22.戦い終わって
はい、久しぶりに挨拶しましたね。ども、ベットの虫ことアーサー君です。
いや~、エリカを救い出してから三日経つんですが、絶賛監禁中ですよ。
まあ、出ようと思えば出られるんですが、朝夕の稽古もないし、たまにはゴロゴロしたいじゃないですか。
回復魔法をかけてもらったようで、体の方は特に問題なくて一安心です。
魔力の方も起きたらほぼ回復してまして、体的には絶好調なんですよね。
あ~いかん。このままでは、またダメ人間化して、引きこもってしまいそうだ。
リーラに書庫から本を持ってきてもらって、ボチボチ読書をしながら過ごしております。
食事も部屋で寂しく摂っておりますので、まさに引きこもり。
前世との違いは、メイド付き全自動ニート生活という、ある意味理想的な状況です。
うん、この生活は確実に人をダメにするわ。
でも、この世界に転生してから、なんだかやたら活動的なんですよね。
三才児のグリコーゲンレベル、半端ないっすよ。
おや?ノックの音がして誰かが来ましたね。
「どうぞ~」
軽く返事をすると、そこに現れたのは今回の騒動の中心人物。
エリカとそしてお父さんであるロイドさんでした。
タタタッっと走ってきたエリカは、ベッドにダイブしてシャカシャカよってくると俺に抱きついた。
うん、なんだかエリカはお日さまのにおいがします。
俺もエリカの無事は聞いてはいましたが、こうしてぬくもりを感じると、頑張った甲斐があったなと思いますね。
「エリカ、本当に無事でよかった」
「ありがとう…… アーサー君のおかげだよ」
なんだかほっこりします。幼なじみって、やっぱりいいですね。
「……ゴホン!」
あっ、ロイドさんがなんだかすごくわざとらしい咳払いしましたよ。
なんですかね?これ、もしかして娘が欲しかったら俺を倒してからにしろ!とかいうパターンですか?
「ロイドさん、エリカが無事で本当に良かったです」
俺はちょっと名残惜しいけど、ゆっくりエリカを引き剥がしてからロイドさんに声をかけた。
「アーサー君のおかげだよ。最初にその話を聞いた時は信じられなかったけど、アレを見せられたら信じるしかないからね。
娘を救ってくれて、本当に…… ありがとう」
「いえ、俺の方もロイドさんに救われました。あのポーションがなかったら、多分ダメだったと思います」
それを聞いたロイドさんは、少し驚きながらも嬉しそうに目を細めた。
「本当に君はエリカと同い年なのか、疑いたくなるね。でも、ちょっとしたイタズラ心が役に立ってよかった」
そう言って笑ってから、ロイドさんは俺の頭をなでてくれる。
ロイドさんの話では、あのお守りポーションは商会で売るハイポーションを作っていた時に、びん詰作業で出た余剰を詰めたらしい。
ハイポーションはそうそう作れるものではないので、余った分の扱いに困っていた時に思いついたらしい。
いや、アレがなかったらホント黒焔狼が出た時本当に死んでたと思う。
「それで、今の状況について良ければ教えてもらえませんか?」
俺はちょっと気になったことをロイドさんに聞いてみた。
引きこもり生活してましたが、どちらかと言えば監禁に近いんで、まったく外の情報が入ってこないんです。
父様や母様も顔を見せてくれませんし、リーラに聞いても珍しく答えてくれません。
おやつで釣ろうとしましたが、それでもリーラが口を割らないとかよっぽどですね。
「う~ん、教えてあげたい気もするけど、それは多分私の役目じゃないと思うな。
でも、きっと近いうちに教えてもらえるよ。
それに、私も君の頑張りに、応えなきゃいけないね」
うーん、要領がつかめませんがまあ近いうちに何か進展があるのでしょう。
ここはもう少し、自堕落な生活を満喫するとしましょう。
ひとしきり話が終わると、名残惜しそうなエリカを連れてロイドさんは帰っていった。
なんでも、これから色々と忙しくなるらしい。
再び一人になった俺は、ぼーっと天井を見上げながら、黒焔狼達との戦いを思い出していました。
いやはや今回はヤバかった。
命のやりとりをしたので、何かショックや心境の変化があるかとも思ったのですが、特に変化はないですね。
まあ、前世で山ごもりしていた時、さんざん狩りで獲物を仕留めたり前に言ったみたいに、熊と遭遇してましたから。
ん?クマがどうなったかって?
