107.直言って、胸に突き刺さりますよね!
偶然って怖いですね。
いや、意図してフラグ立ててる訳じゃないですからね!
はい、新たな女性キャラが周辺に爆誕しまして、若干息子(未使用)の危機を感じているアーサー君です。
「それで、幼年学校から推薦もらって、もうすぐ試験なんだー!」
ええ、俺の内心のヒヤヒヤを知らず、アンジェラはカラカラと明るく笑顔をうかべて近況を教えてくれました。
彼女の話を要約すると、親父さんを(物理的)に説得して幼年学校へ通うようになり、そこで魔力制御や基礎的な勉学を学んですごく役に立った事。
そうしたならば、いつの間にか今季の推薦枠に入ってしまったらしい。
「なんとなく、漠然とお婿さんを迎えて将来はこの店を継いでいくのかなーって、考えてたんだけどね。アーサー君のおかげで違う道もあるんだなって、判ったんだ!」
「そうなんだ、学校に通ってみたら?って勧めた俺としても嬉しいね」
なんとなく、ここで俺も試験を受けるとカミングアウトすると、死亡フラグが立ちそうな気がするので、曖昧に返答するとどうやら俺の気づかぬ所で、フラグがおっ立っていたようです。
「あらまあ、それならアーサー様と同学年という事ですねー!」
はい、サラッとリーラが爆弾を投下してくれました……
「えっ!もしかして、アーサー君も高等魔法学院の試験を受けるの!?」
うぐっ、アンジェラの純粋な視線が、俺の胸に突き刺さりますよ、ええ。
「よかった~! 知り合いが誰もいないから、本当はすごく不安だったんだー!」
ごめん、どこでフラグが立ったのか見当もつきませんが、どうやら回避不能みたいですね。
「うん、実は俺も試験を受ける予定で、セルウィン領から出てきたんだ」
俺が諦めてそう言うと、アンジェラは安心した様子であまり成長していない胸に手を当てて、ほうっと大きく息を吐き出しました。
「そうだったんだ、という事はアーサー君はセルウィン領の推薦組、って事かな……?」
少し小首を傾げながら質問したアンジェラに答えたのは、俺ではなくてリーラでした。
「いえ、アーサー様は貴族一般枠で、王家からの推薦もありますよ?」
「えっ?」
「……えっ?」
何やらアンジェラとリーラの間に意識の齟齬があるみたいで、お互い疑問を浮かべた状態でフリーズしてしまいました。
たっぷり一呼吸以上置いてから、二人は息が合った仕草で同時に俺の方に視線を向けてきました。
ねえねえ、君たち今日が初対面だよね?
なんなの?その息のあった連携プレー?
2人に見つめられまして、俺はしぶしぶ口を開きます。
「いや、俺アンジェラに貴族だって言ってないんだけど?」
「って事は、アーサーく……さまって、本当に貴族なの?」
「えっ、てっきりお名前までご存知なら、ご身分まで明かしているのかと」
少々気まずい沈黙が流れましたが、話題を切り替えるようにアンジェラが明るく言葉を発してくれました。
客商売していれば、会話の流れとか場の雰囲気には敏感なんでしょうね。
「とにかく、知り合いが通ってるって判っただけでも私は随分、気が楽になると思うよ!」
そうして話題を切り替えた俺達は、リーラに「ご学友になるのですから」と促されてお互いに自己紹介をします。
領地の話や食の話などなど、色々と言葉をかわして随分と仲良くなれた気がします。
よくよく考えてみると、同年代の友達が少ないのは決して俺がぼっちだからでは……グスン
そんな訳で無理して敬語は使わなくていいとアンジェラに言った所、本人もほっと胸をなでおろしていましたよ。
「いや~、ホントは敬語とか苦手なんだよね。でもアーサー君って話しやすいというか、貴族らしくないよね」
アンジェラって、明るく活発明朗に言葉のストレートを放ってくるよね……
「ま、まぁ、よく言われるよ……」
こうして少々想定外の事態が起きたものの、おおむね楽しく食事を終えた俺達は、そろそろお暇しようと会計を済ませます。
「あー、そうだった。アンジェラ、この本良かったら、親父さんに渡してくれる?」
俺は帰り際に空間魔法からこっそり取り出しておいたレシピ本を、手渡しました。
一応、著者ですからね。こんな時のために、何冊か持ち歩いています。
まだまだ製本や印刷が未熟なこの世界だと、本は貴重品ですからね。けっこうなお値段がします。
ですが親父さんの腕が上がれば、俺達もますます美味しい料理にありつけますからね。本の一冊ぐらい安いもんですよ。
「って、えっ!こんな高い本、おいそれと貰えないよ!」
慌てて返そうとしてきますが、俺はやんわりとそれを握らせました。
「それじゃ、貸しておくって事にしようよ。具体的には……そうだな、卒業するくらいまで?」
そう言って笑った俺に、不承不承といった感じではありますが、アンジェラは本を受け取ってくれました。
「あれ?著者の名前の所、アーサー・セルウィンって……」
「さあ!リーラ、遅くなったから帰ろうか!それじゃあ、アンジェラまた今度来るね!」
面倒事になりそうな気配を察知して、俺はリーラの手をとってさっさと店を抜け出しました。
ふぅ…… あぶない、あぶない。
あそこで俺が書いた本だと発覚したら、今度は親父さんに厨房へ引っ張り込まれかねませんからね。
「ちょっとドタバタはありましたけど、美味しい料理でしたねー」
手をつないで商業区を歩いていますと、リーラがそんな感想を俺に向けてくれました。
「今日は楽しかったね。たまには一緒に遊びに出よっか!」
俺とリーラはそんな幸せの余韻に浸りながら、すっかり人通りもまばらになった王都の街を歩いていきます。
王都の街は、比較的治安は良いのですが、それでも少し裏路地に入れば、小悪党のたぐいはそこそこ出没するんですよね。
ですが大通りには街灯もある程度は整備されていまして、真っ暗闇という訳ではありません。
それに、一定の間隔で宿屋や食堂が、それなりに遅い時間まで開いていますから、まばらではありますが、人影も皆無ではありません。
……でも、これはいくらなんでも。あからさま過ぎます。
ここの所ずっと不調だった魔力探知ですが、これだけ人通りが少なければ、さすがに精度が上がりますからね。
後ろから2人、一本道を隔てた通りに行く手をふさぐように先回りしている3人……
それから、その更に後ろに魔力の気配……
気配は感じるのですが、魔力探知には引っかかりません。
おそらくこれが王都に入ってから感じた違和感の正体でしょうね。
はてさて、ディボの一件以降は、特にこれといってトラブルもなく過ごしていたつもりなんですが?
さっきの商人のボンボンが、仕返しにでも来たんでしょうか?
俺一人なら、撒くなり『お話』(物理)をしてもいいんですがね……
今日は非戦闘員のリーラが一緒です。
これは少々厄介な状況ですね。
俺はリーラの話に相槌を打ちながら、どうやってこの状況を切り抜けようかと検討をはじめました。




