第二話:とりあえず歌う
「・・・ん。・・・体がいたいな・・・」
稲葉は大理石の上に寝転がっていた。大理石は普通、比熱の考え方から冷たいのが当たり前だが、稲葉が寝転がっているところはほんのりと暖かかった。彼がそれに気づくかはいささか疑問だが。
「・・・頭が痛いな。・・・って、なんだここは」
稲葉は、上半身だけをがばっと起こすとあたりをきょろきょろと見渡す。四方を大理石で囲まれていて、天井には穴が数か所あり太陽の光が差し込んでいる。床には数センチの溝が部屋全体に広がっていて、魔法陣のようなかたちを描いている。
「俺は、たしか・・・駅前でライブをやってたんだ。そう、それで神社に泊まらせてもらうために移動して、・・・猫だ。真っ白な猫だ。あいつについていって、オカリナを吹いてやったら、だんだん眠くなって、寝てはならんと思って最後まで吹いたが・・・そこから記憶がないな・・・。ん、そんなことはどうでもいい!!!俺のギターケースは!!!」
稲葉は急に立ち上がると、焦ったようにあたりを探し始める。
「・・・お、あった!」
稲葉から数メートル離れたところに台座があり、そこにギターケースが置かれていた。その台座には太陽の光が差し込んでいて、そのギターケースは厳かな雰囲気を醸し出していた。
「おぉぉぉぉ!・・・美しい・・・まるでロックの神がこのギターケースに舞い降りているかのようだ・・・」
だだだっとその台座に近づくと、稲葉はそのギターケースに手をかざす。その姿は、神にお祈りする姿となんら変わりない。そして、ゆっくりとギターケースに手を伸ばし、チャックを開けると中身のアコースティックギターを取り出す。昔はエレキギターを使いこなしていたが、彼の中で何があったのか、「アコギでもロックはできる!」と言いだしそれ以来、彼はアコースティックギターを使うのであった。
「・・・テイラー・・・今ならお前と最高の音楽ができそうだ・・・」
稲葉はストラップを肩にかけてギターを手に持つと、静かに弦に右手をそえる。左手も同様に静かに弦におく。
「ふー・・・オーディエンスがいなくても全力で歌うぜ。いや、ロックの神様に捧げます。<わけわかんねぇ日常>!!!」
かっかっかっか
~~~♪
「苛立ち隠して~
足でリズムをとり、両手を巧みに動かし、時にささやき時に大声でシャウトしながら歌っていく。太陽の光を浴び暑いのか、汗をかきながら演奏する姿は傍からみれば、悪くみておかしな人、良くみて神の使いとでも思うかのような熱量ある演奏であった。もちろんそんな判断をする人などは、この入口以外大理石で囲まれた部屋にはいないのであった。
♪~~~~ジャン
「涙を隠して~~~・・・・ありがとう」
きゅー・・・きゅー
「ん、??」
演奏を終えた稲葉のもとに、黄色い気高い毛並をもった子犬のような生き物が鳴きながら近づいてきた。
「お、なんだ?子犬か・・・いや、違うな・・・狼?・・・とも違う・・・ふむ、わからん。・・・だが、俺の演奏に感動したってのはわかるぞっと」
へっへっへと舌を出し、稲葉の足元にすりよってくる子犬のような生き物を稲葉はギターに当たらないようにだが、優しく抱き上げた。
きゅーきゅー
「なんだ、ほんの生まれたばかりじゃないだろうな・・・親が近くにいるんなら、返さなきゃならんが・・・。だが、それにしてもかわいいな。」
子犬のような生き物の頭をゆっくり撫でると、その都度きゅーきゅーと鳴く姿に稲葉はすっかり心奪われていた。
「とりあえずここから出てみるか。・・・自分の状況がいまいちわかってないしな。それにこの生き物もよくわからん。・・・この生き物って呼ぶのもかわいそうだな・・・色からイエローって命名してやろう。」
きゅー
「そうか、うれしいか。よし、まずは一旦降ろすからなーーー」
稲葉はギターを降ろし片付けるために、イエローを床に降ろす。イエローはギターを片付ける稲葉の周りでうろうろしている。
「さーて、」
ひょいっと、イエローを持ち上げる稲葉。
「よくわからんけど、まずはお外にでますか・・・」
そういって稲葉は大理石で囲まれた部屋から出ていくのであった。




