47.ドラゴンさんの寝起きは大変です!
剣を打つのに費用が持ち出しのうえに、製作の手伝いまでするっておかしくないですかね?
はい、領主の息子兼パートタイマー鍛冶屋のアーサー君です。
午前中いっぱい鍛冶仕事をしまして、すっかり予定が遅れております。
俺はなるべく住民の皆様を驚かさないようにしながら、魔力強化で速度を上げて西の街道をすっ飛ばします。
そして適当なところで大森林の中に入り、ヴェーラさんと出会った泉のほとりに到達します。
ここまで来るのに魔物とのエンカウントはゼロですよ。
なにせ、天下の古代竜の縄張りですからね。
マーキングの手法は教えてくれませんでしたが、仮に臭い付けだった場合、絵面がすごく規制に引っかかりそうです。
さて危ない妄想はさておいて、泉のほとりに立てられた長細い石の柱に触れて、魔力を込めます。
すると俺の魔力に反応して足元に魔法陣が展開して、一瞬の浮遊感を感じるとすぐに景色が切り交わしました。
ええ、ヴェーラさんに頼んで設置してもらった移転魔法陣なんですが、これを設置してもらうまで色々とあったのですよ。
最初は魔法を打ち上げてヴェーラさんに迎えに来てもらったんです。
これは彼女が寝ていると気づいてもらえなかったり、あの恐怖のジェットコースター体験を毎回味わう事になって、魔法の練習どころじゃなかったんですね。
かと言って自力でヴェーラさんの『巣』まで行こうとすれば、1日では到達できませんし、Aランクの魔物がゴロゴロいる山道を延々歩かなきゃイカンのです。
「まったく、めんどくさい。早く飛行魔法のひとつも覚えるのじゃ」
とか言いつつ、宝物庫兼ガラクタ置き場から何かを引っ張りだして、ホイホイホイとあっという間に魔法陣を設置してくれました。
口は悪いんですが、ヴェーラさん意外に優しいです。
さて、もうすっかり見慣れた巨大な玄関を通って、妙に生活感のあるヴェーラさんの寝室までやって来ます。
だいたいヴェーラさんは、1日の半分以上を寝て過ごしているので叩き起こさないといけません。
古代竜を叩き起こすとか、非常識もはなはだしいのですがこうでもしないとヴェーラさんは、絶対起きませんから。
最近は夏も近づいてきまして、だいぶ暑くなってきましたが、洞窟っていう性質なのか魔法の効果か、ひんやりとして快適ですね。
この世界で生活していれば暑さ寒さにはだいぶ慣れましたが、エアコンとか恋しくなっちゃいます。
そんな快適空間の中で、あの駄ドラゴンは……
薄い肌掛けを全力で蹴り飛ばし、素っ裸の大の字でご就寝あそばしております。
ここまであけっぴろげだと、逆に萎えますね。
ほら、口元なんか盛大にヨダレ垂れてますし……
俺は案の定なヴェーラさんの格好を見て、ガクッと脱力してしまいました。
うん、ドラゴンのイメージとか完全崩壊しましたね。
神話とか物語や戯曲を描いた作者に、ヴェーラさんは全力で謝罪すべきだと思いますよ?ええ。
ベッドから蹴り落とされた肌掛けを持つと、まずはそれを掛け直します。
ここで裸を見たとかなんやかんや始まると、そのまま『寝技≠子作り』に持ち込まれそうになりますし、血と魔力を吸われると魔法の練習どころじゃなくなってしまいます。
子作りに関しては年齢的に不味いので、もう少し『色々』と大人になってからと言うことで誤魔化しております。
以前、「ヴェーラさんの幼女体型じゃ無理でしょ!」とか言ったら、即座にナイスバディに体型を変化させやがりまして、軽く貞操の危機でした。
「ヴェーラさん、遊びに来ましたよー!」
耳元でそれなりに大きな声で呼びかけてみたんですが、ピクリとも動きません。
次に口元とツンと筋の通った綺麗な鼻をつまんで、窒息攻撃を仕掛けてみます。
『むぐっ』っと、少しだけ顔をしかめましたが、それも一瞬で呼吸を止めたまま安眠を維持しております。さすが爬虫類!
まあ、よっぽど暑ければ深海に潜って昼寝するとか豪語する龍ですからね。
これも想定内です。
次に、空間魔法から鳥の羽を取り出しまして、足の裏をくすぐっていきます。
なんとも危ない構図ですが、俺だってこんな事はしたくないですよ?ええ、誓って。
おっと、いけません。ついついニヤニヤと口元が緩んで……ゲフンゲフン
お巡りさんを呼ばれる前に、さっさとヴェーラさんを起こしてしまいましょう。
サワサワと足裏を羽でくすぐると、ピクッ!ピクッ!とヴェーラさんの肩が揺れまして確実に刺激が伝わっているのがわかります。
指の間に羽の先端が触れた途端に、ビクッ!っとヴェーラさんの体が揺れまして、次の瞬間には足裏にバシッっと鱗が生えてきました!
