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14.初めての大目玉



アーサー君、享年3歳、死因 ゴブリンによる撲殺……


なーんてね。


嘘です!『審議中』とかヒソヒソ話しないで!




振り返るとゴブリンその2が、鈍器を振りかぶってる所でした。

俺は握ったナタを吸い寄せるようにゴブリンの右脇に食い込ませて、切りつけながら鈍器直撃コースから間一髪逃れました。

なんか、赤黒い血を垂れ流しながら、ゴブリンが悶えております。


とりあえず戦闘能力を奪ったと確認した俺は、そのまま無属性の魔弾を速度重視で、後続のゴブリン達に浴びせかけた。

三体のゴブリン達に当たった魔弾は、撃ち抜くだけの威力はないみたいけど、動きを止めて叫んでますね。


キーキー言ってて、なんかすごく耳障りですわ。


その間に移動した俺は、太ももに魔弾を喰らったゴブリンに近づき、首を切りつけます。

バシャッと血を撒き散らして前のめりに倒れました。


それを見た横のゴブリンは、左手を脇腹に当てたまま、右手でこん棒を左右に振り回して威嚇してくる。

ゴブリンがこん棒を振り切ったタイミングで、伸びた腕に浅く切りつけてひるませてから、刃筋を返して胴を切り抜けます。


肺をやられたらしいゴブリンは、口から血を吐きながらドサリと倒れました。



おや、最後の一匹は目に魔弾の直撃喰らったのか、顔から血を流しながらナイフで切りかかってきます。

少し息が上がり始めていますが、ここの所の訓練の成果でしょう。体力にはまだ余裕があります。


ナイフをかいくぐって太ももを切りつけ、そのまま振り返って胴への突き。

十分に胴体へ損傷を加えたならば即座に引き抜いて、一歩下がって残心……


ぶは~っ、驚きましたよ。寿命が縮みましたよ。何ですか、かよわい三歳児に寄ってたかって!



いやはや、先に魔弾で撃ち殺していたゴブリンはたまたま群れからはぐれたのか、それとも斥候だったのでしょうかね?

やっぱり本隊が後ろから来たみたいです。


少し息を整えてから、魔弾でとどめを刺していきます。もう奇襲はコリゴリっすよ。


でも今の技量と体力でも、この程度のゴブリンの群れぐらいなら、相手にできると判ったのは大きな収穫ですな。




トドメを刺し終わって魔石だけ回収したら、死体は焼却ですな。

魔物って、腐ると大変らしいです。主にアンデット的な意味で……


苦労してゴブリン達を一箇所にまとめて火魔法で焼却処分します。

うわ~、この匂いはなんだか気分が悪くなりますね。


その辺の枯れ木なんかもくべて、上手に焼けるまで少し考察する必要がありますね。


先程のゴブリン戦を思い出してみれば、何とか戦える事は分かりましたが、まだ実力が足りませんね。

息も上がってましたし、魔法の精度もまだまだ甘いですわ。


旅慣れた大人なら、ゴブリン程度は相手にもならないとか。それを考えれば、もっと訓練に身を入れなければなりませんね。


俺は回収した魔石をポケットに突っ込むと、街道に引き返しました。

ゴブリンと比較することで、自分の能力が客観的にわかりましたので、暫くは訓練に集中しましょう。

もう少し訓練が進んでから、もしくは予定通り五歳を過ぎてから、魔物との戦闘を考えた方がいいと思います。



失敗したなぁ。最初からチート貰っておけばよかったかも。

まあ、コツコツやるのも嫌いじゃないので、地道に頑張りましょうか。


俺はそんなことを考えながら、来た道をブラブラと引き上げていきました……



************


目印の場所から草原を抜けて、屋敷の敷地に戻ると何か騒がしい声が聞こえます。


事件でも起きたんでしょうか?


池の畔を通り抜けて庭の端っこに出ると、エリーナさんが血相を変えてこちらに駆け寄ってきます。



「よかった!アーサー様、ご無事だったんですね!」


怒られるかと思って、反射的に身構えてしまいましたが、出てきた言葉は俺の身を案じる言葉でした。


「どうしたの?なにかあった?」


いつもの池の畔で訓練している時より、ずっと早く帰ってきたので心配をかけている理由がわからず、ちょっと混乱気味です。

リーラには、昼食も向こうで食べると言ってあったので、昼に戻らないから探された訳でもなさそうだし。


「まずは、領主様と奥様が大変心配しておいでです。お屋敷に向かいましょう」


なにか、エリーナさんの鬼気迫る迫力で、黙って頷いてしまったけど、もしかして…… 外出バレてる?


