-2-
三年生の教室は二階にある。
階段を上がってすぐにある三年三組の教室からは、校庭にある桜の木が見れる。冬の桜は興味を抱かせない茶色一色のただの木。
教室には誰もいない。桜は人気がないところで、あの手紙を読んでいる頃だろう。
「寒い」
教室の暖房は八時にならないと着かないように、職員室で集中管理されている。
俊は自分の席―窓際の一番後ろに座り、荷物をおろす。
廊下の方から階段を上がる足音が聞こえてきた。
―桜か?
教室のドアが少し空いている。
その隙間から廊下を見ていると、足音を発している主が顔を見せた。
その主は美しかった。
その主は長くて美しい黒髪を腰までおろし、胸を張って堂々と廊下を歩いていた。
その主の名前は椎名由美。
俊がドアの隙間から由美を見たとき、一瞬目が合った気がした。
彼女はいつも通り冷たく、人の温かさを一切感じさせない、とても美しい目をしている。
八時半。
桜が教室に入ってきたのはHR始まるギリギリの時間だった。
彼女が俊に向かって歩いてくる。彼女の席は彼の前の席だ。
彼は特に気にせず、単語帳を見て単語を頭に入れていた。
チャイムが鳴ると同時に、担任の先生が教室に入り、HRを五分もしないうちに終わらせ出て行ってしまう。
それを見届け、桜が椅子をずらして少しうつむきながら俊を見た。
「……読みたい?」
彼女の手には花柄のファイルがあった。
―下駄箱に入ってあった手紙か?
僅かだが、少し顔が赤い。
「読みたい」
彼はただ思ったことを言った。
「でも、無理にとは言わない」
俊が言い切ったその時だった。
横から何かがゆらりと近づいてきたのだ。
「なぁ、千葉ぁ」
情けない声で名前を呼んできたのは、俊の友人である川島達樹。身長は俊よりは高く、顔も上々。一言で言って優男。髪の色素が薄いらしく、たまに茶髪っぽく見える。
「なんだよ」
俊と達樹は一年生のときに知り合った。二年生では別のクラスになってしまったが、三年生で同じクラスになり一年生のときのように三年生でもよろしくやっている。
「聞いてくれよぉ」
達樹は情けない声で話し始めた。
彼曰く、受験生である彼が深夜に、ゲームセンターで遊んでいるところを補導されてしまった。それが高校側に連絡がいってしまい、先生から怒られた後、反省文を書くように言われたのだ。
彼の手には原稿用紙がつかまされていた。
「自業自得だろ、それは」
「英語の課題も終わってないんだよ!」
「は?放課後にでも終わらせろよ」
「……ほんとは昨日までに提出だったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、俊は盛大なため息をついた。彼の顔は「こいつバカだ」と物語っていた。
桜は、二人が楽しそうに話しているのを見ていた。俊は彼女には見せないような表情を浮かべている。
「机の上に置いとくね」
桜は俊の机の上に花柄のファイルを置いた。
「さんきゅーな」
返答は来たが、俊と達樹の話は終わりそうにない。
「やべっ!次って特別教室じゃね?」
「ほんとだ。移動するか」
そう言って俊は立ち上がり、机に置かれたファイルを机に入れた。
「お前も行かないのか?」
「友達待ってるから」
「そうか。先に行ってるぜ?」
桜はうなずいた。




