夢を見る。
アルノーはついに、地面にポロポロと涙をこぼしました。
「でも…でも…!僕は寂しい。とてもとても、とても寂しいんだ!パパに会えないから。朝の国じゃあ星が見えないから!」
アルノーは泣きじゃくります。
「それは違う…!アルノー、それは違うんだっ!」
ベンも泣きそうな声で、怒鳴りつけるようにアルノーに語りかけました。
「朝の国に星がないわけじゃないんだ、見えないだけで。夕方の国にも星があったように、星はどの空にもある!空は繋がっているんだ!」
「あんなに色が違うのに?」
目を赤く腫らしてアルノーは問いかけます。
「そうだ。違う世界ではな、一日は朝に始まり昼を経て、夕方を通り夜になる。そして、夜の後にはまた朝が来る…!空は一つなんだ。だから、俺はいつでもお前を見守ることができるんだ‼︎」
ベンがそう言った瞬間、景色がベンを中心にグニャリと曲がりました。
夜の国の全ての灯りと星々が強い輝きを放ち、ベンを包み込んでいきます。ゆらゆらと不安定に揺れるベンの体はどんどんと高く伸び、光が弱まるとアルノーの前には、少年ベンではなく、懐かしい大好きな人の姿がありました。
「見えないだけで、どの空にも星はある…!僕の近くには…いつでもパパがっ‼︎」
いつの間にか景色は朝の国にある、アルノーの家の前へと変わっていました。家の前で、アルノーと父親は向かいあっています。
「パパ…!ベン… ベンジャミン…パパの名前だ…。じゃあベンってパパのことだったの⁈パパ、戻ってきてくれたの⁈ねぇ、早くママにも会ってよ‼︎」
アルノーは嬉しさのあまり、一気にまくし立てました。
しかし、ベンジャミンはそこから動きません。
「パパ?」
「……ごめんな、アルノー。ここは夢の中だって言ったよな…。だから、アルノーやママと一緒にいることはできないんだ。」
ベンジャミンは寂しい笑顔を浮かべてアルノーを見つめました。
「そんな…パパ…。やっぱり、一緒にはいられないんだ。パパとはもう、会えないんだね…。」
「それはちが…」
ベンジャミンが言いかけると、アルノーが必死に涙をこらえた目で真っ直ぐにベンジャミンを見つめて言いました。
「でも、見えなくてもパパはいつでも僕の近くにいてくれるんだよね…!夜の国に輝く星と同じように。だから僕は、もう泣ないよっ…!」
アルノーは服の袖でゴシゴシと目をこすり、目に溜まっていた涙を拭き取りました。
「そうか…。でもな、無理はしなくてもいいんだ。」
アルノーの目からは、拭いたそばからまた涙がにじんできています。
「だからなアルノー。お前にこれをやるよ。」
そう言ってベンジャミンはポケットから小さな光る石を取り出しました。
「わぁ、キレイな石…!」
「これは星のかけらだ。この石はどんな場所でも光るんだ。だから、朝の国の空にかざしても太陽に負けないくらいに明るく光る!」
アルノーはベンジャミンから石を受け取ってそれを高く持ち上げました。
「本当だ!光ってるよ、パパ!」
「だから、お前が寂しくなった時はこれを空へかざせ。そうすれば、お前はいつでも朝の国で星を見つけることができる。」
アルノーが石からベンジャミンへと目線を移すと、ベンジャミンの姿は朝の国の光の中に溶け出しそうに薄くなっています。
「えっ!どうして、パパ!もっとたくさん話したいよ…消えないでよ!」
アルノーはベンジャミンへ手を伸ばしました。しかし、その手は何度伸ばしてもベンジャミンをすり抜けてしまうのです。
その間にもベンジャミンはどんどん薄くなっていきます。
「アルノー。強く優しく、正しく生きろよ!俺はいつでもお前のそばに…!」
ついにベンジャミンは朝の光の中に消えてしまいました。
「パパ…パパ…。ありがとう…!」
アルノーは泣きました。
星のかけらを握りしめ、たくさんたくさん泣きました。
「…ノー、…ルノー…アルノー!」
次に気がついた時、アルノーはいつものベッドにいました。
母親がカーテンを開けています。
「あれ…?ママ…。」
「ええ、おはようアルノー。」
母親はテーブルの上のミルクをアルノーに差し出しました。
「あら?アルノー、何を持ってるの?」
アルノーの手には、確かにベンジャミンからもらった光る石が握られていました。
「これは“星のかけら”なんだよ!
パパからもらったんだ!寂しくなったらこれを見ろって。」
母親は不思議そうな顔をしていましたが、にっこりと笑いました。
「そう…。良かったわねアルノー。
それ、パパが昔ある人からもらった宝物だって言ってた石よ。大事にしなさいね」
「うん、大切にするよ!」
朝の国。
星の見えない場所。
けれどその明るい金の空にも数多の星が眠っている。
あなたの大切な“星”も、きっと何処かであなたが見つけてくれることを願っているはずです。
閲覧ありがとうございました。
童話を書くのは初めての経験で、ちゃんとテーマを決めたり、書き方を変えたり…。お正月を挟み時間の少ない中で、忙しくも充実した時間を過ごすことができました。
また、この作品を書くにあたり、自分の文章力の無さを痛切に感じました。
これからも精進して参ります。
よろしくお願い致しますm(_ _)m