ジジイが無双しまして、無事に俺達の胃に収まりましたよ? でもあれは、何て言うかクマが可哀想でしたね。
話が通じるなら、はちみつでもおみやげに持たせて、見送ってあげたくなるぐらいでした。
まっ、最後にはスタッフがおいしくいただきましたけどね。
それよりも、黒焔狼との戦いで思い知った自分の弱さっすね。
今の自分が3才児って事を差っ引いても、チートもらって転生してこの体たらくは、ちょっと反省です。
もっと修行をして、それから魔法の改良…… 改善点は多いですね。
それにもっと丈夫な武器がないと、話になりません。
こりゃ、この監禁生活から開放されたら、放ったらかしにしていた例の計画を進めないといけません。
思いついたら即実行。メモ帳に改良すべきポイントや、今後の動きを書き出して色々と計画を練っていました。
ん?気づけばもう夕方ですか。今日の夕食は何でしょうね?
リーラと差し向かいで食べる夕食も楽しいんですが、そろそろ家族団らんが恋しくなってきました。
でも、客観的に考えればAランクの魔物を倒す3才児とか、両親からしたらバケモノに見えるかもしれません。
屋敷に戻って気づいてから、まだ両親の顔を見ていないってのは、避けられているんでしょうか。
ちょっと悲しくなります。
もし両親が俺を幽閉するって考えているなら、その時は脱出して生計を立てる算段についても、考えなければなりません。
やり過ぎたかなぁ……?
そんなことを考えていたら、聞き慣れたノックの音が聞こえてきました。
この音はリーラですね。そろそろ夕食の時間ですか。
「アーサー様、お食事ですよ~ダイニングに行きましょう」
おや?リーラが手ぶらで俺を呼びにきましたね。そうですか、ようやく父様と母様にご対面ですか。
なんか後ろ向きな事を考えていたせいで、ちょっと顔を合わせづらいですな……
「さあ、早く行きましょう♪ チェスター様もディアナ様もようやく戻ってらっしゃって、アーサー様に会いたがってますよ!」
何かウキウキ顔のリーラに手を引っ張られて、ダイニングに向かいます。
開口一番、両親から何を言われるか、ちょっと不安です。
「「アーサー!!」」
ダイニングに行くにはリビングを通り抜けるのですが、そこで待ち構えていた両親は、俺の顔を見るなり駆け寄ってきて俺を抱きしめました。
うあっ、ちょっと……苦しい。嬉しいのはわかった。息ができないから!
ディアナ母様!お願い、その凶器を何とかして!マジで息できないから!
「御館様、奥様、感動の再会は結構ですが、そろそろ離されませんと、アーサー様が天に召されますよ?」
ぶはぁぁぁっ! ゼィゼィ…… モーリス、ナイスアシスト……!
いや、両親の手……いや、胸で、危うく女神の所にリターンしそうになりましたよ。
それでもディアナ母様は、俺を離さず額や頬にちゅっちゅしてきます。
父様も、何故か俺の手を握ったまま離しません。
あれ?さっき考えてたのは…… もしかして杞憂? 俺の思い込み?
