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17.アーサー君の鍛冶屋探訪



はい、家庭教師アーサー君です。トライさんも真っ青な腕前ですよ?



さて、あれから数ヶ月週末の休み以外は、まじめに稽古と勉強に励んでいます。

母様との魔法の勉強は、正直言って目からうろこでしたね。

ただし、魔法の勉強は半分くらいで、後の半分は俺が母様に属性魔法を教える謎展開になってます。


教わった魔法の内容については、おいおいお話していきますね。



そうそう、最近はリーラの買い出しに付き合って、街に降りて見物や買い物に出られるようになりました。

魔法の勉強で習得した魔力強化を父様に見せたら、あっさり許可が降りたんですよ。


お小遣いは母様から、月に銀貨一枚もらえることになりました。

それとは別に、前に倒したゴブリン達の魔石を換金したお金も、父様から渡されたのですよ。


ああ、通貨単位はだいたいこんな感じですね。


ゴル(gl)

金貨 10,000ゴル 100,000円

銀貨  1,000ゴル  10,000円

銅貨    100ゴル   1,000円

鉄貨     10ゴル     100円



だいたい、銅貨1枚が1000円程度と考えればいい感じですね。

3才児に月の小遣いが1万円って、一応貴族なだけはあります。


それで、アーサー君の現在の全財産は、銀貨6枚と少々って所です。


ゴブリンの討伐報奨が2,500glだそうです。多少色を付けてもらったらしく、市場価格よりも少し多めみたいですね。


3才児が買い食いとかすると言っても、たかが知れてますから結構貯まりました。


それよりも買い物のたびに、リーラがお菓子や屋台の食べ物をねだるのは、どうかと思いますよ?

まあ、美味しそうに食べている顔を見るのは嫌いじゃないので、許してますけど。



もうひとつ変わった事といえば、エリカちゃんとだいぶ仲良くなりました。

最初の頃は引っ込み思案だったけど、打ち解けてきたら色々と話してくれるようになってきたのよ。

王都から引っ越してきて、こっちではまだ友だちがいないことや、環境が変わってちょっと不安なこと。

お母さんが亡くなったらしくて、寂しそうにしている事などなど……


それを聞いた俺は、夕食時に父様と母様に相談したんですわ。

エリカのお父さんであるロイドさんが忙しい時は、ウチでエリカを預かれないか?って。



流石に冒険者として一緒に戦った仲間ですね。その話を聞いたらすぐに了承してくれました。

いいですね。仲間って!


それ以降、頻繁に館に来るようになったエリカは、俺から勉強を、母様から魔法を教わったりしています。

えっ?なんでエリカが魔法を習ってるのかって?


決まってるじゃないですか!俺の魔法を見たエリカが「私も使えるようになりたい!」 って、言い出しまして。

それで俺が無属性の練習方法を教えたら、見事に魔法が使えるようになりました。


ステータスを見る限り、水と聖属性に適正があるみたいですね。

これには母様もビックリしたみたいで、今では仲良く魔法の勉強をしています。


いや~、美人のメイドに幼なじみまでゲットですよ。どうだ!羨ましいだろ!

嫉妬のオーラが心地よいの~ぅ♪


イテッ! こら、ホントに石投げるんじゃない!





はてさて今日は俺の用事(ワガママ)で、リーラに付き合ってもらい、鍛冶屋を覗きに来ています。

いや本格的に剣の修行をするようになってから、自分用の剣が欲しいと思ってまして。


欲を言えば日本刀が欲しいのですが、よくある設定のように東の方に島国とかはないらしく、調達は困難なのですよ。

そうなるとオーダーメイドになるんですが、そうすると価格が跳ね上がって、金貨数枚は必要になるんですね。


まあ、今の所は騎士団の武器庫にあった、一番軽い短剣を腰に挿してますが、やっぱりしっくり来ません。

そんな訳でちょっと思いついた事を試そうと、アーサー君の武器屋探訪に来ています。



「確か、この先だったよね?武器屋さん」


「ええそうですよ。その角を曲がって少し行った先ですね。この辺で一番大きな武器屋さんです」


「そっか、武器屋とか初めてだから、楽しみだなぁ」



そんな会話を交わしながら、俺とリーラは賑わう街の中を進んでいきます。

今俺達が歩いているのは、町中でも一番人が多いメインストリートで、そこから一本外れた所に、武器屋さんが存在しています。


おっ、見えてきました。二階建ての結構大きな店構えですね。どれどれ、早速店の中を拝見しましょうか……


「おい!ここはガキの来る所じゃねぇ!とっとと帰れ!」



むきゅっ、店に一歩足を踏み入れた途端に、店員と思しき兄さんが俺の襟首をつまみ上げて、持ち上げました。

そしてそのまま店の外に、ポイッって……



おーけー、わかった。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。

店が全焼するのと、跡形もなく粉々にされるのと、どっちがいいか答えろや!



剣呑な空気をまとい始めた俺に気づいたのか、リーラがすいっと前に進み出て、俺をつまみ出した店員に何事か話をしています。



おや……? 店員さんの顔色が、赤から土気色に変わって、それから青くなったぞ?


