13.初めてのお出かけ
はい、アーサー君は乙女の尊厳を守れる紳士です!
えっ?あれから、どうなったかって?
素知らぬふりで屋敷に戻って、昼食食べてたら不思議そうな顔してリーラが戻ってきましたよ?
「どうしたの?」 って聞いたら 「……なんでもありません」 って言われたんだ。
でも、その日の夕方にお風呂に入ったら、リーラが一言、ぼそっとつぶやいたんですよ。
「責任……とって頂けますか?」って……
ええ、全力で首を縦に振りましたよ。千切れんばかりにね。
だってあそこで断ったら、ナイス・ボートされそうだったんだもの!
リーラの目が、なんだか濁って虚ろだったんだよ!
えっ?何をどう責任取るのかって? 3才児だから、わかんなーい!
あっ、いや紳士諸君、とりあえずその刃物をおいて、 おっ、落ち着こうか……
ふぅ、危ない危ない。短い間に何故か二度も、命の危機に直面した気がします。
さて話は変わりまして、あれから数週間経ちました。
その間もシャドーや打ち込み、簡単な筋トレから走りこみと、まあ色々やってます。
いやー、回復魔法って偉大だわ。
疲れて動けなくなる→回復魔法→もう一回……以下、エンドレス。
そのおかげで、明らかに体感できるぐらい体の動きにキレが出てきましたよ。
ステータスも順調に伸びてきまして、懸念材料だった動きのブレなんかは、だいぶマシになりましたね。
でもね。ジジイにはまだ勝ててません。ホント、何者なんだあいつは!
さて、本日は少し遠出の予定です。
こないだ言っていたモンスターとか見たことないって事なんですが、その辺をクリアしようと色々と画策していたんですね。
ここ数日は、訓練を重ねながら平行して、情報収集や準備に勤しみましたよ。
資料を引っ張りだして、周辺で出る魔物の種類を調べたり、武器になりそうな獲物を探したりと。
なんか、こういう計画や準備をする時間って、すごく楽しいですよね。
リーラや他の使用人達から聞き出した情報を元にして、ルートを絞っていきました。
どうやら領主館のちょっと北には、王都方面への主要街道である、通称『西の街道』があるそうです。
その近辺は、街道から外れなければ、それほど強い魔物も出ないといいますので、その辺に狙いを定めております。
準備の方はと言いますと、獲物が欲しかったので屋敷のアチコチを物色してましたら、薪割り小屋に昔蛮刀だったらしい、手頃なナタを見つけました。
これが、四〇センチほどで、いまのアーサー君の体格にジャストフィットだったので、これを拝借して池の畔で研ぎあげましたよ。
うまい具合に鞘もあったので、これを腰にぶち込みまして、背中に革製の水筒と、リーラに頼んだ昼食を入れる小さなバック。
これで、準備完了です。
一応リーラには、「今日は一日通しで訓練するから、気をつけてね」って言ったら、なぜか濁った目で「ワカリマシタ……」って……
うん、これ以上は触れないようにしましょう。いや、触れちゃいけない気がする。
そうして、一度いつもの池の畔までやって来まして、ここから外に抜け出す予定です。
一応領主館の正面玄関と門には、子爵領騎士団が常駐しているのですわ。
この子爵領騎士団は、軍隊であり警察でもある人達で、領主館の正門を出てすぐの所に詰所があるんです。
なので正門からノコノコ外出しようとすれば、門番に止められるか、仮に抜け出せても詰所で引っ捕まります。
ええ、連行されるエイリアンのごとく、両手をつかまれて屋敷に強制リターンが、目に見えていましてね。
なので敷地の端っこであるこの池の畔から、柵を超えて街道に出るというルートを考えたわけですね。
幸いにしてこの屋敷の敷地は、アーサー君の背丈と大して変わらない木製の柵で囲われています。
不用心かとも思うんですが、屋敷の周辺はかなり見通しが良くて、屋敷の周辺には巧妙に、生け垣や低い壁が配置してあるんですよ。
防御の時にはこいつらが、目隠しや矢よけになると執事長のモーリスが教えてくれました。
って、あの壁とかずいぶん古いらしくて、結構ボロボロだったんだけど大丈夫なのかね?