ぐおっ、手強い! 前回はこの方法で起きてくれたんですが、どうやら無駄に学習してしまったようです。
もう一歩だと思うんですが、参りましたね。安らかな寝顔になんだか腹が立ちます。
こうなれば最終手段です。
俺は左右の手にそれぞれ異なる魔力を集めまして、徐々にそれを近づけていきます。
これ、最近覚えた新しい魔法なんですが、まだ制御がイマイチなんですよね。
小さく発生させた魔力の塊は、接近するごとに徐々にパチパチと放電を始めます。
ええ、プラスとマイナスをイメージさせてみたら、わりとあっさり完成した電気魔法なんですが、今日はこれでヴェーラさんを起床させましょう。
俺は、装甲化された足裏に徐々に両手を近づけていきまして、放電を待ちます。
パリパリといい始めた魔力が、ついに放電先を探して、鋭利な爪が生えているヴェーラさんの指先にバシンと通電しました!
「ふぎぃっっ!!!」
よし、効果あったようです。ガバリと上体を起こしたヴェーラさんがカッと目を見開いております。
うん、静電気のせいでしょうか?なんか、アホ毛がすごい事になってますね。
「おはよう、ヴェーラさん」
「あっ、足の指先に……何か、とんでもない感覚が走ったのじゃ!」
俺はすでに魔力を消して素知らぬ顔で、ベッドの横に座り声をかけます。
「そう言えば、変なハチみたいな虫が指先に止まってたけど、どっかに飛んでったな」
「なんじゃ、虫か。ああ、驚いたのじゃ」
そう言って、ヴェーラさんは肌掛けをめくり、そのまますたすたとクローゼットまで歩いて薄い水色のワンピースを着込みます。
「ふう、あまりいい目覚めとは言えんのじゃ。って、アーサー来ておったのか?」
あんまりな言い分とも思いますが、ここで起床の原因が俺だと告げると、また面倒くさいことになるのでスルーします。
「ああ、王都から帰ってきたんで、おみやげを持ってきましたよ」
そう言って空間魔法から、エルモさんに渡したのと同じ種類の酒を出していきます。
ただし、量は軽く倍近くありますが。
「おお、すまぬのぅ…… 酒だけは、自然からは調達できんから、人の手に頼らんといかんのじゃ」
そう言って、いきなり度数の高い酒の瓶を引っ掴むと、指先で封を切り飛ばし、ゴクゴクと喉に流し込み始めました。
あなた、どこの空手の達人ですか?
「ぷはぁ、寝起きの酒は格別なのじゃ!」
そしてこのアル中発言である。絵面だけは幼女なので、とんでもなくシュールです。
「それで、王都はどうじゃった?」
一息に瓶の半分ぐらいを飲み干してから、おもむろにヴェーラさんが尋ねてきました。
最近はこういう砕けた話題を楽しめるぐらいに仲良くなっています。
ヴェーラさん曰く、「最初は興味本位で連れてきたが、もう少し磨けば、つがいになれるぐらいの潜在能力だから、はよ強くなれ」 だそうです。
なんかバッチリ『予約済み』のシール貼られてますね。
「それがヒドイんだわ。いきなり、王女様に決闘申し込まれるし……」
俺の愚痴を肴にして、ヴェーラさんは時々笑いながら酒を煽っております。
何でしょうかね?この居酒屋でくだを巻くリーマンチックな光景は?
「まあ、それで午前中はミレイア様の剣を打ってきたんですよ」
「ほほぅ、あの変わった形の剣なのじゃな?」
「ええ、そうっすね。あれ、刀って言って俺がいた国の剣なんですよね」
そんな感じで、会話の流れで俺の剣を打ち直す事に話題が及ぶと、ちょっと思案顔になったヴェーラさんが酒瓶片手に突然席を立ちました。
不思議に思って俺もその後をついていくと、着いた先はあのガラクタ置き場でした。
「う~ん、どこじゃったかのぅ?」
そんなことを言いながらガシャガシャと、ガラクタの山をかき分けていきます。
なんか、すごい宝石とか金貨が床に飛び散ってますが、気にしたら負けな気がします。
「ああ、あったのじゃ!」
そう言ってヴェーラさんが取り出したのは、先端が折れた細身のレイピアでした。
うん、折れてますけど、それでもなんか凄いオーラを感じます。
※※オリハルコンのレイピア※※
【状態】
破損
【効果】
あらゆる魔法攻撃を切り裂ける能力を持つ
神銀製の柄とガードの相乗効果で、魔法剣としても優秀な性能を持つ
ブフォッ!
真理の目で鑑定したら、恐ろしいほどに高価な代物が出てきましたよ!
これ、修復して王都のオークションに出したら、多分天井知らずの値段になりますから!
下手すると国宝レベルですよ、これ!
「二百年くらい前に、ワシといい勝負した女騎士が持っておった剣なのじゃ!
折れてしまっておるから、アーサーに進呈しよう。なに、酒の礼なのじゃ」
金貨一枚程度の量の酒で、なんか国宝レベルの代物もらっちゃったんですが……
いいのか?これ?




