12.今後について考えます
ふう、上半身裸で一心不乱に(棒)を振る3才児、アーサー君です。
立木への打ち込み百本なんて、児童虐待だわ! はい、すみません。自主的にやってます。
いやー、人間やればできるんですよ。かなりキツかったですが、何とかやり遂げましたよ。
中天(お昼)までは、もう少し時間がありそうですね。
とりあえず汗だくになったので、小川で顔を洗って一息つきましょう。
ついでにちょっと靴を脱いで、足を冷たい小川に浸します。うーん、気持ちいい。
腕も棒みたいになってますので、ちょこちょこと回復魔法かけて疲労を回復させておきます。
いや、昔取った杵柄というか、一応体を動かしてみて、手応えを感じましたね。
それに魔法もあるから、随分と多芸になった気がしますよ。ホント。
そこで問題がひとつ。自分の戦闘スタイルをどう作るかなんですよね。
あの駄女神、気分一つで天災とか起こす神様ですからね。
昨日エリカに読んで聞かせた絵本の内容、あれが引っかかるんですよ。
お告げと転生で、俺とは状況は違うんですが、あの英雄譚が駄女神のヤラセ、と言うか仕込みだったら、どうする?
もしかしたら考え過ぎかもしれませんが、あの残念っぷりならやりかねないと思うんですよ。
「あっ、失敗しちゃった」(てへぺろ) とか言いつつ……
ここ数百年は平和らしいんですが、堕女神の失敗で戦争突入とか、魔王降誕なんて勘弁して欲しいです。
このまま領地運営で内政チートしてもいいんですが、その時にせめて身を守れるぐらいの力は、必要だと思うんですよね。
幸い? にしてジジイから強制的に叩きこまれた武道の感覚は、チートのせいもあって鮮明に覚えています。
あとはその知識と経験をアーサー君の体に馴染ませてあげれば、そこそこ対人戦では遅れは取らないと思いますです。
ただねぇ…… さすが異世界!モンスターとか、前も言いましたけどドラゴンとか、居るんですよ。ええ。
何となく物理極めるだけじゃ、いずれどこかで詰みそうな気がして……
それに、せっかく貰った全属性とか限界突破などなど……
チートの事もありますから、なんとか魔法と武道を組み合わせられないかと、考えているんです。
ぶるるっ、いけません。体冷えてきました。このままだと風邪ひいちゃいますので、そろそろ動き出しましょう。
よっこいしょと、神経伝達なんでしょうか?シャツを着ようとするんですが、たまに失敗するんですよね。
まったく、早く成長してほしいものです。
シャツも無事に着れましたし、さっそく体を動かしてみましょうかね。
まずは相手のイメージを固めて、擬似的な相手を脳内に構築します。
えっ?妄想だろって? ああ、そうだよ!
ただし、想像するのはエロエロボデーの魔神とかじゃなく、残念ながらジジイです。
恥ずかしながら、あのジジイは勝ち逃げしやがりまして、生前は一度も勝てていません。
なんだよ、「明日も稽古じゃ!」とか言って、翌朝道場に行ってみたら道場で、正座したままポックリ逝ってるとか。
どんだけ道場好きやねん!ってかんじですよ。
まあ、まだこの世界に生まれてから魔物とか見たことないので、前世含めて最強の存在であるジジイが、最適なのです。
何となく組み立てた想像上のジジイと、静かに対峙します。
互いに無手で距離は、約10メートル程でしょうか。
先に動いたのは俺の方でした。問答無用で無属性の光弾を3発ぶっ放してから、それを追いかけるように地を蹴ります。
ジジイは予想した通りに最小限の足運びで光弾を避けると、こっちが接近してくるのを、余裕たっぷりで待ち受けてますよ。
想像上とはいえ、孫が魔法使ったんだから、少しは驚けよな!
接近した俺は、迷わずに棒を発現してダッシュした勢いのまま、2連撃の突きを繰り出します。
ありえねー!
体を揺らすだけで、突きを避けやがりましたよ、この変態ジジイ!
その辺は織り込み済みなので、2度めの突きを放った直後に手首をひねって、切っ先で首を狙った逆袈裟を切り込みます。
最小限の動きで相手を仕留める、古流剣術の動きですな。前世では結構得意な技だったんですよ。
って、ジジイには通用しないんですがね。
上体を軽く反らせて顎のギリギリを通過する棒の先端を見た時、「あ、終わった」って、思いましたよ。
だって、右側面がガラ空きなんですもん。
ですが、ここは異世界ですよ?
まだまだ行きます!
