旅をして…
しばらくして、アルノーは妙な違和感に目を覚ましたした。
しかし、そこはアルノーの部屋ではありません。
辺りには何もない真っ暗な空間が広がっています。
それなのに、不思議なことに自分の姿はきちんと見ることができます。怖いという気持ちもありません。
「やぁ、気づいたかい?アルノー」
アルノーの後ろから声がして振り向くと、いつの間にかそこにアルノーより少し年上の少年が立っていました。
「ここはどこ?君は誰?」
「俺はベン。ここは君の夢の中さ。俺はお前に、夜の国は怖くないってことを教えにきたんだ!」
アルノーは驚きました。
「ベン⁈本の中の?だって君は夜が怖かったんでしょう?」
「でも俺は旅をして、暗いことは怖いことではないと知ったのさ。だからお前にもそうだって知ってほしい。」
「どうやって?」
「俺がしたのと同じように、旅をしよう!俺と一緒にな!」
こうしてアルノーは、ベンと一緒に旅をすることになりました。
ベンが指をパチリと鳴らすと、そこは何も無かった空間ではなくなって、アルノーの家の前に変わりました。
「いったいどうして?」
アルノーはびっくりして尋ねました。
「ここは夢の中だからな」
ベンはそう言って得意そうにもう一度指を鳴らしました。
すると今度はいつのまにか、アルノー達は朝の国の端っこにある、関所の大きな門の前に立っていました。
その門の先には昼の国へ続く橋があります。
「さぁ、渡るぞ!」
そう言ってベンはさっさと門をくぐり、歩き始めました。
関所守りのおじさんは、勝手に橋を渡ろうとしているベンを気にもとめません。
「何してるんだよ、アルノー。早くお前も来いよ!守衛には俺たちは見えてねぇ」
「う、うん。僕らが見えないのはやっぱり、ここが夢の中だから?」
「ああ……」
ここは夢の中だと言うのに、どうしてアルノーの行ったことのない関所がでてきたのか不思議でしたが、アルノーはベンに続いて橋を渡りました。
橋の上の空を見ていると、色が変わってゆくのが分かりました。
はじめは朝の国の薄く金のヴェールを纏った水色。けれど渡りきる頃には澄み切った真っ青…昼の国の空でした。
昼の国の門をくぐると、真上からたの日差しが照りつけて、アルノーはとても暑いと感じました。
昼の国では太陽はいつも真南から降り注いでいます。
けれど不思議なことに、“影”というものがないのです。
木は生えていても、木の下にはずっと光があり、休む場所はありません。
「ここが、昼の国…!とっても暑い。日差しが眩しくて目がおかしくなそうだ…。」
アルノーはあまりの暑さに、その場にへたり込んでしまいした。
「ねぇ、ベン。昼の国はもういいや。僕もう限界…。早く次の国に行きたいよ!」
アルノーがそう言うと、ベンは
「そうか」
と一言つぶやいて、また指をパチリと鳴らしました。
次にアルノーが気がついた時、そこはまた門の前でした。
昼の国と夕方の国とを繋ぐ橋が見えます。
ベンはまた堂々と橋を渡りました。
今度はアルノーも、何も言わずについて行きます。
空は橋を進むに連れ、赤みを帯びてきます。
夕方の国に辿り着く頃には、空はすっかり紅色になっていました。