31.またやってしまいました
本日は内政チートものをお送りする予定でしたが、予定を変更しましてバトル物をお送りいたします。
はい、ステータスには運の表示はないんですが、自分の運を疑わしく感じているアーサー君です。
「本当に魔物の反応があるのか?」
到着した父様は森の奥へ厳しい視線を向けながら、俺に聞いてきます。
「間違いありません。この先2キロほど行って少し下った先に、複数の魔物の反応があります」
俺の言葉を聞いて、父様は村長に目を向け、村長は同じように連れてきた村人に視線を向けました。
「坊っちゃんの言うとおり、ここから先に進めばしばらく行くと下り坂になってるだ。
だども、その先は高い崖になってて、回りこまねえと先にゃ進めねえど?」
およ?でも反応はその辺から出てるんですよね?
それを聞いた俺は、もう一度魔力探知を展開し、地形を読み取っていきました。
ああ、なるほどね。
「それで間違いないですね。崖に細い隙間があって、その奥に洞窟があるみたいです。反応はそこからですね」
それを聞いた父様は同行してきた騎士達と、何やら打ち合わせをはじめました。
「俄には信じられんが、アーサーの魔法は色々と常識では測れんからな。
一応、確認して殲滅できるようなら殲滅。難しいようならば、応援を呼ぶぞ」
なんだか、実の父から失礼な言葉が出たような気もしましたが、とりあえずスルーしましょう。
それよりもようやく息が整った例の従卒君と、こちらをチラチラ見ながら何か話していますので、先に釘を刺しておかないといけませんね。
「父様…… 俺を置いていくとか、言わないですよね?」
図星を突かれたのか、ピクリと会話が止まり、父様は諦めたようにこちらを見ています。
「仕方ないな…… ただし、あまり前には出るなよ」
よし、置いてけぼりフラグは、無事回避できたようです。
「そんなら、案内でコイツをつけるでよろしく頼んます」
話がまとまって、村長が先ほどの村人さんを紹介してくれました。
どうやらこの森で狩人をしているらしく、森の様子に詳しいということで、そこまで案内してくれるそうです。
そうして出発した一行は、村の狩人さんを戦闘に真ん中に俺と父様を置き、一列で進んでいきます。
大森林に比べると、森の中の空気は清々しい感じがします。
いったい、大森林の重苦しい気配は、何なんですかね?
しばらく歩いてもうすぐ例の崖に達するという所で、一行は停止して息を整えます。
鎧の具合や剣の位置を直しながら、水を飲んで一息ついたあとまずは斥候を出すことになりました。
「まずは斥候を出して周辺に魔物がいないかを確認してから、接近するぞ」
それなら最初に発見して、なおかつ魔力探査が使える俺が行くのが筋でしょう。
しかし父様は、あっさりその意見を却下してきやがりましたよ。
「アーサー、お前はもう少し集団で動く事を覚えろ。いくらお前が強かろうとも仲間を信頼できなければダメだ」
ぐぅ、もっともなご意見でございまする。ぐうの音も出なませんね。ぐぅって、言ったけど。
そんな訳で、騎士の一人と狩人さんが、斥候に出て行きました。
ふむ、確かにこれから誰かとパーティーを組む事もあるでしょう。その時に備えて集団戦の心得を知っておくのも必要ですね。
俺は二人の帰りを待ちながら、少し視野が狭くなっていたかなと反省しつつも、二人のサポートとして魔力を展開させます。
二人の位置と、崖の中の魔物をより詳しく調べるために、魔力探知を行い崖の内部を調べていきます。
魔力の反射によれば、入り口は亀裂ぐらいの狭さですが、内部はかなり広いようですね。
でもこれだけ近くて、なんで村に被害が出なかったのでしょうか?その辺が不思議です。
おんや?何か不思議な広い空間があって、その周辺に何匹かの反応がありますね。詳しく調べれば、その奥にも幾つかの反応が伺えます。
俺は魔力の反応を、地面に枝を使って描いていきます。
「ただいま戻りました」
騎士さん達が斥候を終えて、戻ってきたようですね。
俺は全員を、地面に書いた図の所へ案内すると、そこで斥候に出た騎士さんに話を促しました。
何か父様と騎士さんが、死んだ魚のような目をしてますが、何かしたんでしょうか?