おっと、話がそれましたね。さあ、未知の世界に出発しましょう!
柄にもなく、ちょっとドキドキしますよ!
およそ、ここから街道までは3イロ(大体3キロ)だって事なんで、ゆっくり休憩入れながら歩いても、二時間ちょっとで着ける予定ですな。
訓練を始めた当時から見れば、ステータスもだいぶ上がってますので、問題なく到達できるでしょう!
柵を超えて歩き出します。
てくてく…… てくてく。日差しと風が気持ち良いですねぇ。
よし、草原を横断したら田舎道に到達しました。ここまでは情報通りですな。
一応帰りの目印に、赤い紐を結んだ棒を立てておきました。これで帰り道も安心!
ここからは道にそって北に向かえば、西の街道に出ると聞いてます。
途中で水筒のヌルい水を飲み、ちょっと休憩しつつ、ボチボチ歩いて行けば、街道にぶち当たりました。
よしよし、ここまでは計画通り。
あとはここから、少し街道を外れて林の中に入り込みます。
目標は魔物の観察なんで、あんまり深いところには行きませんよ。
スライムとかゴブリンがいたら、とりあえず観察するだけだからね!
そんな感じでガサガサと下草をかき分けて、林の中に入ります。
ん~、なんて言うんですかね。妙に空気がドロドロしてる気がしますわ。
同じ林の中でも、いつもの訓練場所は清らかな感じがするんだけど、こっちは空気が淀んでると言うか重い感じ?
表現しにくいんだけど、何か異質な空気感ですね。
営業と企画部が喧嘩した後の、会議室の空気みたいです。
えっ?わかりにくい?ごめんね。
さてとこんな時は、慌てず騒がず周囲をじっくり観察しますよ。
田舎暮らしナメんな。山菜採りとか例の山ごもりとかで、アウトドア経験は豊富なんだ。
街道を背中に向けて、山の方に視線を向けながらじっと耳を澄ませます。
するってーと、どこかでパキンと枝を踏み折る音がしましたね。
ここで慌てると、経験上ロクなことがありません。焦ったら負けです。
そのままで耳を澄ませて、その方向に集中するとしばらくして「ギャワギャワ」なんて声が小さく聞こえてきました。
野生動物なら、こんな無駄な音を出したりはしませんから、魔物でしょうか?
移動の方向が右から左の方向に動いているようですね。それならこちらは少し奥に移動して、後ろをつけてレッツ観察!
足音をたてないように、静かに立木の間をくぐって位置を変えると、10メートルくらい離れた木の隙間で、何かが動くのが見えました。
おお、あれが噂のゴブリンですかー!
噂に違わぬ気色悪さっすねー!
緑っぽい肌の色と尖った耳、よだれたらしながらギャワギャワ言ってます。
一応、申し訳程度に腰へボロ布巻いてますが、あんまり意味ありませんな。
なんかブラブラしてます。おーい神様、モザイクぷりーず!
いやはや、どんな生態系なのか、進化の過程をたどったのか、ホントきもいっすね。
身長で言えば一メートルちょいくらいか。手にはこん棒と腰にサビサビのナイフとか持ってます。
アーサー君の現在の身長で言えば、ゴブリンの方が背はおっきいです。
えっ?息子のサイズ? うっさい! アーサー君はこれから成長するんだよ!
なんかイライラしますね。うん、なぜだか知らないけど……
見たところゴブリンは一匹だけですが、おかしいな?
確かゴブリンは少人数のグループで行動するって、『サルでも分かる魔物図鑑』に書いてあったんだけど?
とりあえずはあのゴブリンのステータスを、サクッと調べましょうかね。
どれどれ……?
