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30.領地の視察に行きました


 ただいま絶賛トラウマ中のアーサー君です。

うん、あの人に逆らっちゃいかん。



いや、あの後母様がすっ飛んできまして、事情を説明したのですがね。

倉庫に連れ込まれて、こんこんとお説教をくらいました。


笑顔なんですが、目がね…… 視線だけで人が殺せるぐらいに怖いの。


それを見た瞬間、ちっちゃいアーサー君のナッツがキュッって!キュッって!


大事なことなので二回言いましたけど、もう二度と倉庫には連れ込まれたくありません。はい。



はてさてそんな騒動から数日が経過しまして、今日は父様にお願いしていた、領地視察に連れて行ってもらいます。

数字だけ見ても現地の状況がわからないと、ニーズのくみ取りなんて無理ですからね。


そんな訳で現在、父様の馬に乗せられて、生まれて初めての遠出に出かけております。

今は領都である町から、南に数時間行ったところにある農村目指して進んでいるのですよ。


かっぽかっぽと馬の背で揺られ、のどかな田舎道を進んでると、なんだかホントに異世界に来た実感がわきますね。

まあ、バンバン魔法使ったり魔物と戦ったりしてますから、今さらですけど。



今日のお供は、二名の騎士さんと従卒三名で合計六人です。

父様が視察に出る時は、大体この半分らしいのですが、今日は俺がいるからといって、人数を増やしたそうで、なんだか恐縮します。


途中の小川で馬に水を飲ませて休憩を入れ、お昼前には目的地の農村に到着しました。

少し遠くに集落が見えて、隆起した丘のような地面を囲むようにして麦畑が広がり、収穫を前に麦の穂がだいぶ色づいています。


ここから更に南下すれば、領境の村にたどり着くのですね。そこまで行くには、日暮れくらいまでかかるでしょうか?



「あんれ~、領主様今日は視察だっぺか?」


おっ、早速第一村人とエンカウントしましたね。彼は額の汗を拭いながら、こちらに挨拶をしてきます。



「ああ、息子が領内を見たいって言ってな。村長は家にいるかな?」


父様はそう言って、自分前に乗っている俺の頭をポンポンと叩いてくれます。

なんだか領主と領民の会話にしては、随分砕けてますが固っ苦しいよりは、よっぽど好感が持てますね。


俺も作業中の第一村人さんに、にっこり笑って手を振ると人懐っこい笑みが返ってきました。


「ああ、村長なら今日は家にいるはずだべ」



「わかった、それじゃあ村長の所に顔を出してくる。ところで何か困ったことなどはないか?」


父様の声に第一村人さんは、ゆっくりと首を横に振りニッコリと笑っていました。

なんだろう?思っていたよりも悲壮感が少ないですね。


再び馬を進めはじめたところで、俺の疑問に答えるようにして父様がポツリとつぶやきました。


「この辺はまだ領都に近いからな。まだ恵まれている方だ……」



ふむむ、なるほど。いきなりヘビーな所ではなく、近場のライトな所から視察開始って父様の配慮ですかね。

程なくして村の中に入ると、作業に出ているのか人影はまばらで、静かな印象を受けます。


そんな中、周囲の家より少し大きい家に到着した俺達は、馬を繋ぎながら家の中に声をかけます。


「村長、急で申し訳ないが視察に来た。いるか?」


騎士の一人が家に向かってそう言うと、中から老夫婦がゆっくりとあらわれて、頭を下げてきます。


「おやおや、チェスター様。いつもの視察は、もう少し先でねぇですか?」



柔和な笑みの中に、すこーしだけ不安の色が見えましたが、そりゃ領主が自ら予定外の視察に来ればドキドキしますよね。


「いや、急な視察で申し訳ないな。今日は少し息子に領内を見せに来ただけだ。心配するな」



そう言って父様は、また俺の頭に手を置きます。ええぃ、あんまりポンポンしないで下さい。身長縮んだらどうすんですか!


俺はポンポンから逃れるように一歩前に出てペコリとお辞儀をします。


「アーサーです。今回は無理を言って、視察に連れてきてもらいました。お忙しいところお邪魔します」



「おやおや、儂はこの村の長をしておりますトムと申します。ご丁寧にありがとうございますだ」


目を細めながらそう言って、少し曲がった腰をさらに曲げた村長さんは、ニッコリと笑ってくれる。


「こりゃ、しっかりしたお世継ぎですなぁ。この領も安泰ですだな」


「ああ、いささかしっかりしすぎていて怖いくらいだがな」


父様がそう返答すると、カラカラと笑った村長さんは、「立ち話もなんですので」と、俺たちを家の中に招き入れてくれた。


家の中に足を踏み入れると、板敷きの床に藁と土壁でできた室内が目に飛び込んでくる。

中は少し煙っぽいですけど、煮炊きの薪が燃えているんですかね?