ようやく感動の再会を果たしたセルウィン家は、ダイニングへ移動して久しぶりに家族全員で夕食になりました。
「アーサー、まったく、お前というやつは、無茶をするんじゃない。駆けつけた時は、本当に肝が冷えたぞ」
今日の夕食はいつもより少し豪華で、俺には果実水、両親はワインが食前酒で出されています。
それを飲みながら父様が口を開きました。
「ホントにもう。たまたま間に合って、向かってみたらアーサーが血まみれで倒れているから、心臓が張り裂けるかと思ったわ」
うん、母様。ジェスチャーでその時の心境を表すのは結構ですが、なんかムニッって言ってますよ?
なんですかその凶器?脂肪以外の何か不思議物質で出来ているんですか?
「心配かけてごめんなさい。でも、黒狼が出るなんて僕も本当にビックリしたんだ」
うん、これは掛け値なしの本音です。
「ああ、私も驚いた。あんな所で黒狼……いや、黒焔狼が出るとはな」
そうして始まった父様の話を聞き、ようやく倒れてからの経緯が判明しました。
俺が倒れてからすぐに、騎士団を連れた父様と母様が現場に到着。
そして倒れている俺とエリカを無事に保護したそうだ。
だけど、問題はこの後だった。
Cランクの魔物である黒狼、そしてAランクの魔物である黒焔狼が街道に現れた。
これが由々しき問題になったのだ。
もし、領主と騎士団が責任も持つ街道で、そんな高ランクの魔物が現れた事が判ったら、大変なことになる。
ただでさえ僻地であるセルウィン領で、主要交通路になっている西の街道でそんな話が出たら、領内の流通が壊滅する。
それでなくても他領から運ばれる商品のコストが高いのに、そこに護衛の料金やリスクが加わったら、物価高騰どころの話じゃなくなってしまう。
困った父様達は、とりあえず黒焔狼達は、騎士団によって大森林で討伐されたと言う事にした。
もちろん俺が倒したって事も秘匿されることになった。
まあ、誰が聞いても3才児がAランクの魔物を倒したなんて、信じられないと思うけど。
それと同時に騎士団総出で西の街道周辺を総ざらいして、安全確保を行っていたそうだ。
幸いにして俺が倒した以外の黒狼達は、街道周辺では発見できず捜索を終了して、ついさっき帰ってきた。
なるほどね。それなら両親が俺に会えなくて当然だわ。
いや、良かった。泣きながら家出の計画とか立てなくて……
うん、ホッとした。
「それで、黒焔狼達の処分はどうなるのですか?」
出来れば魔石から、例の経験値っぽいやつを吸収しておきたいと思った俺は、父様に聞いてみた。
それを聞いた父様はフッと少し笑ってから、少し困ったような顔を浮かべる。
「今は騎士団の詰所に運び込んで、解体作業を行っている。
黒焔狼ほどの魔物となれば、領内で売却するのは難しいから、ロイドが王都のオークションで売却してくる予定だ。
それと、その報酬は経費を除いた全額がお前のものだ……」
それを聞いた俺は、食後に飲んでいたりんご味の果実水を吹き出しそうになりました。
多分、黒焔狼と黒狼を合わせれば、売却益は莫大なものになります。
もしかすれば、領内の年間予算に匹敵する額になりかねません。
「ゴホッ、そんな。いいんですか?父様!」
驚いた俺はその真意を問いただすが、真面目な顔で答えてくれる。
「魔物の討伐は討伐者が受け取るのが世の理だ。
それはエリカの証言からも、すぐに現場に到着した私自身も、お前が討伐したと確認したから間違いない」
そう断言した父様の言葉に、おれはそうなんだと納得するしかなかった。
とりあえずは、オークションに出す前に現物を確認させて欲しいとお願いして、了承をもらう。
良かった、これで経験値が入手できる。
そこからは、どうやってエリカを見つけたのか?から黒狼達との戦いの経緯について、リビングに場所を移して話し込んだ。
両親は驚きながらも、俺の話を聞いてくれて、最後には「頑張ったな」と褒めてくれた。
うん、家族って…… やっぱりいいね。




