40.勝負を申し込まれました
トラブルとか、なしの方向でお願いできませんかねぇ?
なんだか生まれてから、超絶いろいろな事に、巻き込まれすぎてると思うのですよ。
はい、ただいまアーサー君、縦巻きロールのやんちゃガールに勝負を申し込まれております。
ハッキリ言って状況が読めないのですが、これどうしたら良いの?
「え~っと、なぜ勝負をしなければならないんですか?」
うん、わからないことは聞いてみるのが一番。
そんな訳でビシッと指を突き出している縦巻きロールのお嬢様に、とりあえず質問してみました。
「そんなの決まってるじゃない。噂を聞いて強そうだと思ったからよ!」
なんでしょう、このド直球な脳筋理論。
どっちかといえば、領都で犯罪者相手に無双しているダリルさんあたりと、話が合いそうです。
「は……はぁ。それで、僕は勝負を申し込まれるような覚えはないんですが、どちら様でしょうか?」
俺の言葉に、目の前の2人は信じられないと言った表情を浮かべている。
「貴様、こちらにおわすは第一王女のミレイア様だぞ!それをどちら様とは無礼な!」
あれ?なんか小便小僧の方が、ムキになって説明してますが、ああ王様の話でオチに出てきたミレイア様でしたか。
「ああ、貴方がミレイア様でしたか。これは失礼いたしました。アーサー・セルウィンと申します」
俺は小便小僧をガン無視しまして、ミレイア様の方を向き挨拶します。
「ふん、いくらか礼節は心得ているようね。それよりも男なら、早く私の勝負を受けなさい!」
再びズビシッ!っと突き出された指が今度は俺の胸元に突き刺さりましたよ。
いや、いくら王族とはいえ、その仕草は失礼でないかい?
あっ、後ろのほうから多分姫様づきなんだろう、騎士とか女官が息急きってこっちにやって来た。
これで助かるかなぁ……
俺は少し困惑した表情を浮かべて、走ってきた騎士さんに小声で話しかけます。
「セルウィン子爵家が長子アーサーと申します。
事情が飲み込めないのですが、いきなり姫様に勝負を申し込まれてしまったのですがどうすれば……」
それを聞いた騎士さんは、額に手を当てて、アチャ~って顔をしてからこちらに話しかけてきます。
「すでに邂逅してしまいましたか。会う前ならばすでにお帰りになったと言って、ごまかすことも出来たのですが……
こうなってしまったからには…… あきらめて下さい。子爵殿には、私から事情を説明しておきますので」
あれ?助け舟だと思ったら泥船で、みごとに退路を塞がれたでござる。
女官の人にも視線を向けてみたけど、あからさまに視線をそらされたぞ!
「それで、これってやっぱり手加減とか、適当に打ち合って姫様を立てたりすればいいんでしょうか?」
なんか、ボス戦のごとく逃げられそうにないので、条件を詰めようと騎士さんと密談すると、真剣な表情でこう言ってきました。
「いえ、手加減などなさらないほうが宜しいかと。なまじ手を抜いたと姫様が感じれば、激昂され命の危険が」
ナニソレ!ヒメサマ コワイ! コワイ!
接待ゴルフならぬ接待勝負かとおもいきや、わりとガチでやらなきゃいけないみたいです。
ゴニョゴニョと騎士さんと打ち合わせしていると、しびれを切らしたのか、姫様が会話に割り込んできました。
「いい加減になさい!男なら挑まれた勝負を潔く受けなさい!」
アカン…… この姫様、間違いなくバトルジャンキーや。
「わかりました。お受けいたしますが場所は……」
そう言うと、姫様はニヤリと肉食獣みたいな笑みを浮かべまして、俺の手を引きグイグイと先導していきます。
なんか小便小僧が、ワナワナしながら小声で「俺ですらまだ手も繋げていないのに」とか言ってます。
あれよあれよというまに、騎士団の練兵場に連れ込まれました。
結構な人数が稽古をしていましたが、手を止めて姫様に一礼していますね。この辺は腐っても姫様って所でしょうか。
それよりもドナドナされてきた俺に、憐れみの視線とか表情が突き刺さって、なんか痛いんですが!
おれ、これからどうなっちゃうの!物陰に連れ込まれて喰われちゃうの!?
