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彼と彼女の音物語  作者: 坂田 ゆう
第二楽章 Where_is_Her_Love_Letter?
5/10

-3-

 (しゅん)は放課後の職員室に来ていた。大学の合否発表が高校に届いているのだ。

 先生からは満面の笑みで「おめでとう」と言われ、大量の書類を渡された。三年の先生は大騒ぎで、その中にいる彼だけはそのテンションに追い付けなかった。

 教室に戻るとそこには誰もいなかった。

 彼は安心したように息をついた。

 下駄箱で靴を履き替え校門に向かうと、そこには(さくら)がいた。

 彼は急いで彼女に近づいた。

「遅かったね」

 そういって彼女は笑った。

 しかし彼は全然笑っていなかった。彼女の顔色が明らかに悪いからだ。

「こんな寒いところで何してるんだよ!」


 俊は桜を急いで学校に連れ戻した。

 休憩室にある席に桜を座らせ、温かい紅茶を買ってきて渡す。

「今日は保健室が空いていないから、ここでしばらく温まってろ」

「ありがと」

 俊は桜の向かい側の席に座り、しばらく互いに無言だった。

「その……ごめんなさい。心配かけちゃって」

 最初に口を開いたのは桜だった。

「俺にあやまることじゃないけどな」

 俊は少し笑いながら言った。

「俺も謝らないといけないことがある」

 桜は俊を見ていた。

「お前が渡してくれたファイルなんだけど……なくしたかもしれない」

「……え!?」

 空気が凍った。

「……気づいたのが一限の終わりで。教室に戻ったときにはなかった……ごめん」

「…………」

 俊には、桜の顔色がさらに悪くなったように見えた。


―おかしい

 桜は寒さで震える体で、脳を必死に回転させた。

 あの手紙を失くしてしまったことについて、俊が申し訳なさそうに謝る。

「そんなに謝らなくてもいいよ」

「そんなわけないだろ」

 俊は少し間をおいてもう一度口を開く。

「……だって、あれはお前の」

 そして口を閉じた。

「そろそろ帰ろっか」

 俊が何かを言おうとするが、桜がダメ押しでもう一度言う。

「気分が悪いからタクシーで帰るね?」

「……そっか、俺も付き添うよ」

 タクシーの中ではお互い何も話さなかった。

「送ってくれてありがとね」

 話したと言えばこれぐらいだった。

「別にいいさ。じゃあ」

「じゃあね」

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