42.あっさり解決しました
なんか、ピンチっぽい状況に陥っているアーサー君です。
この無駄に引きの強い体質、何とかならないでしょうか?
「何事か!」
姫様と小便小僧…… もといディボが睨み合っている所に、銀色の甲冑を着たおっさんがズカズカと入ってきました。
よく見ればローブを着た魔法使いらしき人も連れていますね。
「デレク団長! 調度良い所に来てくださいました。あの痴れ者を捕縛して下さい!」
ビシッと俺に指を向けて、忌々しげにこちらを睨んでいますが迫力のかけらもないっすね。
あれなら姫様のほうがよっぽど眼力ありますがな……
「ミレイア様、倒れられたと聞き治療魔法師と共に参りましたが、これはどういう状況ですかな?」
うん、ごっつい体で筋肉の塊みたいなおっさんが、口ひげをなでつけながら訪ねています。
「団長、特に問題はないわ。あのバカが勝手に騒いでいるだけだから」
俺の手を借りて立ち上がった姫様は、キッパリとそう言ってズボンの裾を払い汚れを落としてます。
「状況が読めませんな。ハワース伯のご子息が訳もなくここまで騒ぎ立てるのですかな?
それに、そちらの少年はどなたかな?」
状況を確認しようと、周囲に視線を走らせながら、誰にともなく質問を投げかけます。
「その者は畏れ多くもミレイア様に怪我を負わせ、王家の威信に疵をつけたのです。
如何な勝負とはいえ、王女たるミレイアを地に倒すなど、間違いなく叛逆罪だ!」
まだ興奮がおさまらないのか、ディボがギャーギャーわめいています。
団長と呼ばれたおっさんは、そのうるさい声に少し眉間にしわを寄せつつ、こちらに視線を向けました。
うん、下手な言い訳するよりは、素直に事情を話したほうがいいでしょう。
「私はセルウィン子爵の長子でアーサーと申します。
今日は謁見に来たのですが、どういう訳か、姫様より勝負を挑まれましてこちらに」
そこまで話すとおっさんは、ピクリと片眉を上げてこちらを凝視してきます。
何でしょうかね?
どうもケツに力が入ってしまいますから、あんまり見つめないで下さい。
俺は至ってノーマルですから!
「なるほど、君が『あの』アーサー君か……」
ん?なにか引っかかる言い回しですね?もう少し聞いてみましょう。
「私のことを、ご存知なのですか?」
俺がそう尋ねるとおっさん、もといデレク団長はうんうんと頷いて表情を和らげた。
「君のことはダリルさんから聞いているよ。ずいぶん腕が立つらしいな。
なるほど、どうやら私の一言がミレイア様を焚き付けてしまったようだ」
あれ? あの戦闘狂と、デレク団長は知り合い?
ああ、そう言えばダリルさんはウチの領に来る前は騎士団にいたって言ってましたね。
「はい、ダリルさんには毎日しごかれています」
俺は少し笑いながらそう言うと、なぜかデレク団長は遠い目をして「毎日かよ……」とかつぶやいています。
ははっ、その気持ちは分かるけど、俺はもう慣れたよ。
「なるほど、それで合点がいった。私もダリルさんには散々しごかれたクチだ。
ミレイア様がいくら修練を積んでいたとしても、太刀打ち出来ないのも頷けるな」
そう言ってクックックッと忍び笑いをこぼすデレク団長に、姫様もさっきまで騒いでいたディボも、事態が飲み込めずキョトンとしています。
「それで、この騒ぎというわけか」
少し長い息を吐いて表情を引き締めたデレク団長は、改めて事態を収拾すべく口を開きます。
「それでミレイア様にお怪我はなかったのだな?」
デレク団長は、お付の騎士であるアランさんに状況を確認するためにそう聞いてます。
おーけー、そのへんの証拠はばっちり隠滅……じゃなかった、回復していますので問題ありません。
「はっ、一時転倒されまして気を失われましたが、アーサー君の回復魔法ですぐに意識を取り戻しました」
ええ、傍目にはそう見えますよね。
普通に回復魔法で傷を治すには、もっと長い時間がかかりますから、精々気付けぐらいに見えたでしょう。
ホントはガッツリ傷を治してますが、その辺は母様との約束で秘密にしてあります。
「ふむ、それならば当人同士が納得したうえでの稽古であれば、ご子息殿の言い分は通るまい」
そう言ってデレク団長は冷めた視線をディボに向けています。
そりゃね。あいつの言ってることって、ただの言いがかりですからねー!
「ええ、私から勝負をお願いしましたし、この通りケガもない。何の問題もないわね」
デレク団長の言葉を姫様が補強しまして、ディボが顔を真っ赤にしています。
「いや、俺はしっかりこの目で見たんだ!姫様の胴にすごい勢いで剣を打ち込む所を!
そうだ!他の奴らも見ていただろう!」
そう言うが周囲にいた騎士達は、ディボから視線を逸らして距離を取っていますね。
うん、君たちは出世すると思うよ。
「ディボ殿といったかな?そこまで言うのならば、貴族らしく決闘で決着をつければいいだろう。
貴族が己の言い分を通したいのであれば、私が見届け人になろう」
そう言うと、ディボは先ほど見た姫様との立合いを思い出したのか、顔を青くして固まった。
「私としては、身の潔白を示せるならば、お受けしても構いませんが?」
俺は姫様の木剣を手にとって柄を向けてディボに差し出した。
「不愉快だ!決闘については後日申し込む!」
そう言い残して、もの凄い勢いで歩いて行っちゃいました。
あいつ、王国で競歩大会があったら、ぶっちぎりで優勝できるんじゃね?
「まったく、一体誰なのよ。あんなヘタレを私の婚約者にした馬鹿は」
姫様がその後ろ姿を冷めた目で見ながら、なにか毒づいてますな。
うん、俺が女でもあんな婚約者は嫌だわ。
そう言えば、俺も一応貴族なんだけど、婚約者の話とか一切聞いたことなかったな。
言われてないけど、実は婚約者がいるとか…… ないよね?
エリカは最近オレにべったりだけど、まだ幼なじみ枠だし……
なにか、間違いとかあったらコワイので、帰ったら父様に確認してみましょう。
こうして俺の王都デビューは、いつもの通りドタバタした感じで過ぎて行きましたとさ……
すみません、体調不良と別件でバタバタしてまして、少し遅れ気味です。