ゴブリン
体力 :11/12
魔力 :4/4
攻撃力 :6
防御力 :5
素早さ :7
状態 :通常
スキル :なし
あれ?ゴブリンのステって、こんなもんなの? メッチャ低っ!
どうしましょう。魔物狩りは早くて5歳くらいからと思っていたので、今日は偵察だけって考えてたんですよね。
なんか、誘惑に駆られますね~。
…… 一狩りいっとく?
魔法の威力とかも、ホントは試してみたいんですよね。
そんな訳で予定を変更しまして、無属性の魔力を手のひらに集めて、筒と弾丸を形成します。
ゴソゴソ動いてるので、慎重に狙いを定めましょう。
ドシュッ!!っと、撃ち出された無属性の魔弾は、まっすぐに哀れなゴブリン君の頭部に吸い込まれていきました。
あれ……? なんか鈍い音がして、ゴブリンの首から上が無くなった……
あっけね~。これで終わりかよ!
初めての戦闘が遠距離からの秒殺とか、なんか今までの訓練が徒労に思えてきた……
まあ、とりあえずはゴブリンの装備とか魔石を採取しなきゃなりませぬ。
あの気持ち悪い緑色の体内に手を突っ込むとか、ホントは遠慮したいんですが。
覚悟を決めて、なんだかピクピク痙攣してるゴブリンに近づいていきます。
頭吹っ飛んでるんで、生きてるとかはないと思うんですが、念の為にナタを腰から引き抜いておきましょうかね。
うわ~、絵面がスプラッター…… うん、グロいっす。
まあ、眺めてても仕方ないので、さっそく解体してしまいましょう。
ゴブリンとか人型の魔物は、だいたい胸の付近に魔石があるらしいです。
この魔石を元にして、色々と魔道具とかが作られるらしいんですが、子爵家にはあんまり無いですね。
俺が確認してるのは、リビングと応接室にある、明かりの魔道具くらいですかね?
ナタを地面に突き刺して、まずはゴブリンのナイフとこん棒を回収します。
それ以外にはめぼしいものは、持ってないですね。ちっ、しけてやがんな……
おっと、いけませんね。なんだかアーサー君の言葉が、野生化してます。
貴族の子としては、もっとお上品な言葉遣いを意識しなければ。
自前のナタは使いたくないので、切りにくいですがゴブリンの持ってたナイフで胸の付近を切開すると、魔石がありました。
魔石に到達するまで、色々と切ったり引っ掻き回したりしたんですが、そのへんは省略。
んっ? 聞きたいなら話すけど、食事時には絶対NGなグロい話になるよ?
取り出した魔石を水魔法で洗浄して、手にとってしげしげと眺めてます。
魔石なんて物質、前世には存在しなかったからね。珍しいでしょ。
あれ?なんか、魔石から何か流れ込んできますね。なんだろう?魔力に近い感覚だな、これ。
もしやと思って、慌ててステータスを開きます。
アーサー・セルウィン (3歳)
体力 :59/59
魔力 :95/96
攻撃力 :41
防御力 :25
素早さ :27
状態 :通常
スキル :風魔法(初級) 火魔法(初級) 水魔法(初級) 聖属性魔法(初級) 無属性魔法(中級) 剣術(中級)
真理の目 限界突破 記憶の泉 武道の心得
功罪、称号: 聖杯を受けし者 女神の祝福
うおっと!ステータスが軒並み上がってるぞ!
戦闘を経験して上がったのか、ゴブリンから経験値が入ったのかは判らんけど、とりあえずは脇においておこう。
モザイクの人は、この世界にはレベルの概念はない。とか言ってたけど、経験値が直接ステータスに反映されるのかな?
っと、魔石を眺めながら考えてたんですが、魔石に一瞬だけ何かの影が写り込んだ。
反射的にナタを手に持って振り返ると、そこには数匹のゴブリンが接近中で、先頭の一匹がこん棒を振り上げてる状態でした。
あれ?もしかして、これって…… ピンチ?




