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彼と彼女の音物語  作者: 坂田 ゆう
第三楽章 His_Piano
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-1-

 進学が決まった三年生の冬休みは、好きなことを好きなだけできる。

 (しゅん)は冬休みにも関わらず高校に通う。

 ピアノを弾ける場所は限られており、必要な物や音を出せる場所、ピアノがあるのが高校しかないのだ。

 鍵を借りるために職員室に向かったが、先客がいて借りれなかった。

「だれだ?」

 別館の最上階である四階へ向かうと、ピアノの音が聞こえた。誰かが弾いている。

 弾き終わった頃を見計らって教室に入ると、そこには(さくら)がいた。

「……どうしてここに?」

 桜は席を立ち、俊に向かって歩いてきた。

「そもそもどうしてピア…」

「ねぇ、俊」

 俊の目の前で桜が立ち止った。彼女の目が彼の目を見る。

「……俊はずるい」

「そうかもな」

 俊は笑いながら言った。

「ピアノ……弾いて」

 桜が俊にピアノを弾くように言う。

「桜、お前ピアノが嫌いなんじゃなかったのか?」

「そうだよ」

「じゃあ、なぜ……」

「俊のピアノを聞きたいからだよ?」

―なぜ、わざわざ自分が傷つくようなことをするんだ?

 俊はピアノに近づいた。


 由美(ゆみ)は気づくと高校の別館にある音楽室の前に来ていた。

 近づくと、扉の向こうから声が聞こえてきた。

―桜と……千葉?


 席に座り鍵盤に指を置く。

 若干低くなった席を調整する。

「ふぅー……」

 俊は軽く息を吐いて、そしてピアノを弾き始めた。

 今、彼が奏でている音はいつものとは全く違っていた。

 ピアノの奏でる音の中で彼は生きていた。

 ピアノを弾き終わって、桜を見るとあの(・・)ころの桜を思い出した。

「ピアノ嫌いか?」

「……うん。でも、今日のは好きになれたかな」

 桜はピアノに近づき、寄りかかった。

「桜」

「なに?」

「少し時間をくれないか?」

「へたれだなー」

 桜は音楽室中を大きな笑い声で満たした。

「いいよ」

 桜は鍵を渡し、荷物をまとめて教室を出た。

「……なんで、傷つくことをためらわないんだよ!」

 誰もいない音楽室で一人、小さくそして強く叫んだ。

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