俺は即座に棒を消して、両手を自由にするとジジイの足を狙って、無属性の光弾を速度重視で撃ち出します。
軸足に向かって放たれた光弾は、狙い通りにジジイの足の甲に向かって飛んでいきます。
その隙にバックステップでいったん距離を取ろうとしますが……
ところがどっこい、ジジイは踏み込んで足の位置をずらすと、そのままの勢いで拳を打ち込んできました。
その拳はアーサー君の小さな頭部を、的確に捉えておりまして、想像上の拳が顔の真ん中を通り過ぎていきます。
ちくしょう、やっぱり勝てなかったか……
バックステップを取ろうと、後ろに重心をかけた状態で終わったシャドーに、俺はペタンと尻餅をついて座り込みました。
よし、なんか感覚がつかめた気がする。もう一本行ってみよう!
その後もジジイにやられては起き上がり、都合4本ほどシャドーを繰り返すと、さすがに3才児の体力では限界が来ました。
うん、無理。もう動けん……
ちょっと息を整えながら、考えを整理しましょう。
遠距離ならば魔法で先制して、近距離なら武道の動きを活用するほうが良さそうですね。
近距離で魔法を発動させようと頑張ると、どうしても集中しなければならない分、タイムラグが出てしまいます。
それに、まだ成長途中のアーサー君の肉体は、どうしてもまだ未成熟ですね。
踏み込みの時に脚が負荷に負けそうになったり、剣筋がブレたりするのは今後の課題っすな。
走り込みとか、成長を阻害しない程度の筋力トレーニングも考えなきゃなぁ。
でも、魔法を使っても勝てないとか、どんだけ化け物なんだよ。あのジジイ。
今のシャドーで、幾つか分かったことがあります。
獲物はやっぱ実物が必要ですわ。無属性で棒を出すのは、それなりに使えるんです。
ですが魔力の消費とか集中を考えると、やっぱり現物の刃物がほしいっすわ。
ほら、異世界ならミスリルとか素敵金属があると思うので、男の子ならやっぱり憧れますよね!
ただし問題は3才児のアーサー君には収入がありませんので、どうやって調達するかですね。
転生しても三年間無職だよ! 別の意味で。
幼子は遊ぶのが仕事ですから!
あとは、実際の魔物やこの世界の人々がどのくらい強いのか。実際に見てみないといけませんね。
基準がわからないと、どのくらい上を目指せばいいのかが、判りませんから。
あのジジイは規格外として、とりあえずは、お父様あたりを基準にしていいのかな?
昨日の話だとウチの両親は、冒険者として結構いい線いってたらしいのです。
聞きました?奥様!
なんでも家督を継いだ長男がポックリ逝って、次男だったお父様が、急遽呼び戻されたんですって!
誰だよ…… 奥様って?
魔力は消費しちゃいますが、あとで両親のステータスをこっそり覗いておきましょう。
それが基準になるかなぁ……?
よし、息も整ってきましたよ。そろそろお昼なので最後に一本、ジジイ相手にシャドーといきましょう!
・・・・・
・・・
・・
・
ちくちょう!化け物ジジイめ!
また負けたよ!
はぁ~っ、どうにも勝てる要素が見つかりません。
でも、アーサー君には成長の余地がたっぷりあるんだからね! おぼえてらっしゃい!
さて、疲れましたしお腹も空きましたから、屋敷に戻るとしましょうかね。
ん?誰かいるぞ?
あっ、リーラだ。って、どうして燃え尽きてるんだ?
「リーラ、どうしたの?」
「…………」
声をかけてみましたが、ピクリとも動きません。
あれ?なんか臭うぞ?
……リーラさん、なぜか立ったまま失神してらっしゃいますがな。
ああ、こりゃ完全に俺のせいだわ。
よく見ればジジイとのシャドーの流れ弾かな。リーラが隠れてた木の幹に、光弾がめり込んでます。
えーっと、どうしましょう?これ。
ロングスカートの下には、うっすら水たまりもあるし……
おもらしメイドとか、どんなご褒美だよって前世なら思いましたよ。
3才児に性欲?ありませんがな。
俺は水魔法と風魔法で後処理をしてから、何も見なかった事にして屋敷に戻りましたとさ……
良い子の紳士諸君に報告だ。薄い水色だったよ。
何がって?言わせんな、恥ずかしい。
アーサー・セルウィン (3歳)
体力 :46/51
魔力 :68/96
攻撃力 :34
防御力 :22
素早さ :25
状態 :通常
スキル :風魔法(初級) 火魔法(初級) 水魔法(初級) 聖属性魔法(初級) 無属性魔法(中級) 剣術(中級)(UP!!)
真理の目 限界突破 記憶の泉 武道の心得
功罪、称号: 聖杯を受けし者 女神の祝福




