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彼と彼女の音物語  作者: 坂田 ゆう
第三楽章 His_Piano
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-3-

 卒業式が終わり、三年生は各々の教室に戻った。

 彼らは最後になってしまう教室で、相手の卒業アルバムにメッセージを書き合っていたり、友達同士で話を盛り上がらせていたりしていた。

 (しゅん)の机の上に達樹たつきが座っていた。

「これで最後か」

「そうだなー……意外とさびしいもんだな」

 俊は立ち上がり教室の出口に向かう。

「ちょいトイレいってくるわ」

「おう」

 俊はトイレへ向かわず、一階に向かい外に出た。

 校庭では順番が回ってきたクラスが卒業写真を撮っていた。

 彼が向かうのは別館のわきにある木の下。

「またせたな」

 そこには(さくら)がいた。会うのは音楽室で会ったとき以来だ。

「やっと来た」

「ごめんな」

 見上げると桜の木がところどころだが咲いている。三分咲きといったところか。

「こういうときぐらい満開にしてくれたっていいのにな」

「うん」

 俊が桜に近づき、その隣で木に寄りかかる。

「ここまで来るの大変だった。予想通りのはいかないなー」

 桜はひとり言のようにつぶやいた。

 俊はひとり言とわかって、それを無視した。

「……桜」

「なに?」

 彼女は彼の方に向いた。

「俺はお前のことが好きなのかもしれない」

 桜は目を丸くした。

「でも、お前とは付き合えない」

「……どうして?」

 俊は桜の木を見ていた。

「俺は他人を傷つけることが嫌いだ」

「私も人を傷つけたくないよ」

 桜はわかり合おうとする。

「他人を傷つけてしまうのなら、俺が代わりに傷つきたい」

 桜は俊の言うことに耳を傾けた。大事そうに、一字一句を心に刻むように。

「でも、俺がその傷を負えないときがある」

 桜の目を見る。今にも泣きだしそうな目だ。

「そのときは、俺がみんなの悪者になってでも……」

「俊は甘いなー」

「だよな」

「悪者になるんだったら、徹底しないと。嘘をちゃんとつくべきだったんだよ」

 俊はおかしそうに笑った。

「変な嘘をつくから、私なんかに悟られちゃうんだよ」

 二人の言う「変な嘘」とは、ラブレターが入っていた(・・・・・)ファイル盗まれたという話。ラブレターはしっかりと俊の手に渡っていたのだ。

「まさか、本当に気づかれるとは思わなかったよ」

「由美と私を傷つけないようにしてくれたんだよね……」

「それはどう…」

 俊の口が一瞬ふさがれた。

「その悪いお口にはちゅーしないとねー」

「……え?」

「じゃあ、またね」

 桜は逃げるように去って行った。

「まったく」

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