星がかがやく…
「ここが夕方の国…。空が紅色をしてる!とても綺麗だね。それに、昼の国より暑くなくて眩しくもなくて…でも、ちょっと寂しいところだね。薄暗くてなんだか怖いなぁ。それに…」
アルノーは辺りを見回しました。
「なんだか皆忙しそう。時間を気にして早歩きで、これじゃ疲れちゃうよ…」
「そうか…。そうだ、あれを見てみろよ」
そう言ってベンの指を指した方向を見ると、紅色の先の薄暗い空に大きくて白い、アルノーが初めて見るモノが浮かんでいました。
「あれは何⁈ベン!!すごい、すごく綺麗だ…!」
「あれは、月って言うのさ。あれは“星”の一つだ!」
ベンの言葉にアルノーは驚いて、興奮して尋ねました。
「じゃあ、あれはパパなの⁈」
「……あれは違う。星は本当は夜の国にあるんだ。だから夜の国へ行くんだ。」
アルノーは少しためらいました。
夕方の国のもの悲しさと暗さを怖いと思ったからです。
ベンはそれを察したように、アルノーに優しくほほえみました。
「大丈夫だ、アルノー。夕方の国の景色は綺麗だろう?月も!夜の国はもっとたくさん星がある!お前のパパが、言っているんだ。夜の国は怖くないって!確かめなくていいのか⁈パパと同じ景色を、見たくないのか⁈」
ベンの言葉は何故だかとても気迫に満ちていて、アルノーの恐怖心をみるみるうちに情熱に変えました。
「分かったよ、ベン…。僕、見に行きたい!パパのいる場所を。パパに会いたい!!だから行くよ、夜の国へ!」
「そうか…!」
ベンは満足そうにうなづいて、また指をならしました。
次の瞬間現れた門を、アルノーはもうためらわずに進みます。
父親の見た景色を見たいと思ったから。
父親のいる世界をその目で確かめたいと思ったから。
橋の終わりが近づくと、空は完全に色を無くし、辺りはどんどん暗くなりました。それでもアルノーは一度も立ち止まることなく、橋を渡り切りました。
「ここが…夜の国…!!」
ついにアルノーは夜の国に辿り着きました。
夜の国には太陽がありません。
しかし、家々の灯りはオレンジにともり、木という木には電飾が付けられ、様々な色をしたランプが道に沿って並べられて、辺りはとても幻想的で明るいのです。
喫茶店のような店からは楽しげな声が聞こえ、道端では豊かなひげを蓄えたおじさん達が楽しげな音楽を演奏しています。
「どうだ、まだ怖いか?」
ベンが静かに尋ねてきました。
「ううん。全然怖くなんてないや。なんて楽しい国なんだろう!暑くなくて、眩しくもなくて、時間もゆっくりしてるみたい…。」
「空を見てみろよ!」
ベンにうながされ、アルノーは空を仰ぎました。
そこには数え切れないほどたくさんの星が輝いていました。
「うわぁ、星がいっぱいだ!すごい…すごいきれいだ…。本当に…」
そう言ったきり、アルノーは目を地面にふせてしまいました。
そしてボソボソとつぶやきました。
「パパのいる場所は、とても楽しくてきれいで…だからパパはかわいそうなんかじゃないんだね…。たくさんの星といつも一緒にいて、僕やママに会えなくても寂しくなんてないんだ…。」