44.もしかしてフラグ回収しました?
はい、すっかりネタ体質が板についてきたアーサー君です。
あれから王都を少し観光して、ようやくセルウィン領まで戻ってきましたよ。
「チェスター様、お帰りなさいませ」
そう言って領主館で俺たち一行を迎えてくれたのは、王都で噂のダリルさんでした。
ホントはダリルさんも一緒に行く予定だったんですが、そうすると屋敷の留守が危ういので、今回は諦めてもらったんですよね。
ダリルさんが王都に来てくれていれば、ミレイア様との一件もなんだか上手く誤魔化せたんじゃないかと思うんですよ。
まあ、いまさら過ぎたことを、ウダウダ言っても始まりません。
さっさとミレイア様の剣を打って、しばらく引きこもっていればほとぼりも冷めるでしょう。
「アーサー君、お帰りなさい!」
おお!屋敷からトコトコ走って、エリカが出迎えに来てくれましたよ!
淡いブルーのさらさらヘアーをなびかせて、嬉しそうに駆け寄ってきてくれました。
うん、笑顔が眩しくて、思わずこっちも笑顔になってしまいますね。
いや~、どこかの暴力姫とは違い、やっぱり女の子はこうじゃなきゃいけませんよね!
腕を広げて走り寄ってきたエリカをしっかりハグで受け止めて、至近距離で笑顔を向け合います。
まあ、一緒にお風呂にも入った仲ですので、今更ハグ程度では俺も動じません。
「ホントにいつ帰ってくるか、ずっと待ってたんだよ!」
「うん、遅くなってごめんね」
エリカの綺麗なエメラルドの瞳がちょっと潤んでまして、本当に寂しかったんだろうと思います。
ホントは予定通りに帰ってきたんですが、そのへんは大人の対応で話を合わせましょう。
ロイドさんは領内の経済が活発になってからは、かなり忙しく必然的にエリカが家にいる頻度も高くなってますから。
一日千秋の想いで待っててくれたエリカに、優しくしてもバチは当たりませんよね?
エリカと一週間近く離れたのは、もしかしたら出会ってから数えるくらいしかなかったかも……
俺はそんなエリカが可愛くて、思わず頭をナデナデしてしまいます。
性欲はどうなってるかって? いやいや、まだ庇護欲が先立ちますね。
なんだかリアル光源氏みたいで、将来が…… ゲフンゲフン
いや、はっきり言っておくけど、あくまで健全な幼なじみですからね!
まるで子犬のように俺の胸に頭をうずめているエリカの頭をナデナデしていると、奥からもう一人誰かが出てきます。
あっ、ロイドさんや!
なんだろう…… 顔は笑ってるのに、視線で人が殺せそうな殺気がこちらに伝わってきます。
うむ、命も惜しいが名残も惜しい。ここは……命を優先しておきましょう。
もしまかり間違ってエリカとそういう仲になったら、間違いなく夜は一人で出歩けなくなりそうです。
俺はゆっくりとエリカから離れて、軽くロイドさんに会釈します。
その仕草に気づいたエリカも自分の父に視線を向けまして、その途端さっきまでの殺気が霧散しました。
「やあアーサー君、初めての王都はどうだったかな?」
「はい、大きくてびっくりしました」
ロイドさんはうんうんと頷いておりまして、先ほどまでの殺気がまるで嘘のように優しく迎えてくれました。
おや?エリカが一行に順番に出迎えの挨拶をしているんですが、リーラから何か耳打ちされていますよ?
何か、嫌な予感しかしないんですが……
玄関先での出迎えを終えて屋敷の中に落ち着き、今日はゆっくり休む予定です。
さすがに色々とありましたから、俺も両親もいささか疲れ気味ですから。
それでも、留守の間に溜まっていた書類などが、執務室に積み上げられていましたから、明日からは忙しくなりそうです。
主に父様が……
お風呂に入って旅の汚れを落として、夕食を取れば、さすがに安心したのか眠気が襲ってきまして、早々に部屋に引っ込みます。
今日はゆっくり寝て明日は、のじゃ幼女ドラゴンのヴェーラに帰郷報告や、エルモさんとミレイア様の剣を打つ段取りなど、色々と予定が立て込んでいます。
部屋に戻って、寝間着に着替えてベッドに飛び込むと、とたんに睡魔が襲ってきました。
それではおやすみなさーい!
…………カチャリ。
ん? なんで、ドアが開く音がするんだ?
俺の着替えを手伝ってくれたリーラは、着替えが終わってからすぐに退出しています。
5歳を超えたあたりから、一人寝がデフォですので床に入ったら、リーラが朝起こしに来るまでは、誰も部屋に入る事はないハズなんですが?
さては賊でしょうか?
もしかして、ディボが刺客でも送り込んで来たとか?
俺は、いつも枕元に置いているナイフを手探りで探します……
ヤバイ!愛用の自作ナイフは、ミレイア様に渡したんだった!
今の動きですっかり眠気が覚めまして、少々焦りながらいつでも魔力強化を発動できるように魔力を練ります。
武器は暖炉の横に脇差しがかけてありますので、なんとかなるでしょう。
足音はしませんが、何となく気配で近づいてくるのがわかります。
下手に動いては、狸寝入りがバレそうですので感覚を研ぎ澄ませて、相手がこちらの間合いに入るのをじっと待ちましょう。
あれ? 殺気も感じなければ何も起こりませんよ?
あっ、なんかがベッドに乗っかってモゾモゾ動き出しました。
……もしかして?
俺は思い切って寝返りを打ち、薄目を開けて侵入者の正体を確かめます。
「あれ? エリカ…… どうしたの?」
ベッドに入ろうとしていたのは、何か思いつめた顔をしているエリカでした。
「ヤダ…… 相手がお姫様でも、アーサー君はエリカのものなの!」
おい、エリカにバラした奴は誰だ!
……あっ、発見しました。
半開きのドアからリーラがニヨニヨしながらこっち見てます。
「エリカ、落ち着いて。俺はどこにも行かないし、誰のものにもならないよ」
俺は慌てて身を起こすとエリカの手を握り、向き合いました。
「……ホントに?」
「うん、本当だよ?」
「じゃあ、今日は…… 一緒に寝てもいい…… かな?」
後半は消えそうなぐらい小さな声で、そう言ったエリカは顔を真っ赤にしてます。
部屋の明かりが消えてますが、顔がくっつきそうなぐらい至近距離ですので、月明かりで照らされてそれが見えました。
「うん、いいよ。一緒に寝よう」
俺はニッコリ笑って、ベッドに潜り込みました。
幼少の頃はよく一緒に寝ていましたが、ロイドさんが5歳過ぎくらいに言ったんですよ。
「そろそろ寝室は別にした方がいいんじゃないかな?」と、例の人を殺せそうな視線込みで……
それ以来一緒に寝ていませんでしたので、本当に久しぶりです。
ロイドさんも客室に泊まっているはずなので、明日の朝が怖いですが、こんな女の子を追い返すほど俺は鬼じゃありません。
一緒にベッドへ潜り込むと、エリカは俺にピッタリとくっついてきます。
うん、抱きまくらにされてますね。俺……
俺は弱い風魔法を扉に向けて放ちまして、扉を閉めると何か甘い香りのするエリカを感じながら、ゆるゆると眠りに引き込まれていきました。
ドアの外から「ふぎゃ!」とか、「鼻が~!」とか聞こえましたが、多分気のせいでしょう。