「アーサー様、知らぬこととはいえ、大変失礼致しました!どうか死罪だけはご勘弁下さい!」



おお、リアルジャンピング土下座って、初めて見ましたよ!

テノヒラクルーもここまで来ると、見てる方が可笑しくなってきますね。


なんだか諸国漫遊の旅に出た、ヒゲの生えた某おじいさんの気分です。


「まあ、武器屋に子供が入ったら危ないですからね。当然の対応ですよ。

事前に教えなかったこちらにも非があります。頭を上げて下さい」



うん、ここは紳士的に対応しないとね。一応将来は自分の領地になるわけだから。


あ、なんか土下座状態のまま顔を上げて、店員さん涙流してるよ。


「そ、それじゃあ、中を見せてもらいますね」


「はい!どうぞ、ゆっくりご覧ください!」


店員さんにかまってると、いつまでも目的を果たせる気配がないので、俺はさっさと店の中に入ることにしました。


リーラが何かドヤ顔してますが、さっき買い食いした時の食べかすが、口の横についてますからね?

面白そうなので、帰るまで黙っていようと思いますが……



中に入ると…… おお!壮観ですね。武器がところ狭しと陳列され、なんだかワクワクしてきます。

俺はひと通り、その武器を見せてもらってから、慌てて飛んできた店主さんに言って鍛冶場を見せてもらうことにしました。


うむ、なんとなく懐かしい感じがしますね。

昔からジジイに連れられて、年に何度か日本刀の制作現場に連れて行かれましたから。

この熱気や槌の音は、どこでも変わりませんね。


鍛冶担当の店子さんは、真っ黒な顔で訝しげにこっちを見てますが、店主さんが横にいるので何も言わずに作業に戻りました。

ほうほう、あれだけ鉄を使うのね。日本刀や和式の刃物とは、だいぶ勝手が違いますね。


ふむふむ、なるほど……


「ここは、数打ちの剣を作る工程ですね!よろしければ奥に特注品を作る場所がありますので、ご覧になりますか?」


周囲の騒音に負けないよう、声を張り上げて店主さんが聞いてきました。

それは願ってもないチャンスですね。早速お邪魔しましょう。


案内されると、そこにはちょっと身長低めのごっつい爺さんが、一心不乱に真っ赤な鉄を打っていました。

ああ、ドワーフさんですね。人外の方々をそう言えば初めて見ましたね。


どうも彼は集中しているらしく、こちらに気づいた様子もなくじっと鉄を見据えて、叩き伸ばして行きます。



まだ剣の形にはなっていないそれを、でかいハンマーでガンガンと叩いて伸ばし、徐々に鉄の塊が剣の形になっていきます。

最後に余った余剰の鉄を、タガネとハンマーで切り落として再び炉の中に剣を突っ込みます。


そこまでの行程を一息つく間もなく見ていた俺は、ほうっと息を吐きだして肩から力を抜きます。

視線を落とすと、足元には先程切り飛ばしたのと同じような鉄くずが、いくつか小山を作っていました。

よく見ると切り口が白銀色に輝いていて、普通の鉄や鋼とは何か違うようです。


「この小山の金属は、何ですか?」


「そりゃ、ミスリルの端材だ。あとで纏めて炉にブチ込んで、また素材にするのさ」


俺の問に答えてくれたのは、店主じゃなくて今まで剣を打っていたドワーフさんでした。


「これがミスリルですか!」


なるほど、端材をひとつ手にとって見れば鉄よりも軽くて、それでいて指で弾いてみれば、ガラスみたいに澄んだ音がします。


「ああ、ミスリルは軽くて魔力の通りもいい。上位の冒険者や上級の騎士なんかは、だいたいミスリルの剣を使ってる」


「申し遅れました、アーサー・セルウィンと言います。仕事中にすみません」


「ああ、おれは鍛冶師のエルモってんだ。よろしくな」


さっきの店員さんは置いといて、このエルモさんは好感が持てるな。

3才児でも別け隔てなく接してくれるのは、嬉しい限りです。はい。


「お前さんのことは、ダリルから聞いてるからな」


笑いながらエルモさんはタネ明かしをしてくれました。なるほど、騎士団長から話が伝わってましたか。


色々とエルモさんから武器に関して話を聞きまして、今日の所はお暇することになりました。

おみやげとして、ミスリルと鉄の端材を幾つか買ってきましたよ。


ちょっと試したい事がありましてね。




領主館への帰り道、リーラと一緒にブラブラと歩いていると、何やら館の中が騒がしい事になっています。


「何かあったのかな?」


「何でしょうか?でも、ただごとではない雰囲気がしますね」



俺は門番に立っていた顔なじみの騎士さんに何があったのかを尋ねました。


「実は……」


「えっ? エリカが行方不明に……?」




エリカとは昨日会ったばかりです。


『また明日、遊ぼうね!』


脳裏に別れ際のエリカの声が、鮮明に思い起こされました。



「リーラ!父様に事情を聞きに行こう!」



俺は何か言い知れない嫌な予感を感じて、館に向けて走り出しました……




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