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卒業式が終わり、三年生は各々の教室に戻った。
彼らは最後になってしまう教室で、相手の卒業アルバムにメッセージを書き合っていたり、友達同士で話を盛り上がらせていたりしていた。
俊の机の上に達樹が座っていた。
「これで最後か」
「そうだなー……意外とさびしいもんだな」
俊は立ち上がり教室の出口に向かう。
「ちょいトイレいってくるわ」
「おう」
俊はトイレへ向かわず、一階に向かい外に出た。
校庭では順番が回ってきたクラスが卒業写真を撮っていた。
彼が向かうのは別館のわきにある木の下。
「またせたな」
そこには桜がいた。会うのは音楽室で会ったとき以来だ。
「やっと来た」
「ごめんな」
見上げると桜の木がところどころだが咲いている。三分咲きといったところか。
「こういうときぐらい満開にしてくれたっていいのにな」
「うん」
俊が桜に近づき、その隣で木に寄りかかる。
「ここまで来るの大変だった。予想通りのはいかないなー」
桜はひとり言のようにつぶやいた。
俊はひとり言とわかって、それを無視した。
「……桜」
「なに?」
彼女は彼の方に向いた。
「俺はお前のことが好きなのかもしれない」
桜は目を丸くした。
「でも、お前とは付き合えない」
「……どうして?」
俊は桜の木を見ていた。
「俺は他人を傷つけることが嫌いだ」
「私も人を傷つけたくないよ」
桜はわかり合おうとする。
「他人を傷つけてしまうのなら、俺が代わりに傷つきたい」
桜は俊の言うことに耳を傾けた。大事そうに、一字一句を心に刻むように。
「でも、俺がその傷を負えないときがある」
桜の目を見る。今にも泣きだしそうな目だ。
「そのときは、俺がみんなの悪者になってでも……」
「俊は甘いなー」
「だよな」
「悪者になるんだったら、徹底しないと。嘘をちゃんとつくべきだったんだよ」
俊はおかしそうに笑った。
「変な嘘をつくから、私なんかに悟られちゃうんだよ」
二人の言う「変な嘘」とは、ラブレターが入っていたファイル盗まれたという話。ラブレターはしっかりと俊の手に渡っていたのだ。
「まさか、本当に気づかれるとは思わなかったよ」
「由美と私を傷つけないようにしてくれたんだよね……」
「それはどう…」
俊の口が一瞬ふさがれた。
「その悪いお口にはちゅーしないとねー」
「……え?」
「じゃあ、またね」
桜は逃げるように去って行った。
「まったく」