エリーナさんに抱き上げられて、屋敷まで連れて行かれる途中、屋敷の人間達も俺の顔を見て安堵してる様子で、何か自体の深刻さが……


あっという間に、領主館のリビングルームに連行された俺は、椅子に座らされ肩をエリーナさんに抑えられています。

とてもじゃありませんが、どこかに逃げ出せる雰囲気ではありません。


すると、まず最初にディアナお母様が、息を切らせて部屋に駆け込むと、俺の姿を見つけ涙を流しながら抱きしめられました。


「……よかった……本当に……無事で」



涙で声を詰まらせながら、そう言ったディアナお母様は、俺の頬にキスしてから再び抱きしめてくれます。


そこに一足遅れて、チェスターお父様がゆっくりとした足取りで、こちらに向かってきます。


「あなた……」


お母様が何かいいかけますが、手でそれを制したお父様は俺の前にしゃがみ込むと、じっと俺の目を見つめてきます。


次の瞬間、すごい衝撃と視界がグラっと歪んで、一呼吸置いてから、頬に痛みが走りました。


「どれだけ心配をかけたと思っているんだ!」


低く、静かな声でしたが、痛いくらいその気持ちは俺の胸に響いてきました。



「……ごめんなさい」




俺の中身は28歳だから詭弁や反論も、しようと思えば出来たかもしれない。

でも、それは多分違う。



父様は、本気で俺を心配して、それでも間違ったことをした俺に分からせるために怒ったんだ。

その証拠にその目は潤み、必死に涙をこらえているのがわかった。


そして次の瞬間、痛いくらいに強く抱きしめられたんだから。



前世では早くに両親を亡くして、ジジイに育てられたけど、わずかに残る幼いころの両親の思い出が、記憶の泉で引き出される。

次々とフラッシュバックのように、脳裏に描き出される前世かこの記憶。


それが今の両親とダブって見え、いつの間にか俺も涙を流していた。


どっちの両親も、温かかったんだな……




ひとしきり泣いたあと、事の真相を両親が教えてくれたんだ。

どうやらあの柵には警報の魔法がかけられており、俺はそれを知らずに柵を超えてしまったらしい。


それを聞いて門番の騎士が様子を見に来たら、誰かが入った形跡はない。

だけど、小さな足あとが外に向かって伸びているのを偶然見つけたらしい。


この家で小さな子供は俺だけだから、その安否を確認すべく、使用人達が総出で敷地内を探しまわったらしい。


その過程で当然、俺付きのメイドであるリーラにも事情を聞いたらしいが、庭にいるはずと言い張ってどうにも要領を得ない。

なんでも誘拐の線も考えられたらしく、リーラは今自室で謹慎させられているらしい。


俺の秘密を守るために、あらぬ疑いまでかけられてしまったのか……



こりゃ、そろそろカミングアウトすべきだろうな。


俺は小さく息を吐くと、父様に向き直り真剣な表情で切り出した。



「父様、リーラは悪くないんだ。悪いのは僕なんだよ……」


これまで演じていた3歳の口調を脱ぎ捨てて、いつもの口ぶりで話し始めた俺に、両親はびっくりしている。


そりゃそうだろうな。いきなり我が子が大人びた口調で話し始めたら、俺だって驚くと思う。



「どういう……事だ?」



いち早く我を取り戻した父様が、俺に聞き返してくる。


「リーラには、口止めを頼んでいたんだ。僕が、魔法を使えること……」


その言葉に驚いたのは、部屋にいる全員だった。中でも魔法使いだった母様が一番驚いてるな。


「ま、魔法って、何を使えるようになったの?」



母様が、平静を装って聞いてくる。

そりゃ、この世界の常識では5歳から練習を始めてようやく使えるようになるはずの魔法を、三歳の俺がろくに学びもしていないのに使えるっていうんだ。


「それなら、見せたほうが早いよ。ちょっと外に行こう」


俺は半ば放心状態になっている両親とエリーナさんを横目に、さっさと部屋を出て裏庭に向かって歩き始めた。

こういうのは口で言っても信じられないだろうから、実演したほうが解りやすいだろう。



程なくして、俺の後から裏庭に出てきた両親とエリーナさん、それにいつ出現したのか、執事長のモーリスも現れた。


「それじゃ、まずは火属性から……」


そう言って俺は、圧縮火炎弾を魔力弱目で何もない地面に向けて放った。

ボン!と、普通のファイヤーボールとは、速度も威力も違う炎弾が爆発する。


両親は驚きの目で着弾地点の小さなクレーターを見つめていた。



「次に、水属性……」


炎弾より少し多めに魔力を練った水属性は、きれいに表面だけが凍って、中身は液体のままになってる。

それを同じ地面に向けて放つと、氷のカプセルが割れて周囲がピシピシと凍りついた。


これは、訓練中に開発できた、過冷却現象を応用した水魔法だ。

表面だけが凍った水弾を投げて、中の水が漏れだすと瞬間的に周囲が凍るようにイメージしてある。



「それから風属性」


圧縮空気の固まりが、先ほど凍らせた氷柱に命中して粉々に砕く。



「そして、最後に無属性……」


俺は手のひらを突き出して、これまで魔法を放ってきた場所とは違う少し遠い場所を狙う。



ドシュッ!!っと、いつもの反動と発射音が鳴り響き、少し先の花壇に植えられた花を一輪吹き飛ばした。



「っと、これが今の所使える魔法かな?一応、簡単な回復魔法も使えるよ」





そう言って振り返ると、全員の目が点になっていました……

あれ? もしかして、またやり過ぎた?


何事にも動じない執事長のモーリスさえも、何か困ったような顔をしてますよ?



「な、な、な、なに、そのまほーーーーっ!!!」



あっ、母様が我に返って叫んでます。


ふごっ、駆け寄ってきた母様に抱きしめられた後、肩を掴んでカクカク揺さぶられています。


どうやら、母様の琴線に触れてしまったようです。






シリアスが続かない(笑)

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