食卓らしい大きめのテーブルについた俺達は、村の現状について話を聞きます。

長かったので要約すると、昨年よりは収穫量が上がってきているがこれ以上は人員の関係で頭打ちだということ。

どういう訳か今年は獲物の数が少なく、冬の保存食確保に苦心しているらしい。



ひとしきり話を聞いた父様は、従卒の子に目配せをして何か大きな袋を持ってこさせた。


「忙しい所、対応してもらって悪かったな。これは村で役立ててくれ」



そう言って差し出した袋には岩塩の塊が入っており、それを目にした村長は深く頭を下げる。


「いつも目をかけて頂き本当にありがとうございます。これで、冬の保存食づくりが楽になりますだ」


どうやら、前に言っていた村長の話を聞いていたらしく、父様が持ってきていたみたいですね。岩塩。

あれ?海が近いのに塩田とか作ってないんですかね?あとで調べてみましょうか。


「父様、少し村の中を見てきてもいいですか?」



とりあえずは話が一段落したようですので、俺は村の中を見てくると父様に告げると、先程の従卒くんに同行するように言いつけました。


「あまり遠くには行かないようにな」


父様が俺に釘を差してきます。まあ、道は覚えていますので帰ろうと思えば、走って帰るのも余裕でできるんですがね。


「分かりました!」



そう言って俺は、子供らしく村長の家を飛び出して、まずは畑の方に向かいます。

さっきは馬上から見ただけですので、詳しい畑の様子が見えなかったんですよね。


従卒君を魔法強化した脚力でぶっちぎって、畑に到着した俺は穂の成長具合を見てみます。

うーん、やっぱり一株あたりの実の数もつぶの大きさも、ちょっと小さいですね。


ジジイのところは、稲作でしたが作物として考えれば、基本は同じですからだいたい見当はつきますね。

しゃがみこんで土を手にとってみれば、あまり栄養状態がよくないみたいです。


手っ取り早く化学肥料や堆肥があればいいんですが、どちらも手元にはありません。

それよりも領内には、家畜や農耕馬なんて数えるぐらいしかみかけませんからね。


さて、これは困りました。


まずはそのへんの改良から進めないといけませんね。

おっ、やっと従卒君が息を切らせて追い付いてきました。


でも残念。もう移動するんですけどね~



再び魔力強化をかけて、走り出します。

従卒君がなにか泣きそうな顔でこっちを見ていまが、まあ放っておきましょう。



はてさて、次に村の外れにある森の入り口へやって来ました。

幾らか踏み込んで地面を探れば、けっこうふかふかの腐葉土がありますね。


この地方ではまだ二田圃制ですから、次の畑に撒けるように手配しないといけませんね。

ホントは堆肥化すればもっと効率が上がると思いますが、まずは急場をしのがないと。




あれ?あんまり差をつけすぎたのか、従卒君が俺を見失ったのかな?

俺は練習を兼ねて、広域探知をかけて村の様子を探ります。


ああ、ゆっくりとではありますが、こっちに歩いてきていますね。



ん?探知に、何か引っかかります。

人間の魔力とも違う、動物よりも大きい。これ、魔物ですかね?


俺はその方向に向けて魔力を集中させて、探知範囲を限定していきます。



「はぁはぁ…… アーサー様、ひどいですよ。置いて行くなんて」


「シッ!静かに」


俺は、集中を乱さないように従卒君の言葉を遮ると、魔力探知に集中します。


思った通り、この先の森の中で何か嫌な反応が、複数感じられますね。


「ごめん、疲れている所悪いんだけど、すぐに父様達と村長さんを連れてきて。森の奥で魔物の反応がある」



魔物と聞いて従卒君は少し顔を青くしながらも、再び村の方へと走って行きました。



うん、走らせっぱなしでゴメンよ……



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[気になる点] 31話で 今日のお供は、二名の騎士さんと従卒三名で合計六人です って書いてますけど2名の騎士と従卒3名 つまり2+3=5だから6名ではなく5名では無いですか? [一言] 楽しく読ませて…
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