「恐らくゴブリンの巣ですね。数はそれほどでもなく、岩の隙間から一瞬だけゴブリンの姿が見えました。
ですが、それほど巣の規模は大きくなっていないように思えます」
「岩の隙間は狭くて、ありゃ俺達が通り抜けるのは、難しいんでねぇかな?」
それを補足するように狩人のおっちゃんが、唸るようにそう言いました。
「僕が魔力で探った限りでは、内部はこんな感じでした。
詳しい数までは判りませんでしたが、多分両手で足りるぐらいだと思います」
本当ならば、子供の戯言で片付けられるかもしれませんが、現にこうしてゴブリンの巣を最初に感知したのは俺なので、誰も言い返せないみたいですね。
騎士さんは父様に視線を送っていますが、父様は力なく首を横に振っています。
「ならば煙でも炊いて、燻り出された所を叩くしかなさそうだな」
父様がそう言うと、騎士の人達もそれに頷きます。
あれ?父様、俺の存在忘れてません?
「父様、それなら僕が入り口を魔法で壊します。そのほうが安全ですよね?」
せっかく魔力を持った遠距離火力がパーティーにいるんですから、活用しない手はないですよね?
うん、父様が何か遠くを見つめてますが、ようやく我に返ったように、その意見を了承してくれます。
「いいだろう、アーサーが入り口に火魔法を打ち込んで、ゴブリン共が慌てて出てきたら、全員でそれを叩く」
騎士さん達は、普段から俺がダリルさんと死闘を繰り広げているので、何か納得したような諦めた顔をしています。
それに比べて村の狩人さんは父様と俺を交互に見て、怪訝そうな顔を浮かべていました。
まあ、初見だったらそりゃ疑うような表情にもなるよね。もう、慣れました。グスン。
俺達は、父様の指揮で崖の入り口を囲むように広がって、ジリジリと崖の方へと向かっていきます。
俺と父様は中央に陣取って、全体の指揮と正面を受け持つ事になりました。
なにも領主自ら一番危険な場所にいなくてもいいんじゃないかと思いましたが、この中で一番腕が立つんだそうです。
そう言えば一番最初のゴブリン退治の後、カミングアウトした時に立ち合ってから、父様と一緒に戦ったり戦闘シーンを見るのは、これが初めてかもしれません。
それに父様の腰には、例のエルモさん謹製ロングソードがぶら下がっています。
こりゃ、ちょっとワクワクしてきましたよ!
騎士団での稽古の時もたまに来て、隅っこのほうで重い木剣を振って帰るだけで、模擬戦とかもやらないんですよね。
ダリルさんと父さんの戦闘とか、ちょっと見てみたい気もします。
そうこうしているうちに、森が途切れて、例の崖の前に出まして、茶色っぽい岩肌が見えてきました。
目算で崖までの距離は、百メートルぐらいでしょうか?
これ以上先に接近すると、多分気づかれるでしょうね。
森に逃げ込まれると、別の場所に巣を作られるから厄介なんだそうです。
入り口らしい隙間に目を向けてみれば…… ああ、あの隙間は大人では無理でしょうね。
俺なら、楽勝で通り抜けられそうですが。
少し待つと、左右から合図がありまして、準備が整ったようですね。
「アーサー、遠慮はいらん。特大のヤツを、入り口にブチ込んで、ゴブリン共を驚かせてやれ!」
父様がすっかりワイルドな表情でニヤリと笑って、許可を下します。
おーけー、おーけー!父様の許可が出ましたよ!
ここはひとつ、派手にぶちかましてあげようじゃないの。
俺は先日完成した、例の魔法を組み上げていきます。
円筒形の筒と火魔法の粒、それに両端が尖った円すい形…… 最後に火魔法の信管……
なーんのヒネリもありませんが、複合爆裂魔法 HEAT弾が完成しました!
「父様、撃ちます。耳をふさいでください!」
俺は魔法の構築に集中しながらも、父様にそう伝えました。
シュボン! やや山なりの弾道を描いて、ゆっくり弾頭が崖に向かっていきます。
この魔法まだ生成が難しくて、魔力の糸で着弾コントロールとかができないんですよね。
それにスピードも遅いので、もっと改良しないと実戦ではなかなか使いどころが難しい魔法ですわ。
吸い込まれるように崖に到達した魔力弾は、一瞬光ったあとでズズン!と大爆発を起こし、周囲に煙が立ち込めます。
いや~、でっかい魔法がきれいに命中すると、気持ちいいですね!
さあ、残党のゴブリン共を狩りに行きましょうか…… って、父様?なに固まってるんですか?
それじゃ、俺の練習を覗いているリーラみたいじゃないですか。
「アーサーよ…… お前は何の魔法を放ったんだ?」
「え~っと、オリジナルの火魔法ですが?」
あれ?このパターンはもしかして……
「「なんじゃありゃ~!!!!!!」」
あっ、ツッコミの声は父様ではなくて、先に復活したらしい左右に展開した騎士さん達から出たようです。
どうやら、またやっちゃったらしいです……!(てへぺろ)




