頷いています。


なんでしょう、何か求められて発言したのに、すごく残念な気分がします。


「なるほど、それはいかにも子供が考えそうな事ですね。

それなら私が道中で使う宿と、万一に備えて懇意にしている商店で、泊まれるように紹介状を書きましょう」


「そんな心配はいらんだろう。宿がなければ野宿をして進むだけだ」



いやん、ダリルさんが野性味あふれる発言で、なんだか旅の行末が不安になってきます。

ジジイのように、食料まで現地調達とか言い出しませんよね?



「それならばいっそ、旅程を変えて出ればいいんじゃないか?」


ここまでの発言を聞いていた父様が、思いついたように言葉を発しました。



「なるほど、早く着く分には何ら問題はない訳ですからね。相手の機先を制すのは、戦いの常ですね」


こうしてあのウシガエルに返答した期日よりも早く、出発するために早速準備が開始されました。


なんだか、両親とも元冒険者で旅慣れているといいますか、俺の支度も率先して手伝ってくれます。

着替えに携行食や毛布など旅の必需品は、どこから取り出したのかあっという間に支度が整い、後は出発するだけになってしまいます。

なんだろう?俺が旅立つ筈なのに、両親がそれをネタに楽しんでいるような気配がビンビンしますね。


でも、それを口にしたらヤバそうです。


結局、出発は2日後に決まりました。




出発の準備は整ったのですが、俺は少し考えていました。

何か嫌な予感がするんですよね。


こういう予感や虫の知らせは、無視すると後で痛い目に遭います。……虫だけに。



そんな訳で俺は、久しぶりに馬小屋にやって来ました。

戦闘に役立つ武器や小道具を、幾つか揃えておこうと思いましてね。


それにミレイア様にナイフを渡してしまいましたから、手持ちがないんですよ。

今は普通のナイフを使っていますが、短い時間とはいえ旅に出るなら、しっかりとした物が欲しいじゃないですか。



鍛冶仕事をするならエルモさんの所に行けば、設備も整っているのですが、今日はそこまで本格的にやる必要もありません。

幸いにしてミスリルの端材や鉄の材料は、それなりに揃ってますから馬小屋でも十分です。



手早くミスリル割り込みのナイフとその他を作り、他に幾つか必要になるかもしれないブツを作っていきます。

こうした小道具達は、前々から作ろうとは思っていたんですが、領内の改革とか、やることが山積みだったので、先延ばしになっていたんですよね。

折角の機会ですから、色々と作ってしまいます。


そうして作った小道具は、空間魔法で懐にしまい込み、いつでも使えるようにしておきます。


ん?


何を作ったかって?


それは今後のお楽しみですね~。



残りの期日は、俺がいない間に薦めて進めてもらう仕事を書類にまとめたり、また王都に行くと言ったら泣き出したエリカを、なだめたりしながら過ごしました。

ロイドさん? ええ、怖かったですよ?


出立の前日は、エリカが泊まっていくと駄々をこねましてロイドさんも渋々了承したみたいです。

はい、最近は『エリカが泊まる=一緒に寝る』がデフォですから、出発前に命の危険を感じましたよ。



っていうか、怖いので自分の娘におやすみを言う名目で、俺の部屋に就寝前の抜き打ちチェックはやめて下さい!

あれ、絶対何か殺る気でしたよね!


燭台に照らされたロイドさんの顔が、すっげー怖くて夢に出てきそうでしたよ!


その癖、あっけなくエリカに接近を感付かれて怒られるとか、どうなってるんですか?

エリカが言うには、いつも一緒に行動していたら、自然に気配察知が鋭くなったそうです。


魔法の腕も母様と俺に仕込まれてメキメキ上達していますし、エリカの将来がすごく怖いですね。

このまま行けば、冒険者なら確実に一流コースに食い込めると、母様のお墨付きをもらっています。


なんでしょうね?微妙に尻に敷かれる未来が脳裏によぎるんですが?



それと、リーラ!

晩餐の夜で味をしめたのか、エリカに便乗して俺のベッドに入ってくるのはやめなさい!


おかげで出発前だったのに、寝返りひとつできなかったじゃないか!


左右から両手両足をホールドされるとか、傍から見れば裏山けしからんなシチュですが、やられると大変なんですからね!



……ごちそうさまでした。



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