年の差を待ってる
「やっぱ巨乳。美乳は必須だね。美人に超したことないけど普通にかわいけりゃ許容範囲。でも、乳は欲しい」
「はいはい」
「料理もできて、そこそこ気が利いて、我慢強くて、夜が上手で、ボディもいい。甘え上手の拗ね上手、かわいくおねだりしてくれたりしちゃって、恥じらいを忘れず、でも欲張りでインラン。あれ?えっちばっかし。じゃなくてさ、キャリアウーマンで厳しい女上司とかね、部下びしばしいじめるよ。ミニスカでタイトな奴着てさ。でもダーリンにだけは可愛いの。ちょっと、最高じゃん?」
「都合いいことばっか……っていうかお前の趣味、よすぎ。だいたい、料理ができて気が利くって、今とかけ離れすぎだ。巨乳だって、保証はないだろ」
「そう? 俺ならちょーっとやる気を出せば、理想の女になれる気がする。今なら、なんでもできる気がするよ」
何言ってやがる。俺は思わず塚本の顔を見ざるを得なかった。
「……そんな、驚くな。そういう気分ってだけだよ」
「いや……」
「きっと、お前もわかる。だって、俺、今、しあわせ」
聞いた途端、堪えていた涙があふれ出す。絶対こいつには泣き顔を見せないつもりだったのに。
だって、俺が泣いたら、こいつ、わかっちゃうじゃないか。ああ、でも、もう。
「泣くなよ、西田」
塚本は俺に手を伸ばした。その細さ。ゆっくりした動作。変わり果てた、という言葉が脳裏に浮かぶが、あわてて打ち消す。
「もうちょっと……こっち。ああ、よし、届いた」
塚本の手が熱すぎて、俺は耐えられない。
「西田。だからな、悲しむな。そんな女に生まれ変わってお前のところに来てやるっつってんの。な?」
さっきから話し続けている塚本は、もうずっと無理をしていて、声はかすれて、ときおりひどく咳き込み、そのたびに俺は何度も吸入マスクをかぶせてやらなければいけない。
塚本の唇に、耳をつける。塚本の最後の声を聞く
「……今から生まれて、十六年。浮気せずに待ってろよ」
「馬鹿かお前、俺五十になっちまう。犯罪だろが」
「いいじゃん年の差カップル。気にするな。女子高生の俺の親、しっかり説得しろよ」
「馬鹿、馬鹿かお前、馬鹿──」
塚本の顔がひきつってゆがむ。
いつもの、塚本の、口の端にタバコをひっかけてニヤリとした人の悪い表情だと、俺にはわかった。
お前、知ってたのか。
浮気って言ったな。俺の気持ちを知ってたのか。
よくも何十年もおあずけにしやがったな。
気がないなら最後まで黙ってりゃいいものを。
俺は年下なんか嫌いだよ。ましてやお前のことだ、気の利かない、料理の下手な、乳だけでかい小娘なんか。
十六年も待つもんか。早まって生まれるな。
お前のいない世界なんぞで十六年も過ごせるわけがないんだ。
そっちで待ってろ、すぐに……
でも、待つしかない。お前が待てって言ったら聞いちゃうんだよ、俺は。