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彼と彼女の音物語  作者: 坂田 ゆう
第一楽章 Opening_Curtain
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 このコンサートホールは、天井は高くなるほど狭くなっている。つまり、先が上に向いた三角形みたいな形をしている。きっと、音が均等に届くように設計されているのだろう。壁にも席が設けられており、下から見るとキノコが生えてるように見える。

 椎名(しいな)由美(ゆみ)は、その席から会場を見下ろしており、その姿はまるで女王のような風格を醸し出していた。彼女が着ているドレスは黒く、そして目を奪わせるほど美しい。ウェーブがかっている長い黒髪はアップでまとめている。誰もが美人と認めるだろう。

 今回は彼女のお見合いを兼ねた、コンサートの鑑賞。

 コンサートが始まるまで、まだ少しばかり時間がある。

「由美さん、今日もおきれいですね」

 後ろから話しかけてきたのは阿志賀(あしが)柊斗(しゅうと)―由美のお見合い相手だ。黒いタキシード姿で不思議と違和感がない。しかも背がスラリと高く、顔も整っている。

「どうも」

 由美は熱のこもってない目で柊斗を見て、視界から外した。

 彼は驚いていた。顔を見るのが恥ずかしくて顔をそむけられるのは慣れているが、彼女の場合は明らかに違っていた。彼に興味すら抱いていない態度だったのだ。

 後ろでは、由美の母親がため息をついた。

―……早く終わらないかな?

 時間になったのか、楽器を持った人が次々に檀上へ上がっていく。そして、指揮者最後に入ってきた。その後を一人の男性がついていく。まだ若そうだ。

 指揮者がその彼を紹介した。彼の名前は千葉(ちば)(しゅん)。プロのピアニストになったばかりで、今日は初めての演奏らしい。

 俊は会釈をして、ピアノの前にある席に座った。

 そして演奏が始まる。

「彼はなかなかいい音を出すね」

 由美の隣に座っている柊斗が話しかけてきた。しかし彼女は夢中になっていたので、彼の話していることに気づいてすらいなかった。


 演奏が終わると会場が拍手で包まれた。

「今日はいい演奏を聴けてよかったですね」

「ええ、そうね」

 彼女の返答はそっけないものだった。その様子を見て、柊斗の両親が難しい顔をしている。

「あなたは何を持っているの?」

「え?」

 いきなり由美が柊斗に話しかけた。お見合いで彼女から話しかけるのが初めてのことだったので、二人の両親は耳を傾ける。

「あの人は…千葉俊と言う人はピアノを持っていた。あなたは?」

「僕は……」

 柊斗は何も言えなかった。

 その姿を見て由美は小さくため息をついた。

「そう……何も持っていないのね」

 由美が背中を向けて帰ろうとしている姿に、柊斗は声をかけた。

「由美さんは?」

 足を止めて柊斗の方を向いた。

「由美さんは何を持っているの?」

「私は何も持ってないわ……だから」

 少し考えてから口を開いた。

「だから、持っている人に憧れるの。持ってない人はただつまらないだけだわ。……薄いのよ、あなたは」

 由美は振り返って、その冷たい眼差しを柊斗に向けた。

「さよなら」

 由美は一人でホールを出た。

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