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俊は放課後の職員室に来ていた。大学の合否発表が高校に届いているのだ。
先生からは満面の笑みで「おめでとう」と言われ、大量の書類を渡された。三年の先生は大騒ぎで、その中にいる彼だけはそのテンションに追い付けなかった。
教室に戻るとそこには誰もいなかった。
彼は安心したように息をついた。
下駄箱で靴を履き替え校門に向かうと、そこには桜がいた。
彼は急いで彼女に近づいた。
「遅かったね」
そういって彼女は笑った。
しかし彼は全然笑っていなかった。彼女の顔色が明らかに悪いからだ。
「こんな寒いところで何してるんだよ!」
俊は桜を急いで学校に連れ戻した。
休憩室にある席に桜を座らせ、温かい紅茶を買ってきて渡す。
「今日は保健室が空いていないから、ここでしばらく温まってろ」
「ありがと」
俊は桜の向かい側の席に座り、しばらく互いに無言だった。
「その……ごめんなさい。心配かけちゃって」
最初に口を開いたのは桜だった。
「俺にあやまることじゃないけどな」
俊は少し笑いながら言った。
「俺も謝らないといけないことがある」
桜は俊を見ていた。
「お前が渡してくれたファイルなんだけど……なくしたかもしれない」
「……え!?」
空気が凍った。
「……気づいたのが一限の終わりで。教室に戻ったときにはなかった……ごめん」
「…………」
俊には、桜の顔色がさらに悪くなったように見えた。
―おかしい
桜は寒さで震える体で、脳を必死に回転させた。
あの手紙を失くしてしまったことについて、俊が申し訳なさそうに謝る。
「そんなに謝らなくてもいいよ」
「そんなわけないだろ」
俊は少し間をおいてもう一度口を開く。
「……だって、あれはお前の」
そして口を閉じた。
「そろそろ帰ろっか」
俊が何かを言おうとするが、桜がダメ押しでもう一度言う。
「気分が悪いからタクシーで帰るね?」
「……そっか、俺も付き添うよ」
タクシーの中ではお互い何も話さなかった。
「送ってくれてありがとね」
話したと言えばこれぐらいだった。
「別にいいさ。じゃあ」
「じゃあね」