「さあ、ここなら文句ないでしょう。早く始めるわよ!」
そう言って姫様は俺に木剣を投げてきます。あ、いや自前のがあるんでいりませんわ。
俺はとりあえず投げ渡された木剣を、騎士さんにパスしなおして懐から木刀を引っ張り出します。
「あっ、これ、内ポケットが魔法の鞄になってますので」
一応ごまかしておきましたが、これ空間魔法です。
古代竜のヴェーラさんの所で魔法の練習している時に、彼女に教えてもらったんですよね。
いろいろ収納できて便利ですよ。
ただ、すでに遺失した古代魔法に属してまして、あまりおおっぴらには出来ないんですよ。
魔法の鞄については、容量の少ないものは冒険者などを中心に、ある程度出回ってるんですけどね。
それでも結構なお値段になるみたいです。
周囲の人達も驚いたみたいですが、説明してもキリがないのでさっくりスルーしましょう。
「さて、それで勝負とは言っても判定は?」
「それは、相手を叩きのめし……「判定は私が行います。1本勝負でギブアップか、戦闘不能になった場合相手の勝ちです」
おお、さっきの騎士さんが姫様の物騒な発言に説明をかぶせてきました。
慣れてるというか、うん。苦労が忍ばれますね。
「わかりました。ではそれで」
姫様に反論されたりすると面倒なので、さくっとその提案に乗っかります。
あっ、騎士さんと視線が合いました。うん、心から同情するよ。
何となく騎士さんと心を通わせてから、改めて姫様と向き合います。
なんかブンブン素振りしていますが、すでに戦闘モード入ってますわ。あれ……
しかも、太刀筋はそれなりに使うみたいですね。こりゃ、気が抜けないかもしれません。
俺は木刀を正眼で構えて、姫様と対峙します。
それを見た姫様、なにか嬉しそうに視線を向けてきまして、同じように構えを取りました。
「それでは、始め!」
騎士さんが合図をすると、いきなり魔法強化した姫様が怒涛の勢いで突っ込んできます。
えっ、魔法とか魔力強化アリなの!?
俺は内心では少々驚きながらも、冷静に姫様の剣筋を読みます。
うん、予想はしてたけど真正面から唐竹割りっすか。
魔力強化で勢いだけはあるけど、剣筋は至って素直なもんですな。
正直、どんなバケモノ級かと恐々としてましたが、これなら問題ありませんね。
俺は振り下ろされる剣へ、わずかに木刀を当てて軌道を逸らすと、そのまま姫様の首筋に木刀の切っ先を突きつけます。
ブンッ!と恐ろしい音を立てて姫様の剣が振り下ろされますが、その瞬間には木刀が姫様の首に当たっていました。
これでまずは一本かな?
っと、思ったら首筋に木刀を当てられた事で怒ったのか、おっかない顔で姫様が逆袈裟で切り返してきますよ。
うわっ、この姫様バトルジャンキーで負けず嫌いとか、どんだけ熱血キャラやねん!
まあ、騎士さんの許可も出てますので遠慮なくやらせてもらいましょうかね。
俺は木刀の刃筋を返すと、そのまま姫様の側面に回りつつ姫様の腕に木刀を振り下ろします。
さすがに腕をへし折る訳にはいかないので、鍔元を強く叩いて剣を取り落とさせると、再び木刀を首筋に向けました。
ここまで僅か数瞬といった所でしょうか……
「あっ、アーサー殿の1本!」
騎士さんが驚いた様子で勝利を宣告します。
ふぅ、ここ数日稽古出来てませんでしたから、久しぶりに体を動かすと気持ちいいですね♪
そんなことを考えてましたが、ふと見れば姫様が不思議そうに木剣を叩き落とされた手と首筋の木刀を見ています。
いつまでも密着していると素手で殴りかかってきそうなので、俺は数歩下がって残心を取り、血振りから納刀まで済ませてしまいました。
ん?姫様の様子がおかしいぞ?
なんかブワッとオーラじゃないけど、うなじの辺りで金髪が逆立ってますよ?
そしてワシっと落ちていた木剣を拾うと、先程よりも速い速度でこちらに飛び込んできます。
なんでしょう、これってバーサーカー?
「なっ、ミレイア様おやめ下さい!」
騎士さんも気づいたようで、止めに入ろうとしますが間に合いそうもありませんね。
まったく……
俺は、その場で重心を落とすと飛び込んでくる姫様に向けて、横薙ぎの居合で胴を斬り抜けます。
ドスッ!! っと、やたら重い手応えがありましたが、そりゃ魔力強化で速度が乗ってる所にカウンターですからね。
ズササッ、っと、音を立てまして姫様が俺の後ろで停止しまして、そこで糸が切れたみたいにドサッと倒れこみました。
騎士さんや女官の人が慌てて駆け寄ります。
あっ、やべぇ……
もしかして、またやり過ぎちゃった?
すみません、遅れました(汗




